第6話「秘密の会議」
兵士の言葉を聞き、シャルドたちは城の中へと堂々とした立ち振る舞いで入っていく。やはり先頭はシャルドと呼ばれた男性だ。会議室の前までたどり着くと、ノックをする。
「入れ」という言葉がかかる。
言葉通りに中へと入ると、そこには城門にいた兵士とは異なる武装をした騎士二人と、奥の席に腰をかけた人物がいた。
「よく来てくれた、勇敢なる勇者たち。シャルド、それにアンナ、キャリー、ミナト、ジークよ」
王が身に付けるにピッタリな冠を被った国王と思わしき人物が、左から順にそれぞれの名前を呼び、シャルドたちは頭を下げる。キリッとした表情を浮かべる中、国王が座るようにと合図を出し、それぞれが席に着く。
「本日集まってもらったのは、アーネスト王国の危機を感じ取ったためだ。奴らを野放しにしていては、いずれ国が滅ぶやもしれぬ……。それだけは、避けねばならんのだ」
「同感です。まずは、敵の情報からお教えいただけますでしょうか?」
「……主な相手は、可憐な姿をした少女だ」
国王からの返答に、シャルドたちは目を丸くする。正常な反応だ。
国に危機をもたらす者が少女などと、口だけではにわかに信じがたい事実だろう。こんな事例、過去に一度もなかったのだから。
最上位の戦闘能力を有している龍であれば、納得はできるというもの。
アンナは何かを考え込む素振りで問いかける。魔法使いの女性だ。
「種族は……何なのでしょうか?」
種族。それは細かく見ればたくさんあるのだが、大きく分かれば五つ。
まず、非力な者が多い人間。最強クラスの龍。驚異的な再生能力を誇る悪魔。身体能力がずば抜けて高い鬼。そして、多種多様なタイプがいる妖怪。
妖怪と言っても、一人一人の強さにはかなりの個体差がある。
姿形が醜く変形している異形種と、中には普通の人間と姿が変わらない妖怪もいるが、醜い妖怪が化けていることもあるため見分けるのは難しい。
「目撃者によると、見た目からはただの少女にしか見えなかったという。それぞれの種族が持つはずの特徴も、少女にはなかったと……」
本来、全ての種族にはそれを裏付ける特徴が存在している。
龍に限っては姿自体が巨大であり、悪魔には漆黒の翼が、鬼には角が、妖怪は様々な種類の者がおり、特徴もそれぞれ違う。あるとすれば、私利私欲のためだけに行動するという共通点だ。
それ自体も持っている様子がなかったということだろうか。
「少女の見た目をした怪物、ということですね」
「うむ。その怪物についてなのだが、少し不可解な点がある」
「と、言いますと?」
「奴らは、圧倒的な力を持ちながらも、無闇な殺生は行っていないのだ。街をただ破壊するだけで、向かってきた冒険者のみを殺している」
国王は、それを目的の見えない行為として話していた。何故奴らがこのようなことを犯すのか、何を狙ってやっているのか、不可解で意味不明な行動だと。
その気になれば、一つの街を滅ぼすことも簡単にできるということを理解しているのだろう。それなのに、逃げ惑う人々の殺生は行わず、危害を加えるのはいつも立ち向かってきた戦士たち。もしかしたら破壊活動に目を瞑り、手を出さなければ死ぬこともないのだろうか。
しかしそれでも、不特定多数の人物に危害を加える可能性のある危険な行為である。
「そうですか……。ジーク、魔物を従えられるお前ならば、何か分かるのではないか?」
シャルドからの問いかけに、ジークは人差し指を顎に当て考える。人間の中には、稀に特殊な能力を持って生まれてくる者がいる。自力で魔法を使える者がその代表例である。
その中でも特に珍しいのが、魔物を操り、従えられる魔物使い。それがジークだ。
「……魔物の中には、人間の姿を常に擬人化できる奴もいるらしいが」
「なるほど。可能性的には高そうだが、直接確かめない限りは不確かだな」
「そりゃあ、こんなのはただの憶測だからなー。個人的には、相手が女の子なのはちょっと嫌なんだけど」
緊迫したこの空間に似合わない、緩めの声だ。ミナトと呼ばれたこの男性は、国王の前だというのに特に緊張感のない態度を醸し出している。
「ミナトは殴るしか脳がないからね」
「人聞きの悪い言い方だな……。そう言うキャリーこそ、弓じゃないと上手く扱えないんだから似たようなものでしょ?」
「私は女の子だからいいの!」
ミナトと呼ばれた男性と、キャリーと呼ばれた男性は言い争いを続ける。ミナトは肉体を武器にして戦う、いわゆる格闘家であり、キャリーは弓を巧みに扱う弓使いだ。だが、二人ともそれ以外の攻撃手段を持っていないのが欠点と言える。
「……二人とも、国王陛下の御前だ」
「まぁ、良い。たまには喧嘩も必要だからな」
「陛下、先程“奴ら”と仰っていましたが、敵は一人ではないのですか?」
さっきから気になっていたとばかりに、アンナが問いただす。
「……その通りだ。主な破壊行為をしているのは少女だけなのだが、その近くには謎の人物が少女と会話をしていたとの情報がある。正確な人数は不明だが、仲間と見て間違いないだろう」
それも不可解な行動だ。そう感じたのか、再び目を丸くする。
街を簡単に破壊し、誰も倒すことのできていない相手と会話をしているということは、その人物も相当な力を秘めているに違いない。少くとも、何らかの戦闘能力を持ち合わせているのは確実だ。
逃げることもせず、何もせずその現場にいるのでいれば。
間違いなく共犯者である。
「いずれもしても、今回はいつも以上に危険な任務だ。逃げるのも選択肢の一つだが、どうする?」
王からの気遣いに、シャルドは微笑を浮かべる。断る選択肢などない、と言っているかのように。
「我々は勇者です。そしてアーネスト王国、エンペラー王国、ヴァリキリー王国、イージス王国に仕えている者。国の問題を解決するのが、我々の仕事です!」
威風堂々としたシャルドの発言に、アンナたちは頷く。彼ら、彼女たちは勇者であり、王の頼み事となればやめるという選択など最初からないのだ。
相手がどれだけ強大であろうと立ち向かう。
“勇”気ある“者”と書いて勇者なのだから。
「そうか、感謝しよう。しかし、念のため何人かのS級冒険者もつける」
「いえ、それには及びません。お心遣い、ありがとうございます」
即答で断るが、他のメンバーに異論の顔はないように見える。
「それより陛下、敵の居場所についてまだお聞きしていませんが……」
「すまない。正確な位置については不明なのだ。ただ、森に潜んでいるとの情報はある。森に行けば、手掛かりが掴めるかもしれぬ」
「なるほど、それだけで十分な情報です」
その気になれば森の探索もできるが、それをしないのは民のことを想ってのことだろう。ただ単に、被害者が増えるかもしれないからだ。何しろ、今回の相手は全てが未知数なのだから。
「……それと一つお願いがあるのですが、我々が引き受けていた例の件、そこにS級の冒険者を送ってほしいのです。奴らも野放しにできない存在ですので」
「分かった、手配しよう。では今回の話し合いは終了とする。……頼んだぞ」
「はっ!」と返事をし、シャルドたちが部屋を出ようとした時。
「シャルドよ、少し話がある。他の者は先に行ってもらってかまわない」
国王の言葉に従い、騎士二人も何も言われずとも部屋を出ていく。室内は国王とシャルドだけ残った。
「そなたに、これを授ける。もしもの時に使うと良い」
国王の手の平には、小さな飴玉のようなものが置かれていた。その後、数分間に渡って王の口より説明される。
それを聞いていたシャルドの瞳は、どこか遠くを見ているようであった。




