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復讐の果て  作者: 雲母稔
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第3話「戦闘室での戦い」

 クルミは「おいで」と挑発をして合図を出し、部屋を出る。

そんな絶対的強者に相応しい鷹揚おうような態度に、それぞれの口に笑みがこぼれ出ていた。


クルミが部屋を出ていくと、四人もまた戦闘室に向かう。戦闘室はマリアが創造した何もない広間だ。


このアジトの建物は特別な素材で出来ており、魔力がかけられているため、並みの人間や魔物では傷一つつけることができない代物である。


加えて全ての場所が完全防音であり、もしも、地上の森に何者かが歩いていたとしても気付くことはないだろう。


「さぁみんなー、準備はいい? もちろん、4対1でいいからね」


「……その必要はないな」


 レイは右方向に右腕を突き出す。

その手を中心に禍々しい暗黒のオーラが放たれ、次の瞬間レイの手には刀が握られていた。


普通の刀ではないのはすぐに分かる。

ありえない出し方をしたのもそうだが、その刀には常にどす黒いオーラが放出されているのだから。


ーーレイは一歩踏み出す。そこまでは分かった。


しかし、次の瞬間その姿は消え、辺りに猛烈な風が漂う。


その直線上、クルミの目の前まで誰の目にも捉えられない、圧倒的速度で移動したのだ。


突如目の前に現れた存在に対し、クルミは慌てることもなく、ただレイを見上げていた。

それだけで、特に追い払おうとはしない。


一刀両断する勢いで、レイはその刀を降り下ろす。


だが、次に姿を消したのはクルミの方だ。


空振りとなったその刀は、激しい音を出す。

地面はえぐれ、突風は起き、その前方の壁には一直線状の大きな傷が作られていた。


「威力はさすがだけど、かわされちゃ意味ないよね」

 

 余裕感たっぷりのその声を、堂々とレイの背中に声をかける。

咄嗟とっさの反応で構えの姿勢を取り、振り向く。

が、それとほぼ同じタイミングで、レイの真正面から正拳突きがかかる。


クルミの軽い打撃。

軽く見えるのは見た目だけで、しっかりと威力は込めてある。


腹部に打撃を与えられたレイは、そのまま壁の方向に激しく、勢いよく吹き飛ばされる。


「ぐっ……!」


「やれやれ、あなたは協ーー」


 レイに語りかけようとしたそのとき、後ろから気配がするのを感じ取った。


ーー右方向からきたその足を、クルミは右手で受け止める。 


「さすがショート、分かってるね! レイが作ったこのチャンスを逃さない」


 ショートは宙に浮いている状態で足を突き出し、クルミの右手に重圧を加える。特にショートの顔色に変化はないが、突き出している足はピクピクと筋肉がひきつり、痙攣する。それほどまで力を込めている証拠だ。


「でもまだまだ余裕なんでしょ?」


「まぁね。……っていうか、ショートの足って細いよね」


 クルミはショートの足を掴んだ状態でじっくりと観察する。


「え?」


 クルミは腕にかかっていた重みがなくなったのを感じる。

その致命的瞬間を逃さず、そのまま足ごと地面に叩きつける。


「うぅ……今のはずるいよ」


「甘えたこと言わない! 勝負の最中に気を抜くとか言語道断!」


「な、なんでコーチみたいになってるの……?」


「だってショートってさーー」


 クルミは再び語りかけようとするが、それを邪魔するかのように正面から刀が飛んでくる。

それを投げたのは、もちろんレイだ。


青白いオーラを放ち、空間を斬り裂きながら疾風のごとき速度でクルミ目掛け襲いかかる。 


それに対し、クルミは上半身を後ろのめりに傾ける。

それによって刀はクルミを無視し、宙を斬ったままギランたちの方に勢いを失うことなく突撃する。


「ちょっと借りますね」


 ギランは向かってきた刀のつかを掴み、その手に握られた剣はみるみるうちに炎を纏っていく。


「おいギラン! 勝手に私の剣を使うな!」


「投げたのはあなたじゃないですか」


「いいから返せ!」


 「はいはい」と言わんばかりに、炎を纏った刀をギランは投げ槍を使うように投げる。

だがその矛先には、クルミも含んでいた。


「ねぇ、この温度……。ちょっと手抜きすぎじゃない?」


 クルミは向かってきた刀を人差し指と親指の二本でキャッチし、自身の持つ魔法で刀が纏ってる炎の温度を解析する。〈分析アナリシス〉と呼ばれる魔法だ。


それによってその熱さは、ギランの実力である炎の力の僅かにすぎないと見抜く。


「これはただお返ししただけですよ」


「なら炎まみれにする必要はないだろ……」


 そのとき、剣が弾け飛ぶ。未だ尻餅をついたままのショートがその体勢から両足で刀を突いたためだ。


弾け飛んだ刀をすかさずレイがキャッチする。


「あ……」


「クルミちゃんてさ、何でそんなに強いの?」


 一気に起き上がり、言葉を発しながらも全身を使った打撃技を繰り返す。

殴打。突き蹴り。回し蹴り。


次々と軽やかに繰り出されるそれは、攻撃の手を緩めず隙もない。


しかし、その全ての攻撃がかすることもなく、ギリギリの段階でかわされる。


「うーん、そうだなぁ。そういう運命だったんだろうね」


 話しながらも声色を変えず、考え込む素振りすら見せつける。会話だけ見ればとても戦っているようには見えない。


「では……私もそろそろ参戦しましょうか。あなたはいいのですか、マリア?」


「最初はそのつもりでしたが、既にいくつかの箇所は破壊され、明日にはまた仕事が控えているので今回はいいでしょう。あまり魔力も消耗したくありませんし。それに、私が加勢したところで勝ち目はありません」


 ギランは否定することなく、こくりと頷く。


「さて……危ないですよ」


 ギランは右手を突きだすと、手のひらサイズの炎が生み出される。

それを戦っている三人の間に割り込むように放つと、動きは途中で停止される。


「チッ……。それをやると私たちまで危害がくるぞ」


「あなたたちなら死ぬことはないと信じていますよ」


 炎が増大する。手のひらサイズだったはずの炎が急激に成長しているかのように、この場所を炎で埋め尽くそうとしているかのようだ。


「ちょっともらうね!」


 すると炎の増幅が不自然に止まる。ショートがその炎に触れたためであり、吸収というありがちな技である。


炎が徐々に消えてなくなり、ショートの力に上乗せされていく。


「いくよー。こういう感じの技一度やってみたかったんだー!」


「私の炎ですがね」


 ショートは宙に浮き、両手を上に向けるとさきほど消えた炎が現れ、再び増大する。


紅蓮とも呼べるほどの真っ赤な炎は、それからさらに増大しはじめる。まだまだ増幅しそうな炎など気にせず、ショートはそれを自分の技のように放つ。


「ちょっともらうね」


 クルミは片手を突き出し、再び炎は動きも増幅も止まる。

ショートと同じように炎が消えたりはしない。


「……それって何かの魔法?」


「うん。これは攻撃の主導権を奪う魔法。力量も何もかも私の力に変換される。いくよ」


 そう言ってからクルミは炎を放つが、ショートは避けようとしない。

また吸収するつもりなのだろう。


だが、次の瞬間ショートはヒヤヒヤとした表情をする。


巨大な炎の玉が、三つに分断したのだ。吸収はさせないと言っている裏の心理が見て取れる行動だ。そもそもショートの小さな手では、こんなに巨大な炎は全部吸い込むことはできず、触れたものにしか無理だ。


さらに、ショートがゾワッとしたのは炎自体の威力ではなく、その後に起こるであろう爆風。こんなに隣接した炎の玉が、一度に爆発したらどうなるのか。それも近くで。


「ちょ……待って待って!」


「待たない」


 ニッコリと答えてみせるクルミ。人によっては冷酷に見えることかもしれないが、これほどまで容赦なくやっているのは、ショートの力を良く知っているからだ。


元より、殺されるつもりはあっても殺すつもりなどないのだから。

ずばり、その予想は的中する。炎がショートの身体に食い込む寸前、その身体が光を放つ。


ただ光っただけ。そうとしか認識することができない、ほんの一瞬の光だ。


「ふぅ……危なかった。あと一歩で火傷してたかも……」


 その声は地上より聞こえており、そこまで移動した過程は誰の目にも映ってはいなかった。

標的がいなくなった炎は、天井の壁に食い込むと同時に大爆発を引き起こす。


数えきれないほどの火薬が埋め込まれていたかのように、その広間全体を爆風が覆い尽くす。










 














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