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復讐の果て  作者: 雲母稔
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第29話「隠れた良心」

 彼女には決して折れることのない固い意志がある。目的のためなら、かつての同胞に牙を向けることも躊躇わない。


「そんなわけにいくかよ……」


 ダイチを始め、他の全員にも逃げる意思はない。他の全員を逃がしたところで、アルトならば時間を止めて逃げることもできる。むしろそれが一番安全と言ってもいい。時間を操れるのなら、戦闘において死亡するリスクも少ない。


それを知っているはずなのに彼らが逃げないのは、アンリを仲間だと認識しているからだ。目の前で仲間であることを否定されたようなものなのに、挫けない彼らは屈強。彼らにもまた、強い意志があるのだ。


とはいえ、絶対にこの場から逃がしておかなければならない者たちがいる。


「おいみんな! ここは危険だ! 遠くに離れるんだ!!」


 ダイチの呼び掛けで、事の事態を理解した人々が訳も分からぬまま逃げていく。S級冒険者である彼らの知名度は高い。知らない者などほとんどいないため、ダイチやアンリのことも知っている。


「あはは……! すごい! どんどん力が満ちてくる!!」


 辺りが黒く染まっていく。

ダイチたちの視界を覆い、それが目隠しとして厄介な役割を持つ。


「何も見えない……。ならこれで!」


 ルビアは丸い物体を手の内に出現させ、上空に放り投げる。それは爆弾だ。爆弾にも技術次第で様々な効果をもたらすことができる。ルビアが出した爆弾の種類は風。風属性の魔法が封じられており、辺りに強力な風魔法が吹き出す。


この黒いものはアンリから放たれる煙幕のようなもの。ならばこれで晴れると判断したのだ。


「鬱陶しい!」


 しかし、その際にも隙は生まれる。

一瞬の隙も見逃さず、アンリがルビアに攻め寄るが、その目の前に光が迫る。


「!」


 アンリの腹部に突き刺さるもの。

それは剣。さっきの光の正体だ。


「あはは……! 何だよ、仲間とか言いながら殺す気か?」


 アルトが放ったそれは、時間操作能力で極限まで速度を高めた大剣。目で追うことは不可能だと断言できる、この世で一番速いとも言えるスピード力を纏った剣は通常とは比べ物にならない威力を発揮する。


「少しの間なら回復魔法で癒やすこともできる。むしろそうでもしないと……」


 アルトが苦々しく言ったそれは、まともに戦っても勝算が低いと思ってのことだ。アルトの能力を応用すれば、格上にも勝てることはあった。


しかし、アンリの身体に剣は刺さらない。

腹筋だけで、剣を受け止めたのだ。


「ああ……正しい判断だ。ほら、お前らも来いよ」


 覚悟を決めたのか、ズンが一歩踏み出す。


「お前は……誰よりも仲間想いだな」


「……は?」


 ズンの訳の分からない戯言に、この場の全員が思考が止まったように沈黙する。


「もう……いいだろ。行かせてやれ」


「おいズン、お前何言って……?」


「結局これは、ただの仲間割れだ。俺はそんなことをしたくはない。なら気のすむまま、復讐をさせてやるのがいい」


 予想外、加えて衝撃的な発言だったのかアンリは目を見開くと、すぐさま落ち着きを取り戻す。


「なるほど、お前は話が分かる。そう言えば、お前は確か大地を操る魔法が得意だったな。私に協力する気はないか?」


「断る。仲間割れをする気はないが、お前に利用されるつもりもない」


「そうか。ならお前たちにもう用はない」


 アンリは宙を浮き、そのままダイチたちのことを見ることはない。もはや眼中にはないのだ。

目指すはアンリの姉、勇者の一人として人々から崇められたアンナを殺害した化け物たちの元へ。


ダイチたちはアンリを追うこともなく、静かに見送っていた。アンリの姿が見えなくなった頃、虚しい空間が訪れる。


「ズン……本当に良かったのかよ!?」


「あいつに……殺意はなかった」


 それは今まで冷静に、アンリを観察していたズンだからこそ見抜けたことであった。誰でも、本気で相手を倒そうとすれば殺意を漏らし、殺気も滲み出る。稀に自分の意思で殺気を放つことのできる者もいるが、今回のアンリにそのようなこともなかった。


そこから導き出される結論はただ一つ。

殺すなどと言っておきながら、そのつもりはなかったということだ。


「それに、ああなった者を止める手段は、ないのかもしれない。あの子供と、同じ目をしていた」


「あの子供……?」


「あの時、俺たちの前に現れた奴だ」


「カナタ……ね」


「お、お前あいつのこと知ってたのか!?」


「……そう名乗ってた」


 カナタと名乗ったあの少年と、アンリには共通点がある。それは、復讐のためには誰であろうと容赦はしないことと、無闇やたらに殺しはしない点だ。


こうなった以上、思う存分暴れさせてあげるのがいい。

例え復讐の果てに、死が訪れようともーー



 


 









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