第27話「微かな不安」
それはレイに向かって放たれる力。そんなつまらないことはさせない。
クルミは魔法の発動を邪魔するべく、三本のダイナマイトを空中に出現させ、手元に持つ。火が灯り、時間経過で爆発することを物語っている。
クルミはふと未だ逃げることのできずにいる王に視線を送り、呆れながらも魔法を発動する。戦士などなら殺すのは躊躇わないが、戦えない者を巻き込むつもりはない。この国王はエンペラー王国の王。なら自分の城の中でしばらくの間眠っていてもらうだけだ。
事が終わったのを確認したクルミは、レイとレオンの間に割り込むように、ダイナマイトを投げる。
このダイナマイトは、クルミ自身が出現させたものだ。
もちろん、ただのダイナマイトなわけがない。
それを瞬時に理解することのできたレイは、大きく飛び退く。
大爆発。
辺り一面に爆風が飛び散る。
直撃なら話は別だが、クルミたちが爆風で傷を負うことはない。
レオンの場合はどうだろうか。
「やりすぎだよ……」
「ちゃんと調整したから大丈夫だよ」
「おいクルミ! いきなり何しやがるんだ!」
「お仕置き。言ったでしょ?」
引きずることのない、笑顔で答えてみせる。
「ちっ……。あいつは私が倒す予定だったが、これじゃ生きてないだろうな」
レイはそう言い切るが、クルミとショートは煙があがっている舞台から目を離さない。感じるからだ。何か、特殊な魔法が発動されていることが。
煙から、徐々に男の姿が見えてくる。
「さすがの破壊力……。これがなければ、地獄に行くところだったな」
レオンは右手に水晶を携え、レオンの周囲を防御結界が囲っていた。恐らくは、水晶の力によってもたらされている魔法だ。
魔法の名前は、〈活力結界〉
攻撃と防御、どちらの性能も併せ持った上位魔法だ。
ーーだが
「!」
結界にヒビが入り、崩れ、レオンを覆っていた防御結界が消滅する。
その程度の魔法では、クルミの攻撃を完全に防ぐのは無理だ。
「まだ生きているとはな。まぁ、どうせこれから死ぬんだ。寿命が少し長くなっただけだな」
「レイは下がってて。僕がやる」
「おい……こいつは私の獲物だ」
「レイは散々戦ってたからいいじゃん。僕はただ見てただけなんだけど」
「私だって満足してないんだ」
ショートとレイが言い争っている中、レオンは刀を前方に向け、あの男に放ったものを今度は二人に向かって射つ。黒く染めあげられた物質は途中で枝分かれし、二手に別れてショートとレイを襲う。
この攻撃は直撃されたらまずい。
まさに格下が格上に勝てるように作られた性能を誇っているのだ。
それを見抜いていた二人は、空高く舞い上がる。
その瞬間、黒い物質は軌道を変え、二人を追跡する。厄介な性能も誇っているようだ。これでは、この攻撃をどうにかしない限りは永遠と逃げるしかなくなる。
あるいは、使用者を倒すことだ。
そうだと判断したレイは、右腕を上空に突き上げる。腕周辺に禍々しい暗黒の妖気が放たれ、数秒後、レイの手には刀が握られていた。
勢いに乗り、レイは殺意に満ちた目付きと笑みで刀を降り下ろす。
吹き荒れる風と共に、刀から飛ばされる剣気がレオンを狙い打ちにする。
その速度は尋常ではないものだが、レオンの反射神経がそれをカバーした。
だが、手加減を知らないレイの一撃を避けるなど不可能。
代わりに、レオンは左腕を失っていた。
「がぁっ!」
悶え苦しむことはない。
思わず失神し、意識を失うほどの痛みにすら耐えてみせる。
腕を失い、猛烈な痛みに耐える。
その間、僅か三秒。
情けも知らないレイの一撃がさらにレオンを追い込む。
この攻撃も全てを防ぐことはできない。
レオンは、右足を犠牲にして両腕を失うことだけは避けたようだ。手足がなくなっては、技の使用ができなくなるからだろう。
レオンは、これを見ているだけのクルミを睨み、殺意を向ける。
そこから放たれるは、黒の物質。
先程よりも数倍速くなってクルミに襲いかかりーー
「やった……!」
ーークルミに命中する。
「油断したな。これでお前のエネルギーを……!」
だがその瞬間、残されたレオンの右腕が空高く吹き飛ぶ。
「油断してるのはあなただよ」
レオンの背後から、クルミは囁く。
レオンは、何が起こっているのかまるで理解できていない。
無理もない。
今もなお、レオンの攻撃に命中している状態のクルミがレオンの前にいる。そのはずなのに、背後から囁くクルミの声。
「あれは魔力の塊。残念だったね」
クルミの作り出したものは、魔力と魔力の集合体。
その色も艶と、本人と見分けがつかないほど完璧なもの。
「……ぷっ」
突拍子もなく、レオンは笑い出す。
「お前らもな」
光を放つレオンの肉体。
その直後、猛烈な爆風が広がる。
別に避ける必要はないが、この漂う魔力の嵐を見て考える。
始めから、レオンという人物も魔力の集合体だったのかと。
あの時感じだ違和感は、これだったのだ。
「あいつ……逃げたのか?」
「いや、最初からこの場にはいなかったんだろうね。もっと遠いところから、分身を操作させていたんだ」
いったいどこから操っていたというのか。
すぐには行けない遠い場所だ。
「まぁ、別にどうでもいいや。あいつ、何か私たちのこと知ってたみたいだし、敵対してるならいつか会うからね」
それも、遠くない未来で。
またしても、クルミの直感は告げる。
クルミにとっても、望ましくないことが起こるとーー




