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復讐の果て  作者: 雲母稔
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第20話「違和感」

 いつもと比べて、ショートの表情も暗く、クルミからも中々声をかけられずにいた。闘技場に着いてからも、会話はない。そんな二人の空気とは裏腹に、会場は盛り上がりを見せていた。舞台を三方向囲い、階段上になっている観客席。もう一方向に一際目立つ席。


そこには普通より図体のデカイ、背中に大剣を携えた男が腕を組みながら見ていた。その隣には、それなりに年を取っているであろう人物が腰をかけている。開会式はとっくに終わっており、既に試合が始まっている。試合は普通、審判がいるものだと思っていたが、近くにそれらしき人物は見当たらない。


あまり迫力のない戦いだ。クルミの目にはそう映り続けていた。


どれぐらい時間が経ったのか分からない。

レイはもう出場したのか、それともまだなのか。


(やれやれ……)


 ふとクルミは横目でショートの方を見る。

ショートの取り柄の一つである、愛想の良い笑顔がそこにはなかった。いろいろと考え事をしているのだろう。ややうなだれている。


クルミはやれやれとばかりに、小さく溜め息をついてから、ショートの背中をパシンッ!と一発叩きつける。かなり本気の一撃である。


「痛ッ!」


「もう! いつまでそんな顔してるの? そんな風に暗い表情、あなたには似合わないよ。ほら、笑って」


「いや……痛くて笑えないよ……」


 思ったより強く叩きすぎてしまった。

だが、ショートの顔に明るみが戻ってきたみたいで良かったと、クルミは安堵の笑みを向ける。


「おい……お前らどこ行ってたんだ」


 後ろから聞き覚えのある声がする。


「あ、レイだ。試合はもう終わったの?」


「いや、今はまだ2試合目。私はこの次の次の試合だ。で、お前らは今までどこで何をしていたんだよ」


「別に、ちょっと戯れていただけだよ。ね、ショート」


「う、うん!」


「ところでさ、あそこに座ってるあいつは何?」


「さぁな。何でも今回のスペシャルゲストらしい。あいつの隣に座っているのはこの国の王だとよ」


 王が何故この大会に来ているのか。クルミはある可能性に気付いた。この国で一番地位の高いはずの王が、このような大会に毎年来るとは考えにくい。もちろん考えにくいだけでそんなこともあるのかもしれないが、王だって暇ではないはず。何か理由があると考えた方が自然だ。


そんなことを考えていると、試合の方はどうやら決着がついたみたいだ。


「勝者、フウラ!」


 勝者の名を挙げたのは、あの席に座っている王の隣にいる男。あの男が審判の役目を果たしているのだろうか。勝者が決まったことにより、観客席はうるさいほど喚声をあげる。


大会というのはこうだ、と見せつけられてるように。

クルミには真似できそうにない。


フウラと呼ばれた選手はレイと同じく女性の剣士だ。雰囲気も少し似ている気がする。力関係はレイには遠く及ばないだろうが。


「王よ。あの女性は中々の腕前です。戦力になるかと」


「ふむ……」


 国王と隣の男が会話を始める。大きな声で話しているわけではなく、距離的にも聞こえることはないが、クルミには聞こえていた。常時発動魔法〈地獄耳ヘル・イヤー〉による効果だ。


そうとは知らず、二人は話を続ける。


「いや……もっとだ。あの怪物たちに対抗できる戦力を……」


 本人に聞かれていることを知らず情報を漏らす王に、クルミは心の中で嗤う。怪物たちとは、十中八九クルミたちのことを指している。それ以外には考えられない。これで何となく分かった。


表向きは剣士たちによる闘技大会だが、その実、国王はクルミたちと対抗できるような大きな戦力を探していたのだろう。毎年開かれているとのことだが、これは恐らく今回だけの例外。


しかし、これでレイがこの大会で優勝すればややこしいことになりそうだ。対抗できる戦力を見つけたとして、その者がどういう扱いになるのか、それによる。


「ねぇレイ、あなた出場者なのにこんなところにいていいの?」


「控え室で待ってるように言われたが、思いの外退屈でな」


 つまり抜け出してきたというわけだ。


「まぁでもさ、近くにいてくれた方が面倒見やすくて助かるよね!」


「そうだね。その方が何かしでかさないか監視できるし」


「お前ら……どんだけ私を問題児として見てるんだよ……」


 レイの表情が変わる。


「はは、試合に出る前に軽く運動でもしとくかなぁ?」


「なら僕が相手してあげようか?」


 ショートも挑発的な笑みを浮かべ、二人は睨み合う。その瞬間、ショートとレイは大きく空中に向かって跳ね上がり、地上から姿を消し、クルミの周囲には突風が吹く。並みの人間から見ればただ消えたようにしか見えないぐらい割りと瞬速だ。幸い、試合に夢中になってこちらには気付いていない。三試合目が既に始まっている。


「全く……元気だなぁ」


 話し相手がいなくなったことにより寂しさを覚えるが、クルミは真面目に試合を観察することに集中する。立っているのはどちらも男だ。ロングヘアーの男に眼鏡を掛けた男。


ロングヘアーの男が相手を凝視したまま片手で剣を舞台に突きつける。その剣は見ている内に荒々しいものへと変化していく。剣を中心とした竜巻が、小範囲に渡って吹いているのだ。


これは風魔法の力を利用した技だろう。

剣だけで戦うのかと思っていたが、普通に魔法を使うのも有りのようだ。


竜巻を纏った剣を、数十メートルは離れている相手に向かって降り下ろす。それによって小さな竜巻は、大きな竜巻へと変化していった。剣にエネルギーを張り付け、降り下ろし力を解放する、人間にしては高度な魔法を応用している。


竜巻による強風が、クルミの元にまで行き届いてくる。


「その程度でいいか?」


「ふん……生意気な」


 ロングヘアーの男がさらに追い討ちをかけるべく、その剣に炎を灯す。今度は縦ではなく横向きに剣を振るい、疾風の如く吹き荒れている竜巻が紅く染まる。炎と竜巻が融合してさらなる威力を発揮する合わせ技だ。


一見迫力がありそうな融合魔法も、クルミの興味をそそることはない。単純すぎるのだ。見かけ倒しとはまさにこのことであり、魔法を獲得している者なら誰でもできるであろう攻撃の一つだ。


そんな合わせ技に対して、眼鏡の男は構えたまま離れようとはしない。剣を鋭く相手に向け、その先端から冷気、氷魔法が放たれた。あれだけ大きく、とどまることを知らない暴風はゆっくりと全ての動作を停止する。


炎を纏った竜巻が、凍り付けにされたのだ。


「何……ッ!」


「どこを見ている」


 ロングヘアーの男の目には見えていなかったようだが、眼鏡の男が凍り付いている竜巻を足場として、ロングヘアーの男に奇襲をかける。意表を付かれた相手は、慌てた様子で身構える。


「なっ!?」


 そのまま斬りつけてくると読んでいた男はさらに意表を付かれたようだ。眼鏡の男は斬撃を放つわけではなく、剣に雷を宿す。見ているだけでビリビリとした電撃が伝わってくる剣を、眼鏡の男は空中でロングヘアーの男に向かい、ニヤッとした顔を浮かべたまま放つ。


「ぐああああッ!!」


 苦痛に満ちた叫び声をあげる。彼はそのまま倒れこむ。明らかな戦闘不能。勝敗は決したようだ。


「勝者、レオン!」


 再び勝者の名を挙げる男。これが三試合目なら次はレイの出番だが、まだ遊んでいるのだろうか。そう思っていた時、隣から不自然な風が吹く。


「ただいま! レイならもう行ったよ」


 ショートだ。戦っていたとは思えないほど傷もなく、息切れ一つしていない。

本当に軽い運動だったのだろう。


「……ねぇショート、あの眼鏡を掛けた青髪の男、どう思う?」


 急に質問を持ちかけられたショートは、眼鏡を掛けた男を見るが、分からないといった顔をする。


「別に……普通じゃない? 大した力を持ってるようには見えないもん」


「力の流れがおかしい」


「え?」


 ショートは何を言っているのか分からないと言ってるように、クルミを見る。


「あいつの周りに流れている波動。一般的にオーラと呼ばれているものだけど、それがちょっと妙なの。人間じゃない何かが混ざってるような……」


 あれは本当に人間なのだろうか。人間とは通常、霊気と呼ばれている波動オーラを知らず内に纏っているものだ。それなのにあの男は、それ以外の力を身に纏っているように見えた。


ショートの言う通り、クルミから見ても力は取るに足らない小さなもの。それは間違いない。そのはずが、どこか胸騒ぎがする。


クルミの直感は告げる。

この大会中、予定にはない何かが起こりそうな、そんな予感を。







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