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復讐の果て  作者: 雲母稔
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第2話「目的のために」

 二人は目的の場所に到着し、立ち止まる。

パッと見、樹木が隣接しているだけの森の一部に見えるが、そうではない。

クルミが数歩とある木に近付くと、怪しげな風が発生する。


これはクルミが、体内のごく僅かなエネルギーを体外に放出することによって起こされている。幻術はそのような、風など目には見えない力に弱いのである。はっきりと幻術が解けるわけではなく、行為を止めれば元の幻にかかった状態に戻る。


そして現れたこの空間こそが、アジトへの出入り口の役目を担っているのだ。


クルミとギランは禍々しくできたその空間に足を踏み入れる。この木の先は階段式になっており、そこを降りていく仕組みとなっている。


「……そうだ」


 これからどんな行動を起こすべきか考えていたクルミの頭に、ある事実が発見される。


「どうかしましたか、クルミ様?」


「うん、ちょっとね。まずはみんなのところに行こうか」


 そんなことを話している内に、白い造りになっている扉が見えてくる。扉だけでなく、階段を降りてから全体が白で統一されていた。扉は自動的に開き、クルミたちが中に入っていくと、またしても全体的に白く創られた部屋が目にささる。


特にこれと言ったものは置かれていない。


ただまるくできたテーブルと、それに人数分の椅子が配置されているだけ。

ここで生活を送るには困難と言える部屋であった。


その中には、三人の男女の姿がある。


「おかえりなさいませ、クルミ様」


 第一にクルミの耳に入ってきたのは、静かめな女性の声。

眼鏡をかけ、読書もしている、大人しい典型的な女性と言えるだろう。


クルミに対して向けるその表情は、友好的なものであった。


「それで、今回はどうでした? 少しは期待が持てましたか?」


「それが全然! マリアみたいに本読んでた方がマシだったかもね」


 それを聞いたマリアは、嬉しそうに微笑む。


マリアは世界的に見ても屈指の大魔法使いであり、今読んでる本も魔導書と呼ばれる特別な本。


このアジトも彼女が創造したものである。


「クルミちゃんに勝てる人なんているわけないと思うなぁ。少なくとも人間には無理だよ!」


 明るく活発的な声が響く。幼い容姿と人懐っこい笑みを浮かべた金髪の少年だ。


「ショートもそう思うか。こうなったら世界征服でもしよう」


「ふむ、世界征服か。クルミ、それは本気か?」


 残った最後の一人がクルミに声をかける。

かなり気の強い女性の声だ。


「本気! レイもやってみたくない!?」


レイと呼ばれた女性は、何か考えるように口ごもる。

世界征服というのは、決して簡単なことではない。


世界を壊すことならばクルミたちであれば、造作もなくできてしまうのだが、あくまで征服。


世界中の人々を支配する必要があるということだ。


「ーーなーんてね。私の目的はそんなことじゃ達成するまで時間がかかるよ」


 それを理解していたクルミは、軽い口調で否定する


「さて、そういうわけで、これからの目標は国をおとしいれて強者をあぶり出すこと。

と、言いたいところだけど、その前に一つ、大変な事実に気付いてしまったの」


 クルミは一旦間をあけ、ただならぬ空気を作り出す。それに影響されて室内に物音一つしない沈黙の空間が訪れる。


「私たち、この国のことまだよく知らないんだった! これは致命的だよ……。

知っていることと言えば、この国の名前と近くにある街の名前ぐらい?」


 よく分からない空気を作った割りに拍子抜けするような発言に、周りは呆気に取られたように沈黙する。


クルミたちは普段人間に紛れて街を見ることもなければ、この世界に興味も持たない。何回か街を襲撃したことはあるのだが、それでも建物の中に入ることはなかった。


故に、そのようなことを耳にする機会もないため、関心も皆無だったのだ。


この国はアーネスト王国と言い、今夜クルミを襲っていた人々の近くがブレーブタウンという都市名が付いているということは理解している。


逆に言えば、それぐらいしか知らないということだ。これから先のことを見通すのであれば、やはりこの世界の治安を確かめておいた方が良いだろう。


「確かに、細かいところまではほとんど知りませんね。

共存さえできれば、いろいろと情報収集にもなるのですが」


 今まで黙っていたギランがようやく口を開く。

それに対して、ショートの顔色が変わったように見えた。


「僕は人間なんかと共存するなんてごめんだよ」


 ショートは少しムスッとした顔をしているが、その割りには子供特有のあどけない可愛さは崩れることはない。


この中でもショートは、異様なほど人間に対する厭忌えんきの念を抱いているが、その理由は不明である。


「もちろん分かっていますよ。ただ、これからのことも考えると、人間の街に行き、情報を集める必要があるのではと思いましてね」


「私もそう思ってた! じゃあ早速明日、人間のところに行っちゃおうよ!」


「……でも大丈夫かな? 僕たちが人間じゃないってバレちゃうかもしれないよ。

それに……このまま行ってもいいの?」


 ショートの言ってることは最もであった。クルミたちは人間ではない、いわゆる“魔物”であり、魔力も妖気も普段日頃から放たれているもの。


その力を引っ込めることはできても、微かに漏れ出ている。人間といえど、それを感じ取るものがいるかもしれないということだ。


問題点はそこだけではなく、クルミたちは何度も街を訪れ人間に恐怖を与えた。逃げたりする人間たちは誰一人として殺してはいない。ならば、クルミたちを目撃して逃亡した者もいるため、正体が知られることもある。


たとえバレたとしても蹴散けちらしてしまえばいいわけだが、今回の目的のためには望ましくない。


「それは大丈夫! ……だと思うよ。どこぞの魔法使いさんが何とかしてくれるはず」


「その魔法使いさんが大変なそうですよ」


 平然とした顔で答えるマリア。クルミの発言からも分かる通り、マリアの信頼度は高い。


それぐらい魔法技術がずば抜けているからだ。どうやってその力を身に付けたかは不明だが、万能と言われるほど何でもできてしまう。


「そんなこと言わずに、今回もお願い!」


「仕方ないですね。姿が変わったように見える幻術でもかけましょうか。ですが、妖気を誤魔化す魔法はかける必要がないかと。人間の実力は私たちが思ってるよりもずっと弱いものです」


「そうだね」


「……クルミちゃん、それって僕も行くの?」


「もちろん! 一緒に楽しもうよ」


「……まぁ、クルミちゃんがそう言うならいいけどね」


 友達を遊びにでも誘うかのように言い、ショートは否定しない。

みんながみんな、クルミに対してとても友好的かつ友達のように接している者もいるが、彼らの間に上下関係というものは存在しない。


“様”などと付けていたりはするが、それはあくまで強者に対する尊敬の意。


魔物は、生まれつき強者であることが決め付けられている。生まれながらの弱者である人間とは違い、元から強いため、自分より強き者を敬うケースも珍しくはない。


「さて、そうと決まったはいいけど、まだ明日まで時間がある。

……久しぶりに、私とやり合おうか?」


 その発言一つで、部屋の空気がガラリと変わったのは間違いないだろう。

ギラン、マリア、レイ、ショートまでもが、獲物を狙うかのような鋭い目付きを、その瞳にギラつかせている。


ーーやり合う。それが戦闘であるのは言うまでもない。


「最近暴れる機会がなかったからな。遠慮はしないぞ、クルミ」


「やる気まんまんだね。場所はいつもの戦闘室だよ」


 戦闘室と呼ばれるそれは、文字通り戦闘用の特別ルームだ。

そして今からやろうとしていることは、ただの遊びではなく、ギランたちは本気でクルミを殺しにかかろうとしても良いという勝負。


これはクルミ自らが言い出し、望んだことである。

いつか自分を倒してほしいという切実な想いも込めて。


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