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復讐の果て  作者: 雲母稔
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第18話「復讐の兆し」

 少ししてから、クルミは目を開ける。

深く考えてなかったが、この状態で誰かが通ったら目立つ原因になる。幸い、今は人がいないようだ。


「ふぅ……ショートの体って温かいね」


 子供は体温が高いと言うが、それとは違った温かみもあった。


「そ、そうかな?」


「イチャイチャするのはもう終わったか?」


「まだだよ」


 冗談混じりに笑ってみせる。ショートの反応は思っていた通り面白いもので、動揺していた。この反応が可愛くて面白いのだ。


「さぁショートくん、続きをしようか」


「クルミちゃんって、時々大胆だよね……」


「ふふ、なんて冗談だよ。さぁ二人とも、そろそろ行こう!」


 クルミは立ち上がり、テンション高い声を出す。向かう先は剣士たちが集まる闘技大会。そこにレイを参加させる。当然ながら、最終的に優勝するのはレイになるだろう。


クルミは微かに願ってみる。レイよ、負けろと。

レイが負けるならそれ相応の人物が現れたということで歓喜なのだが、そう簡単にはいかない。レイの負けず嫌いは、さらにその肉体を強化させる。


だが、剣を使った戦いで良かった。

これが格闘だったらどうなることか。レイが真に得意なのは、剣を使った戦闘ではなく、肉弾戦。クルミとの戦いの時にも剣を使っていたが、それは自分の力を抑えるための手段に過ぎない。それならその時も肉弾戦を仕掛けていれば良かったと誰もが思うだろう。


少なくともあの時のレイは殺す気でやっていた。しかし、クルミが得意なのも肉弾戦。肉体を切り離されても再生し、傷を付けるという行為自体が困難。レイの肉体能力では、クルミには敵わないと知っていたからだ。クルミを殺すには、全ての部位を粉々にしなければならない。それはクルミが四人と出会った頃、それぞれに告げたことでもある。


レイが生み出したあの剣は、この惑星上で唯一、クルミに傷を付けることのできる凶器であったのだ。


「どんな有象無象の集まりなんだろうね……」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 生暖かい風が吹く。

ヴァリキリー王国、そんな近代的な建物の一つの街にて、二人の人物が、とある屋上で辺りを見渡していた。マリアは地上を見下ろし、通り過ぎ去って行く人々を眺めている。カナタはマリアのすぐ隣で、不安そうな表情をしていたが、二人のその様子はまるで姉弟のように映っていた。


「ここがヴァリキリー王国ですか。想像していたものと少し違いますね」


 一面に広がって見える建物は、その全てが銀という色合いで統一されていた。

それが近代的なイメージを思わせるのだろうか。


「では始めに、相手の特徴を教えてもらってもいいですか?」


 探すにしても、相手の特徴が分からなければ手の出しようがない。

人数や容姿なども、人探しには欠かせない情報だ。


「えっと……あいつらは全員とも、黒い服装をしていました。活動しているのは、主に夜みたいです」


「人数は?」


「四人です!」


 黒い服装をした四人組。見たところ、下には黒い服装をしている人間がいない。思ったより探すのは楽そうだ。しかし、まだ疑問がある。他の国に行っている可能性だ。この国だけに留まっているとは限らない。


「そうですか……」


 マリアは考える。どれが一番効率よく最適なのかと。

ヴァリキリー王国から既に離れている可能性も考慮すると、魔法を使わないと難しい。生き物を探すのに最適な探知系魔法だ。それが上位であればあるほどあつらえ向きであり、簡単に探し出せる。


だが、それだけじゃない。


マリアは内心迷っていた。復讐というのはギランの言っていた通り、自分自身の手で果たさなければ意味がない。いや、そうすべきなのだ。カナタは自分の力ではあいつらに勝つことができないと言っていた。


しかし、マリアならば可能なのだ。力を与えることが。


「……カナタ」


「は、はい!」


 マリアはその顔に、感情を消す。


「あなたに二択を与えます。このまま私に復讐を果たしてもらうか、それとも、あなた自ら復讐を果たすか」


そこに復讐をやめるという選択肢がないのが哀れに思える。例えその道を提案したとしても、カナタの気持ちは揺るぎはしない。それぐらい予想がつく。


簡単にやめられない。やめるわけにはいかない。


復讐がもたらす果てしない感情を、マリアだって理解している。


「私ならあなたに、十分復讐を果たせる程の力を与えられます。最強の魔法使いにできないことはないのですよ。ただ一つ……いえ、二つほど除いてね。ふふ……けっこう多いですね」


「本当にそれができるなら……お、お願いします!」


「ですが……」


 神妙な面付きでカナタを見る。


「私は、あなたに復讐というものをしてほしくはない。

復讐が生み出すものは、負の感情だけ……」


 それがマリアの正直な意見であった。そしてそれは、マリアの忌々しき過去に関係しているもの。


絶望、卑下、悲観、そして寂寥せきりょう感。


復讐をしたものに幸福が訪れることはない。やめることさえできれば、新しい幸せを掴むチャンスもあるというのに。


マリアからの言葉に対して、カナタは目線をずらし、両腕を握り締めていた。

しばらくしてから、カナタは言う。


「でも……止まらないんだ! 復讐をしたくてしたくてたまらない!!」


 今まで抑えていた感情が爆発したように、マリアに言葉を吐き出す。マリアはそんなカナタの言葉を、全身で受け止める。


カナタは一拍置いて、言葉を続ける。


「どうしても許せないんだ……。あいつらも、こんなに弱い自分も!

なんで家族が殺されて、僕だけ殺されなかったんだろうって……。

憎かった……この世界が……!!」


 瞳に涙を浮かべながら訴えかけてくるカナタ。初めから分かっていた。

マリアが復讐をやめるよう説得しても聞かないことぐらい。最悪の場合、一人で復讐をしに行きかねない。勝てないと、殺されると分かっておきながら。


それだけはあってはいけない。


「……我が強いところもそっくりですよ。私の弟に」


「弟? 弟が……?」


「いたんですよ。とても可愛い弟が……ね」


 だからなのかもしれない。カナタの姿が弟と重なるから、妙に優しくしてしまうのは。復讐をしてほしくないのも、それが理由になっている。


「そう……なんだ」


「改めてもう一度聞きます。復讐をしたいですか?」


「……………………したい」


 暫しの無言のあと、小さめの声でそう答える。こうなるであろうことはマリアも分かっている。その気持ちが変わることはない。人間の欲は果てしないのだ。


この子だって例外ではなく、復讐をしたいという感情のみがカナタを動かしているようだ。何の利益も得られない。犠牲者が増えるだけの身勝手な行為。それらを理解していても、とどまることを知らない。


そして、カナタは復讐を果たした後はどうするつもりなのだろう。

どう生きていくのだろうか。


「分かりました」


 カナタの身体が光る。マリアが魔法を使用したからだ。使った魔法は二つ。

限界突破ブレイク・スルー〉と〈上位肉体超強化アドバーンスト・エクストラボディ

前者と後者、いずれも上位に位置する魔法である。人間が習得することは不可能だと断言できるほど高位だ。


詳細は言わずもがな、自らの肉体能力の限界を越え、さらにそこから身体能力を爆発的に上昇させる上乗せだ。いったいどれだけの力が跳ね上がっているのか、正確なところはマリアにも不明だが、相手が貧弱であればあるほど効力を増す魔法。きっと相当なものだ。


これで、相手が人間からして驚異でも負けることはないだろう。


「あ、ありがとうございます」


「さてと、次は見つけることですね」

 

 マリアは眼鏡を外す。凛々しくも美しい瞳が姿を現した。


マリアの紫色に輝く瞳には特殊な力が込められている。その中の内、千里眼を使用する。遠くの出来事や人の心などを、感知する能力だ。


「……ここから北西に、約327キロほど進んだ地点に黒ずくめの男女が四人。場所はどこかの建物でしょうか」


 カナタの話では活動時間は主に夜。まだ夜にはなっていない。ならば居場所はアジトだと予測できる。


「間違いなさそうですか?」


「は、はい!」


「……復讐を果たすのはあなた。私は見てるだけ。

それでいいですか?」


「は、はい……」


 カナタは少し不安そうな顔で返事をする。

戦闘経験が初めてなら無理もない。いや、それ以外にも人をあやめる行為も初めて。そこが一番不安を覚えるところだ


「少し休憩しますか」


「え? で、でも……」


「大丈夫です。時間はまだありますから」


 カナタの身体がわずかに身震いていたのを確認したマリアはそう提案する。ここはビルの屋上。どうやら立ち入り禁止の場所らしい。休んでいても、誰も来ることはない。


「あ、あの、因みにさっきかけた魔法、時間制限ってありますか?」


「ありません。あなたが復讐を果たした後、私の意思一つで解除することもできますよ」


 強化系の魔法は低位であればあるほど制限時間が付き、短くなる。マリアの使った魔法は上位にして最上級。時間は無制限だ。これは弱体化させる魔法にも言えることで、使用者が同意するか、死なない限りは永久と劣化させる厄介な魔法も存在している。


「……そう、ですか」


「立ちっぱなしで少し疲れたでしょう。隅のほうで休みましょうか」


「は、はい」


 マリアとカナタは屋上の端のほうで腰を下ろす。

カナタの精神も落ち着いてくることを願いつつ、マリアは隣に寄り添う。


「その間、クルミ様たちの様子も確認してみましょう」


 マリアの手の平から、神秘的に輝く水晶が現れる。

正確な位置や場所は不明だが、様子だけはしっかりと確認できる魔法の玉だ。


そして水晶から、とある建物の中にいるクルミたちの姿が浮かび上がる。


「マリアさんって、本当に何でもできるんですね」


「できませんよ、何でもはね。もしそれができるなら……」


 マリアは何かを考えているように、少し無言になる。


「マリアさん……?」


「……何でもありません。それよりも、こっちを見てみましょう」


 マリアは水晶を自分とカナタの間にかざし、クルミたちの様子を探る。

誰かと話しているようだ。今度は何をするつもりなのだろうーー



 









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