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復讐の果て  作者: 雲母稔
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第17話「闘技大会」

 クルミは自分たちの目標を確認すると、南西の方向、エンペラー王国を目指して進む。もちろんそこに、マリアとギランの姿はない。


クルミたちの足ならば、走って行くのに数分の時間も有さない。


「というわけで、エンペラー王国に到着しました」


 それらしき国に到着し、クルミは特に何か感情を抱くことはない。一つ言うことがあるとすれば、普通ということだ。様々な建物が並んでおり、そこに人々が街中を歩いている在り来たりな光景。目立った建物もない。


アーネスト王国と比べても、目立った特色はないように思えるが、平和かどうかと言われればそうでもなさそうだ。人々の顔が、明らかに暗い。会話も、少ない。


それがさらに、クルミの興味を削ぎとっていく。クルミたちが数十歩歩いた頃。


「……ねぇ、人間たちの街には食べ物を売っている店もあるみたいだよ。折角だし、なんか食べていかない?」


 それは魔物の社会にはない人間界のシステムだ。

ショートは俯きがちに考え込み、レイに至っては興味なさそうである。すると、足音が明確にこちらに近付いてくるのを察知したクルミは誰よりも早くその人物を見る。


「そこにいる美男美女のみなさ~ん!」


 この場にそぐわない大きな声が響く。そんなテンションについていけるとは思えないぐらい、明るい声だ。ショートとレイも突如声をかけてきた存在に目をやると、一瞬呆気に取られた様子。

その者の姿がピエロだったからだ。いや、これは着ぐるみだろうか。


変人だ。あまり関わり合いになりたくない。


「なんだ?」


「ここら辺では見ない顔ですね~。ひょっとして観光客のみなさーん?」


 ふざけているような返しに、レイは鋭い目付きでピエロを見る。

レイにこのようなテンションはタブーだ。


「特に用事がないなら、私たちはこれで」


 問題事にならないように、早急に立ち去ろうとする。


「お待ちくださ~い! こちらに興味はありませんか~?」


 ピエロの手には、ヒラヒラとした一枚の紙がつままれていた。


「……チラシ?」


「はい! 本日開催いたします剣士のみの闘技大会で~す!

この国に存在する、この街だけのメインイベントですよ~!」


 あまり興味はないが、暇潰しに使えということか。このチラシによると、選手だけでなく、観客も大歓迎と書いてある。最も、観客がいないと盛り上がらないが。

とにかく、これから分かることはただ一つ。暇潰しに最適ということだ。


集まってくる剣士たちには、期待などしていない。興味もない。

ただの遊び感覚に利用するだけ。


「ふーん……」


 クルミは会場の場所を確認する。ここからたった数キロ離れた先だ。

開会式は今から二時間後で、開催時刻はその後少ししてから。開会式の始まりまで、参加者のエントリーも受け付けている。


「あなた、出てみる?」


「私が?」


「あなただって剣を使ったりするから、剣士ってことでいいんじゃない?」


「おやおや~! そちらの方も剣士なのですか~? 人は見かけに……」


「黙れ。そのうざいテンションやめろ」


「これは失礼!」


 言い方があまり変わっていない。元からそうなのか、それともキャラ付けをしているのか。どうでもいいことだが。


ここで問題を起こされても困る。

レイは感情のコントロールが上手く出来ない。だから一人で行動させるのも危険だからそうさせないようにしている。


「もういいからさっさと行くよ」


 転移で行けば一瞬、走って行ってもすぐに行けるだろうが、待ち時間もあると考えると退屈になる。できるだけゆっくりと、歩いて行った方が良い。


それでも一時間以内には着きそうだ。

クルミは辺りを見渡す。やはり、特に面白そうな建物はない。


「ねぇショート、さっきの話の続きだけど、何か食べてみたいところはある?」


「えーと……でも、それには硬貨が必要だからなぁ」


 この世界には硬貨というものが存在する。人間社会にとって、特定の品を取り引きするために用いられるものだ。それをなしに勝手に取り上げることを、一般的には泥棒という。食べ物を要求したりするためにも硬貨というものが必要となるが、魔物の社会はいつでも弱肉強食。


そんなものがなくても、魔物は力で弱い者を従わせ、従わなければ殺す。

腐った世界だ。


魔物であるクルミたちは硬貨を持たず、所持する手段も人間社会の中にしかない。

ショートはそう思っていたのだろうが。


「大丈夫。それならここに」


 クルミは手の平に袋を出現させる。

財布と呼ばれている、硬貨をしまうためのものだ。


「いつの間に手に入れたの?」


「結構最初の方、人間たちを全滅させた時にね」


 軍隊を蹴散らした時の話だ。

いつか必要になるかもしれないと、クルミはあらかじめ奪っておいた。

死人の硬貨を回収しようと自由だろう。


「最初って……」


「あなたたちと出会ってから、初めて人間の街を襲撃した時だよ」


「クルミちゃん、あの時、思い付いたように人間の街に行こうって言ってたけど、その時からもう行く予定だったの?」


「いや、あくまで可能性の話」


 人間の動向によってクルミたちがやることも変わってくる。

軍隊にクルミを倒せる力はない。そう確信したからこそ、次なる一歩を踏み出し人間の街に出向いた。あの時、その予定は心の片隅に入れておいただけで、決めてはいなかったのだ。


今となってはどうでもいいこと。


「備えあれば憂いなしって感じだね」


「うん。で、何か食べたいところは?」


 本来なら魔物に食料は必要ない。魔物によっては、人や植物を食料とする事例もあるが、クルミたちにその必要はなくなった。


魔法というものは本当に便利なもの。空腹にならない魔法まで存在しているのだ。

マリアの研究によると、全ての魔法の総数は、数十兆にまで及んでいるらしい。それほど途方もない数だ。


「どうしよう……。それにやっぱり……」


 やはり、人間に提供されるというのが気に入らないのだろう。

いや、少し違う。

人間と接することになるのが嫌なのだ。


「じゃあ私が何か買ってくるよ。それならいいでしょ?」


「まぁ……」


 クルミは手元のチラシをショートに預け、少し遠くにある、小さめな店の中に入っていく。

後には、ショートとレイだけが残った。


「……静かだね」


「怯えて家にでも閉じ籠ってるのかもな。ふん……本当に軟弱な奴らだ」


「レイ、言っとくけど、これ……殺すのはダメだからね」


 チラシを見せながら言う。

ルールを書いてある欄に、はっきりと殺すのは禁止と書いてある。それ以外には、場外に落ちるか、戦闘不能になったらその時点で決着のようだ。


「ふっ、どうすっかな」


 完全に悪女面だ。


「絶対にダメだよ。クルミちゃんはそれを望んでいないし」


「クルミ……か」


 レイは俯きがちに目元を黒く染めてから、ショートを見る。


「どうせいつかは私らの手で殺すんだ。言うことを聞く必要ってあるのか?」


 殺意に満ちたその瞳に冗談はない。

レイは間違いなく、そのつもりでずっと行動している。


「……でも、僕たちにクルミちゃんは殺せない。少なくても今は、ね。だから僕は……クルミちゃんのことをもっとよく知りたい。何か対策が浮かぶかもしれないよ」


 相手について理解することによって、弱点も分かるかもしれないという考えがあってのことだ。


「確かにな……」


 クルミたちの仲は悪いわけではない。

むしろ、仲良く会話をするほど関係は良好だと言ってもいい。


それなのに、何も知らない。


過ごした時間もそれなりに長いはずだが、まだお互いのことをよく理解していなかった。そのことに、ショートは気付いたのだろうか。だからいつもよりテンションが低いのか、人間の街にいるからなのかは定かではない。


二人の間に沈黙が訪れると、クルミが店から出てくるのが確認できた。周りには、串に丸いものが突き刺さっている三つの食べ物が浮いている。串団子だ。


『おいで。こっちで食べようよ!』


 クルミの近くにはベンチがある。そこに座って食べようということだ。


「あれ……脳から直接声が」


「私の分まで買ってきたのか」


 距離はそれなりにある。大声を出さなければ聞こえないが、ショートたちにははっきりと聞こえているようだ。


無論、これも魔法だ。

単なる!魔力の無駄遣いである。


「はいこれ。好きなのを選んでいいよ」


「どれがどういうのかよく分かんないけど、これでいいや」


 三人はそれぞれの串団子を手に持つと、ベンチに座る。


「ふぅ……たまにはこういうのもいいよね」


 日差しが眩しく見える。人々の姿が少ないからか、それがやや寂しく映った。


「何か眠くなってきそうだよ」


 実際そんなことはない。魔物に睡眠は必要ないからだ。

魔法で強制的に身体を眠らすことはできるが、それは睡眠というよりももはや気。気絶させる行為


クルミは串団子を二人よりも早く食べ終わると、ショートの方を見る。


「ねぇショート、少し膝枕してよ」


「え!?」


「……そんな驚くことでもないでしょ。なんか疲れてきちゃった」


 そんなわけはない。ちょっと興味本意で言ってみただけだが、ショートのリアクションが予想以上に良かった。本当に膝枕してほしくなってくる。


「まぁ、別にいいけど……」


「……ありがと」


 そしてクルミは本当に、ショートの膝の上に頭を乗せる。

思った通り、とても居心地がよく感じた。


「クルミちゃんって、狙ってやってないよね……?」


「何が?」


「いや……別に……」


 静かで優しい声。甘い空間。


「ねぇ……クルミちゃん、僕、本当はーー」


「後で聞くよ。この件が片付いたら……ね」


 クルミは目を瞑る。特に寝るつもりはないが、そうすれば心が落ち着ける気がする。同時に、クルミは遠い昔に想いを馳せていた。


忌々しい、あの日の記憶を。 













 







 

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