第15話「影響」
それによりそれぞれの身体が光を放つ。カナタは全員を軽く見回すと、やや俯きがちになる。表情の変化があったのはレイに目を向けた時だ。
それも悪い意味で。何となく嫌な予感がする。
「どう?」
「あの……えっと」
「あ、そうだ。自己紹介がまだだったね。私はクルミ」
「僕はショート!」
「ギランです」
「マリアと申します」
「……レイだ」
それぞれが順番に、律儀に自分の名前を名乗り、ルイの目線がクルミへといく。
「えっと、クルミさんとショート……くんは普通の人間に見えます。だけど、レ、レイさんは……」
カナタは言いづらそうに口ごもる。
「あの……えっと……その……」
「何だ? はっきりと言ってくれ」
「それが……その……」
カナタは一旦レイから視線をそらし、意を決したようにレイを見る。
「ハ、ハゲてます!!」
その言葉がレイの耳にまで届いた頃には、誰かが止めようとしても、時すでに遅し。レイが刀を抜き放ち、正確に言えば出現させた。それまでの動作は一秒も経っていない。
勢いに身を任せ、マリアに向けて剣撃を放ってしまう。
クルミはホッとする。これが街の中ではなく、ここで良かったと。
マリアのそれに対する反射神経は、分かっていたとばかりにさすがなものだ。瞬時にカナタ以外の人物をまとめて結界で囲い、刀による暴風や爆風がそれら一帯を満たした。
カナタのみを結界で守らなかったのは、そうしたところで建物が崩壊するからだろう。事実、それだけの威力がこめられていた。
「お前絶対わざとだろ!」
「ちょっとレイ落ち着いてよ! 今のがカナタくんにまで行き届いてたらどうするんだ!」
「はぁ? 何だよお前、マジになりやがって。人間は嫌いじゃなかったのかよ」
ショートの身体が縮こまる。
クルミの観察眼を持ってしても、今のショートの心境を探ることは難しい。
「た、確かにそうだけど……! 子供は特別、だよ……?」
「何で疑問文になってるんだよ」
ちょっとした諍いが終わったことを認識すると、マリアは自分たちを纏っていた結界を取り除く。
「……よくよく考えてみれば、別に魔法に頼る必要はないよな? そもそも私たちのことが他の王国にまで知れ渡ってるのか?」
確かに、言われてみれば今までクルミが活動していたのはごく一部。ブレーブタウンに加え、ライブリータウンやアイビータウンにも行ったことはあるため、そこら辺ならバレる可能性が高いが、ヴァリキリー王国や他の国にまで現時点では行き届いていないかもしれない。
あくまで現時点では、だ。
勇者たちの死。
それが国の起こす行動を大きく左右するきっかけになるだろうとクルミは予測する。今の段階では遠くにまで知れ渡っていなくても、勇者が死んだとなれば、他の王国にまでその情報が行き届くのは言うまでもない。広まるのも時間の問題だ。
となれば、やはり本来の姿で歩き回るのはリスクがある。今回もできればバレずに街中を探りたいものだ。ただの暇潰しで、街一つ壊滅させるのは望ましくはない。
本当に国を滅ぼすことがあるとすれば、それはまだ先のこと。
「滅ぼしに行くわけじゃないから、リスクはできるだけ避けたい」
「そうか……。なら私は変装していく。それでいいな?」
「変装? へぇ……」
ありかもしれない。クルミはとても興味をそそられる。それは滅多に感じることのない純粋な子供心。ただ単に、楽しそうという気持ちだ。
「いいね! 面白そう! ねぇショート、私たちもそれで行こうよ!」
「え!? 僕も!?」
ショートは一見驚いたようにも見えるが、まんざらでもなさそうである。その頬が、少し微笑んでいる。一度やってみたかったと思ってるような子供心が透けて見える。
「うん! ね?」
「……じゃあ、僕もやってみたいかも」
「お前らもやるのかよ……」
そうして彼女たちは、一つの殺風景な部屋で、長時間に渡る変装を開始する。変装道具は、これもマリアの魔法で用意したものだ。用意というよりも、ただの泥棒である。魔法で作り出した鏡を使い、街の至るところから広い集めてきた物に過ぎない。
髪を染めるものや、リボンやネクタイ、さらにはネックレスなど、お洒落な装飾品も用意されていた。それらを使っていたクルミとショートは、どこか楽しそうであった。
彼らにとって、時間というのは早く過ぎ去っていく。
知らず内に、何時間も時間を費やしていき、カナタはいつの間にか眠りについていた。その横には、マリアがその保護者のように付き添っていたのだった。
ーーイージス王国
そこはアーネスト王国、エンペラー王国、ヴァリキリー王国という四ヵ国の中で最も美しい国と言われている。
朝から昼は特に目立った風情は感じられないが、夜になると全ての街に共通で、多種多様な光が辺りを照らす。それはまさに、スポットライトと呼ぶにも相応しいもの。
それらが限られた時間にのみ、国中を照らし続ける。
そのため、イージス王国は夜に賑わう国だと言われている。
今はまだ完全に夜にはなっていない時間帯。
人々が騒ぎ立てるのはこれからのはずだった。
とあるタワーのように聳え立つ建物にて、四人の人間が集まっていた。平均年齢は高め。円く作られているテーブルに、全体図が記されている地図。古めかしい椅子。何かを話し合ったりするには最適な空間であろう。
即ちそこは、会議室である。
集まっているのは、各国の国王。
「それでどうするのだ!?」
慌てた様子の声を上げたのは、痩せ細ったタイプの国王。
「……我々だけの国では、もはやどうすることもできまい。
英雄は死に、国は混乱している。事態は最悪だ」
次に声を上げたのは、落ち着いた様子の国王。
「シャルドの消息はどうなっておる。アーネスト王よ」
続けて声を上げたのは、こちらも落ち着いた様子の国王。
凛々しい雰囲気を纏った王だ。
「不明だ。遺体はアンナ、キャリー、ミナト、ジークのものしか確認されていない。どこかで生きているのか、それとも森の中で息絶えているのか……」
「だが何故その者たちだけ、森の入り口で発見されたのだ!?」
「分からぬ……」
事態は深刻なものとなっていた。何より英雄たちが敗北したのだという事実が、彼らをさらに混乱させ、国王同士で緊急会議を開くまでに至った。
各国の王が集まることになる場合は、このように国に危機が訪れた時。
「とにかく、あの化け物たちには手を出してはいけない。あいつらが無闇やたらに街を滅ぼそうとしないのが不幸中の幸いか……」
結局のところ、打開策は全くと言っていいほど生まれなかった。最後に出した結論は、下手に刺激をしないで逃げること。でなければ、さらなる犠牲者が増えることになる。それか、他の国から応援を呼ぶことだけだが、それも望ましくない。
敵の力量が計り知れない限り、さらに戦士を失う羽目になるかもしれないからだ。今回挑んでいった、勇者たちのように。
このようなケースは、当然ながら過去に一度もなく、初めてのことだ。
議論がこれでいいのかと行き詰まっていると、トントンと、一つのノックの音が聞こえる。
「失礼します! ご報告にあがりました!
ヴァリキリー王国に送り込んだS級冒険者ですが、全滅したそうです!」
さらなる事実を唐突に叩きつけられ、各々の顔に冷や汗が見え始める。
勇者の代わりに送り込んだ数人のS級冒険者。全滅、というのは死んだということだろうか。
どちらにしろ、敗北したということには違いない。
最悪が最悪を呼ぶ展開と言っていい。
「何ということだ……!」
「直ちに、他のS級冒険者に要請を!」
「……いや、そもそも手を出してもいい存在なのか?」
彼らの間に疑惑の念が渦巻いていた。世の中には、英雄ですら敵わない、絶対に手を出してはいけない存在もいると知った上での疑問だ。これで国の損害が増えるのは避けたい。
ただでさえ、現在S級クラスの冒険者は少ない。国における、貴重な人材だ。
冒険者ではなく、軍隊を送り込むという手段もあるが、それでは失敗したときにより多くの人材を失うことになるのはもう経験済みであった。
「その件ですが、既にダイチ様率いる冒険者チームが、率先して引き受けるとのことです!」
「そ、そうか……」
不安は残るが、ダイチたちはS級冒険者の中でも正義感が強く、優秀なチーム。戦闘時のバランスも良く、協調性も他のチームより長けている。
他のチームも送り込んだ方が良いだろうか。しかし、それで必ず勝てるという保障がない限り、下手な行動はできない。何より、ダイチたちの戦闘能力は全ての冒険者の中で、現在トップの実力。
それで勝てないなら他のチームでも勝てないだろうし、むしろ足手まといになることもある。
数で押せばいいわけではない。
「とにかく! このままにしておくわけにもいかない。少なくとも、他の国にもこの事を伝えるべきだ」
それがもう一つの結論。
これは人類を揺るがす大問題に発展すると予想される。
本当に最悪の事態は、国ではなく、世界が滅ぶこと。
それだけは、絶対にそれだけは、阻止しなければならない。
国王たちは顔をしかめ、自身の無力さを恨んでいた。
守られているだけの自分が、本当に情けないと。




