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復讐の果て  作者: 雲母稔
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第1話「可能性を求めて」

ーー強さとは何か。


最近、そのことばかり考え込む。

肉体的に強靭なことが強さなのか、精神的に屈強なことが強さなのか。


強いとは、いったいどういうことを指して言うのだろう。


きっと、強さにはいろいろな種類のものがあって、人は生きていく中で自分なりの強さを築いていく。


人だけではない。魔物だってそうだ。

偏見の対象となる魔物も、必ずしも生粋きっすいの悪ばかりとは限らない。

みんな、等しく明日を生きていく。


だからこそ、少女は嘆く。私にはもう、強さを築くことができないのだと。

そして少女ーークルミは今宵こよいも命を狙われていた。


クルミの視界に映っているのは、剣や弓を始めてとしたおのや槍、さらには銃器、棍棒こんぼうなどを装備した、武装を整えた人間たち。

身体は鋼鉄の鎧を纏い、ちょっとやそっとのことではビクともしない代物だ。


太陽が沈んでいるため分かりにくいが、陸や空まで、あらゆるところから包囲していることは分かった。魔法使いでもない人間が何故空を飛んでいるのか、それは足に装着している魔法兵器のおかげだ。


「もう逃げられないぞ!」


「諦めて降参しろ!」


 主に男たちのヒステリックな声がいたるところから聞こえてくる。

数百人はいるであろう大軍を前にしても、クルミは何の危機感も覚えることはない。


それどころか、冷静に敵を観察する余裕すらも芽生え始める。

それもそのはずだ。


この状況は、クルミにとっては取るにたらない日常に過ぎないのだから。


「……はぁ」


 挙げ句の果てに、大きなため息を一つこぼれ出す。

誰がどう見ても緊張感のない態度。


このため息は、決して疲労から出たわけでも、呆れから出たわけでもない。


圧倒的な、失望だ。

何しろ国はこれだけの人数をクルミに向けて、始末するよう送ってきた。


それ即ち、それだけの人材を意味もなく失うのと同義だというのに。


「もう構わん! 突撃だ!」


 ついに火花が散ると思われた。

まずは空中にいる空を飛んだ者たちが、銃弾を放ち狙い打ちしていく。

ただの銃弾ではない。


火や氷といった様々な属性が宿る兵器が、クルミに向けて放たれる。


辺りが煙に包まれた時、待っていたと言わんばかりに地上にいる者たちがクルミに駆け寄る。この程度の銃弾じゃ倒せないと分かってのことだろうが、愚かしい行為だ。


今までとは違うような武器の嵐。こんな夜に、大きく響く足音。

その様はもはや、地獄絵図そのものだ。

クルミは下手な戦争でもしている気分にもなっていく。


人間とは、後先考えない生き物であると。

自分は死なないとでも思っているのだろうか。


「……やる気あるのかな」


 それぞれが必死の形相を浮かべてる中、クルミだけ、何の感情も抱けずにいた。


自分でもびっくりするほど、発した声色も低いものだ。


「……諦めた。もういいよ」


 目の前の敵に対して興味をなくしたクルミは、その右腕を振り上げる。


徐々に激しい足音が近付いている刹那、クルミはじっと愚かな人間たちを眺めているだけだ。蹴散らすことに、何かを思うことはない。


振り上げた拳には、光が満ち溢れており、今にも漏れ出しそうな勢いだ。


向かってくる者たちはそれに気付く様子はない。

ミサイルなどにより発生した煙が、各々の視界を覆っているからだ。


それには気にも留めず、クルミは一度目を閉じ、幾秒かしてから再び目を開ける。


憤怒ふんぬ侮蔑ぶべつ憎悪ぞうお。それ以外の何か。


自分でも一概には言えない感情を抱いたまま、クルミは何の躊躇ちゅうちょもなく拳を降り下ろす。


辺り一面が光で覆い尽くされたこの瞬間、人々の声は一瞬にして鳴り止んだ。




ーーそれから数分後であろうか。


何の音もしない物静かな空間、戦争の跡地のような場所。

そこに一つの足音が響く。


クルミは特に警戒することも、気にかけることもない。

この足音はクルミのよく知る人物のものだからだ。


「今回はずいぶんと派手にされたようですね」


 座ったまま木に寄りかかっているクルミに、爽やかな声がかかる。

そこにいたのは、このような荒々しい現場にいてもなお、涼しい顔をした一人の男性。


整った服装。

眉目秀麗びもくしゅうれい容姿端麗ようしたんれい。そんな言葉が似合うであろう人物であった。


「何をされているのですか?」


 クルミは手元に、細長い針を握っていた。

その先端の部分をただ眺めているクルミに彼は問いかける。


「……こいつら、いろんな武器を持ってきているんだね。ミサイルとか煙幕とか、そんな子供騙しでどうにかなるとかまだ思ってるみたいだよ。これは毒針。今はこれの殺傷能力を確かめていたんだけど、使えない」


 そう言ってクルミは毒針を後ろに放り投げる。


「……あ、そうだ。ギラン、ちょっとこっち来て」


「はい」


 ギランは従順な態度でクルミの元に近付く。

クルミは地べたに転がっている小型で出来ている拳銃を、拾い上げてから立ち上がる。


「……えい」


 クルミは銃の引き金を、ギランの顔面に向かって引く。

銃から放たれたものは弾ではない。炎である。


普通なら火傷しそうなものだが、ギランは避けない。

それがクルミにシュールな図として映る。


「……ふふ、あれ? ギラン、大丈夫?」


 自分で放ったのに軽く笑い出すクルミ。

避けるかと思っていたが、真っ正面から受けたのが意外だったのだ。いや、元より避ける必要などないと判断したのだろうが、警戒心だって大切だ。


ギランは思考が停止したような、ポカンとした顔をしている。いや、どう反応していいのかが分からないだけなのだろう。ギランに冗談は通じないようだ。


炎を真っ向に受けたはずなのに、ありえないぐらい綺麗な顔を保ったままだ。 


「まぁ……。クルミ様、今のはいったい……?」


「ただの遊び心だよ、もっと面白い反応してほしかったのになぁ。

冗談はさておき、驚くべきはこんな兵器も作り出せる人間の技術力だよね。前まではただの弾だったのに、最近はいろんな属性の兵器も戦闘に活用してるみたいだ」


 人間の技術力。そこは褒めるべき部分だ。

魔法も使わずそのような武器を作れるのは人間の利点とも言える。


「ですが、いくら技術力が優れていても、あの程度の火力では先ほどの玩具おもちゃと同じく使えないのでは?」


 クルミはその通りだと軽く首肯しゅこうする。


ギランの言う通り、毒針や火炎放射という武器は人間特有の兵器であるが、それは二人から見たらただの玩具にしかならない。利点であるのと同時に、クルミやギランのような強者にとっては欠点に変えられてしまう。


何故なら、クルミたちの強さの単位はそれでどうにかなるレベルではないからだ。人々には、早いところそこを分かってもらわなければならない。


「そこなんだよね。やっぱり人間じゃその程度。誰も私を上回ってはくれないし、私を殺せる兵器も生み出せない」


 クルミは話しながら森の方向に数歩近付き、立ち止まる。

偶然か必然か、神妙な空気を思わせる風が漂う。


「……だからこそ、あなたたちには期待しているの。いつか私を……殺してね」


 静かな声で語りかける。

ギランはクルミに向かい直り、その顔に笑みを浮かべる。


その笑みには、どことなく冷酷さも満ちていた。


「承知しております。そのために私は、あなた様に仕えているのですから」


「別に様なんてつけなくていいのに」


二人の空気が戻り、たわいもない会話を続けながら森の中に歩を進める。


道中で友達並みに話す二人の姿は、周りから見たら仲が良いものに見えていたことだろう。ゆっくりとクルミたちは自分たちのアジトに向かう。アジトと言っても、既にアジトの範囲内に二人はいる。この森全体が、クルミたちのアジトとなっているからだ。勝手に創っただけではあるが。


クルミを除いた、仲間とも呼べる四人の中の一人が、自身の魔法でこの森全体の真下に秘密基地を作っているのだ。


入り口はこの先を数百メートルほど進んだ地点であり、特殊な空間のようなものが存在している。


これには並みの生き物が通りかかっても気付くことはない。これもまた、高度な幻術が展開されているためだ。


「ところでクルミ様、これからの目標をお伺いしても?」


「うーん。とりあえず国には危機感を持ってもらうことかなぁ。あんな奴らでどうにかなるなんて思われないぐらい、徹底的にね。今回来たのも個人個人が大したことない連中だったし。まだまだ危機感知能力が低すぎだよ」


 以前クルミに対して送られてきた軍隊も、今回来た者たちとほぼ変わっていなかった。人数が多ければ何とかなるという、そんな浅はかな考えすら読める。数の暴力はクルミには無意味だ。


最初の段階でクルミは、様々な街から送られてきた一般的に戦士と呼ばれる者たちの多くを、この手で葬った。その後も、暇さえあれば仲間と一緒に街の破壊活動を実行した。その都度、人々の人口は減っていく。しかしそれでも、まだまだ強い人材がいるとクルミは睨んでいた。


根気よく続ける必要がある。

こいつはやばい。生かしておくわけにはいかない。

そう思われるように。


悪事を続けていれば、きっとまた出てくるはずだ。


だが、それすらもクルミは大した期待をしていない。

唯一期待していることがあるとすれば、その先に待っている悲劇である。



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