淡い恋心
…。
Twitterで、百合のリツイート企画が回ってきたので、とりあえず…。
そしたら、瞬殺されました…( ;∀;)
そんな、こんなで、新たなジャンル開拓って意味でも、書いてみました。
代表作の執筆も滞っておりますが、一旦箸休めで…。
「うう……寒い……」
季節は1月の末。
私、柊 聡子 (ひいらぎ さとこ)は、冷え切った体育館にいた。
体育館はジェットヒーターで温められているが、
それでも温まるのに時間がかかる。
バスケ部の部員たちも、ヒーターの前に群がる。
「今日は寒波が来てるって言うのに、部活やるの?」
「やるに決まってるじゃない!」
そんな部員たちのやり取りを横目に、冷え切った指先を
ヒーターで温めてた。
先輩たち3年生は、夏の大会で引退し、今は私たち2年生が
このバスケチームの最上級生となる。
去年の大会では、県大会で準優勝を納め、東関東大会まで
先輩方は駒を進めた。
そうなると、私たち2年生の実力が測られるもので…。
部活のためにも、先輩たちを超えてみせたい。
「そろそろ始めるよ!!」
部長の一声がかかる。
ウオームアップで、体育館の外周を走る。
そうしていくうちに体が温まり、寒さも和らぐ。
決まりは10周。
終わりには、部長の笛の合図でクールダウンさせながら、
最後の一周をする。
ウオームアップが終わると、顧問の先生が来た。
「お、走り込みは終わったかい?」
「はい、先生!」
先生と部長の会話。
「今日は紅白戦をやります!」
「チーム分けはどうしますか?」
「う~ん……そうだね。1年生と2年生でやってみようか?」
1年生がざわつく。
確かに、実力差はある。
今までの紅白戦では、チームのバランスを考えて、
戦力配分をしてきた。
「え? 先生、本当ですか?」
「ああ、1年生の実力も知りたいしな」
こうして、1年vs2年の紅白戦が繰り広げられた。
・・・
結果は、3セットとも2年生の勝ち。
「う~ん……。点数的には1年生も良いところまで来たな。」
先生がほくそ笑む。
「よし、これからは、1年と2年の紅白戦で行こう!」
「え? 先生!? 本当ですか?」
「うん、これから1年生をしごいて、戦力にしたいから」
先生と部長の会話。
もうすぐ時間だ……早く帰りたい。
そういえば、私がバスケを始めたのは中学生のころ。
両親の勧めで、「何か部活に入りなさい」と言われたからだ。
運動神経は良い方、そしてコンプレックスでもある……
今では170センチの身長も、生かせるとなるとバスケかな……
と、そんな感じで続けている。
「よし、今日はこれで解散!」
「「お疲れさまでした!!」」
部活から解放される私。
解放と言っても、部活自体は嫌いではない。
強いて言うなら……。
「かよ、待った? 部活長引いちゃって……」
「ううん。全然!」
かよ(鈴木 佳代子)、1つ下の幼馴染。
「かよの部活は、もう終わったんじゃないの?」
「ううん。あたし手芸部だから、残ってても作業はあるの。」
「へぇ……。で、何作ってたの?」
「先輩のエプロン♪」
そう言うと、かよはフリフリのエプロンを取り出す。
かよは小柄(150センチ)なので、かよが着るにはかなり大きめだ。
「……それを、私に着ろと?」
「え……。似合うと思うけど?」
かよはきょとんとする。
私は普段、ボーイッシュな格好をしているので、正直差し出されたエプロンは、好みではない。
……。
でも、サイズがなかなか無いだけで、可愛いものを着たかった欲望もある。
「……ねぇ……。それって、私のキャラ壊さない?」
「そうかなぁ……?たまにはかわいいのも、着てみてほしいな……」
少しすねた感じで、私を見上げる。
この表情が私は好き。
「うん……。わかった。次の週末に、これ着て二人で何か作ろう。」
「ありがとう! じゃあ、お揃いのエプロン作らなきゃ!」
かよは、ぱぁっと明るい表情になる。
かよはいつまでも、可愛いなぁ……。
「ところで、なんでお揃いにするの?」
「……お揃いがいいんだもん……」
かよは顔を赤らめて、塞ぎこむ。
ん……、よくわからないけど、ご機嫌取り戻しとこう。
「あ……、お揃い、良いね」
「でしょ♪ お揃い、お揃い♪」
なんで、お揃いがそんなに嬉しいんだろう?
でも、機嫌がなおってよかった。
……表情がコロコロ変わって可愛いなぁ……。
「じゃあ、そろそろ帰ろうか?」
「うん♪」
幼馴染なだけあって、家はすぐ近所。
だから帰るときも、いつも一緒。
私はこの時間だけ、女の子になれる……そんな気がしている。
学校では、男っ気気のない女子高。
時々、どこどこの男子校生と恋人になったとか、コイバナも聞くけど…。
私はなぜか、校内の女子から告白を受けることが多い。
……いや、思い出したくないから、このことは忘れよう。
「……」
「……♪」
特に会話に花が咲くことは無く、黙々と帰路につく。
でも、かよはなんだかご機嫌の様子。
「かよ、良いことでもあったのかい?」
「ううん、何でも♪」
なんか、気になるけど、まぁいいか……。
「ねぇ、先輩♪」
「ん?」
「今日、帰りに先輩の家に行ってもいいですか?」
「ああ、良いよ!」
幼かったころの名残か、時々帰りにかよは帰りに、
私の部屋に来る。
本を読んだり、雑談したり、時々ゲームをしたり……。
「今日はどうしたの?」
「う~ん…なんとなく?」
今日は勉強ではないらしい。
と、言うことは雑談かな?
「寒い……」
かよは口にする。
私は……運動をした後だから、それほど寒さを感じない。
ちょうどよく、自販機がある。
「コーンポタージュ飲む?」
「え?」
私はかよの答えを待たずに、自販機に小銭を入れて、
コーンポタージュのボタンを押す。
ガコンと、コーンポタージュが出てくる。
私はそれを手にすると、かよに手渡しをする。
「冷たっ!」
思わず、かよの手が冷たくて、声を上げてしまった。
「こんなに冷えてたの? 手袋しなきゃダメじゃない!?
これでまず手を温めて?」
「……」
ん? 反応がない……。
「かよ?」
「あっ、はい!?」
「どうしたの?」
「いっ、いや、何でもないです!」
かよの顔がほんのり赤くなる。
「え? 熱? おでこ出して?」
「えっ! だ、大丈夫です!」
さらに赤くなるかよ。
「いいから、おでこ出して?」
「……。」
かよは黙って、おでこをだす。
手は…冷たいから、おでこ同士で。
「ひゃう!?」
かよは変な声を出す。
えーっと……熱は……ちょっと温かいけど、
大丈夫そうかな?
もう一度、かよを見ると、さらに顔を赤らめてる。
「熱は無いみたいだけど……、顔赤いよ?」
「だっ、大丈夫です!」
かよの目が泳いでる。
なんか、可愛い……。
かよは、コーンポタージュで手を温めると、
缶をあけ一気に……。
「熱っ!!」
「……そりゃそうよ……。なんで一気飲みなんか……」
熱さでむせる、かよ。
「だい……じょう……ぶです……」
「全然大丈夫じゃなさそうだけど……」
かよは、もう一度口にする。
今度はだいぶぬるくなってるみたいで、
本当に一気に飲み干す。
「どうして、そんなに急いで飲んだの?」
「だって……。コーンが残るから……」
……可愛い……。
そんな理由で?
「おかげで温まりました! ありがとうございます」
「じゃあ、早く帰ろうか」
私たちは帰路…と言っても、私の家に向かった。
「着いたー!」
私の部屋に着き、安堵のため息交じりで、言葉を漏らす。
寒い外から帰ってくると、部屋のぬくもりが幸せに感じる。
「で、今日は何しようか?」
「えっと……」
ん?
かよが、なんだか言いにくそうな……。
「どうしたの? いつもみたいに気軽に言って?」
「じゃあ……」
かよが思い切って、言葉を出す。
「きっ、今日作った、エプロン着てください!!」
「……え?」
今日作ったって……フリフリの?
「あれ?」
「これです!」
かよは、顔を伏せて、フリフリのエプロンを差し出す。
「これかぁ……。制服のままじゃ……着れないかな?」
フリフリ…なんか、テレビで観たメイド喫茶の
店員みたいな……。
「じゃあ、着替えるね。 ちょっと待ってて」
私は制服を脱ぎ捨て、下着姿に。
そして、おもむろにエプロンを着る。
ちょっと大きめかな…。
って、下着姿に着ただけだから、しょうがないか。
「どう?」
「……」
かよの顔が赤い…。
「先輩!! 服着てください!!」
「……ダメ?」
「はい! 刺激が強すぎます!!」
そりゃ、そうか。
服を着ての寸法だろうしな……。
……って、刺激って、何だろう?
「わかった、わかった。じゃあ、待ってて」
私は、部屋着兼寝間着の服に着替える。
そして、エプロンを着てみる。
うん、サイズぴったり!
「どお?」
「……さっきよりは、刺激がなくなりました」
「え?」
「い、いや、何でもないです!!」
顔を赤らめる、かよ。
少し深呼吸してから、かよは言う。
「とても似合ってます……素敵です……」
その表情は、どこかうっとりしていた。
へんな、かよ。
「もういい?」
「できれば…写真撮らせてください!」
「ダメ~!」
「ふにゅう……」
さすがに部屋着の写真は、撮られたくない……。
でも、かよは残念そう……。
「じゃ、じゃあ、今度の2月13日に、お菓子作らない?
その時に二人で写真撮るなんてどう?」
とっさに。
まぁ、女子高だけど、バレンタインデーは女の子同士
チョコ交換してるから。
最近ではそっちがメインで、義理チョコとか男の子に、
配ることなんて、めったにないらしい。
本命ぐらいじゃないかな……渡すとしたら……。
「えっ、はい!! 嬉しいです!
じゃあ、私の分もエプロン作りますね!」
かよの表情は、一気に明るくなる。
良かった……。
「わたし、今から13日が楽しみです!」
「そっ、そう?」
「はい♪ 今日の用事は、エプロン姿の先輩が
見たかったんです!」
まぁ……わからなくもないや……。
自分が一生懸命作ったエプロンだもん、着た姿を見たく
なるのはよくわかる。
「じゃあ先輩、約束ですからね♪
今日は失礼します♪」
かよ、ご機嫌そう……。
そりゃ、そうか。
「では、失礼しますね。先輩♪」
「うん、また明日ね~!」
そういうと、かよは部屋を出て、帰っていった。
・・・・・・
日にちが立つのはあっという間で…。
今日は2月13日、約束の日だ。
部長の鶴の一声で、今日は部活が休みになる。
みんな……お菓子作りか?
一応学校では、お菓子持ち込み禁止なんだけど…。
「かよ、お待たせ!」
「いえ、全然待ってませんよ?」
いつもの場所……一緒に帰るときの待ち合わせ場所に、
かよは先に居た。
「いや、待ったはずじゃない?」
「いいえ、全然待ってません!」
私は、おもむろに、かよの手を握る。
「ひゃ!!」
「手、冷たいじゃん。やっぱり待ってたんだ!
でも、手袋しないとダメだよ?」
「……」
あれ?
また反応がない……。
顔を赤らめて、硬直してる……。
「かよ?」
「な、何でもないです!!」
慌てる、かよ。
可愛らしい……。
「じゃあ、とりあえず、買い出しに行く?」
「は、はい!!」
なんで、どもるんだろう……。
まぁ、いいかぁ……。
学校から、商店街に向かい、お菓子の材料屋に着く。
「混んでるね…」
予想はしてたけど、女の子ばかり。
店内でひしめくように、レジにも列ができてる。
「ここで買っていく?」
「うん!」
かよの可愛い返事。
「じゃあ…何作ろうか?」
「マシュマロにチョコ付けて、デコレーションするのは、
どうですか?」
「あ、簡単そう! それにしよう!」
そして、私たちはマシュマロと、お菓子用チョコレート、
バニラエッセンス、砂糖、シュガーペーストを買う。
「あ、先輩! ラッピングも置いてあります!」
「お、どこで買うか悩んでたから、ちょうどいいね!」
シーズン狙ってだろうか?
ラッピングのコーナーも臨時で作っているようだ。
「じゃあ、買い物も終わったし、帰ろうか?」
「はい♪」
かよ、うれしそうだな…。
「料理と言えば……かよの家でやりたいんだけど……。
今日は大丈夫?」
「うん! 大丈夫ですよ!
じゃあ、先輩も準備してきてくださいね!」
料理する時は、いつもかよの家を借りてた。
かよのご両親は不在が多く、いつも一人で居る時が多い。
だからだろうか? 中学・高校で分かれた時も、
こんな感じでいつも一緒にいる。
「そういえば、かよは友達出来た?」
「うん、居るよ~!」
「あまり、私以外と遊んでる話、聞かないけど……」
「ん~、私、おねえちゃ…先輩と一緒にいるのが、楽しいから♪」
ん?
今、「おねえちゃん」って言いかけたような……。
今は、先輩・後輩だけど、昔みたいに呼んでいいのに……。
「たまには友達とも遊びなよ……」
「大丈夫! クラスや部活でいっぱい遊んでるから!」
「いや……、そうじゃなくて……」
「なぁに? 先輩は私と居るのが、不満なんですか?」
ぷ~っと、顔を膨らませる。
可愛いなぁ……。
私が男だったら、ほっとかないのに……。
「そういえば、かよって彼氏いないの?」
「い、居るわけないじゃないですか!!」
「え~、かよって可愛いから、彼氏の一人や二人いても……」
「二人いたら、ダメでしょ!!」
正論で突っ込まれる。
まぁ、こうしていつも二人で居るからなぁ……。
「……。」
「ん?」
「先輩は?」
「へ?」
「先輩は、彼氏や好きな人いないんですか?」
……居るわけないじゃん……。
いつも二人で帰ってるぐらいだから……。
「居るわけないじゃん。」
「じゃあ、彼女は?」
ぐはっ……。
私のトラウマを……。
私は力なく答える。
「……女の子からは、時々告白されるよ……」
「……それを受けたことは?」
「あるわけないじゃん!!!」
「……♪」
かよは無言で、機嫌がよくなる。
なんでさ!!
そんな、コイバナ? に、花を咲かせながら、
そろそろ分かれ道。
「じゃあ、準備したら、かよの家に行くね!」
「はい、待ってます♪ エプロン、忘れないでくださいね!」
……やっぱり、あのエプロン必要?
「うん……、わかった」
私は家に帰り、準備してかよの家に向かう。
もちろん、あのメイドっぽいエプロンも忘れずに。
かよの家に着き、チャイムを鳴らす。
「お帰りなさいませ、お嬢様♪」
「え? 何??」
かよは、あのエプロン姿……付け加えると、レースのついた
カチューシャもしている。
……ここはメイド喫茶か!!
っと、私は心の中でつぶやく。
「……何してるの?」
「ちょっと、やってみたかったの♪」
いたずらっぽく、笑う。
……いや、可愛いけどさ。
そういえば気になること。
「……ねぇ……。そのカチューシャ、私も付けるの?」
「え? なんでそんな普通のこと聞くの?」
きょとんとした顔で答える、かよ。
かよの中では決定事項らしい……。
「わかったよ……」
「うん♪」
「じゃあ、さっそく作ろうか」
「はい♪」
私はエプロンを着て、キッチンを借りる。
かよは一人で居ることが多いせいか、キッチンには
自分専用の道具も持っている。
こういうのに疎い私の家の台所では、道具が足りない。
「何から始めようか?」
「……チョコ溶かすに決まってます!」
鋭く、ツッコみを受ける。
そりゃ、そうか……。
「じゃあ、溶かそう」
「……先輩? いきなり鍋に入れたりしませんよね?」
……ギクっ。
普段、料理とかやってないのが、バレそう……。
気を取り直して……。
「ゆ、湯せんでしょ? それがぐらいわかるって!」
「先輩、目が泳いでます……」
はい……。ごめんなさい……。
「じゃあ、鍋にお湯作って……」
「……箸で、溶かそうとしてません?」
え?
箸じゃないの?
「……。これ、何に使うか知ってます?」
かよは、ヘラのようなものを取り出す。
「……見たことない……」
「はぁ……。先輩、全然お菓子作りしたこと、ないんですか?」
「うん……」
私はそんなに、器用じゃない。
現に去年は、バレンタインデーに女の子同士で、
交換しあうなんて知らなかったぐらいで……。
大慌てで放課後に、お返しのチョコを買ったぐらいだ。
「これは、お菓子作りには、必須アイテムです!」
「そうなの?」
「そうです!
例えば、ホットケーキだって、本当はこれで混ぜるんですよ?」
「え?」
……知らなかった……。
ホットケーキと言えば、泡だて器を使っていた……。
「じゃあ、先輩、使ってみてください」
かよから、ヘラを渡される。
少しずつ、湯せんで溶けたチョコレートを、ヘラで混ぜてみる。
「こう?」
「う~ん……。ちょっといいですか?」
そういうと、かよは私の後ろに回り、私の手を取る。
背中に胸が当たる。
なんか、大きい……。
私は、軽く劣等感を抱く。
そんな私を気にしせず、先生は指導を続ける。
「こうやって、混ぜるんです。
だいぶ溶けてきましたね。」
「うん……。じゃあ、マシュマロを入れて……」
「違います!!」
かよ先生に怒られる。
怒った顔も可愛い……。さすが私の妹的存在……。
彼氏が出来たら、泣いちゃうのかな……。
「これ、何のために買ったと思います?」
かよは、バニラエッセンスと砂糖を取り出す。
「え? それ、よくわからなかったんだけど……」
「今回は業務用のチョコレートを買いました。
甘くないんです。
砂糖と入れて甘みと、バニラエッセンスで風味を出します」
……。
今日は本当、先生だな……。
ちゃんと、覚えておこう……。
「じゃあ、ここは私がやりますね♪」
そういうと、かよは砂糖の分量を量り、湯せんで溶けた
チョコレートに投入する。
混ぜてから味見して、もう一度砂糖を入れる。
……私はそこまでしないのに……細かいなぁ……。
「ちょうどよく、甘みが出たので、バニラエッセンスで風味を付けます」
かよはそういうと、火を止めてバニラエッセンスを数滴たらす。
「じゃあ、後はマシュマロを入れて……。
ここからは時間との勝負です!
チョコが固まらないうちに、どんどん作りましょう!」
かよは、爪楊枝にマシュマロを刺して、チョコレートに浸す。
そして、皿に置いていく。
「先輩、シュガーペーストを飾ってください!」
「あっ、はい!!」
今日はかよ先生に従う。
シュガーペーストを、チョコが固まらないうちに、
のせていく。
あっという間に、マシュマロは無くなり、チョコが少し余った。
「完成です!」
「余ったチョコはどうするの?」
「後で私が使います」
「独り占め?」
「……違います!!」
ぷぅっと、膨れる。
あれ? でも、少し目が泳いでいるような……。
「じゃあ、ラッピングして……」
「先輩、一つ約束を忘れてませんか?」
「え?」
ラッピングをしようと準備した時に、かよは眉をひそめて言う。
「……えっと……」
「……二人の写真を撮る。です!」
あぁ……。そういえばそういう約束してたな……。
「できたチョコと一緒に写真撮りたいです!」
「うん……。わかった」
かよはそう言うと、出来立てのチョコレートマシュマロを
リビングのテーブルに置く。
そして、スマホを取り出す。
「じゃあ、並んで撮りましょ♪」
手を引っ張られ、盛り付けられた皿の前に行く。
かよは自撮りモードにして、角度を調整する。
「はい、撮りますよ!」
「うん」
「先輩、もっと可愛らしく笑ってください!」
笑うって言われても……。
……せっかくだし、作ってるときの気持ちで、笑おう。
私は、かよの姿を思い浮かべながら、笑顔を作る。
「カシャ」と、シャッター音を模した音が流れる。
「先輩……。いい笑顔です……」
かよは、撮った写真に見とれている。
てっか、なぜ私を中心に見る!?
「は、恥ずかしいから!!」
「わかりました……。あとで堪能します……」
これは、かよが作った服を、私が着た時によく言う言葉。
いつも思う。
なぜ、「堪能」かと……。
自分の服が、上手くできてるか見てるのかな?
「じゃあ、ラッピングしちゃお。
夜も遅くなると、うちの親もうるさいし……」
「はい♪ じゃあ、きれいにラッピングしましょ♪」
ラッピングの作業を終えると、時計の針は9時を指していた。
「いけない! 親に怒られる!!」
「先輩のご両親、厳しいですもんね。
片づけはわたしがやるんで、早く帰られていいですよ♪」
「うん……。ごめんね。ありがとう!」
「では、また明日!」
「じゃあ、また明日ね!」
挨拶を交わし、私は家に帰った。
翌日の2月14日。
私は去年のような、恥をかくことなく、クラスや部活の
親しい人に配った。
少し多いかなと思ったけど、あっという間に無くなった。
……3つほど、気合の入ったチョコを差し出されたけど……。
丁重にお断りをした……。
……バスケで目立つからなのかな……。
女の子に告白されるなんて……。
部活も終わり、かよの待ついつもの所に行く。
あれ?
いない……。
慌てて、私のスマホを見る。
一応、私の高校では、スマホはOKになっている。
「校舎裏の、木の下で待ってます」
ショートメッセージが入っていた。
私はそれを見て、慌てて校舎裏に向かう。
かよ、どうしたんだろう?
すぐに、目的地に着く。
かよは……木にもたれかかって、待っていた。
「かよ?」
「あっ……。先輩……」
何だろう?
かよは少し緊張している。
「どうしたの?」
「これを……」
そう言うと、きれいにラッピングされた物を渡される。
「ん?」
「……!?」
かよは、顔を赤らめて、猛ダッシュで帰っていった……。
何だろう?
私は、突然の事で、少し固まっていたけど、
とりあえず、いただいたプレゼントはカバンに入れて、
家で開けてみることにした。
「……すごい……」
箱の中には、ベイクドチョコレートが詰まっていた。
これ…手間かかるだろうに……。
一つ、つまんでみると、とてもおいしい。
「さすが、かよ先生!」
思わず、そうつぶやいてしまう。
あれ?
手紙も添えられてる……。
何だろう?
私はもう一つ口に運び、咥えながら手紙を開く。
「!?」
思わず、ベイクドチョコレートを落としてしまった……。
中には、こう書かれてた。
「先輩の事が好きです。
ずっと前から……。
どうか、付き合ってください。
返事、お待ちしております」
な、なに~~!!!
いやさ、女の子からの告白は、慣れてるけどさ……。
よりによって、かよから!?
「う~ん……」
私は頭を抱える。
かよの告白かぁ……。
私も好きだけどさ……。
でも、付き合うとは別。
「そんな……」
昔の事を思い出す。
そういえば、ままごとでも、お父さん役だったっけ……。
かよはいつから、そんな感情を持ったのだろう……。
「……私、恋したことないから、わからないなぁ……」
でも、むげには断れない……。
このまま友達で……なんても、絶対に言えない……。
「う~ん……」
その日、私は眠れなかったのは、言うまでもない……。
寝不足のまま、1時限、2時限と、時間だけが過ぎてゆく。
答えはもう、出ている。
でも、本当にそれでいいのか、まだ迷う私が居る。
昼休み。
かよに、ショートメッセージを打つ。
「待ち合わせは、昨日と同じ場所で」
それだけ。
……。
でも、待たされる方も、辛いんだろうな……と。
そうして、今日最後のチャイムが鳴った。
「柊! 今日は動きが悪いぞ?」
「はい……」
「調子悪いのか?」
「はい……」
「……わかった、今日は休め」
「ありがとうございます……」
部活も身が入らなかった。
それを見極めた、顧問の先生に休みを言い渡される。
私は、そそくさと、帰宅の準備をして、例の待ち合わせ場所に
向かう。
「寒いな……」
かよも昨日はこうして、待ってたのだろうか?
なんだか、胸が痛い……。
かよにとっては、渾身の力を振り絞って、
私にチョコレートを……本命を手渡したのだろう。
今度は、私が勇気を振り絞る番。
私は、寒空の中、かよを待つ。
本当に……ここを通りかかる人、少ないんだな……。
まぁ……それは都合がいい。
「……先輩?」
「ひゃい!!」
……びっくりした……。
思わず、変な声出しちゃった……。
かよが、息を切らせながら、声をかけてきた。
……私を見つけて、走ってきたのかな?
「あっ……」
かよは、思い出したかのように、緊張で震えだす。
そりゃ……そうだよね……。
昨日、本命チョコ渡した相手だもん……。
返事、怖いよね?
「かよ……」
「先輩……」
くそぉ……。
なかなか、声が出ない……。
もう、決めてるのに……。
かよだって……かよだって……。
勇気を振り絞ったんだから……。
今度は私が……。
「ごめん……。私、好きって気持ちが、わからないんだ……」
「……」
涙ぐむ、かよ。
いや……、涙ぐまないで……。
断るわけじゃないんだから……。
「でも、かよだったら、良いなって思えたの」
「!?」
かよは、びっくりした様子で……。
そして、柔らかい笑みで、涙を流す……。
「先輩……」
「だから……その……。かよの気持ち、受け取りたいんだ……」
「はい……」
かよの目から、大きな涙が流れる。
「先輩……」
「なあに?」
「私たち、恋人同士って、ことでいいんですか?」
「うん、でも私、恋はよくわからないけど…」
そういうと、かよはいたずらな微笑みを返す。
「先輩、目を閉じてください」
「わかった……」
多分、口づけだろう……。
ファーストキスは、女の子でした……。
お父さん、お母さん、ごめんなさい……。
かよは、そっと私を抱き寄せて……。
背伸びをしているのだろうか?
私の口元に、唇を押し当てて……。
「!?」
し、舌!?
え!?
なに!?
ディープキス!?
かよの舌は、私の舌に絡みついて……。
抱き寄せ方も、少し乱暴に……。
片方の手は、私の後頭部に……。
な、なにこれ?
体が……電気が走ったように……。
そして……頭の中が熱く……。
とろけてしまいそうな……そんな……。
1分くらいだろうか……。
かよは口を離す。
そして……。
私の後頭部にあった手が、私の胸の真ん中あたりで、
のの字を書き始める。
「大好きよ……聡子……。
恋がわからないなら、私が教えてあげる……」
もう、私は何も考えられない……。
「もう、私が居ないとダメな身体に、しちゃうんだから……」
そう言うと、かよは私から離れる。
「じゃあ、聡子。一緒に帰りましょ♪」
満面の笑みで、かよは言う。
この時、私の中で、何かが花開いてしまった……。
--- 完 ---
いかがでしたでしょうか?
ちゃんと百合になってる?
なってるよね?( ;∀;)
暫く書いてなかったので、文章体裁は一旦落ちてるかもですが…。
よろしければ、気軽に感想お待ちしております♪
反響大きかったので、別作品執筆いたしました♪
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