世界シミュレーション仮説1
夜二時を回った研究室の中で、一人
圭一はディスプレイに映っている銅板を見つめていた。
この状況はホロノマイトの状況に似ている。
どんなに物質に力を掛けても、まるで元から力など始めから掛かってはいなかったかのかのように思えるほど固く、まったく変形することはないホロノマイト。
さらにディスプレイに顔を近づけ、凝視して考え込む。
「確かにこの状況は非常に似ている……がこれはあくまでシミュレータのバグ」
この計算結果は明らかに自分の設計したコード上のミスだ。
現実の世界ではこんなことは起こりえない。
「そらそうだよな、あり得ないよな」
最近自分は疲れているのかもしれない。
こんな非現実的な考えを真面目に考察している自分に呆れそうになる。
頭がくらくらする。とりあえずもう今日は帰ろう。
そう考えて、ディスプレイの電源を消そうとした時、
頭の中に閃光が走った。
もし仮にこのバグみたいな条件が現実世界にも反映されていたら?
自分の構築した理論が頭の中で飛び交う。
理論の中のいくつかの物理条件を確認する。物質の境界条件、接触条件、力の相関長……。
条件を書き換えた上で理論を再構築、計算していく。
右辺は0に収束、項はどんどん膨れ上がっていくがうまい具合にバニッシュしていく。
計算は終わり、理論は再構築された。
この間はまさしく一瞬であった。
この現実世界にバグがあると仮定した場合、再構築した自分の理論が示す物質。
それこそがホロノマイトだった。
なんてこった、信じられない。
しかし、不思議にも確かな確信があった。
世界の禁忌な真理に触れてしまった感覚。
そしてこの世界に存在するバグ。
これらから導かれる、突拍子で非現実で非自明な結論をおそるおそるに、しかし自身を持って口に出した。
「この現実世界はシミュレーションじゃないのか……?」
その直後、俺の目の前は真っ黒になった。
誰かの声が、聞こえる気がした。