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依頼

それほど長い構成にはならないと思います。おそらく2万字程度です。

よろしくお願いします。

「あの……娘を探しているんです」

 オレの事務所にやってきた女性が切実な顔をして言った。訪問者は二名、どうやら夫婦のようだ。

 依頼ということだったので、応接間に通してテーブルを挟み対面した。黒い皮張りのソファに夫婦は浅く腰を掛けた。磨かれた木製のテーブルにその顔が反射していて、不安げな表情が浮かび上がっている。

「本日はどうも」

 言って礼をした。挨拶は最小限でいい。どれだけ丁寧な前置きだろうと、性急せいきゅうな用事を抱えている客にはストレスにしかならないからだ。切羽せっぱまっていることはソファに掛けた腰が浅いことからうかがえた。さっさと要件を話したいに違いない。

 ――娘を探している、ということは迷子だろうか。

 それならすでに警察も頼っているだろう。

 だが一般に警察は腰が重い。迅速じんそくな対応が必要な時に探偵を頼る判断は正しい。

「娘さんは迷子なんですか?」

 そう尋ねると逡巡しゅんじゅんしてから頭を振った。オレは予想が外れて、首をかしげた。

「えぇ。迷子といえば迷子なのかもしれません――帰る場所がわからずに、ここにあり続けているのかも」

 ぼんやりとしていて要点の掴めない発言。かしげた首をさらにかしげる。このままいくとフクロウのように一回転しかねない。

「えぇっと、すいません、もう少しわかりやすくお願いできますか?」

「ああ、スミマセンね探偵さん。晶子あきこがわかりづらいことを話してしまって」

 晶子というのが依頼主の老婦の名前なのだろう。彼女の話をさえぎって、老父が継いだ。

「わかりやすく言いますとね、娘は数年前に死んだはずなんです」

 わかりやすく、と言われて安心したのが間違いだった。余計にこんがらがるような、ぶっとんだ話をされた。

「他界されているんですか。その娘さんを探していると?」

「ええ。変な話ですよね、ごめんなさい。私たちの頭がおかしくなったと思われても仕方ありません。……コチラを見てもらえますか?」

 そう言って地方新聞の切り抜きを老婦が取り出した。

 記事の日付を見ると、二十年前だった。そして、赤い蛍光ペンで記事の一つが囲まれていた。それが今回の事と関係あるのだろう。

 記事に目を通す。


 ――――『行方不明の少女、逢魔ヶ時おうまがときの神隠し』

 松村七海さん(11)の行方がわからなくなっている。××市の警察は捜索そうさくをしているが未だに見つかっていない。その日の夕方までは少女の姿を見た、と近隣住民の証言がある。下の写真に見覚えのある方は×××-○○○○に連絡を――――。


 記事を読み終えた。タイトルの神隠しというのが妙にひっかかるがそれは後回しにするべきだろう。

「行方不明の、娘さんを探している、ということですね」

 徐々に要点がつかめてきたので確認をする。

「いいえ。あり得ないんです、こんなことは」

「……どういうことですか」

「あれから二十年経っています。娘の姿を見て、私たちでさえ一目でわかるか自信はありません。――当時と『全く同じ姿』で娘を見かけたと友人から連絡があったんです」

「それは、えっと、失礼ですが友人の発言をうたぐるべきでは」

「何度も疑いました。気が違ったのではないかと思ったのです。それが先日になって、私と妻の二人で、娘の姿を見たんです!」

薄気味が悪くなってきた。こんなことがあり得るのだろうか。

 この案件はどうもマズい、と勘が告げる。確実にソッチの話だ。

「事情はわかりました。その娘さんを探せばいいんですね」

 これ以上の詮索せんさくは領分じゃない。困っている人を助けるのがオレの仕事なのだ。

「はい。あの、お願いできますか」

 この老夫婦がオレのところを選んでくれて良かった。力になれるかもしれない。

 依頼の内容をまとめて、料金の確認をした。調査にかかる費用は事前に負担してもらったが、今回は成功した場合に料金が加算されることになっている。

 そして依頼は承諾しょうだくされてその手続きを行った。

 最後、依頼者の老夫婦に、成功したときに連絡をすると伝え帰宅してもらった。

 ひさびさの依頼だ。ここで座っていても何も始まらない。

 こげ茶のコートを羽織り、道具の入ったカバンを肩に掛ける。

それから出かけようとしたが、足を止めて踵を返す。

 ……念のため《アレ》を持っていくべきだろう。

 奥へと戻り、金庫を開ける。

 その中にしまっていた、金色の短剣をカバンに潜ませた。

 刃渡りは三十センチ程度の諸刃もろは

 鋭利えいりなソレは人を殺せるだろう。もちろん扱いには気を付けなくてはならない。だがその短剣の特筆とくひつすべきはそこじゃない。鋭利なだけなら普通の包丁でいい。これには、魔の存在を斬る力があるのだ。

 以前、異界の鬼と交戦したときに、その協力者からゆずり受けたものだ。その"彼女"を思い出して、口元が緩んだ。元気にやっているだろうか。

「さて、行くか」

 今度は振り返らずにドアを開けて外へ出る。

 まだ日は高く、さきほど正午を過ぎたばかりだ。春のまだ少し冷たい空気が心地よい。

拝読、ありがとうございました。

今後も読んでいただけたら光栄です。

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