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6.作られているとかなんとか

連載再開であります。










 襲撃事件から二日後。昨日は一日泊まって行ったクレアと遊んでいたゾーイも、今日は病室でおとなしくしていた。リハビリの時間は決まっていて、まだ時間があるのだ。


「失礼するね」


 ノックをして入ってきたのは主治医のシャロンではなく、所長のトリシャだった。本を読んでいたゾーイは本を閉じた。


「所長。どうしたのですか。シャロンは?」

「今日はね。ちょっと私があなたに話があるんだ。だから、健診を変わってもらったんだよ」


 そう言いながらトリシャはテキパキと準備し、ゾーイの熱や脈拍などを計りだした。一通り調べて、問題ないと言う結果が出る、


「それでね。少し話したいことがあるんだ」


 そういってトリシャは丸椅子に腰かけた。ゾーイは「はあ」と少し気の抜けた返事をする。


「二日前の襲撃事件のことで、言っておきたいことがあるんだ」


 思わず身構える。結局、詳しいことは教えられなかったが、ゾーイはそれは自分がただの入院患者だから仕方がない、と割り切っていたのだ。それが一転、事情が分かるかもしれない、と期待が膨らむ。

 しかし、トリシャの最初の言葉は予想だにしないものだった。


「ゾーイ。君はなぜ自分が生まれたか知っているね?」


 その言葉に、ゾーイが全身をこわばらせた。その質問をすると言うことはつまり、トリシャはゾーイの出自を知っているのだ。


「まあ、君に話させるのに私のことを教えないのはフェアじゃないから、まず私について話そうか。まず、私は遺伝子工学者だ」


 ゾーイは目をしばたたかせた。


「外科医ではないんですか?」


 シャロンはそう言っていた気がしたのだが。トリシャは微苦笑を浮かべると、「うーん」と首をかしげた。

「外科医でもあるし、遺伝子工学者でもある。電子情報学者でもあるし、他にもいくつかの博士号を持ってるよ」

「ゆ、優秀なんですね」

 何とかそう絞り出した。トリシャの言葉が自慢と言うより、ただ事実を述べているだけで、嫉妬しようにも相手がすごすぎて嫉妬心すら起きないと言うのは初めてだ。これだけ優秀でしかも美人とくれば、彼女を捕まえたニールに尊敬の念を覚えるほどだ。


「うん。そう言う風に作られて・・・・いるから」


 はっとした。


「作られて?」


 ゾーイが聞き返すと、トリシャは微笑んだままうなずいた。


「そう。私はデザイナーベビー……つまり、受精卵の段階で遺伝子操作を受けて生まれた存在なんだよ」

「……」


 ゾーイは目を見開くしかなかった。デザイナーベビーが存在することは知っていたが、まさか目の前にいる人がそうだとは。だが、そう考えればトリシャに関するあらゆることに説明がつく。

 彼女の頭脳、身体能力、美貌に至るまで、全てそれこそ『計算され尽くした』ものなのだ。

「つまり、私は生まれる前から『こうあれ』と定められて生まれてきた。こういう点で、私と君は少し似ているかな」

 そう言ってトリシャは微笑んだが、ゾーイにはそう思えなかった。


「私の遺伝子を操作したのは母でね。母も父も、戦場で傷ついた兵士だった」


 トリシャの母の名はエラ・ハウエル。父親はジェレミア・マーシャル伯爵だった。トリシャの本名はローレン・パトリシア・ハウエル・フォーサイス・マーシャルになる。母親の旧姓と夫の姓を名乗っているのだ。彼女は女伯爵カウントレスなので、ニールの方が婿入りしたことになるらしい。

 エラは娘トリシャと同じく医者であり、遺伝子工学者だった。同時に魔導師でもあったので、戦争に動員されたのである。

 ジェレミア・マーシャル伯爵はもともと爵位を継ぐはずではなかった。次男だったのだ。そのため、彼は父親の手によって『強化人間』とされた。そして、彼も戦場に送られた。

 そこで二人は出会った。ほどなくして二人は愛し合い、エラは子を身ごもった。これがトリシャである。もっとも、トリシャ=パトリシアというのはもともと偽名であり、ローレンが本名になる。

 妊娠したエラだが、一つ問題があった。エラも、ジェレミアも傷つきすぎていた。受精卵の段階で、トリシャは遺伝子的に不完全でありこのままでは生まれることもできないかもしれない、という状態だったのだ。


 そこで、遺伝子工学者だったエラは自分の腹の子に遺伝子調整を行うことにした。


 そして、生まれたのがトリシャだ。生まれるために必要な遺伝子調整であったとはいえ、このため彼女はデザイナーベビーとしてこの世に生を受けることになったのだ。


「計算された容姿に優れた頭脳、身体能力。うらやましがられるがね、私には時間がない」


 自分で言うか、と言う感じなのだが、やはり事実を述べているだけなので嫌味な感じはしなかった。


「もともと、傷だらけの遺伝子をつなぎ合わせただけだ。私の寿命は良くて半世紀程度か。それに、生殖機能も弱くてね。私はこの世に生を受けたが、未来へとつなぐことができないんだよ」

「……」


 さらっと結構重要なことをしゃべってくれたが、トリシャの話はまだ止まらなかった。

「実はだね。この先が重要なのだけど」

「前置きが長かったですね」

 思わずゾーイはツッコミを入れてしまった。トリシャは気にした様子はなく、「ごめんねぇ」と笑った。


「ま、聞いてよ。リハビリの時間までには終わるからさ」


 そう言われて時計を見ると、リハビリの時間まであと一時間弱だ。今日は看護師ではなくシャロンが診察も兼ねてリハビリに付き合ってくれるはずだった。


「私の両親は私が幼いころに亡くなり、私は母方の叔母に引き取られた。ああ、ちなみに、父は亡くなる前、先に亡くなった兄から伯爵位を受け継いでいたから、私は齢五歳にしてマーシャル伯爵を名乗ることになったんだ」


 と言うことは、トリシャは五歳で両親と死に別れたのか。とりあえず相槌を打つ。


「十五歳になったころ、私は魔導師として徴兵された。この辺りの話はしたことがあったかな? そこで夫のニールと出会って、殴り合いの喧嘩をした末に三年後には結婚した」

「意味が分かりませんね」


 トリシャの人生がつっこみどころが多すぎて怖い。


「まあ、そうなんだけど。で、私とニールが属していた部隊だが……陸軍特別攻撃遊撃隊……つまり、現在の魔導師特殊部隊だった。そして、当時の指揮官はローランド中将……アルビオン王国第一王子ブランドン・ローランド殿下だった」

「……」

 ここにきてゾーイは、トリシャがこの先が重要、と言っていた理由がわかってきた気がした。


「ブランドン殿下はね、優秀だったよ。彼も魔導師を利用した一人にすぎないけど、彼も魔導師で、少なくとも私たちを人間と扱ってくれた。戦後世代の君たちも知ってるだろうけど、当時は即戦力となる魔導師をさらに強化しようっていう『強化人間計画』が最盛期でね。ニールもその被害者の一人だ」


 被害者なんだ、と思ったが確かにそうだろう。被験者、と言う言い方もできるが、それはなんとなく忌避感がある。

 強化人間はいつ体が崩壊するともわからない。その肉体の能力は極限まで高められているが、それはもろ刃の剣。無茶な『改造』を繰り返し、肉体がその能力について行けないのだ。


「私も言ってしまえば強化人間の一種だ。当時の遊撃隊はそんな強化人間ばかりでね」


 それでも特別攻撃遊撃隊はまだましだったのだ。指揮官がブランドン王子だったから。彼は確かに魔導師を利用したが、彼らを化け物扱いしたり、兵器として見ることはなかった。他の隊に配属された魔導師たちは、それこそ『兵器』のように『消費』されていったと言う。

 聞いてきて、気分が悪くなってきたゾーイだ。それを悟ったのだろう。トリシャが話しをまとめにかかった。


「戦争が終結に近づいたとき、ブランドン王子は戦死した」


 トリシャはその現場を見なかったのだと言う。ニールも見ていない。ただ、激戦の中でブランドン王子は亡くなった。他の多数の魔導師たちと共に、血の海に沈んでいたのだそうだ。

 彼は魔導師を利用したが、魔導師と共に戦って死んだのだ。

 それが、トリシャたちが彼をしたった要因なのだろう。


「さて。彼には一人娘がいたね。母親は早くに亡くなり、その子はアレキサンダー王に養育されることになった」


 急に話が飛んだ気がして、ゾーイは目をしばたたかせた。トリシャはにっこりとほほ笑む。


「第一王子の一人娘だ。何かと利用されるのが眼に見えている。そこで、二歳だったその子を親戚筋の女性……まあ、当時は少女と言った方がいいかもしれないけど、その人が引きとると言いだした」

「……」

「だが、その女性はまだ十八歳の独身。心もとないとして王は拒否した。すると、女性はなら夫婦ならいいんだろ、とばかりに同僚と婚姻を結んだ」

「……」


 まさか、とは思うが、年齢も条件もあう。そして、最強の二人だ。彼らのもとでなら、間違いなくその子は守られる。アレキサンダー王もそう思ったに違いない。

「結局、夫婦にブランドン王子の子が引き取られた。それがクレアだ」

「……つまり、クレアちゃんは私の姪だった……と言うことですね」

「いとこ、と言う方が自然な気がするけど?」

 トリシャはそう言ったが、ゾーイは首を左右に振った。遺伝子上は、叔母と姪であっている。

「所長ははじめからすべてご存じだったんですね」

「クレアは私と夫によって守られている。君も同じだよ、ゾーイ。君は軍に入ることでニールに守られ、そして、この研究所に入院することで私に護られているんだ」

 なんというか、ひどく不遜で押し付けがましい言葉だった。だが、事実である。ゾーイは馬鹿ではない。何となく、察していた。


 どこに行っても、ゾーイは誰かの庇護下にある、と言うことだった。


「……わかってはいました。私は、アレキサンダー王の第一王女カサンドラのクローンですから」


 ゾーイの言葉に、トリシャは真顔のまま目を細めた。










ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


デザイナーベビーだとかクローンだとか、よくわからないですね……。ちなみに要らない裏設定はもっと一杯あります。


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