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サイキックダンジョン探索  作者: サンバルカン
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2

 探索者の朝は早い。大体朝の七時ごろから遅くとも九時ぐらいまでにはダンジョンに入り、午後の五時くらいにダンジョンから出るらしい。飲み水などを考えるとあまり長時間潜っても割に合わないらしい。無限袋と呼ばれる無制限にいろいろとモノが入る上に重くない袋を持っていれば話は別だが、そんなの持ってるのは大金持ちか一部の幸運な探索者くらいだと聞く。


 要するに、リュックを背負ってのそのそと昼時からダンジョンに入るようなやつはいぶかしげな眼でジロジロと見られたってしょうがないということだ。


 豊島区役所こと池袋ダンジョンは地下迷宮型と呼ばれるダンジョンである。ダンジョンに入るとまずは石の煉瓦で覆われた床や壁の迷路があり、その階層のどこかにある階段を下に降りる(・・・・・)と次の階層へと進める。十六階おきにボスがいる構造となっているオーソドックスなダンジョンである。

池袋ダンジョンは迷路の作りなどが凝っていないが、近くの新宿ダンジョンは迷路の作りが複雑怪奇で必ず地図を買うか新宿ダンジョンに詳しい人などを連れていないと迷子になって餓死か自殺する羽目になると聞く。


 気を引き締めてダンジョンの入り口に向かう。区役所はロ型に中央が開けていて、その中心にダンジョンがある。ダンジョンに入るには身分証明書を通して改札を抜ける必要があり、改札を抜けるには六ヶ月以内に更新されている身分証明書が必要だ。俺は昨日更新したので余裕でパスできた。


 気を引き締める。今日は二階か三階くらいまで行ったら引き返そう。まずはダンジョンの具合を知るのが重要だろう。入り口をくぐると外の音が一切遮断された。一気に音が無くなったことでダンジョンに入ったのだなという実感を得る。


 通路の幅は5mほどで、高さも同じくらいだろうか。ダンジョン全体がうっすらと発行しているので暗いということはないが曲がり角などが多いので見通しは悪い。そして何より壁も床も天井も灰色の石の煉瓦で覆われた通路の圧迫感が大きい。


 手のひらに小さな炎を発生させる。いつでも投擲できるように準備しながら歩く。自分の能力で発生させたモノは自身とその装備品に影響しないというのは能力者の常識だ。もちろん副次的に発生したモノの影響は受ける。炎などなら全身に纏ったとしても服が燃えることはないし、やけどすることもない。


 ゆっくりと歩いていると小さく甲高い音が聞こえた。キーキーという何かの鳴き声は目の前の丁字路を右に曲がった方から聞こえてくるようだった。そっと鏡を取り出して反射で左側を確認すると何もいなかったので次は時間をかけて右側を観察する。そこにいたのは体長1mほどの芋虫だった。


 巨大な虫のなんと気持ち悪いことだろうか。小さく動く口元や足、脈動する全身などもうこれ以上は見たくない。体表が緑色の芋虫はこちらに気付いた様子もなく、変わらずに鳴きながらグネグネと頭を左右に振っていた。つぶつぶとした足が見えてしまい余計に気持ち悪い。


 炎を手に溜めて、ある程度の大きさになると思い切って投擲した。投げた炎は俺の意思で動くようで、見事に芋虫の顔面にぶち当たり炎上した。


 キュイアー! とかそんな感じの声を出すと芋虫はゴロンゴロンと地面を転がり火を消そうとしているようだったので追加で火を投擲すると数十秒で動きが鈍くなり、ピクリとも動かなくなると体の端から石の煉瓦に沈んでいき、その場には焦げ跡と小さな白っぽい黄色がかった石が残された。


 周りに他のモンスターがいないことを確認してからゆっくり近づいてその石を拾い上げる。


 エネルギーだ。ポケットに入れて割ってしまうと大変なのであらかじめ用意しておいた容器に入れてその場を去る。

案外、あっけなかった。もっと身を削るような激しい戦いでもあるのかと思っていたが特に戦ったという実感もない。最初の方の階層という理由もあるかもしれないがそれにしたって楽だった。こんなのでいいのだろうか? 


 探索者のセオリーなどはネットで学んだに過ぎないので勝手がわからないがひとまずこの調子で行ってみて詰まったらやり方を変えてみようと考えるようにした。


 そんな風にして進んでいくと普通に三階まで来てしまった。スマホを確認してもまだダンジョンに入って一時間と経っていない。迷路にも迷わないというのはなぜだろうか。それに聴覚や視覚も心なしかよくなったような気もする。気のせいかもしれないけれど。


 あまりにあっけないのでいっそどこまで進めるか気になってくる。まだ時間あるし四時くらいまで行けるとこまで行ってみよう


 三時間ほど経過した。俺はボスの前まで来てしまっていた。途中で投げた炎の形を変化させれることに気が付いてからモンスターの殲滅速度が上がった様な気がする。それよりなにより迷うことがなかったのが時間がかかっていない一番の理由なのだろうか。


 時間をかけずにあっさりとボス前まで来てしまったがボスも楽勝だなんて思わないほうがいい。ネットでは初ボスでの死亡率は80%以上だと書いてあった。死んだって蘇生されるのは知っているがだからって死ぬのは嫌だ。何回も死ねば自然と慣れるとかいう意見もあったができれば死にたくないものである。


 池袋ダンジョンの最初のボスはフクロウだ。イケフクロウ先生と呼ばれるこいつは鳥系統のモンスターとの戦い方を学ぶのに持って来いなのでそのために訪れる探索者達がいつの間にか先生と敬称をつけて呼ぶようにしたらしい。正式名称はストーンオウル。もっと下の階層に行くとゴールデンオウルとかジーバーンオウルとかいうフクロウも出てくるらしい。


 鳥系のモンスターの厄介な点は飛ぶことだろう。剣使いなどの近接系能力者だとヒットアンドアウェイ戦法に苦戦するに違いないし、弓矢とかを使うにしたって当てるのは難しい。俺の炎はある程度操れるのでそれらに比べれば難易度は低いはずだが鳥のような自由な軌道を描くものに当てることができるだろうか。


「あ、炎を網状にすればいいじゃん」


 気が付けばあとは早いもので炎を網のようにする練習を少ししてからボス部屋に入った。


 中は広い。今までの通路も広く感じたがここは小さな体育館ほどの広さがある。そしてその中央には台座があり、体長2mほどの石でできたフクロウがいた。フクロウが目をつぶっていたので炎を生成していざ投げようとしたその瞬間、カッと目を見開いたフクロウは大きく翼を左右に広げながら鳴いた。


 大音量に耳を塞ぎたくなるが我慢して真っ直ぐに炎を投擲する。フクロウは飛び上がってからこちらに突っ込みつつ炎の横をすり抜けて体当たりをしようとしているが、炎を網状に変化させるとさすがに抜けられないと思ったのか飛び上がった。


 炎を追わせるとそれは予想していなかったようで、何とか避けようとしたようだったが右足に網が引っ掛かった。

引っかかった炎を更に変化させてフクロウの全身を絡め取るように炎を展開していく。羽ばたくことができなくなったフクロウは上空から落下して最初停まっていた台座に激突した。固い物同士がぶつかった鈍い音が響く。


 フクロウが動かないので追加で炎を投擲する。三回ほど炎を投げるとフクロウは地面に沈んでいき、やがてそこにはエネルギーだけが残った。


 あれ? と思うも遅く、そこには起動したポータルがあった。ここから直接ダンジョンの入り口に帰れる。


 ずいぶんとあっさりしている。もっとなんかいろいろ苦労するんじゃないのか?


 疑問に思うこともいくつかあったがまあそういうものなんだろうなと考えてひとまず外に出ることにした。


 午後の四時半より少し前という時間帯も相まってか探索者をちらほらと見かけるもののそこまで多くはない。エネルギーの換金所も空いていて、並ばなくても換金ができる。


 エネルギーの換金は簡単で、上部に穴の開いた機械に取ってきたエネルギーをジャラジャラと流し込むと機械が勝手にエネルギーを換金してくれる。あとは身分証明書をカードリーダーに入れれば電子マネーに入金される。俺の今日の稼ぎは一万七千五百円だった。イケフクロウ先生がかなりおいしい。こんな簡単に大金稼げていいの? と思うが実際はここから税金として25%引かれるので実際手にするのは一万三千百二十五円だ。それでも時給換算でだいたい三千三百円か。うまいな。


 そりゃネットでも探索者おすすめされるはずだ。ただまあこんな体力使う仕事がいつまでできるのかっていう問題もあるから生涯の仕事にするんだったら他の物を探さなくちゃならんな。


 換金を終えて俺は臨時収入を抱えて早足で帰路についた。そろそろ他の探索者も増えてきたことと、自分のかっこうが彼らに比べてひどく浮いているようにしか見えなかったからだ。


 探索者はダンジョン限定で武器の携帯を認められている。となると大体どんな能力であろうと小型の刃物でも何でも持っている。剣使いや斧使いなんかは言わずもがなである。そして彼らの格好はなんというかファンタジーなのだ。鎧や甲冑なんてものを着ているのもいれば、とんがり帽子をかぶったローブ姿の者もいる。


 ファンタジーの世界の住民そのまんまな人たちだ。そこへきて俺はジーパンにジャンバーである。顔を隠すためにつば付きの帽子を深めにかぶっている現代っ子である。ファンタジーに現代の格好はあまりに馴染まない。ジャージとかよりはましだと思いたいがどっこいどっこいかもしれない。


 なんとなく居心地が悪いので池袋の虎の穴に寄ってから帰ることにした。

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