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サイキックダンジョン探索  作者: サンバルカン
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プロローグ

習作

 能力をゲットしてしまった。ゲットしたということに気が付くのに一時間くらいかかるほど馴染んでいたので気が付いたときにはなんだ夢かと本気で考えたくらい唐突かつ自然だった。


 大学二年の春休みのことである。試験が終わり一週間が経過していた。大学の春休みは大体二か月ほどある。夏休みより長いのだ。八週間の内の一週間が過ぎたと考えると一気に経過したような気になるが、二か月ある内の一週間と考えると途端にあまり時間が過ぎていないように感じるのは言葉のマジックだろうか。単に俺の感性がアレなだけかもしれないが、午前十時に起床して布団から出たくないとだらだら考えるにはもってこいの議題であったので五分くらいボケッとしていた。


とは言え、さすがにそんなことで時間をつぶすのももったいない気がして、ちょうどよく眠気もなくなったのでシャワーを浴びることにする。二月の寒さはまだ冬を感じさせ、服を脱ぐことに抵抗があったが布団より暖かいお湯を思えば我慢が出来た。着ていたスウェットを洗濯機にぶち込み、浴室のドアを開ける。都内の安いアパートにありがちなユニットバスも二年暮らせば慣れるものである。今ではトイレの掃除が楽だとすら思うようになっていた。


シャワーカーテンを引きノズルをひねる。出始めは冷たいので何秒か体に当てないように放水し、湯気を確認してから体に当てる。暖かい。布団の中の温かさが優しい熱であるならばシャワーの暖かさは激しい熱だ。体に付着している汚れとともに眠気や体の凝りをその激流で落としてくれる。頭と体を洗い終え、バスタオルで体を拭く。使用済みのバスタオルを洗濯機送りにして、洗濯機を起動。液体洗剤と液体柔軟剤を適当に入れて蓋を閉めるとバチャバチャと水が入る音が聞こえる。それを聞きながらドライヤーで髪を乾かし、十分に水気がなくなったのを確認してさっさと部屋着に着替える。全裸では寒い。


 今日の朝ごはんは昨日作り置いたカレーにしよう。冷蔵庫から鍋を取出し、火にかける。焦げ付かないように適度にかき回しつつ、軽く煮立つまで温めてからご飯と一緒に皿に盛り付ける。野菜は買い込んでおいた野菜ジュースで摂取するので気にしない。


 パソコンを起動させて、ネットに繋ぐ。ご飯を食べながらネットなんてマナーが悪いと言われるかもしれないが、まあ一人暮らしでそんなものという感じでネットサーフィンしながら飯を食べていたその時である。


 あれ? と思ったのだ。まず左手はカレーの入った皿を持っている。右手はスプーンだ。普通に座布団の上に座っている。目の前にはパソコン。マウスを動かそうと思えば、動かせるし、クリックもできる。


 俺はどうやってマウスを動かしているんだ? 思い返してみると、今日起きてからいくつかのことにそういったどうやって動かしているかわからない現象があることに思い当たる。はてとマウスを動かし、持ち上げる。空中に浮かぶマウス。ああこれは夢なんだなと思い、じゃあこのままでいようと思って数秒。いやこれってホントに夢かと疑って数秒。ひとまずカレーを置いて、口の中のものも飲み込んで、手の甲をつねるまでに十数秒。


 三十秒ほどの時間をかけて、ようやく俺はこれが夢じゃなくて現実で、何らかの能力をゲットしてしまったことに気が付いたのだった。


 手早くご飯を食べ終え、果たしてどんな能力が手に入ったのかを確かめる作業に移る。物を動かすことができるということは念動力だろうか。しかし炎を出せることを考えると火炎能力な気もする。


 というか、能力がこの歳で目覚めるというのも不思議な話だ。通常、能力は中学卒業か遅くとも高校一年までに目覚めるもので高校卒業以降に能力に目覚めたといった話を聞いたことがない。


 いろいろと考える必要もあるが何らかの能力に目覚めた以上は役所に行って登録をしないといけない。面倒だがこれをやっておかないと職質などを受けた時に違法能力者として逮捕されてしまう。この歳まで能力の登録がされていないことをどう説明つけるか考えると頭が痛いが今後生きていくことを考えるとどうせやらなくてはならない。


 面倒さが極まる事態に陥ってしまったなあなんて暗い気分になるが何とか心を奮い立たせて部屋着から外出用の服に着替えなおす。ジーパンに長袖のシャツを着てその上からジャンバーを着る。財布とスマホをジーパンのポケットに押し込んで運動靴を履く。


乾いた空気が刺すように吹きすさび、都内ではそうそうないが雪でも降るんじゃないかと思えるような空模様だ。スマホにイヤホンを差し込もうとするが手が震えて差し込めないほど寒い。吐く息の白さがその証拠で、今日は寒いから諦めて家に帰ろうかななんて考えながら足は自然と駅へと向かった。


途中にあるコンビニでお金を引き出すついでにジュースを買ってそのまま駅に行く。ホームで待っていると電車がやってきて、扉が開く。いつものように乗り込もうとするが足を止める。

危ない。危うく、非能力者車両に乗り込むところだった。そういえば能力者は能力者専用車両への乗車が義務付けられているということをとっさに思い出せてよかった。


 能力者が現れてからまだ数十年。一度、非能力者車両に乗り込んでしまった能力者を見たことがあるがひどいものだった。周りからは悲鳴を上げられ、次の駅で降りた瞬間に連行される様はなんというかそこまでするかと思わないでもなかったが、刃物持った奴が乗り込んでるのだししょうがない。


 今から能力者車両のほうに行っても到着より発車のほうが早いだろうし次の電車を待つことにした。

しかし困った。ぼんやりと能力者になったということを感じていたが実生活にいろいろと支障が出てくるのはあまり考えていなかった。能力者になったということは電車だけではなくほかにもいろいろと制限がある。

能力者お断りという飲食店などもあると聞くし、これからはそういうのにも気を付けなくてはならない。そういうのも気をつけなくちゃなあと考えているうちに電車が来た。最寄りの役所は池袋なので乗車時間は5分くらいだ。能力者専用車両には自分以外誰もいない。それもそうだろう。能力者は早朝から夕方くらいに出かけるらしいし。


 これからは自分もその能力者の範疇に入るのだなと考えると気持ちが沈んだ。


 豊島区役所に行くには東池袋が近い。駅から出てすぐにそれは目につく。


 黒く長い四角柱は雲の上まで伸びている。その表面には解明されていない文字が刻まれており、どういった作用か出現してから数十年経過した今でも汚れひとつない。ダンジョンと呼ばれるそれはいかなる手段をもってしても破壊不可能なのだ。


 能力者と、ダンジョンと呼ばれるあの塔。それが現れたのは同時期である。

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