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暁の龍  作者: さらねずみ
轟雷の章
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探索開始

【前回のあらすじ】

現実味のない夜を過ごし、朝を迎えたコーネリア。

昨日の出来事は夢だったかと疑うも、秘密の書庫から持ち出した絵本は手元にしっかりとあった。

細かな違和感も微睡むような朝から、二人の秘密の冒険はまた始まる。

 あの後メイドのマチルデに朝食の支度ができたと呼ばれ、アランとコーネリアは食堂へと向かった。重厚な木で作られた扉が開かれると、その向こうには五人分の朝食が整えられた長机があった。シャルルとシャルロットは既に食卓に腰掛けている。ロータスとまた何やら話し込んでいたラシードはアランとコーネリアを一瞥すると、会話を切り上げて席に着いた。アランとコーネリアもそれに倣って席に着く。


「本日はラシード様に、グリーゼ区内の視察をお願いしております。して、アラン様。ラシード様が貴方に同行を、と仰っておられますが。」

「別任務ではあるが、向かう先は同じだろう。どうだ。」

「承りました。」


 アランは表情を変えることなく、軽く頭を下げて承諾の意を示す。おそらくラシードの気遣いなのだろう。本来、アランは首都に住んでいるのだから、研修以外で辺境に赴くことは滅多にない、とは本人の談だが、彼らの様子を見るにアランはラシードにすら目的を話してはいないらしい。

 それはそうと、アランとラシード、二人とも仕事のためにここに来ているのだから当たり前なのだが、完全に仕事の空気だ。部外者は入れないね、それにしても腹減ったな、と思いながら、コーネリアは机の上のカトラリーを眺めた。ちなみに彼女には、何本もあるスプーンの使い方は分からない。


「それでは、よろしくお願いいたします。」

「よろしくたのむぞ、アルファードきょう!…と、えっと…。」

「クラウフォードきょう。」

「そう、クラウフォードきょう!」


 そう答えた双子は、長いテーブルの奥の方に向かいあって座っていた。そしてシャルルの後ろには家令のロータス、シャルロットの後ろにはメイドのマチルデが控えている。貴族の子息と令嬢なのだから座る位置は正しいのだが、一番の上席がぽっかりと空いているのがコーネリアは気になった。そうと決めつけるのは早いかもしれないが、今のところこの屋敷には使用人はいても大人がいない。その姿の見えない大人が座る席があの場所なのだろうか。


「それでは、本日も一日、神龍様のお恵みと光に感謝を。」



 朝食後、ひとまず集合した騎士たちと旅人。古めかしい屋敷の門の前 で、ひとまずコーネリアはアランとラシードの出勤を見送る形を取った。


「ラシードさん、ありがとう!助かったよ。」

「物はついでだ。どちらにせよ、区内は見て回る気だったのだろう?」

「うん。結構足頼りの任務だからね。」


 にっかりと笑ってラシードに礼を言うアランを、コーネリアがちょいちょいと手招きする。ごめんちょっと待ってて、とラシードに一言断ったアランは、小走りにコーネリアの元へ駆け寄るとその耳をコーネリアの口元に寄せた。人気のある場所では、彼女らの話はほとんどこの形で行われる。同行者がいる旅にもだいぶ慣れてきたな、とアランは他人事のように思うのだった。


「そんじゃ、あたしは屋敷の中から探るとするよ。」

「シャルル様の本、気になるの?」

「まあね。あたしは読めるか怪しいけど、お貴族サマなら子供でも読めるでしょ。」


 本当はそれよりも気になるものがあったが、コーネリアは曖昧に頷いた。あの書庫の存在を秘密にしておくべきなのか、それともアランに打ち明けるべきなのか、迷わないわけではなかった。だが互いに、特に隠し事は無しと契りを交わしたわけでもないのだから、別に構わないだろう。未だ憶測の域を出ない話でもあるのだから。


「じゃ、コーネリアは中から、俺は外から。よろしくね。」

「任しときな。」


 二人がそれぞれ単独で行動することは、今までの旅の中ではほとんどなかった。だが幻惑の森でのミステリーを潜り抜けてきた二人の間には、絆と言うには世俗っぽすぎる繋がり――有り体に言ってしまえば、一種の信頼があった。だからこそ、この時点では、互いに互いを心配することはひとまず無かったのだ。


「アラン、そろそろ行くぞ。」

「はーーい!じゃ、俺行くね。」

「あいよ、行ってらっしゃい。」


 ラシードの声がかかり、アランはコーネリアに背を向けて小走りに駆けていった。ゆるゆると手を振りながら、コーネリアはその広い背中を見送る。ラシードに追いついたアランは、大きく手を振ってこちらに笑いかけていた。


「ったく、朝から元気だねぇ……。」


 それを見たコーネリアは、珍しく皮肉っぽくなく、そう呟いたのだった。

お読みいただきありがとうございます。

今回は、アランがラシードの調査に同行する前段階の話でした。

次のお話で詳しく書きますが、ラシードは「トゥバン」と呼ばれる、区長のお目付け役としての任務を神龍様からの名で負って、グリーゼ区に来ています。アランの夢はシエルの騎士になって神龍様にお仕えすることなので、ラシードの姿は目標でもあるわけですね。もしかしたら社会科見学のような気持ちになっているかもしれません。

次回はラシードとアランが、区内を回るお話になります。

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