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暁の龍  作者: さらねずみ
序章
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遠い昔のおまじない

「ねぇお兄ちゃん、本読んで!」


ぱたぱたと小さな足音が、背後から聞こえる。案の定その足音の正体は、その小さな体にはまだまだ大きい古ぼけた本を抱えた妹だった。

満面の笑みを浮かべた妹は、いつものように本を差し出してお決まりの台詞を口にする。いつからだったか、それはもうすっかり日課になってしまっていた。


「いいよ、またこの本かぁ…兄ちゃんもう本見なくても読めるようになっちゃったよ」

「お兄ちゃんすごい!…でも本読んでるお兄ちゃんが好きだから、本見ながら読んで」


妹が毎日毎日飽きずに持ってくるものだから、元より諳んじていた内容に加え隅から隅まで暗記してしまった。どうしてこのような本にまだ幼い彼女が興味を持ったのかはわからない。倉掃除をしていて偶然見つけたこれを見た瞬間ひどく気に入ったらしく、それからは毎晩寝る前にこれを読んで欲しいとせがんでくるのだ。

絵本ならば分かるが、この本は歴史書だ。内容は確かに魅力的かもしれないが、堅苦しい文章の羅列は小さい子供が好むような代物ではなさそうなのに。

それでも妹の笑顔に負けて、結局は毎日読んでやる。今日も結局そうなる。


「はいはい、分かった分かった…本当にこの本が好きだね、アランは」

「だってすてきなんだもの!お兄ちゃんはこんなすごい人のところでおしごとしてるんでしょ?」

「僕も会ったことはないけれどね。美麗な方だと噂に聞いているよ」


この歳から本に興味を示すとは、将来有望だ――そんなことを、自分が幼い頃にも言われたような記憶がある。やはり兄妹は、互いに似るものなのだろうか。そんな他愛のないことを考え考え、待ちきれず僕の膝の上に腰掛けた妹の頭を撫でてやる。


「……まあ、そんなことはいいか。それじゃ、始まり始まり」


「『暁の龍』」



*



この世界を創りし神は、全ての始まりである世界樹から滴り落ちた雫を集め、自らの血肉を分け与えた八人の家臣に託した。


 一人は雫より炎を。

 一人は水を。

 一人は風を。

 一人は氷を。

 一人は大地を。

 一人は雷を。

 一人は光を。

そして、一人は闇を創り出した。

清らかな雫はその姿を秘宝へと変えられ、邪な考えを持つ者の手に渡らぬよう、異空間へと封印された。


年月は流れ、その忠義なる八人の家臣は穏やかな死を迎えたという。今となってはその出来事は、伝承でしか知り得ることはできないほど昔のものだ。



八つの世界樹の雫を再び全て集めた暁には、朝霧の衣を纏いし救世主が現れるであろう。

流れる闇色の髪に、緋色の瞳を持つという救世主は、過去と現在、はたまた未来までもを見通す力を持ち、清らなる世に現れた刹那に世界を平穏で満たすという。

だが一方で、汚れたる世に放たれた刹那には、世界を一瞬にして無に返すという。



人の子よ、暁の龍を決して喚び出してはならぬ。

喚び出せば最後、この世界は――。



*



『その言葉は決して、唱えてはならない』


『その言葉は決して、記してはならない』


『その言葉は決して、知られてはならない』



『遠い昔の、おまじないさ』

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