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上谷太刀、編入試験の話をする

太刀が世界最高峰の魔法学園に編入して、二週間が過ぎた。

二週間が過ぎて、魔法を学んで、太刀が気づいたこと。

それは自分と魔法との相性が絶望的に悪いということだった。

未だ太刀は何の魔法も会得していなかった。

周りの生徒と比べてみても、全く魔法が使用できないのは太刀のみであった。

魔法についての知識は確かに上昇している。

ただ使い方についてはさっぱりわからない。

休み時間にメアリやニックにコツを教えてもらうのだが、一向に使える気配はない。

「こう、ガーってやって、ずばーっとするんすよ!細かい概念なんて気にしなくても、何となくで使えるっすよ」

と、ニックは言うのであるが、使えない。

「こう、あまり言いたくは無いのだけれど、太刀君。よく、編入試験に合格できたわね。ここの入学試験は難しいので有名だから、編入試験も中々だったのではないの?」

言いたくは無いと言いつつも、厳しいことを難なく言ってのけるメアリであった。

「筆記は全くわからなかったな。ただほとんど選択問題だったので、おそらく勘でなんとかなったのであろう」

「勘って……」

仮にも世界最高峰の魔法学園の編入試験を勘でなんとかしたと、言ってのける太刀にメアリは唖然とする。

「こう見えても昔から勘は鋭いほうでな。情報が少ない時にはよく当てにされたものだ」

「凄え!流石兄貴だぜ!」

「何が凄いのよ。確かな知識が無ければ、試験なんて意味が無いでしょう」

「あ?兄貴にケチつける気か?」

「否。この場合はメアリのほうの言い分が正しいだろう。確かに知識を測る試験で勘に頼っていては意味が無いな。しかしな、メアリよ。筆記試験は自信が無い我でも、実技試験に関しては文句なしに合格であったと思うぞ」

「いやいや。おかしいでしょ?魔法が使えない太刀君がどうして実技試験に合格したのよ?」

メアリが受けた入学試験にも、実技試験というものは確かに存在した。

自分がどの程度魔法を使えるか測る試験。

知識ではなく、実際にどの程度魔法が扱えるかが問われる試験だ。

前提条件、魔法を使えなければ試験を受ける段階に立っているとも言えない。

太刀は正にその段階なのである。

その全く魔法が使えない太刀がどのようにして実技試験を合格したというのか?

「合格で当然だと思うが?何せ試験官を一撃のもとに気絶させたのだからな。満点に間違いないだろう?」

「……ちょっと待ちなさい。何故に試験官を気絶させたのよ?」

「?実技試験とはそういうものだろう?試験官と戦い、勝てば合格。負ければ不合格」

「いつから実技試験はそんな野蛮なものになったのよ!?」

メアリの受けた実技試験はあくまでも魔法の能力を測るものであり、対戦形式ではなかった。

試験官の前で魔法を披露し、試験官に採点してもらう。

それがメアリの考えていた実技試験であった。

太刀の言っていたそれとは百八十度違う。

「ということは、兄貴は少なくともここの教員よりはできるってわけですね?やっぱり俺、兄貴に教えを請いたいっすよ!」

「否、その時の相手はここの教員ではなかった。確か将軍お抱えの『魔法騎士』とかいう偉そうな奴だった」

「嘘!『魔法騎士』って、この国の最高戦力じゃない!それを一撃って……化物?」

「よく言われるが、人間だ」

「す、凄え!兄貴!一生ついていきます」

「賞賛はいいからだな……魔法使用のコツを教えてもらいたい」

「そうはいいますけど、俺は感覚で使ってますからね。メアリ、お前なんかコツみてえのあるか?」

「うーん。精霊を感じること、かな?目には見えないけれど、精霊の存在を意識すると、意識しない時よりは魔法の威力が上がっているような気がするわ。自然の、精霊の力を意識する。それが魔法使用の第一歩ではないかしら?」

「精霊……自然の力か。己の力を引き出す『気』とは真逆だな。故に習得しづらいというのは、あるのかもしれないな」

「……太刀君ってさ、何で魔法を習いに来たの?」

「あぁ!どういう意味だ、メアリ!才能がねえ兄貴は魔法を習っちゃいけねえってか!?」

「いや、そうじゃなくてね。太刀君には『気』の力があるじゃない。しかもかなりの使い手。『魔法騎士』を倒したのが本当なら接近戦では敵無しでしょ?それほどの力を有しているのに、どうして魔法を学びたがるのかなぁ、と思って」

「うむ、それは……」

太刀が語ろうとした瞬間だった。

休み時間終了の鐘が鳴ったのは。

「休み時間は終わりか。まあ、我がここに来た理由は面白い話でもないからな。別に進んで話すものでもないだろう」

「ちぇ、兄貴の話を聞きたかったのにな。また放課後来ます」

「来なくてもいいですよ。私、ニックさんが来ると、何故かイライラするんで」

「悪いが、素行は悪くても成績は俺のほうが優秀だ。メアリさんよ。非凡な人間より優秀な人間が教えたほうが効率が良いだろう?」

「その優秀な人間が『感覚で魔法を使え』ですか?どこが効率的に教えていられるのやら」

「うるせえな!お前だって、兄貴に魔法を使わせてやることが出来ねえじゃねえか!」

「そ、それでも私のほうが理論的ですぅ!」

「それなら、その後立派な理論で兄貴に魔法を使わせて見やがれってんだ!」

あの一件以来、メアリとニックの仲は常にこんな感じであった。

メアリはニックに恐怖しなくなったのだが、その反面顔を合わすと口喧嘩ばかりするのである。

ニックは口は悪く粗暴であるが、どんなに言われてもメアリには一切手をあげなかった。

一般人には手をあげるつもりは無いのであろうと、太刀は考察する。

しかしそんなニックでも、元来彼は気が長いほうではないのだから、いつそれが破られてしまうのではないかと、若干心配な太刀であった。

「ふむ。二人で話しているところ悪いのだが。我は放課後予定がある」

「え?マジっすか!?珍しいっすね?兄貴が放課後に予定があるって?」

「あぁ、文をもらってな」

「それって。もしかしてラブレター!?」

メアリが今まで見たことが無い、輝いた顔で太刀に近づいた。

「ね、ね、その手紙。見せてくれないかしら?」

「やめろよ、メアリ。人のラブレターを覗き見るなんて趣味が悪いぜ」

「勝手に恋文と決めつけるな。相手は男だと聞いている。渡してきた相手は女だったが」

「お、男同士!?BL!?BLなのかしら!!み、見せてよ!じゅるり」

「お前、兄貴で変な妄想してるんじゃねえ!」

「はぁ、見せるのは構わんが。面白いものでもないぞ」

そう言って、鞄から件の手紙を取り出し、太刀はメアリにそれを渡した。

「面白いか面白くないかは私が決めるから、大丈夫」

「メアリ……お前のキャラ、大丈夫か?」

珍しく心配するニックの言葉も、メアリには届いていないようだった。

あんなに楽しそうにしていたメアリの表情が、手紙を読んだ瞬間に一変。凍り付いてしまった。

「に、ニックどうしよう?」

「あぁ?何固まってるんだ?そんな大層な相手からの手紙だったのかよ?」

「四天王」

「あ?」

「四天王最高知力セオフィラスさんからだ。この手紙。ど、どうしよう?」

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