シャルル魔法学園四天王登場
幼き頃に抱いた、小さな夢。
それが限りなく実現が不可能に近いことに気づいたとき、
私は更に努力を重ねた。
諦めず、努力し、夢が叶うように努めた。
しかし、努力を重ねれば重ねるほど、夢が実現不可能であることを気づかされる。
それでも、
私は努力を怠らなかった。
怠った瞬間に、私の夢は死ぬと思ったからだ。
努力し、努力し、努力して……
自分がいくら努力したところで、夢など叶わないのに……
私はただ前に進んだ。
結果、私は孤独になり、夢だけが残った。
一週間が始まる最初の日の放課後、シャルル魔法学園の四天王と呼ばれる四人はある一室に集る。
他の教室とは比べ物にならないほど豪華な装飾が施されている部屋。
学園で優秀な四人の生徒にのみ与えられた一室。椅子や机、全てのものが通常のものとはグレードが違う。
一般の生徒、研究者……どころか教員ですら入ることが許されない、特別な部屋。
そこに四人の生徒が集っていた。
四人がそこに集う理由。
それは、これから一週間の各々がどのような行動を取るべきか話し合う為である。
四天王の使用する魔法は一般生徒のそれとは一線を画す。
故にその使い方を間違えぬよう、他の四天王に自分の行動を伝え、それが正しい行動であるか判断する。
というのが建前であって、現在の四天王は殆どの者が他の者の意見など聞かず、この集まりは形骸化しているのが現状である。
それでも、この集まりが最低限ではあるが四天王の行動を各々抑止しているのも事実である。
「さて、今週も一週間の各々の予定を語ろうか。僕はいつも通り部活に勤しむことにするよ。何か用があるならば、君たちも僕の部活に訪れてくれて構わないよ」
「セオフィラスさんに用などないのでご心配なく。セオフィラスさんはいつになったら、あの道楽的部活をおやめになるんですかね?部活動と報告すれば問題ないわけではないのですよ?あまり我々の名に泥を塗るような真似は控えていただきたいのです」
「カミラは相も変わらず厳しい意見を出すね。OK、わかったよ。カミラの忠告は心に留めておくよ。僕が間違った行動をとらないようにね。ところでそういうカミラの予定はどうなのかな?」
「私はいつもと変わりませんわ。この学園の生徒らしく魔法研究に勤しみます」
「真面目だね。カミラは」
「あなたが不真面目なだけですわ。セオフィラスさん」
成績が優秀な生徒は、研究員と共に魔法の研究をするものもいる。
カミラもそのうちの一人で、これまでいくつかの新たな魔法を作り出してきた。
対照的に、セオフィラスは魔法の研究などそっちのけで毎日部活動をしていた。
更にはその部活動のためならば授業でさえ休んでみせる熱の入れようである。
それがカミラは気に入らなかった。
そして魔法に真面目に取り組んでいないセオフィラスが四天王一の実力を持っていることが、世の中の理不尽さが気に入らなかった。
故に、セオフィラスが口を開けばカミラが突っかかるというのは、この集まりの定番なのだった。
「まあ僕が不真面目なのはいつものことであるから、置いておいて。ケネス君はどうだい?今週は何をする?」
「お、俺?お、俺は、いつもどお…り」
ケネスと呼ばれた男は、自信なさそうに最後のほうは尻切れになりながらなんとかそう言った。
「いつもどおりということは、花を育てるのかな?」
「う、うん。『木』の魔法の研究も…かね…て」
ケネスは決して誰とも目を合わせない。目を合わせられない。
四天王一のネガティブ思考。否、学園一なのかもしれない。
それがケネスという人物であった。
「いいね。『木』の魔法。僕も色々な魔法の属性を極めたけれど、『木』だけはダメなんだよね。植物は好きなほうだと思うのだけれど、いやはや、世の中はなかなかうまくいかないものだよね」
「う、うん」
「さて、最後にアリシア君だが……」
セオフィラスは意見を聞いていない最後の四天王、アリシアに話を振った。
「……zzz」
「おやすみのようだね」
アリシアは四天王で唯一、この場で眠っていた。
机に頭を突っ伏して、微かな寝息を立てていた。
「相変わらず、アリシア君は自由だね。まあ問題ないか。彼女も最近は落ち着いてきたしね」
「問題ない?この四人の中で一番問題を起こしそうな人物が問題ないというのは、随分おかしいことを言いますわね、セオフィラスさんは。アリシアさんにもう一度『騎士試験』をされては、この集まりの意味はありませんわよ。アリシアさんだけ特別扱いされるつもりですか?」
「そういうつもりはなかったんだけどね。そう映ってしまったかな?それではアリシア君を起こすけれど、その前に一つ。アリシア君には耳に入れさせたくなくて、君たちの耳に入れておいて欲しい話があってね。いいかな?」
セオフィラスは小声で話し始めた。
「二週間前にこの学園に他国からの編入生が来たのはご存知かな?」
「編入生?いえ。聞いたこともありませんわ。そもそもこのシャルル魔法学園に編入制度などあったかしら?」
「いい着眼点だね。編入制度自体は存在する。存在はするけれど、このシャルル魔法学園。1800年初めの開校から今まで約90年間、一人も編入が認められたことはなかったんだ。これは僕が独自に調べたから間違いない」
「セオフィラスさんが道楽で調べたのならば、確かに間違いはないでしょう。けれど、どうして編入制度はあるのに一人の編入生もいなかったのかしら?」
「学園の真意はわからないけれど、理由はわかるよ。編入試験の難易度が高すぎること。入学試験とは比べ物にならないほどの難解な筆記試験。そして受からせる気など更々無い実技試験。筆記試験の問題はこの学園の研究者レベルの知識が求められる問題ばかりだった。魔法学園に入る前の人間が、いや入った人間でもこれを解くのは難しいと思うよ」
「それじゃあ編入するなと言っているようなものではないかしら?そこまで編入試験を難しくする理由は何?」
「だから、学園の真意はわからない。ただ筆記試験よりももっとおかしいのは実技試験だ。実技試験の内容は単純明快。試験官と勝負して、それに打ち勝つこと。ただし試験官が尋常じゃない。将軍お抱えの『魔法騎士』が実技試験の試験官だ。」
『魔法騎士』……後方で戦う魔法使いとは対照的に、前線で戦うように特化された騎士。
後方から威力の高い魔法を繰り出す魔法使いを守るのが彼らの役目であるが、それ故に単体の戦闘力では他の追従を許さない。
しかもそれが将軍お抱えの『魔法騎士』となれば国のトップクラスの使い手である。
「話を聞けば聞くほどおかしい編入試験ね。でも今問題なのはその異常な編入試験ではなく、それに合格した人物がいる。ということかしら?」
「そうだね。カミラは話が早くて助かるよ。編入者の名前は上谷太刀。筆記試験でほぼ満点に近い点を叩き出し、『魔法騎士』を全治三週間の怪我を負わせたらしい」
「確かにその情報が正しいのであれば、脅威でありますが。真偽は確かなのかしら、その情報は?そもそもその情報を私たちに展開してどうするつもり?」
「忠告、かな?情報の真偽はまだ確実ではないけれど、とりあえずは不用意に近づかないほうがいいと思ってね。それと戦闘力だけをみれば僕ら以上の人間がいることも覚えておいてもらいたい」
「セオフィラスさんのご忠告、確かに受けましたが、結局のところあなたが言いたいことはそうではないでしょう?はっきり言ってもらっても構わないのよ。『自分が完璧に調べるまで編入生に手を出すな』とね」
カミラはニヤリと笑みを浮かべた。
それとは対照的にセオフィラスは初めてバツの悪そうな顔を浮かべた。
「悪いね。僕の道楽につき合わせて。それとくれぐれもこの話はアリシア君には内緒にしておいてほしい。理由は言わなくてもわかるだろう?」
「どうして?」
「どうしてって、だって彼女は……」
「どうして私にはその話を内緒にするのかしら?」
いつの間にか目を覚ましていたアリシアは、眠そうな目を擦りながら、しかし的確にセオフィラスを糾弾した。




