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上谷太刀、自分の能力を説明する

放課後、教室にメアリの声が響いた。

「正気なの!太刀君?」

「気が違っているように見えるか?」

太刀がどのような回答を持ってニックに会いに行くのか、気になったメアリは思い切って太刀に聞いたところ、決闘を受けるという回答が返ってきたのだった。

「見えるわよ!私、言いましたよね?ニック・ブロードはこの魔法学園で四天王に次ぐ武闘派でその戦闘センスは既に軍部さえ目に掛けているって」

「それだ。我はそれについて一つの疑問があるのだが」

「何?」

「四天王って何だ?」

「今はそれどころじゃないでしょう!何か凄い強い人達だって思って!」

「ふむ。わかった」

「ニック・ブロードはこの学園でも有名な使い手なの!数々の逸話が残っているほど。幾つか説明しましょうか」

「いや、時間がないから必要ない」

「うぐ。そもそも、太刀君はどのぐらい強いのかしら?魔法修練度は?ニック・ブロードの魔法修練度より上?」

「何だ、その魔法修練度とは?」

メアリはガクッと肩を落とした。

「魔法修練度も知らないなんて……それでよくニック・ブロードと決闘しようと思ったわね」

「それは誉めているのか?」

「誉めてません!」

「ふむ。そうか。しかし、その魔法修練度とかいうのを知らなくても問題などあるまい。我は我の力を出すのみ、だ」

「だから、その力を現したのが魔法修練度なの」

「ほう」

「いい?魔法というのは基本的に精霊の力を借りて超常的なことを起こすもの。四大精霊の属性。これぐらいは知ってるわよね?」

「『火』、『水』、『土』……それと『風』だったか?」

「正解。火のサラマンダー。水のウンディーネ。土のノーム。風のシルフ。これが四大精霊。そしてそれぞれの属性魔法がどれだけ扱えるかが魔法修練度になるわけ」

「成る程。そんなに便利な指標があるわけか。ちなみにメアリの魔法修練度はどのような具合になっているのだ?」

「私は平均的な真面目な生徒だから……一年目だし、ほとんどがCレベル」

「Cレベル?我には評価の基準もわからんな」

「ごめん。Cは平均的な評価。Sランクが一番上でA・B・C・D・Eと続いて最低のF評価になるのよ。私は『水』の属性以外は全てCレベル。『水』だけが少し優秀でBレベルなの」

「平均より少し優秀というのがメアリの評価になるわけか。人をランクで格付けするなど、面白いことをするな。それで件のニックの評価をメアリは知っているのか?いや、知っているから先程から口うるさく突っかかってくるわけか」

太刀のその物言いに、「誰の為に口うるさくなっているんだ」とカチンときたメアリだったが、そこは我慢して続けた。

「ニック・ブロードは一点突破型。『風』のみがSランクでそれ以外は全てFランクと聞いているわ。『風』以外の魔法はほとんど使用できない。でもその『風』の魔法が脅威であるが故、皆に恐れられているの」

「『風』の魔法か。昼に取り巻きの二人を吹っ飛ばしていたのも、その魔法によるものなのか?」

「私には、何がおきたかほとんどわからなかったけれど、おそらくそうだと思う。それで太刀君の、魔法修練度は?と聞いても、魔法修練度の意味さえ知らなかったかのだから、わかるわけないわね」

「いや、我は自分の魔法修練度はわかっているぞ」

「え?」

「先程メアリが言ったではないか。ほとんど使用できない、最低ランクはFであると。我は全く魔法が使用できない。よって我の魔法修練度はオールFだ」

何故か誇るように言ってのける太刀に、メアリは続く言葉を見つけられなかった。


メアリは自分を平凡な人間であると捉えている。

平均的な容姿に、平均的な成績。

性格も平均的、少しおせっかいではあるけれど。

平均的な、平凡な人間であるから、不良のニック・ブロードのような人間とは出来るだけ避けて通ってきた。

先程だって、そうだった。

ニックと太刀が話しているとき、メアリは一言も口を挟むことは出来なかった。

話には聞いていた、ニック・ブロード。

このシャルル魔法学園の不良の頂点とも言える存在。

実際のニック・ブロードはメアリの想像とは異なる人物であった。全然不良っぽくない、むしろ怖いもの知らずな少年のようにも感じた。

それでも……それでもメアリは口を挟むことが出来なかった。

自分は平凡な人間であるから。

特異な存在のニック・ブロードに目を付けられたくなかったから。

彼女は何も言えなかった。

しかし、心の内では思っていた。

編入初日の太刀に突っかかってくる不良のニック。

おせっかいなメアリは、第三者から見れば理不尽なニックの物言いが許せなかったのだった。

ニック・ブロードに一言物申したい。

その一念でメアリは、ニックとの決闘に向かう太刀についていくことにしたのだった。

平均的な容姿に、平均的な成績のメアリ。

性格も平均的……だが平均より少しだけ勇気があり、そして少しおせっかいだった。

結論から言うと、メアリは結局ニック・ブロードに物申すことが出来なかった。

昼間と同様、ニックの威圧感に完璧に威圧してしまった。

しかし、その少しだけの勇気が、彼女を太刀とニックの決闘の唯一の観測者にしたのだった。


メアリの案内があったおかげで、太刀は特に迷うことなく西館の屋上にたどり着くことが出来た。

迷うことはなかったが、屋上には既にニックの姿がそこにはあった。

「よう。遅かったじゃねえか。まさか逃げ出したかと思ったぜ」

「ここに向かう前に少し注意されてな。少々時間をとられてしまった。悪かったな、遅れて」

「なぁに、構いやしねぇ。こちとら強い奴と戦えればそれでいいんだ。少し遅れたぐらいで小言を言うほど俺は小さい男じゃねえぜ」

「ほう。お前はあの女教師よりも大物のようだ」

未だに朝の遅刻の説教を根に持っている太刀であった。

「ところで、お前は一人なのだな。ニック・ブロードよ」

「昼間に言っただろう。一対一の決闘だとよ。昼間にいたあいつらは保険医に治させた後、巻き上げた金品を返させに行った。足りねえ分は働いてでも返すように言っておいた。あれは俺の過ちだ。俺の弟分なのに、あいつらの動きに全く気がつかなかった。すまねえ」

昼間と同じように頭を深く下げるニック。

自分のことではないのに、自分のことのように謝罪するニック。

その様子に太刀は素直に感心した。

部下の失態を、上に立つものが背負う。

言うのは簡単だが、それを行うのは大変難しい。

それをニックは難なくやってみせた。

「将の才能があるな。惜しむならば、部下には恵まれないことか」

「あ?何か言ったか?」

「気にするな。我の独り言だ」

「ところで、手前は一人じゃねえんだな。上谷太刀よ」

「メアリのことか?彼女のことなら気にすることはない。ただの観戦者だ。そちらの約束通り一対一でやろう」

ニック・ブロードに一言物申してやろうと息巻いていたメアリであったが、ニックを前にして完全に萎縮してしまっていた。

自分のことを戦闘狂だと言ったニック。

おそらく数多くの修羅場を潜ってきたのだろう。纏っている雰囲気が普通の人間とは異なっていた。

もうメアリは一言も口を開くことが出来ない。

それを察してか太刀はそう言って、メアリへの注目を逸らしたのであった。

「さて、上谷太刀!早速やるか!俺たちは語り合う為にここに来たわけじゃねえんだからな!」

「いや。その前に一つよいか?ニック・ブロードよ」

「何だ!こっちはそんな長く待てねえぞ!コラ!うずうずしてんだ!手前とやりたくてな!」

「急ぐな。今のままではフェアではない。実はお前の得意な魔法が『風』であるという情報を我は入手してしまってな」

「確かに!俺の魔法は『風』のみ!得意な『風』の魔法は空気を圧縮した珠を作り出すこと!昼間も見ただろ!それで俺の弟分が吹っ飛ぶところをな!それが何だっていうんだ!」

「ネタバレが過ぎるぞ、ニック・ブロードよ。貴様の力の情報がそこまで公開されておきながら、我の能力が貴様に公開されていないのは公平性に欠けるだろう?だから、教えてやろう。我の能力を」

「必要ないね!」

「そう言うな。貴様が必要ないと言っても、我の心がそれを許さない。決闘であるならば、最初に互いが立つ位置は公平でなければならない。我がそうでなければ気が済まない」

「成る程!一理あるかもな!いいぜ。ただし早くしろ!こちとら気は長くないんでな!」

能力?

何を言っているんだとメアリは思った。

彼は言ったはずだ。全ての属性の魔法が使えないと。確かについさっきそれを彼の口から聞いたのだ。

それならば太刀はニックと違い普通の人間であるはずだ。

しかし、疑問も残る。

普通の人間ならば、どうやって太刀はそれなりの使い手であるガインを倒すことが出来たのか?と。

もしかするとニックは、その太刀の不明な能力に感づいて決闘を申し込んだのだろうか?

「この国は『魔法』という技術が栄えたようだが、我の国では『気』という技術が栄えてな。我はその『気』の使い手だ。『気』の効力は主に身体能力の強化。接近戦ならば、無敵だぞ。我は」

『気』?

それはメアリにとっては、それこそ御伽噺のような話だった。

魔法とは違い、『気』という存在は公に公開されていない。

実しやかに囁かれる、オカルトに近い技術。

それが『気』であった。

それを太刀は使用できる?

嘘くさいと、メアリは思った。

しかし、ニックは違うようだった。

満面な笑みで、宝物を見つけた少年のような顔を彼はしていた。

「『気』か!話には聞いたことはあるが、見るのは初めてだ!面白え!俺も接近戦には自信がある!勝負だ!」

ニックの回りに透明な球体がいくつも浮かんだ。

目を凝らさなければわからなく、それほど景色に溶け込んでいた。

太刀はそれに気がついた。

そして決闘の始まりを意識した。

「やる気が上がったな。いいことだ。モチベーションというものは高ければ高いほど行動にいい影響が出る。さあ、かかってくるがよい。先手は貴様にくれてやる」

宣言通り、先に動いたのはニックであった。


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