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上谷太刀、初めての魔法

「いやあ、『気』っていうのは本当に凄いものなんだね。僕感動しちゃったよ。あれ、僕らにも使えるのかな?アリシア君やニック君が使えたら、それこそ最強じゃないか?あ、いや、太刀君が弱いという意味じゃないよ、今のは。ただ魔法と『気』を融合できたら、それは爆発的な力を生みうる可能性があるということを言いたいわけで……うん?もしかするとこの学園が太刀君を招き入れたのはそういうことなんじゃないかい。実は生徒じゃなくて、教員のつもりで太刀君を招きいれたとか。これはちょっと調べる価値があるんじゃないかな?ここ数年、魔法は進歩を見せていないからね。『気』という存在が新たな風を吹かせると学園は考えたとか?太刀君どうなんだい?編入時に言われなかったかい?教壇に立って欲しいとか?その言動が確認取れれば、学園の意図は丸わかりだ。この学園はやはり停滞を気にしていたと。これは新聞部に高く売れるネタになるね。ああ、新聞部と言えば、太刀君の情報は一応止めておいたよ。ガイン君やニック君を倒したという噂は消すことは出来なかったけれど、『気』を使うことや、アリシア君に勝利したことは誰の耳にもはいることはないだろう。『気』という存在を世間に公表するにはまだ早いし、それにアリシア君が破れたという情報は四天王の沽券に関わる問題。カミラ君が真っ先に気にするような問題だよね。あ、いまのはくれぐれもカミラ君に言わないでくれよ、アリシア君。僕は何故だかあの子に目を付けられているからね。まったく、昔はもっと可愛げがあったんだよ、カミラ君だって。あっ、こう言うとカミラ君が今では可愛げがないようだけど、そんなことは全然ないんだよ、ニック君。カミラ君はこの間さ、男子生徒にラブレターを貰ってあたふたしながら僕に相談してきたんだ。赤くなって『どうしよう、どうしよう』ってね。あれはなかなか可愛かったけれど、その後が怖かった。僕が一言『決めるのはカミラ君自身だろう?僕には関係ない』って言ったらさ、なんか鬼のような表情をしはじめてさ。あれが女性のヒステリックという奴なのかな?どうなんだいメアリ君?おお、そうだったカミラ君の幼い頃の話を忘れていたね。僕とカミラ君は幼馴染なんだけれど、カミラ君は幼い頃蝶々が成長すると妖精になると思っていたんだ。だから自由研究の宿題が出た時にカミラ君は蝶々を捕まえてきて『妖精観察日記』をつけはじめたんだけれど、勿論蝶々が妖精になるはずなどなく、蝶々はやがて死んでしまった。そうしたらカミラ君はえらく泣いてね、『妖精さんが死んじゃったぁ』って。だからそんなカミラ君に僕は言ってやったさ。『妖精さんは僕やカミラ君の心の中で生き続けてるよ』ってね。当時なんか流行ってた言葉を言ってみたくて言っただけで、意味はよくわからなかったんだけれど、今考えても意味がわからない言葉だよね。でも説得力がある言葉だった。だからなのかな?カミラ君はどういうわけか泣き止んで……」

「糞うるせえです。ご主人様」

「ソフィア……何か口が悪くなってないかい?」

「気のせいでしょう。それよりその口のうるささは勉強の邪魔ですよ、ご主人様」

「おっと、それは失敬」

放課後、件の六人は人のいない教室に集り、魔法の勉強をみていた。

一人は平凡だが教え方がなかなかうまい、説明好きのメアリ。

一人は戦闘狂だが、風の魔法の技術は随一のニック。

一人は謎だらけのメイドで、とにかくお茶を入れるのがうまいソフィア。

一人は学園最高の知能をもつが、うるさく意図せず勉強の邪魔をするセオフィラス。

そして

「いい?いまから太刀の身体に魔力を流すわ。それが感じ取れれば周囲の魔力を感じ取れる……かもしれないわ」

「かもしれないとは何だ?そこは断言してくれないのか?」

「いえ、だって。私も初めてよ。ここまで魔法の才能がない人間を見るのは」

「確かに我は魔法の才能がないのかもしれないな」

「かもしれないじゃなくて、才能がないで断言してもいいと思うわ」

「そこは断言するのか……我は魔法の才能がないかもしれないが、そんな人間があのような素晴らしい魔法が使えるようになれば、それはとても痛快なことではないか?」

そう、太刀がアリシアに願ったのは『魔法を我に教えてくれ』というものだった。

太刀はアリシアの『トールハンマー』を直に喰らい、自分が求めている魔法がそれと一致した。

一致したのならば後はそれを使えるものに教えを請うのみ。

自国の強化の為、アリシアを自国招き入れることも考えたが、彼のここに来た当初の目的は自身がそれを学び、それを自国で教えるというものなので、当初の予定を遂行することにしたのであった。

「魔力流したわよ。どう?感じる?」

「うーむ。何か感じるような……」

「それじゃあ、周囲に漂う魔力はどう?」

「うーむ。何か感じるような……」

「本当でしょうね?じゃあそれを利用して魔法を使用してみなさい。簡単な魔法でいいから」

「うむ。任せておれ」

太刀は何となく感じる力を利用して、何となく教えられたとおりに魔法を使用してみた。

ぼっ。

太刀の掌に小さな火が発生した。

「おお出たぞ。やったぞ!アリシア!」

「しょぼ」

「しょぼいとは何だ!我の初の魔法であるのに」

「やったじゃねえか!兄貴!兄貴はやる男だと俺は思っていたぜ!」

「ありがとう、ニック」

「おめでとう。太刀君。ようやく一歩目が踏み出せたね」

「ありがとう、メアリ。コツさえ掴めれば後は簡単だな。これから我はアリシア並の魔法使いになってやる」

「いや、何こんなしょぼい火が出せたくらいでいい気になってるのよ。こんな魔法ならば誰だって四歳ぐらいで出せるわよ」

「四歳といえば僕が四歳の時の話だけどね、僕の町にサーカス団がやってきてだね、その中に魔法生物というものがあったんだ。知っているかい?魔法生物。魔力が高い場所で生まれた突然変異の生き物のことなんだけれど、まあその存在は『気』と同じかそれ以上の御伽噺だった。その御伽噺の存在が僕の町に来るっていうんだから、僕は気が気じゃなかった。四歳の僕にとっては魔法生物という未知の存在がとても魅力的であり、そして恐怖の存在であった。象なんか寄せ付けない巨大なねずみだとか、逆に昆虫サイズの虎だとか、それは僕の想像をはるかに超えた脅威の生き物だ。まあそれはポスターに描かれたもので実際はそんなものはいなかったのだけれど、とにかく脅威だった。だから僕はだね……」

「糞うるせえです。この空間」

そんな風に騒がしく、彼らの放課後は過ぎていった。

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