上谷太刀、倶楽部活動の説明を受ける
学園最優秀のセオフィラスの前で、すっかり萎縮して棒人間になってしまったメアリ。
そんなメアリが可哀想なので、ここでメアリの名前を入れておくことにする。
メアリは知っていた。というかシャルル魔法学園の生徒ならば誰でも知っている。
セオフィラスはシャルル魔法学園で最も優秀であり、最高の知力を持っている。
だがそれは宝の持ち腐れなのだ。
彼がその優秀なる力を向ける矛先……それが探偵倶楽部なのである。
探偵倶楽部はセオフィラスが立ち上げた倶楽部活動であるが、その部員はわずかに二人。
セオフィラスとそのメイドのソフィアのみ。
本来ならば倶楽部活動と認められないほどの低人数。
活動内容が全く不明な倶楽部活動。
セオフィラスという優秀人物だからこそ許されているという暴挙。
いくら優秀な人物でも一つぐらい欠点はある。
セオフィラスは探偵倶楽部がそれなのであった。
そういうわけで、探偵倶楽部はシャルル魔法学園の生徒から生暖かい目で見られていた。
「探偵倶楽部?何だ、それは?」
「この世の不可思議を解き明かし、また困って人を助けようという素晴らしい志を持った者たちの活動さ」
どの口で嘯くのだと、メアリは思った。
探偵倶楽部が魔術の研究などで輝かしい功績を残したという話は聞かないし、困った人を助けたという話も聞いたことが無かった。
そもそも困った人がこの探偵倶楽部を訪れるのだろうか?
少なくともメアリの周りには、ここを訪れた人間というのを聞いたことが無い。
「太刀君。やめたほうがいいよ。この探偵倶楽部、あまりいい噂聞かないし」
「いい噂を聞かない、か。それなら悪い噂はあるのか?」
「いえ、悪い噂も聞かないけれど……」
良い噂も悪い噂も聞かない。
シャルル魔法学園の最優秀人物が立ち上げた部活なのに、大した噂がない。
まるで空気のような倶楽部活動。
「そもそも倶楽部という概念が我はよくわからん。学び舎に入ったのはこれが初めてだからな。なんとなくニュアンスは伝わるのだがな」
「倶楽部というのは……授業以外で生徒がする活動、かな?主な活動時間は放課後ね。運動したい人は運動系の部活に入るし、音楽が好きな人は吹奏楽部に入ったりするの。勿論部活に入らないのも自由よ」
「やりたいことを共有するコミュニティのようなものか?」
「そうそう。そんな感じ」
「なれば、ニックは戦闘部か?」
「そんな部活は無いわ」
「あったら絶対に入ってたけどな!そうだ!兄貴、一緒に作りましょうか!戦闘部!」
「待て待て。今は探偵倶楽部に入るか入らないかの話が先だろう。ちなみに我はどちらでもよい。ただ現段階では入るメリットが見出せないとだけ言っておこう」
「俺は兄貴の決定に従うぜ。別に他に所属している部活もねえしな」
「私は他に所属している部活があるし……それに」
ちらっとメアリはセオフィラスの顔を窺う。
にこやかな笑顔でそれに答えるセオフィラス。
学園最優秀の唯一の欠点。
その倶楽部活動に参加するということ。
それは他の生徒から生暖かい目で見られるということである。
メアリは探偵倶楽部への参加を拒否したいのだが、その反面太刀の動向が気になるのも事実。
というか、太刀達が探偵倶楽部に参加した場合のメンバーをメアリは想像した。
セオフィラス……学園最優秀だが、探偵倶楽部に尽力する変人。
太刀……ちょっとおかしい異国人。
ニック……戦闘狂。
ソフィア……メイド。
…………常識人が圧倒的に足りなかった。
二人が入るなら、私が何とかしなければならない。
とメアリはお節介精神を働かせていた。
「メアリ君、だったかな?もう片方の部活動は気にしなくても平気だよ。僕の権限で掛け持ちを許可しよう。勿論、もう片方の部活動に支障がでるような活動も強制しない。ただこの倶楽部活動は僕の道楽だ。碌でもない道楽だ。それに付き合ってもらうのだから、僕もそれ相応の対価を君たちに与えよう」
「対価?別に金には困っておらんが?」
「僕が提供するのは僕の魔法の知識さ。太刀君、君はどうやら魔法の習得に四苦八苦しているようだね。僕がその習得を手伝うと言ったら、君はこの倶楽部活動に参加してくれるかい?」
「ふむ……」
魔法の習得……それは上谷太刀が最優先で達成すべき問題である。
学園の最優秀人物がそれを手伝ってくれるという条件。
太刀にとっては何よりも至上の条件である。
真っ先に首を縦に振りたいが、しかし確認しておかなければならないことがある。
「腑に落ちんな」
「何がだい?」
「この探偵倶楽部はずっと二人で成り立ってきたんだろう?我の見立てが正しいのであれば、探偵倶楽部はお前たち二人で『完成』している。我の魔法の習得を手伝うというデメリットを負ってまで、我達を引き入れたい理由はなんだ?」
「えっと……」
「ちなみに知っているか?ニックは人の目を見れば嘘をついているかどうかがわかるそうだぞ。適当な言い訳はやめておくことだな」
「……やれやれ。それは困ったことだね。では包み隠さず、その理由を話すとしようか」
「その必要は無いわ」
扉が開いたのと、その言葉が響いたのは同時であった。
部屋にいなかった第六の人物。
「私がそいつにちょっかいを出すのを止めたかったのでしょ?でもね、セオフィラス。あなた程度の抑止力では私は止まらないわよ」
第六の人物の名は、アリシア。
シャルル魔法学園四天王の最大の問題児であった。




