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拾遺集  作者: 風羽洸海
その他SS
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今日の師長さん

自サイトの企画で、日記の日付にあわせて拍手御礼にUPしていたネタ。

新人治安局員による師長さん観察日記です。

サイトでは内容に応じて食べ物画像なども色々くっつけていました。



【ある新人治安局員による師長さん観察日記】


4月2日

 今日、はじめて師長さんを見た。

 噂通り、神秘的できれいな青色の髪だった。

 ついでに顔も噂通りで、地味だった。残念。


 頭に桜の花がついてたのはわざとなのか偶然なのか悩んだ。

 教えたほうが良かったかな。



4月5日

 食堂で昼ご飯を食べてるところを目撃。

 ほかの人のメニューとは違う焼き魚が見えた。

 なんか珍しい、知らない魚だった。

 師長さん用の特別メニューなのかな。

 見た目はちょっと変だけど、すごく美味しそうな匂いだった。

 いいなぁ。



4月9日

 この前の焼き魚について食堂の調理師さんに聞いてみたら、

 ここだけの話とか言って教えてくれた。

 何かの事故があって師長さんが処理に行ったんだけど、

 “アレコレ”あって“あっち”の魚が“どうにか”なって、

 結局どうしようもないから、ただ殺すよりは、って師長さんが

 責任持って食べることにしたそうな。


 ……アレコレって なんだろう。

 ていうか 魚一匹ぐらいどうにか出来なかったんだろうか。

 毒のある魚とか強烈不味い魚とかだったらどうしたんだろう。

 師長さんも大変だな。



4月12日

 昼休みに屋上の木陰で本を読んでいるのをよく見かけるけど、

 今日は珍しく雑誌みたいだった。

 気になってさりげなく通りすがりに見てみたら、

 どうも転職情報誌みたいだった。

 ……まさかね?



4月15日

 『狭間』でミスして流されかけたところを助けられた。

 うあぁぁ恥ずかしい、もう一生頭が上がらないー!

 やっぱり師長さんは凄い人なんだなぁ。

 本当に救世主に見えた。っていうか、狭間で見た時は実際、

 なんか、顔まで違ってたような気もするけど。


 ちょっと いや、かなり 格好良かった。かも。



4月17日


 エレベーターのドアに挟まれてた。



4月20日

 朝、門の近くで満開の八重桜をうっとり見上げていた。

 昼休み、売店で目撃。

 今日のおやつは 桜餅(道明寺)。


 わかりやすい人だ。

 とか言いつつ、つられて買ってしまった。



4月23日

 ここ数日、師長さんを見ないなぁと思っていたら、病休らしい。

 たまたま副師長のところに行く用事があったので、ついでに

 師長さんどうされたんですか、大丈夫ですか、って尋ねたら


 「不貞寝してるだけだろう」 って


 副師長  冗談 ですよね……?



4月26日

 久しぶりに廊下で師長さんに会った。

 大丈夫ですか、あんまり無理しないで下さいね、って声かけたら

 なんだろう 嬉しそうな、困ったような、ちょっと泣きそうな

 複雑な顔をして、ありがとうございます、って笑ってくれた。

 師長さんも色々あるみたいだ。

 転職情報誌を見るぐらいには。


 ……なんだか先行き不安になってきた。



4月28日

 位相保存とか流路調整とかの実技研修だった。

 お手本を見せてくれるっていうから期待したら、

 本部長とか教官だけで、師長さんは見てるだけだった。


 せっかくいらっしゃるんだから師長さんの見たいですって言ったら、

 あの人のは独特だから初心者は真似出来ないし、しない方がいい、って。

 初心者って……一応これでも皆、養成学校を卒業して資格持ってるのに。

 ともかく、それでもいいから見たいって食い下がったら、

 師長さんが、いいですよって笑って流路調整を見せてくれた。


 本当に、何やったのか分からなかった。


 あの人が陣に立った途端に、『力』の方が勝手に動いたみたいだった。

 まるで生き物みたいに、それもよく慣れたペットみたいに、

 すんなり自然におさめてしまって、あっと言う間だった。

 これが才能の差ってことかぁ……。


 皆さんもそのうち出来るようになると思いますよ、って言ったけど


 絶 対   無 理。


 少しは才能を自覚して物言って欲しいよ落ち込むからホント。



4月30日

 今日で研修もおしまい。

 辞令はまだだけど、よその支局に行ったらもう、

 師長さんとか偉い人たちには会うことはないんだろうな。

 と思っていたら、最後の挨拶で師長さんが言った。


 あなたたちがどこに行っても、何かあったらすぐ助けに行きます。

 そのための師長ですから。


 ――って。

 嬉しいけど、なんか……ヤケクソっぽく聞こえたのは気のせい??

 まぁともあれ、あんまりお世話にならずに済むように頑張ろう!


(※ここから下は企画終了後に散発的に書いたネタ。

  今日の師長さん、というより今日のおやつネタ……。

  結局この新人は本部配属になった模様)


5月13日

 先輩が“冗談の通じる人限定”販売とかいうお菓子を買ってきた。

 ゼリービーンズなんだけど、中に変な味のが混じってるらしい。

 あえて何味とは書かないけど、まぁその、食べ物でないモノの味のが。

 もちろん、食べても安全だと保証つきではあるけれど……。

 怖々ひとつ取ってみたら、普通にメロン味だった。よかった。


 カフェテリアで何人か寄ってそれをつまんでたら、

 師長さんが不思議そうに見てた。

 「博打なお菓子ですけど、どうですか」

 って笑って皆がすすめたら、師長さんは説明を聞いて苦笑した。

 「そういうのでは、必ずハズレを引くって分かってるから、

  遠慮しておきます」

 なんだか可哀想になったので、さっき食べたのと同じ奴を探してあげた。

 これなら大丈夫ですよ、メロン味でしたから、って渡したら、

 律儀にお礼を言って、嬉しそうに食べてくれた。


 でも その後で、悲しそうな顔をしてたのはなんでだろう。

 おかしいなぁ。


 よく似た色でも違う味だと知ったのは、翌日のことだった。

 ……二度と食べるもんかっっ!


 師長さんに、お詫びに実家の近所の美味しいお菓子屋さんで、

 藤の花をかたどった練り切りを買って持って行った。

 恐縮しながらお茶をいれてくれた。

 なんだか特別に美味しかったのは、師長さんが喜んでくれたからだな。うん。

 よかった!



6月19日

 ここのところ曇りがちで不安定な天気が続いているので、

 用心のために折りたたみ傘を持ち歩いていたら、

 今日はそれが役に立った。


 たまたま西棟に用事があって外に出たら、

 狙っていたように雨がぱらつきだした。

 急いで傘を広げたところで、なんとなく振り返ったら、

 玄関のところで師長さんが恨めしそうに空を見上げていた。


 まさか「入っていきますか」とも言えないしなぁ……

 とか考えている間にも、雨はしとしと、本降りになりそうな気配。

 諦めて師長さんが建物の中に引き返したので、

 置き傘を取ってくるんだろうと思って、そのまま西棟に向かった。


 向こうに着いて少ししたら、もうやんでいた。

 これって絶対、師長さんのせいだよねぇ?

 その後は、一滴も雨は降らなかったんだから。

 才能の無駄遣いというべきか、有効活用というべきか悩む。



7月20日

 廊下を歩いていたら、会議室のドアが少し開いたままになっていた。

 会議そのものは終わっていて、何人か残って話しているみたいだった。

 師長さんの声がしたから、なんとなく立ち聞きしてしまったのだけど。


 「……それじゃあ、午後一番に報告をまとめてお渡しします。

  すみません」

 「急がなくても構わんよ。必要な数字はリトルから直接

  データを受け取っている」

 「あ、そうか、そうですよね。本当にすみません」


 相手は副師長さんみたいだった。どっちが上司だか分からないなぁ。

 苦笑してたら、話が一段落して師長さんがほかの人に何か話しだした。

 そっちはもうちょっと、親しい人みたいだ。声が少し明るかった。


 「……で、……ておけば良いですよね?」

 「ええ、……ですから。三時か四時頃、師長室に取りに伺います」

 「分かりました。そうだ、……さん、

  今日のおやつに……屋でわらび餅を買って来ようと思うんですけど、

  ついでに何か買っときましょうか?」


 わざわざ局の外までおやつ買いに行くのかぁ、師長さんらしいなぁ、

 と思っていたら、副師長が一言。


 「わらび餅なら売店ので良いと思うが」


 うわぁ。

 思わず廊下で固まっていると、向こうのドアから副師長さんが出て行った。

 こっちを見なかったから良かったけど、びっくりしたなぁ。

 ちょっと心配になって、近い方のドアの隙間から中を覗いてみたら、

 案の定、師長さんがしょんぼりしてた。


 「やっぱり、わざわざ外におやつ買いに行く暇があるなら

  仕事を片付けろ、ってこと……ですよね」

 「いやあ……あの人の場合、単に事実を言っただけじゃありませんかね。

  ともかく、私のことは気にしなくていいですから、

  一度売店のわらび餅も試してみたらどうですか。それじゃ」


 こっちに来そうだったので、慌てて逃げたけど、

 ……売店のわらび餅、美味しいのかな。

 そういや、よく品切れしてるよな。今度あったら買ってみよう。



(終)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 師長さん、愛されつつ尊敬されつつ、観察されてる……!笑 でもなんか見たくなっちゃう気持ち分かる……ハムスターとかの動きをずっと追いかけちゃうような気持ち。
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