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拾遺集  作者: 風羽洸海
その他SS
40/43

なんということはない日常

自サイトの拍手御礼に置いていた過去SS。

日常小ネタ2本立てです。


●カゼスの学生時代ネタ。オーツ君一人称。


 いつの間にやら“お友達”になったカゼスと連れ立って共通の講義に出るようになって、はや一学期が過ぎ。

 近頃は割合、遠慮なくものを言えるようになってきたわけで、その日俺はひとつの決意を固めて口を開いた。


「なぁ、カゼス。前々から言おう言おうと思ってたんだが」

「何を?」

 きょとんと聞き返されると、なお言いづらい。が、その不思議そうな顔の下につながっている上着は、この半年ほどの間に何度か目にしているもので、そんでもってその度に俺の内心の葛藤を惹起してくれたシロモノで。

 

「……その服、裏 表 逆 じゃないか?」

 

 ああ、女性にファスナー開いてますよと教える時の気分ってこんなのだろうか。

 

「……?

 ………。(ごそごそ)

 ………………。(もぞもぞもぞ)」


 人の気まずさもどこ吹く風、当人はいまだよく分かっていないような顔で、上着をつまんだり引っ張ったりしている。タグの位置でも探しているらしい。

 で、ようやく。


「ああ! ホントだ」

 

 納得した。

 納得して、うなずいて、そのまま歩き出す。

 

「ちょっ……おまえ、だから、……直せよ」

 肩を掴んで引き止めた俺に、こいつときたら、まるで俺の方こそ非常識だぞと非難するような目を向けやがった。

「今、ここで?」

「トイレに行くなりロッカールームに行くなりすりゃいいだろう!」

「ああ。まぁ、ついでがあればね」

「…………」

 俺は脱力して廊下に懐いた。ううぅ。まだしもこの床の化粧石板の方が、分かり合えそうな気がする。

 深いため息をついてから頭を上げると、ごすんと辞書の角が食い込んだ。……おのれ古典的な悪戯を。


 結局、昼飯の時までカゼスの上着は裏返ったままだった。ようやく直したのを見て俺が、やっぱりそっちが表だよなと言うと、カゼスはそうだねと流石に少し照れくさそうに苦笑した。

 が。続けてのたまわく、

「でもさ、裏返しでも着られるよ、これ」

 ………………。

 誰か、こいつに常識というものを叩き込んでやってくれないだろうか。



(終)

 

*********************


●時期は適当、帝国2部のどこか。カワード一人称。噴飯注意。


 毎日あれこれやるべき事はあるし、武人たるものふやけた文官のようにだらだらしているわけにはゆかぬもの。

 だがなぜか時折、ぽかりと不思議に時間が空いてしまうことがある。休息するでも、呑みに行くでもない、ただ何もない時間だ。

 そんな時間を持て余して、カゼスの奴でもからかってやるかと部屋へ行ってみたところ、やはりと言おうか先客がいた。アーロンめ、少し控えろ。

「あ、カワードさん」

 気付いたカゼスが顔を上げ、いつものほやんとした笑顔を見せる。が、立ち上がりはせず座ったまま、両手にはなにやら糸がからまっている。その前に座る、真剣な様子のアーロン。

「……何をやっておるのだ、おぬしら」

 呆れて問うと、カゼスの答えて言うには。

「あやとりです。最初はフィオに教えてあげてたんですよ。糸が余って、何か出来ないかなって言うもんですから。そしたらたまたま、アーロンが来て、何やってるのかって言うから」

 説明している間に、そのアーロンが首を傾げながらも器用に指を動かして、カゼスの手から糸を外して行く。

「こうか?」

 広げて見せたその両手にかかる、糸の橋。カゼスは無邪気に喜んだ。

「そうですそうです、わー、すごいですね、1回で出来るなんて!」

 手を叩くカゼスの前で、アーロンはふむと真顔で橋を仔細に検分している。俺は盛大なため息をついてやった。

「下らん、女子供の遊びではないか」

 やれやれだ。『勇将アーロン』のこんな姿、兵どもが見たらどうなることやら。ああ情けない。

「そう馬鹿にしたものでもないぞ、カワード。なかなか奥が深い」

 アーロンめは相変わらず真顔だ。どうせこ奴のことだ、糸の仕組みを小難しく学問的に考えておるか、さもなくば何ぞ己の職務に応用できぬかとでも考えておるのだろう。いっそ無邪気に面白がっておれば可愛い……ものでもないな。

 俺がげんなり考えている前で、今度はカゼスがアーロンの指から糸を外す。

 ……教えているのはカゼスの方ではなかったか? どう見てもこんがらがっておるぞ。

「あれ? あれれ? おかしいな、確かこうだと……」

 もたもたしている内に、糸だけでなく指まで絡まった。

 …………。

 ああぁ、まったく馬鹿馬鹿しくて見ておれぬわ!


 赤面している二人を放って無言で部屋を後にした、それから数日後。

 聞いた話では、仮にも騎兵団長ともあろうヒゲ狸が、養女にあやとりを迫られて両手をこんがらがらせるはめになったとか。

 ――世も末だ。



(終)

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