転機
一部と二部の間ぐらい? カワードとアーロンが親しくなったきっかけについて。
「あれ?」
カゼスは目をぱちくりさせた。ここは、アーロンの部屋の筈。だが。
「お、なんだ、おぬしもアーロンに用か?」
部屋のど真ん中に寝そべって、勝手に茶を飲み菓子をつまんでくつろいでいるのは、
「カワードさん……なんでここにいるんですか」
「いかにも俺がいては迷惑そうな口ぶりだな」
いい歳をして、可愛くもないのに拗ねた顔をするカワード。カゼスは慌てて否定した。
「あ、いえ、そういうわけではなくて、当のアーロンはどうしたのかな、と」
「野暮用さ。たまにはゆっくり飲もうと思ったら、邪魔が入ってな」
よっ、と体を起こし、カゼスの方にクッションをふたつみっつ投げてよこす。
「まあ、じきに戻って来るだろう。おぬしも待っていればいい」
「そうですか。……じゃ、そうさせて貰おうかな」
サンダルを脱いで絨毯に上がり、クッションに腰を下ろす。ティリス式のくつろぎ方にも、だいぶん慣れた。カワードが既にこれだけ好き勝手しているので、カゼスは自分も適当に紅茶を注いで飲んだ。
目の前で菓子をもぐもぐやっているカワードを見ている内に、カゼスはふと気が付いて小首を傾げた。アーロンが同席している時に比べて、食べ方がさほど見苦しくはない。いや、そうは言っても上品とはほど遠いのだが、しかし。
(やっぱりあれは、わざとなんだなぁ)
やたらと音を立てたり、指を舐めたりしているのは。カゼスはつい苦笑した。
「なんだ?」
カワードが不審げな顔をする。カゼスは、いえ別に、と首を振ってから、ふと思いついたように言った。
「考えてみれば、カワードさんとアーロンの仲が良いっていうのも、意外ですよね」
「下賎な庶民と貴族の坊ちゃんが、か?」
カワードは皮肉っぽく片眉を上げ、口元を歪めた。う、と返答に詰まったカゼスに、カワードはからからと屈託なく笑った。
「確かに最初は俺も、奴が気に食わなんだ。取り澄ました生意気な小僧だと思ったさ」
あれは、もう十年も前になるか……。
カワードは、懐かしそうな目をして語りだした。
カッシュ総督(ダスターンの親父さんじゃない、その前だ)の推薦で、俺が王宮に出仕することになったのは、まだ二十歳をふたつほど過ぎたばかりの頃だった。
元々ケンカは強かったし、狩猟でもでっかい野猪を仕留めたりして、それなりに街では名を上げてたからな。それで、総督府の警備兵から剣や槍の手ほどきを受けると、めきめき上達した。
こりゃ逸材だ、ってんで、総督は俺が王宮の軍に下士官として入れるよう、口利きしてくれたらしい。俺も悪い気はしなかったさ。天才だとか、噂が一人歩きして獅子殺しだとか言われちゃあな。
ともかく俺は意気揚々とティリスに来て……自分が井の中の蛙だって思い知らされたわけだ。総督の口利き程度じゃ、平民が士官にはなれなかった。さすがに平の一兵卒ってわけじゃなかったが、名ばかりの班長だ。
王宮の連中はどいつもこいつも、俺が貴族じゃないってんで白い目を向けるし、俺が配属された部隊の隊長は俺を生け贄扱い。あの頃はまだあちこちで反乱だ暴動だって騒ぎがあって、俺もちょこちょこと手柄を立てはしたが、全部他の奴らにかっさらわれた。
なかなかうだつが上がらなくてクサってるところに、耳に入ってきたのがアーロンの噂だったのさ。
「エンリル様の守役にしておくには惜しい、ぜひ実戦に」
なんて声が上がり出してな。それまでは子守のかたわら教練を受けるだけだったのが、実際に軍に入れられて、しかも万騎長アルデュス卿の従士だ。
いったいどんな猛者かと思えば、まだ十五、六歳の坊やだったんだぜ? 初めて遠くからあいつの顔を見たときは、こんな軍隊やめてやると思ったもんさ。
何せ立場が違い過ぎるんでな。口をきく機会もなかった。時々あいつの姿を見かける度に、俺は一方的に敵意を募らせてた。
けどまぁ、なんとか俺にも味方が出来て、運も向いてきたのはそれからだ。ティリス南の湾岸で起こった暴動に派遣された時、たまたま俺の上にいた指揮官が戦死してな。で、結局俺が指揮をとって無事にけりをつけたんで、やっと日なたに出られたわけだ。
その頃だったかな。初めてアーロンと言葉を交わしたのは。
たまたま中庭を歩いているときに、木陰で本を読んでいる奴こさんをみかけてな。俺は自分の立場がいくらか良くなったてのもあって、気分が良かった。それでうっかり声をかけちまったんだ。
「よう、子守はいいのか、ばあやちゃん」
……ってな。
「それ、思いきりケンカ売ってるじゃないですか」
カゼスが呆れて口を挟む。カワードは苦笑いした。
「だから、その時は気分が良くなってたのさ」
「気分が大きくなってたんでしょ?」
「細かいことは聞き流せよ。聞きたくないなら、やめるぞ」
「うっ。すみません、黙って聞きます」
で、奴の反応はどうだったか、ってえと……まぁ、だいたい想像つくだろ? 完全に無視しやがったんだよ。目を上げもしない。俺は頭に来て、わざとすぐ隣に座って、横から本を覗き込んでやったんだ。
そしたらあいつは俺の鼻先で本をばたんと閉じて、ようやく俺の方を向いた。
「書物に興味がおありなら図書館に行かれよ。そうでないのならば、もっと暇な別の人間を当たって貰いたい」
「なっ……! ガキのくせに澄ましやがって!」
ほかに言う台詞も思いつかなくて、俺はそう毒づいた。しかしまぁ、考えてみればその頃アーロンは俺以外の連中にもやっかまれていたわけで、その中には当然、素朴な庶民なんぞよりよっぽど性質の悪い奴もいたんだろうな。相変わらず無表情に、だが少々うんざりしたような雰囲気で立ち上がってこう言った。
「私はアサドラー家の次男アーロンだ。貴公もティリス軍の士官であるなら、己の名も明かさず人を愚弄するなどといった卑劣な行いで、我らの名誉を汚されるな」
さすがに返す言葉がなかった。いや、言い負かされたのではなくて、あまりに歳と外見に不相応な物言いだったんでな。なんだこ奴は、と呆れてしまったのさ。
俺が絶句してる間に、奴はさっさと立ち去ってしまった。
どうやらあ奴と俺とでは、住む世界がまったく違っているらしい。そう思って、その後しばらくは奴のことも気にしなかった。
ところがだ。
俺がもう一度昇進するより早く、奴はさっさと百騎長になっちまった。カッシュの暴動鎮圧に一役買ったらしい。で、またしても俺は奴を憎たらしく思いはじめたわけだ。身内贔屓されやがって、と勝手に決めつけてな。実際はそうじゃなかったんだが。
結局、何年かしたら俺と奴は肩を並べてしまった。同じ千騎長として。
その後のことだ。初めて俺と奴は一緒にひとつの作戦に出ることになった。
高地に近い田舎町で、また反乱を起こした奴らがいたんだ。ケチな貴族だったが、領内で採れる銀で不正に銀貨を鋳造した。それでオローセス様は裁きを受けるように勧告したんだが ……まぁ、聞くわけがない。捕らえに向かった一行は撃退され、俺たちが出向く運びになった。
街は険しい山を背中にしていてな。南側からしか攻め込めない。で、連中は街の外に布陣して俺たちを待ち受けていた。初日は用心して、俺たちも手前の街道に距離を置いて陣を構えたんだ。
アーロンの奴は中庭で会ったことなんぞ忘れたらしく、相変わらず無表情に淡々と指揮をとっていたんだが、俺はそれが気に食わなかった。そこで、敵が目の前になってから、俺は奴に挑んだ。
「ここから先は俺が指揮をとる。アルデュス卿の盾に守られていた奴より、俺の方が実戦経験は多いし、何より王太子殿下の大事なばあやに傷でもつけたら一大事だからな」
ちなみに当時俺が二十六歳だったから、奴は……十八か九か、その辺だ。十代で千騎長なんざ、よっぽどでなきゃなれやしない。しかも奴は、まだ十かそこらのエンリル様の守役も兼任してた。まっとうな軍人なら腹を立てて当然だな。
俺の挑戦にも奴は動じなかった。
「辞令に背くのか」
「確かに今回はおぬしが指揮官に任じられたが、しかし軍での立場は対等の筈だな?」
「……是が非でも、ということか」
反応は冷ややかで、危険だった。俺は、反逆罪で縛り上げられる前に、言い募った。
「そもそも、どう見ても俺よりひ弱そうなお坊ちゃんが指揮官だというのが納得ゆかぬ。剣か槍か、いずれか一方でも俺より上であれば別だが」
一対一の勝負を申し込んだ俺に、奴はしばらく考えてから、それを受けた。
「いいだろう。私の得手は剣の方だ。それで貴公に勝てぬのであれば、指揮権を譲ろう」
「えー!? 意外ですね、受けるなんて」
紅茶のおかわりを注ぎながら、カゼスは目を丸くした。アーロンは自分に委ねられた権限と、それに伴う責任を、やすやすと他人に渡すような性質ではないだろうに。
カワードは肩を竦めた。
「俺とてあの時、既にあ奴のことをよく知っておれば、何かあると睨んだであろうさ。いや、そもそも勝負を挑みはせなんだな。だが、ろくに口をきいたこともない間柄だ、致し方あるまいよ。結局、俺は剣を取って奴と対峙した」
「……で、どうだったんですか?」
身を乗り出したカゼスに、カワードはにやりと笑った。
「どうだったと思う?」
奴の剣が手から飛んで地面に落ち、俺の剣が奴の喉元に食いつくまで、そう長くはかからなかった。今となっちゃ誰も信じそうにない話だが、あの頃はまだアーロンも華奢な方だったし、俺の方が経験豊かだったからな。 ……いや、少なくとも俺はそう考えて、自分の勝利を疑いもしなかった、って事なんだが。
「私の負けだ。約束通り、この作戦の指揮は任せる」
両手を挙げて降参の仕草を見せた奴に、俺は大満足だった。なんだかんだと偉そうな台詞を吐いたのは覚えてるが、いちいち言わせんでくれよ。
上機嫌で俺は早速、敵と戦う策を練った。
と言っても、ろくな作戦も立てられぬ地形だ。街までは、川に沿った一本道。奴らの陣とこっちの陣の中間あたりから細い山道が分かれているが、それは南東へのびていて、街には通じていない。真っ正面からぶつかるしかないと見えた。
……で、俺はそうしたわけだ。
俺が斥候を出したり陣形を決めたりしている間、アーロンは何も言わずに見ていた。やることがなくなって暇だ、と言わんばかりにな。奴の部下はこそこそ何かしているようだったが、俺はたいして気に留めてなかった。
三日ほど、準備をしたり敵の使者を追っ払ったり、罵り合ったりして過ぎた後で、俺たちは総攻撃をかけることにした。
もちろんアーロンの奴には後方に配置した。手柄をくれてやる気にはなれぬし、あ奴自身、今回は見物させてもらう、とかなんとかぬかしおったからだ。兵力ではこちらが大きく勝っていたから、奴の力がなくとも勝てると思った。いや、勝って見せる、と。
頭を冷やしていれば、アーロンの手勢が大幅に減っていることに気が付いたのにな。
ともかく、街道沿いに広がる平地部分で、戦闘が始まった。
読み通り俺たちの方が圧倒的に有利だった。後方のアーロンに出番を与えるまでもなく、敵は支え切れずに街へと退却を始めた。
俺は勢いづいて、そのまま追撃を続けるよう命令した。気が付いた時には、陣形は引き伸ばされ、先頭集団は隘路に誘い込まれていたんだ。
これはまずい、と思った途端、敵は退却をやめて向き直った。合図の旗が振られると同時に、道の両側の土手からわっと伏兵が攻め込んできた。逃げていた連中も、ここぞとばかり反撃に転じる。瞬く間に形成は逆転、俺たちは三方から攻め寄せる敵に必死で応戦するしかなかった。
とにかく血路を開いて逃げるしかない、と思って、俺は退却を命じようとした。
その時になって、後ろ――つまりアーロンの部隊から、進撃の合図が鳴り響いたんだ。
「あの野郎、気でも狂ったか!」
俺はそう毒づいた。まったく、どうやってこの囲みを突破しろってんだ?
ところが驚いたことに、まるで魔法でもかかったみたいに、俺たちの前方にいた部隊がいきなり崩れ始めた。もともと狭い場所だから、左右から攻め込んだ敵の数はさほど多くない。前さえ開けば、突破できる。
とは言え、前で何が起こってるんだか分からないもんで、俺は……俺たちは、ぽかんとなってしまった。その間に、左右の土手を、どこから登ったのかアーロンの騎馬部隊が敵を蹴散らして駆け抜けて行きやがった。
そうなると、今度は敵の本隊が包囲された形になるわけだ。ようやく俺たちも伏兵を片付けて、前の本隊に集中した。その頃には随分敵の数も減っていたから、様子が分かってきた。
伏兵を隠していたのは、敵だけではなかったわけだ。敵の本拠地、つまり街の城壁に、へんぽんと翻るティリス王旗。俺がひとりいい気になって敵と罵り合っている間に、アーロンの奴、間道を利用して直接街に兵を送り込んでいたんだな。
そんなわけで、敵は三方どころではなく、四方を完全に囲まれて壊滅した。俺たちの大勝利だった。
「間道って……あ、もしかして街にはつながっていない横道、って奴ですか?」
「そうだ。おぬしも存外、鋭いな」
カワードは苦笑いを浮かべて、菓子を並べ換えて地図にしていく。
「後でアーロンから聞かされたんだが、奴ら、この横道にも伏兵を配して、俺たちが誘い込まれたら後方を衝く計画だったらしい。アーロンは先にその可能性に思い当たったから、イスファンドの部隊に命じて橋を使わず下流の方でひそかに川を渡らせ、一足先に現場を押さえてしまったのさ。後からのこのこやって来た敵の伏兵は、イスファンドに街への間道を教える役目を果たしてくれたわけだ」
「はぁ……。それで、敵の目がカワードさんに向いている間に、ちゃっかり本拠地を乗っ取ってしまったんですね」
カゼスは感心して、ほーっと息をついた。カワードは面白くなさそうに、地図にしていた菓子をばりばりと食べてしまう。
「隘路の方も、俺たちが吸い込まれるように走り込むのを後ろから見ていたくせに、止めもしないで、自分たちは早々に部隊をわけて回り込みおったのさ。つまり俺は、囮にされたわけだ。まったく、あ奴は年長に対する敬意がなっとらん」
口をひん曲げて文句を言うカワードに、カゼスは苦笑した。
「手柄も取られてしまいましたしね?」
すると、カワードはもっと渋面になって、いいや、と唸った。
「俺の失策だ。好きなように報告するがいい。指揮権も返す」
あれやこれやの事後処理がすんでから、俺はアーロンにそう言った。これで、全部俺が最初から立てた計画だった、なんてことにされてみろ。なけなしの誇りがズタズタにされるわ。それよりはいっそ、処罰される方がさっぱりする。
ところがアーロンの奴、表情も変えずに言いおった。
「貴公が敵の矢面に立ってくれたお陰で、我々はその背後でこそこそと細工することが出来たのだ。感謝する」
「それは皮肉か? 俺をいいように使っておいて!」
腹立たしいことこの上ない。だがアーロンの奴は真面目だった。
「私では指揮官としての信憑性がない。敵は何か裏があると読んで、これほど油断してはくれなんだろう。貴公のはたらきは正当に評価されて然るべきだ」
「…………」
さすがに開いた口がふさがらなんだ。これが皮肉でなく本気なのだとしたら、いったい何という奴だ。
「もしやおぬし、あの勝負、わざと負けたのではあるまいな」
嫌なことを考えついて、俺は胡散臭げに問うた。その時になってやっと、奴はほんの微かにだが、笑って見せおった。
「無理に勝つよりは、負けておいた方が良さそうだと思った。それだけだ」
「……っ、嫌な奴だな、おぬしは!」
唸った俺を見て、アーロンはとうとう笑いだした。
「勝つつもりで戦って貴公に勝てたかどうか、それはわからぬ。だが、もう良いではないか。私もいつぞや貴公に読書を妨げられた意趣返しが出来たし、遺恨は残したくない。今後も恐らく共に戦うことになろうから」
「覚えていたのか、陰険な奴め。俺はごめんだぞ、おぬしと共に戦うなぞ!」
憤慨して見せたものの、まぁ、こうまで見事にしてやられては、いっそ気持ちが良くてな。それに俺はアーロンほど執念深くはない。だから、和解はしてやったのさ。
「なるほど、それ以来の腐れ縁ってわけですか」
カゼスは笑ってそう言った。カワードが口では悪態をつきながらも、アーロンを信頼しているのは明らかだ。
カワードは白々しいしかめっ面でポットを傾け、もう空か、とぼやいてから答えた。
「そういうわけだ。とは言っても、アーロンの奴、なかなか堅苦しい言い方を改めぬし、他人行儀な態度もそのままでなぁ。『私』『貴公』でなく『俺』『おぬし』になるまで、随分とかかったものさ。エンリル様と一緒のところを目撃できなんだら、いまだに奴め、お高くとまっておったやも知れぬな」
「エンリル様と一緒のところ……、って?」
カゼスが首を傾げると、途端にカワードはぐふっとふきだし、幅の広い肩を震わせて笑い出した。おかしくてたまらないとっておきの秘密、なのだろう。
「いや、それが傑作でな、アーロンの奴……」
言いかけたところへ、ちょうど噂の主が戻って来た。勝手にくつろいでいる二人の姿に目を丸くし、それから何やらニタニタしているカワードに気が付いて、眉をひそめた。
「カワード、おぬし何を話していた?」
「いいや、まさにこれからというところさ。ひとつ、おぬしの守役としての素晴らしい才能を、カゼスにも教えてやろうと」
途端にアーロンは顔色を変え、「貴様!」とカワードにつかみかかる。カワードはげらげら笑いながら、カゼスには無意味に思える言葉をいくつか、口にのぼせる。アーロンは真っ赤になって、それ以上言ったら絞め殺すぞ、とまで脅しをかける始末。
唖然としているカゼスの前で男二人は取っ組み合いにもつれこみ、どたばた暴れまくっている。呆れるやら、微笑ましいやら。
「……本当に、仲の良ろしいことで」
カゼスが苦笑しながら言うと、男二人は同時に答えた。
「「誰が!」」
束の間の沈黙。
そして再び始まる騒音。カゼスはひとり菓子をかじりながら、今度その話を聞かせて貰えるだろうか、などと考えていたのだが……
「わははは、あの時はまったくいいザマだったな!」
「黙れ! 黙らぬなら、いっそ二度と無駄口を叩けぬようにしてくれる!」
(身の安全を考えると、聞かない方が良さそうだなぁ)
世の中、知らぬ方が良いこともある。
カゼスは紅茶のポットや菓子皿などを避難させ、傍観者を決め込んだのだった。
(終)