あんたが落としたのは、どんな学園生活?
「あんたが落としたのは、どんな学園生活?」
聖ペテロ学園の卒業式を翌日に控えたある晩、俺の部屋に突然謎の美少女が降臨し、そう言った。
彼女の説明では、彼女こそあの有名な大天使ガブリエル様らしい。
信じられない話だが、彼女の背中には天使の翼が生えているのだから仕方がない。
「い、いや。 俺はただのヒキコモリです。高校も一週間でやめてしまいました。だから俺ほど学園生活と無縁な男はいないのです。 ひ、人違いでは?」
動揺を隠しきれない俺を、ガブリエルのつぶらなお目目がとらえる。
こんな状況で言うのも変だが、彼女のルックスは滅茶苦茶かわいかった。
「人違いじゃないわ。 知ってるわよ。 あんた、聖ペテロ学園をやめたあと、自堕落でしょーもない毎日をダラダラダラダラ…無意味に過ごしてきたわね?」
この天使、かわいいが毒舌である。
とても神様の使いとは思えぬ横柄な態度で、俺に迫ってきた。
「全部知った上で聞いてんのよ。あんたがドブに捨てたのは、どんな学園生活か…って」
ドブに捨てたとは心外だ。 正解なのが悲しいけど…。
でも人間ってどうしてこう、図星を言われると否定したくなるのだろうか。
「どんなって言われましても、少し漠然としすぎじゃないか?」
俺の言葉を聞き、意地悪な笑みを浮かべるガブリエル。
「そう…それなら二つの選択肢を与えましょう」
彼女はそう言って、二本の指を突き立てた。
俺を試すような表情だった。
「あなたが落としたのは…女の子にモテモテの学園生活ですか? それとも…部活の仲間たちと全国優勝を目指す爽やかな学園生活ですか?」
……うん、どっちでもない。確実にどっちでもないぞ。
俺はルックスもスポーツもまるでダメだ。
そもそも劣等生だから学校をやめたんだっつーの!
だからたぶん、もし仮にもう一度学園生活を取り戻したとしても……
「俺が落としたのは多分、しょーもない…灰色の学園生活だと思う」
パァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
俺が答えると同時に、ガブリエルの全身が輝きを放つ。
「まさかあんたみたいなキモヲタニートが、正直者だとは思わなかった。実に意外だわ……」
その口調が少し悔しそうだったのは、気のせいだろうか?
「意外だけど、正直者にはご褒美をあげる決まりなのよね。 ま、せいぜい楽しみなさい。 モテモテで爽やかな学園生活ってやつを」
部屋はまたたく間に光に包まれ、包まれたかと思うと、いつの間にか誰も居ない教室に姿を変えていた。
あまりのことに、教室の真ん中で呆然と立ち尽くす俺…。
放課後を知らせるチャイムの音でハッと我にかえり、大慌てで廊下に飛び出した。
そのとき……!
ドンッ!
ちょうど教室に入ってきた女子生徒と激突。
彼女は派手に尻もちをつくと、右手をぶんぶん振り回して怒り出した。
その手にはコンサートのチケットが二枚握られている。
「ちょっと、あんた何すんのよ! 危ないじゃな……え? あ! きゃっ! せ、先輩…!」
彼女は俺の顔を見た途端、急に真っ赤になって、うつむいた。
そして恥ずかしそうにチケットを一枚、俺の胸に押し付ける。
「あの…先輩、今度の日曜日ヒマですか? もちろん、先輩はうちのサッカー部のキャプテンだし、バスケット部のエースだし、おまけに柔道部の主将だし……練習が忙しいのは分かってます。 でも、その、もしよかったら、もし、わたしなんかでよかったら、わ、わたしと!」
かわいい後輩からのデートのお誘いを受けながら、俺はあの大天使の意地悪な笑顔を思い出していた。
そして、彼女のあの意地悪な質問も………
「あんたが落としたのは、どんな学園生活?」
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
こんなゴミみたいな文章でも、けっこう読んでくださる方がいるんですね(びびってますw)
皆さんが素敵な作品に巡り合えますように……