コイワケ番外編~Eの悲劇~
「何、コレ」
炬燵に入ってPCを操作し、いつものページに無いハズのモノを見つけ、エイコは思わず口にした。
その問いにマキはベッドから身を乗り出して、些細な事を思い出したように答えた。
「ああ懺悔箱。何でも作者が更新しないくせに一日数件あるアクセスに喜んで、その後猛烈な罪悪感に苛まれたせいで発生した謝罪会場だよ」
「まったくアホよね。とっととさくさく書いてりゃいいのに鈍くさいから。ところでエイコ、アンタ学校の宿題に手間取ってるんですって?」
「うえ?!サキ!」
マキの部屋の入り口に、ケータイを持ちながら佇むイトコにエイコは驚く。コイツらの登場は、ホントにいつも気配がない。
諦めて慣れる努力をしようとしたエイコと異なり、いきなり乱入してきた兄にマキは軽く抗議した。
「ノックぐらいしてよ。最中だったらどうす「おいいいいいいいい?!!」」
何 か 言 っ て る……!!
「大丈夫よ、エイコの鳴き声しなかったし」
ア ン タ も か……!!なにこの人達……!!
そろった兄弟に嫌な予感がする。というか、既に――
「で、宿題って?珍しくフジが連絡してきたから、気になってんのよね?」
ほらねやっぱりね!
担任のアホーーッ!!
フジこと藤村センセの不用心な行動に罵倒を浴びせる。
数秒前にスル―した問いを再び投げかけて来たサキに、エイコは内心の焦りを悟られないよう表情筋を激励した。
がんばれマイフェイス!悟られたら、君たちは近い将来過酷な労働を強いられる事になる――苦痛に歪むとか……!!
「……ええ〜と、あれね?ちょっと他の課題で時間食っちゃって。で、速攻で仕上げたから誤字脱字がかなりあったみたいで返されて。あと調べたい事もあったから手間取ってただけ?枚数も結構あってね~」
だからPC借りに来たの、と嘯く。余談だが現在我が家にPCは無い。したがって贅沢にも自分用を所持するマキを、検索目的で尋ねることはままある。不自然では無いハズ。
幸いにも内容はバレていない様子だし、あとはソレが小論か何かだと勘違いしてくれれば、見せろだなんて言わないだろう。コイツが人の感想文なんか読みたいと思う訳が無い。
なのに。
「そう、で、出来たの?見せて?」
食 い つ い て き た !?
「って何の羞恥プレイ?!……あ」
ここで私は後悔した。外は雪。とっさに家にあると言えば、流石に追及されることも無かったろうに、この正直な口は嘘をつけなかった。
「「羞恥?」」
案の定エイコの失言は両名に拾われる。
目前のサキは、美形な面に怪訝そうな表情を浮かべて。後ろのベッドのイトコも同じく、と思っているエイコに反して、愉しげな顔をしていたと知るのは翌日遭遇したサキからの情報だ。
「イヤ、自分の文章って、読まれるの、恥ずかしく、ない」
嗚呼今すぐ炬燵の中にインして外界との接触遮断したいぃ!!!
なのに、ベッドから降りて、背後の隙間に座ったマキによって、成就しない。はいコンディションレッド―!!!
「エイコ、その宿題って何?」
覗き込んできたマキの眼は、心なしかじゃなくキラキラと輝いている。
例えるなら空腹状態でご馳走目前みたいな……!!私は食べられません!
「イヤ……だから、ふつうの」
「調べ事があるなら持って来てるよね?出して?」
「あの、だから」
一度崩した態勢の立て直しは、そうそう出来るものではなく。
うろたえた私は、ここに来てもう一度悔やむ事になる。
追い詰められながらも、しかし私にはまだほんの微かな余裕があった。
何故なら例の宿題は、ジンズのポケットに3回折ってミニサイズにした上でねじ込んでいたから。もともとのサイズだってA5。何よりソイツは担任の手書き作成で、パッと見高校の課題だなんて、誰も思わない。
適当にバッグに在ると言って、無いならやっぱり家に忘れたのかもと、この場を凌げばいい……!
――なんて、思った自分の行動全て、奴らにはお見通しだったって事を。
「……ああ〜たぶんバッグにあるんじゃ〜」
マキのデスクを指して、はははと笑う私。
サキは眉を下げ、困ったような微笑で顎をしゃくる。後ろで、マキが溜息をついた。
え、何。
「正直に言わないと、エイコのナカまで丁寧に探すよ?」
さっきの苦笑は「手間掛けさせやがって」?!お前の考えなんて解ってんだよって鼻で笑った?!
状況の芳しく無さに、逃走あるのみと炬燵を前方にスライドさせて立ち上がろうとする。が、真後ろにマキが来た時点で、それも織り込み済みだったと!背後から手を回されて身動きが取れず、両手を突っ張った状態で制止される。
ナカを探るって?!その言葉に、スプラッタな想像が脳内を駆け巡る。幼いころに見たアニメの、土間で一心不乱に包丁を研ぐ老婆が、マキの姿にすり替わる……コ ワ イ……!!
冷静になってほしい……!たかが宿題に、言葉が過激過ぎるんではなかろうか!?それで怯える私だって、知っててやってる!?
「弟のラブシーンに興味なんて無いけど、フジの宿題はホント、気になんのよね〜。だから、ヤっちゃって」
スプラッタが何故にラブになるんですか馬鹿ですかアンタ!!
と、ツッコもうとした声は出せずに、代わりに出た「むぅー!」という音に、マキの左手で口が塞がれている事に気付く。
次いで、ぴちゃ――、と耳元で蠢く生温かい感触に、必死の抵抗を見せていたエイコの両足はビクッと静止した。
全神経が、そこに集中する――。
何をされているかなんて、これまでの経験で判りたくもないが解ってしまって。
何もかも忘却して放心したツケは、瞬息の後エイコに回ってきた。
「見つけた――これ?」
逃げようと腰を浮かせていた状態は、マキの手がジンズからソレを掴むのを手伝って。
いつの間にか開いたプリント用紙を、マキは怪訝そうに眺めた。どう見たって高校の課題には見えない。手書きの紙はいくつかの枠と、その上部に書かれた簡素な命令文で構成されている。
「フジの字ね――『異性・同性の名を5人あげろ』?何?」
「『それぞれに下記の色を充てろ』?……これ、ホントにそう?」
「さぁ?やけに言葉濁すなとは思って、だから気になったのよ。『ニュースソースその他を秘匿するのは義務なんだ!』とかなんとか、切られちゃって――?、私とアンタの名前のトコ、消した跡があるわね……赤と……紫」
「むううううううううう!!!!!」
この時の私の焦りを理解して頂きたい。マジで羞恥プレイ!!
ていうか担任!!あんたが秘匿の義務を遂行しても、宿題の存在を暴露した時点で手遅れなんですが!ニュースソースが秘密厳守出来ない可能性の考慮はされましたか!?お宅の友人の性格その他ちゃんと考慮しました?!
「……心理テスト?」
ほらキターーーー!!
「イヤこれは全然当たって無くて、だから今考え中で!!」
ようやくハズされた手に、急いでエイコは弁解する。心理テストは直感でやるべきだが、そんな前提は脳内に既に無い。
終業式の前日、最後の授業で国語課担当の担任が、思いついたように既存の宿題にこれをプラスしたのを思い出す。最近やたらと心理テスト本を持ち歩いているなとは思っていた。まぁいつもの遊びだろうと軽視していたソレに、まさかここまで苦しめられると誰が思おうか。
「で、赤がサキで、紫が俺、ね」
私が素直に白状する訳が無いとお分かりのマキは、カタカタとPCで調べ始める。
場の雰囲気のヨロシク無さに、冷や汗通り越して脂汗が滲んできた。
ヤ バ い……!!
何かを予知したサキは、ニヤニヤしながら口元に手を充てている。私だけなら遠慮せず指さして爆笑するところを、この態度。ヤツは判っている……自分に充てられた色の意味を!!
妙に静かな室内に響いていたタッチ音が途絶えたトコロで、マキがふーん。と意味ありげに呟く。
「くっ、アンタも馬鹿ねぇ。じゃ、私行くとこあるから。エイコ、お大事に〜」
って何が!!?お大事にするところなんて、今のところ健康な私には無いんですが!何の予告!!
サキが退室したのを見送って、マキの腕に囲まれたままだった私は世を儚みたくなった。
顔を両手で固定して覗き込んでくるマキの笑顔が、眩しすぎる……!
「で、エイコ。実地体験とお仕置き、どっち先にする?」
とっとと消えたイトコは、やはり心理テストの結果を知っていたようで、この後の悲劇を憂えて帰宅は深夜になったとか。
番外編初作成です!
いつも来て下さっているかも知れない方(←自分が落ちこまない為のネガティブ保険)、偶然通りかかった方、こんにちは!!
タイトルはまんま、エイコの悲劇(笑)ていうかこの話、エイコの悲劇で構成されていると言っても過言じゃないような……(←ヒドイ)
時系列は本編後、もしくは前でもイケるような……?今修正中なので、後々(かなり現状と)変わると思いますが……
ちなみに深層心理の色イメージで検索して、適当にいろんなページ参考にしたなんちゃって心理テストなので、すみません(とりあえず謝る)
サキが気になったのは担任と××だからなのかただエイコをイジメたかったのか、はたまた別の意図があるのか……!!話は膨らむのかどうなのか……!!←断言をしない事を覚えた作者(笑)
それではまだまだ寒いので、皆さまご自愛ください(>∀<)