怪奇事変 アイドル
アイドルのコンサートとか行ったことないけど、やっぱりああいう場所って雰囲気とか楽しいのかな?
全く知らないで行くのも、失礼なので誰のコンサートに行くとかはないけど、ちょっとだけ気になりました。
第十八怪 アイドル
『超新星アイドル爆誕!加速が止まらない新生ユニット!!その名も――VeRy~!!』
『皆さん!VeRy~!!今日もキュートな私達が歌ってみんなに苺の様なあま~VeRyを届けちゃうぞ♡』
『それでは新曲、VeRyで「君にLove VeRy」!!ミュージックスタート!!』
そうして流れるのは今若者の間で流行っている新生ユニットVeRy。
出だしは数年前、エンタメのテレビ番組で彼女たちの人間性を知り、そこから歌もブレイクした。
どのアイドル達にも負けない程の人気を誇り、日々熱狂なファンの層が出来上がり、今ではインタネット上のコンテンツでも1位をとる程の実力。
黄金世代の始まり、時の人と呼ばれ、1日1日がファンの増える日々――そう、彼女たちは、現状に酔っていた。
「はぁ~あ、おつかれ~」
「マネちゃん、次のスケジュールは~?」
「ええ、次は福岡で――」
「課金課金♪」
「いつもゲームばっかやって楽しそうね、杏樹さん」
「現実ばかり見てる朱音ちゃんとはちゃうの♪」
「やめな、杏樹も朱音も互いに挑発しないって話だったろ」
「翼紗もいつまでもリーダー面すんなよ、アタイがポジ奪っても良いんだよ~?」
「お口臭~、那由他がリーダーとか1日で崩壊じゃん」
「杏樹……テメェ」
「あの、皆さん、落ち着きましょう~」
「海里は優しすぎなのよ、もう少し厳しくしませんと」
このアンバランスにも似た5人こそユニットVeRyの裏の顔と言うものだ。
ステージ上では息は合っているが、互いにその隙を狙って自分が如何にファンに認められ、好かれるか、そしてその存在意義を確保できるかと互いにチームとしてではなく、ライバルとして蹴落とそうとしている。
「それでは失礼します」
「「「「「おつかれさまです」」」」」」
そうこの5人を纏めているのは1人のマネージャ、菊池奈美、デビューから2年で快進撃を作り出したVeRyのユニットのマネージャーだ。
とは言え、彼女はスケジュールの管理をしているだけで実力は彼女たちのモノ、自身が貢献したとは微塵にも思っていない。
だからこそ作れるのだ、自分が役立たずで、全く使えない、終いには顎で使われるようなマネージャーと言う立ち位置が。
ため息を付きながら廊下を歩いて居ると警備員に止められている、恐らくファンであろう人物が声を高くして叫んでいた。
「杏樹ちゃん!ボクの杏樹ちゃんに会わせて!杏樹ちゃんも会いたがってるはずなんだ!!」
「……」
ファンができるのは嬉しい、彼女たちの取り分も増えるし、ビジネス的な視点で見ればこちらの給料も上がる。
だが、どうしてもこう言う場面に遭遇すると菊池は抵抗がとてもある。
「(どうせ付き合えないし、中身みたら最悪の塊なのに、熱心すぎでしょ、もっと違う所にお金使えば良いのに)」
どうしても思ってしまう、何故彼らは叶わないかもしれない恋?或いは憧れに手を伸ばし続けるのか?
いや、それは冒涜だ。
止めようと踵を返す中で、その男性と目が合った。
「君!いつもVeRyと一緒に居るマ、マネージャでしょ!杏樹ちゃん!杏樹ちゃんに会わせて!!一度でいいから!!」
静かに会釈をしてそのまま立ち去る。
後方からは「杏樹ちゃんに会わせろ!!」と言う声が木魂しているが、完全に無視し、唯一1人に慣れる環境、休憩室で今後のスケジュールに目を通しながら考える。
「お疲れ様です、今後のスケジュールについてご説明させていただきます」
「それって内々の連絡とかじゃダメなの?メールとか」
「貴女がちゃんと聞かないから私達まで聞くハメになってるんですのよ、杏樹さん」
「お前らが喧嘩ばかりしてるから進まないんだろう、マネージャ、早く次の話を頼む」
「そう言えば、アタイ聞いた話だけど外で杏樹のファンがまた騒動起こしてるんだって?面倒事ばかり起こすよね~杏樹って」
「皆さん、そろそろお話聞きましょうよー」
揃いも揃って言いたい放題だ。
菊池の話など誰も聞こうと思わない、そんなレベルの会議。
「そう言えば、最近面白いサイト見つけたんだよ、コレ、殺したい奴の名前を入れる――」
「那由他、お前はいい加減にしろ」
「試しに翼紗の名前入れても良いんだよ?本名で」
「話にならないな、リーダーとして言わせてもらうが次のリーダー候補は海里で決定する」
「え!?」
「そりゃないっしょ?海里ちゃんダンスあんま上手くないし、ボクの方がダンスも現にファンだってボクを愛し――」
「悪いが自分に酔っている自覚のない奴に、今後のVeRyを任せる事はできないな」
「はぁ?」
始まった、喧嘩の合図だ。
翼紗は今後のキャリアの為、VeRyを近々脱退する予定だ、理由は曖昧で理解不能だが彼女曰く「近づき過ぎたから」らしい。
「私が居なくなった後は4人でユニットを組むことになる、リーダーになりたいと思う願望を持つなとは言わない、だが今のままでは近い内にVeRyは崩壊する」
「……な~んかよくわからね~理由で脱退する翼紗ちゃんには言われたくないな~アタイは」
「……好きに言えば良い、マネージャ、すまないが私には別にメールを渡していただけないだろうか?
折角招集している中で話を聞きたいのは山々なんだが、別件で外に出ないといけない」
「か、畏まりました、それでは皆さん、予定ですが――」
淡々と説明を続ける、外では翼紗が出た事で歓声が沸き上がり、徐々に遠ざかって行くのを確認できると、もしかしたら引き付けてくれたのかもしれないと心の中で、翼紗に感謝する。
そうして1時間が過ぎた後、表ではなく、裏口から杏樹、朱音、那由他、海里を乗せた車が発進する。
「……ついて来てますね」
「ダミーを何台か用意しておりますので、上手く撒いて帰路に着きましょう」
運転手の言葉に頷く菊池はバックミラーを見ると、先ほど杏樹を指名していたファンが後ろの車に乗っている事を確認する。
「え?」
「どうしたの~」
「い、いえ、杏樹さんのファンです」
「杏樹さん人気ですね」
「てか後ろに乗ってる車のあのデブじゃね?」
「ね、熱心ですね」
「うげーキモ、デブでも清潔感のないデブは無理、アイツ絶対爪垢とか体臭凄そう……」
それは本人達が知り得ない事ではあるが、事実であった。
近くに居なかったとは言え結構な刺激臭がしたので碌に風呂に入っていないのは直ぐに理解できた。
今後、ライブを行う際は身なりの注意喚起も入れておくべきだと菊池は思った。
「まぁ、お似合いじゃないですか~」
「……朱音、殺すよ?」
「ならこのサイト使えよ杏樹!アタイが見つけたこのサイトに名前を――」
「ゲーム以外に課金はしない」
「あはは……皆さん、本当に元気ですね……」
多分、この中での心境を一番理解しているのは海里ぐらいだろう。
本当に疲れる、本当に。
「行きつけのBARなんだってな」
「VeRyのリーダーね……翼紗って呼んだ方が良いか、それとも――」
「翼紗で頼む、どうせもう直ぐ降りる世界だ」
「それ以降どうだ?」
眼鏡をかけた男はグラスに入ったハイボールをロックで飲みながら話すと、ため息交じりに翼紗は話し出した。
「鮮明に“見える様に”なった」
「だ、ろうな……憧れや嫉妬は表裏一体、目立てば目立つほど、より拠り所になっちまう」
「……このままだと、私はどうなる」
「精神状況は悪化するだろうな、真面な日常生活も送れなくなってくる、対処は1つ――」
「“霊術院”か……結局、逃げた先にあるのは“そっちの道”しかないのか」
笑いながらバーテンダーから渡された酒を口に付ける。
「VeRyを抜ければ、他の4人に危険が迫る可能性が出てきた」
「なるほど、そこで俺に仕事を頼みたいって?」
「お前なら何人救える?」
「最低1人、最高2人……1人はもう救ってるから、あの中からもう1人だけだな」
「……他の霊媒師達は?」
「み~んな出陣状態だって、誰も手を貸してくれねーよ」
「…………そうか」
静かに酒を飲みながら答える。
翼紗は“見える側”の人間、過去生まれてからこの歳まで年々濃く実態として掴めるようになった。
親の都合で一時的ではあるが“霊術院”で保護してもらった経験がある事から“彼岸の向こう側”に行った事のある者達を知っている。
ここ最近になって頻発化した霊現象――それは隠しようもなく大きく、膨れ上がっている。
それは“期待”と歪んだ“願望”が生み出した“生霊”と呼ばれる“霊障”の事を指す。
芸人やアイドルなどをやっていると皆が原因不明の体調不良をきたすのがその原因だ。
「普通に学生生活を送ってれや、こうはならな――」
「時間が無い、あの中で今一番危険なのは?」
「えっと……あん、き?」
「杏樹だ」
「その子だな、ますます“生霊”が強くなってる、本人の調子は?」
「隠しているようだ、このままだと――」
「“生霊”を甘く見てると死ぬかもしれないからな、まぁその娘以外は、悪いが助けられねーぜ」
「…………そうか」
「VeRy、アイドルとしては成功だが、霊媒師として言わせればとんでもないモン作っちまったな、とっとと解散させれば良かったものを」
「……その通りだ、後悔している」
コップの中身を全て飲み干し、大胆にコップを置くとその場を立ち去る。
「おい、代金!」
「付けだ」
「はぁ!?」
「私が“霊媒師”になって稼いだら返す」
ドアが虚しく開き、風の勢いで強く閉まる。
それを見ながら眼鏡をかけた年を取った男は「マスター、もう一杯」と言いながら酒を継ぎ足すのであった。
夢の中で大柄な男が自分の前に居る。
その男は卑しそうな表情を浮かべ身体を弄り、足を無理やり開かされる。
あのデブだ――あの何時も応援してくれているファン、本来なら感謝しかないが、最近コイツが夢に出て来てから体調がすこぶる悪い。
最後は激痛で目が覚める、身体が硬直し、足が肉離れを起こして目が覚める。
ボサボサになった髪を洗いに布団から出ようとすると、肉離れで痛んだ筋肉が悲鳴を上げ、その場に転倒してしまう。
「最悪、また夢の中で犯された……」
男に身体を貪られる夢、1年前から毎日の様に続いている悪夢。
精神科を受診し薬ももらっているが何の解決にもなっていない。
医師は単なるストレスからくるものだろうと軽くみているが、此処に来てもっと酷くなった。
昨日のライブもそうだ。
終了間際、あのデブが乱入してきそうになり、係員に止められたものの、楽屋の前で騒いでいたのを思い出す。
帰りの車、後から付いてきた車に乗っていたあのデブの男――アイツさえ居なければ。
でもそれ以上に――嫌なモノを見た気がした……あの“黒い影”の様なモノが急接近してきたのだ。
あまりにも急な事で驚いてその場で叫び、車内で大騒ぎしてしまったが、あのデブ男よりも、あの“黒い影”の方が不気味だった。
そんな事を考えていると、ノック音が聞こえ、急いで立ち上がるも、痛みで立ち上がれず、四つん這いに這って進み、衣類をとり、その場で着替える。
「入るぞ」
本人の許可もなく部屋に入ってきたのはリーダーの翼紗だった。
「リーダーが何の様?海里ちゃんを次期リーダーに宛がって辞める奴が」
「…………話がある」
「はぁ?」
「最近、眠れてないだろう?」
「寝てますけど……」
「化粧でクマを隠しているだけで身体もやつれてきている、原因はあの――」
「ああもう!その話はしたくない!」
そう言ってベットにダイブし、布団に包まり耳を閉じる。
こうする事でリーダーはため息を吐いて部屋を出ていく……いつもなら。
「……毎日、あの男に蹂躙される夢でうなされているんだろ?」
「ッ!?」
「ロケバスで、お前が寝ている時、魘されているのを見た」
「だ、だから!?」
「他のメンバーの目は欺けても、私の目は欺けないぞ、杏樹、近い将来お前は本当に助からなくなる」
「きょ、今日は饒舌ね、いつもなら呆れて帰るのに――」
「それだけ深刻なんだ、杏樹。このまま行けば精神が狂って死ぬことになる可能性だってありうる」
「あのさ、さっきから黙って聞いてればアンタなんなの!?医師の免許も持ってないでよくそんな――」
「昨日“黒い影”を見た」
「!?」
「杏樹も…見たんだろ……“黒い影”」
「……翼紗、アンタも見える…の?」
「霊能力なんて信じられないけど、私も“見える側”だ」
「はい、はい、わかりました、失礼します」
電話を切り夜景を眺めながら買った缶コーヒーのプルタブを開け、飲む。
じんわりと苦みがある芳醇な豆の香りが鼻からすきぬけ、安心感をもたらす。
「解散……か」
菊池は誰に語る事もなく独り言のように話す。
いや、実際独り言なのだが今担当しているアイドルグループVeRyの解散、それは翼紗が提案した内容だった。
当初は翼紗を除く全員が反対の意を示していたが、今客観的に見ると、まるでスーパーのバーゲンセールの商品を手に入れる為、その争奪戦に参加している主婦の様だった。
『マネージャ、私は1年後にこのVeRyを卒業したいと思います』
唐突な案、当初は本当に困惑した。
だが彼女は確かな言葉でしっかりと伝えるのだった、脱退の意を。
それ以降は前述した通りにもある様に、リーダーの座を巡って争奪戦を繰り広げている。
約1名を除いては。
だが――
「こんばんは」
「チーフ、お忙しい所すみません」
「気にしなくて良いよ、話は聞いているからね」
「はい、それで――海里さんの事なのですが……」
「ふん、辞めたいと言ってきている訳だね?」
「はい、今のチームの雰囲気が良くない事や、海里さんは翼紗さんを慕っていたので……」
「ふん……翼紗君と言い、海里君と言い、今ようやく軌道に乗ってきたところで……」
「私も本人達には何度か言いましたが、翼紗さんに限っては、断固として脱退の意思を固めていまして……海里さんは悩んでる様子ですが――」
「菊池の勘……だと脱退するかもしれないっと」
「勘っと言うより現場の雰囲気ですね、翼紗さんの発言がトリガーとなって今は誰が次のリーダーになるかで、チームと言うより個人主義に傾いている様な……」
「なるほど」
チーフと呼ばれた男は数歩歩き、夜景を見ながら伝える。
「私も何人ものアイドルを育成し、デビューまで送り出せたのはもう何十名か……だが、似たような事はあったよ」
「榊原チーフはその時どうしたんですか?」
「どうしたこうも、本人の意思が大事だからな、プロデュサーにはどやされたが、金儲けに目がくらんだ狸ジジイ共の言いなりなるのもごめんでね、その娘の未来を買った」
「……私も、そうするべきなんでしょうか?」
「さぁどうだろうな~、俺と菊池じゃそもそも考え方も違う、同性だからこそ分かる悩みとかもあるだろうし、話す時間があるなら話してみれば良いんじゃないか?」
「話す……ですか」
「対話だよ対話、何事も対話抜きじゃアイドルだろうが何だろうが、対話無くして成功なんて収められない――だから今、菊池のチームはバラバラなんだろ?」
「……そうですね」
悩みは2つ、1つは意思の硬い翼紗さんに残ってもらいリーダーして牽引してもらう事。
2つはそんな影響力を受けている海里さんを翼紗さん抜けでもやっていけると本人のアイドルしての自覚を持ってもらう事。
「山積みだな~、サービス残業なんてしたくないのに……」
残りのメンバーも癖のある人材が多いが、それはこの両名が解決してから取り掛かる事にした。
「そう言う事で、しばらく翼紗さん、海里さん、そして杏樹さんは体調不良との事です、3人が居ない間皆さんも体調を万全に――」
「マネジャーさん、私も一言良いでしょうか?」
「朱音さん?」
「……アイドルVeRyは成功でした、でも最近マネージャから見た私達はどうでしょうか?」
「そりゃアタイ達は成功~し――」
「失敗……ですよね?」
「……」
「おいクソアバズレ、アタイ達の何処にそんなバカみてーな思考が飛ぶんだよ」
「では聞きますが、最近、私たちは居なくなる翼紗さんの席を巡って互いを蹴落とそうとしているじゃないですか?」
「蹴落とすって、まさかまさか、そんな恐ろしい事考えちゃってたの、朱音ちゃんは?」
「そもそも、今この場に翼紗さん、杏樹さん、海里さんが居ない時点でアイドルとしてのチームは完全に崩壊しているでしょ?」
「……それには反論の余地もありません、朱音さん同様、私も崩壊していると思います」
「……ふーん」
何処かつまらなそうに不満を垂らす那由他、そして確信をついてきた。
「それって無能なマネージャのせいじゃねーの?」
「ッ!?」
「……無能かどうかは置いて置くとして、私達にも非はあります」
「なくね?」
「あるでしょ?菊池さんの話を聞かなかった事」
「でも実際問題、マネージャとしてアイドルをプロデュースするって事に関しては、何かしたってよりも、アタイ等の実力で勝ち取ったものじゃね?」
「那由他さん、それを自惚れと言うのです」
「自惚れて何が悪いの~?呪いのサイトにアンタの本名書いて呪うぞ~?朱音?」
「どうぞお好きに、その様なオカルトは信じませんので」
やはりこうなるのか、だが一番キツイ所突かれた。
確かにアイドルして彼女達がデビューする切っ掛けを作ったとは言え、此処までの実績を積み上げてきたのは紛れもない彼女達の実力だ。
私がどうこう言える立場ではないのかもしれない……でも――
「私はもう一度、VeRyの、皆さんと一緒にアイドル活動をしたいです!」
「……何言ってんの?」
「私は確かに未熟です、でも皆さんの“声を聞く”事はできます」
「それってガキでも――」
「那由他さんの仰ろうとしている通りガキでもできる事です、でも那由他さんがオカルトが好きで、本当はみんなと自分の趣味を共有したい事を知っています!」
「ッ…な、なん」
「朱音さんはお姉さんぶってますけど、本当は人一倍責任感が強くて、そして本当は臆病な人間です」
「し、失礼ですわ!」
「でも、そんな2人の二面性を知ってるからこそ、私は皆さんに此処で消えて欲しくないんです、もっと輝けると思います!」
「「……」」
両名は熱意の籠った菊池の声に圧倒され黙る事しかできなかった。
「もう一度輝きませんか?私達、いえ、貴方達なら絶対に最高のアイドルに慣れるって、何より私が信じてます」
「……だったらここにあの3人連れて来いよ、そうじゃなきゃ話は進まねーじゃん」
「……はい、やってみます」
「那由他さん、私達も何かできないかやってみま――」
そう言いかけた朱音は驚いた様子である場所を見ていた。
そこは控室の出入口、そこには何もないが、朱音の顔は真っ青になっていた。
「……那由他さんはオカルトを何処まで信じてますか?」
「あ?全部」
「なら見えますか、アレが」
「はぁ?」
そうして指さした場所に那由他と菊池は目線を映すも何もそこには映っていなかった。
「あの……朱音さん?」
「那由他さん、貴女なら見えるでしょ?」
「……いや、脳みそぶっ壊れた?」
「……ありえない、なんで……」
そう言いながら部屋の隅に行くと、そこで蹲り、肩を震わせている。
「朱音さん?大丈――」
「触らないで下さいませ!」
凄まじい手叩きで払われ、手が真っ赤に腫れてしまう。
そんな光景に流石の那由他も只事ではないとこちらに近づき話す。
「朱音……なんか見た?」
「見…た……2年前に応援してくれた、ファンの人……私推しだって握手会に出た人」
そう言うなり、菊池は急いで出入口を開けて辺りを見渡すが誰も居なかった。
念の為、不審者が此処に入ったかどうか警備員に聞いた所誰も入っていないと言う事だ。
「……」
『昨晩から杏樹の様子がおかしい、何かに魘されているような、私達に見えない何かと戦っている様な……』
以前翼紗さんから聞いた発言、そして現在。
そして翼紗さんからもこんな事を聞いた事がある。
『私も、最近誰かの視線を感じる……タクシーでも電車でも、アイドルになって人気になったからってのもあるかもしれないけど……そう言う目線じゃなくて――』
――誰かに恋焦がれ続け、それが憎しみになった様な視線――
『表現が抽象的過ぎるのは分かってるけど、上手く纏まらない様な視線、兎に角、気持ち悪い感覚』
もしそうなら、翼紗さんが辞める理由、杏樹さんが体調を崩した理由、そして今、朱音さんにしか見えない"何かが見えてしまった”理由――全て繋がってくる。
だとしたらそもそもアイドル内部よりも一番マズいのは……外部からの何らかの嫌がらせ。
例えるなら杏樹さんの様なコアなファン、ストーカーなどが一例として挙げられる。
「今日は家まで送りますね」
「……お願いします」
「那由他さんも、念のため」
「念ってなんだよ!アタイだけそんな被害に遭わない様な言い方じゃないか!!」
「遭わない方が良いに決まってます!原因が分からない以上、言う事は聞いてもらいますからね!」
「んだよ~、何が起こってんだよ~」
不満を口にしながらも一緒に車に乗ってその日は2人を送迎した。
事の顛末をチーフやプロデュサーに伝えた所、案の定プロデュサーは顔を真っ赤にして怒っていた。
『何とかさせろ!折角の利益が台無しだ馬鹿タレ!翼紗を辞めさせるのもだ!引き留めてもう一度VeRyで売りに出せば当面はかなりの会社の利益になるんだからな!!』
そんな様子をチーフは「やれやれ」と言った様子で見守っていたが、流石にあの状況でもう一度舞台に立っても、観客は喜ばないだろう。
その場返事で返したが、それを察したチーフからは事情を聞かれた時に、1つだけまたアドバイスをもらった。
『俺が以前担当していたアイドルにもあった事例だ、そん時は休ませてたが……あんまりにも酷い子は一緒に参拝に行ったな……それでも治らなかったら“霊媒師”に頼んでお祓いをしてもらった事もあったな、なっつってたっけな……めちゃ酷い子だと“霊術院”って所に入って、しばらくしたらスッキリした表情で帰ってきたぞ、電話番号だけ渡しとく』
だがその電話番号は既に変えられており使われていなかった。
そうして何もできない日々が続く中で、最悪の事態が起きるのだった。
某A病院都内にて緊急搬送されたのは――海里であった。
「先生、容体は!?」
「疲労……と言いたい所ですが、原因は不明です、過度なストレスによる体調不良と見た方が良いですが、コレを見てください」
「……手形?」
「誰か、知り合いと口論になっているなどと言う話は聞いておりませんか?」
「い、いえ……その様な事は、あ、すみません、電話で、ちょっと席を外します。朱音さん、代わりに良いかな?」
「はいマネージャ」
「もしもし」
案の定プロデューサーからの叱りの声だった。
体調管理まで整えるのがマネージャの仕事だろうっと叱責され、もし今後、このような事が起きた場合はマネージャーを変えるとまで言われてしまったのだ。
「はい、はい……申し訳ありません、失礼します」
そうして電話を切った後に残ったのは、プロデューサーからの叱責よりも海里の容態だった。
「とりあえず、海里が目覚めるまでこの……」
「手形については秘匿しておきましょう、那由他さんは?」
「あの子とは喧嘩してしまって……私からの連絡は全部無視なんですの」
「わかりました、私から連絡を取ってみます」
そう言って携帯を取り出し那由他に連絡をかけるも一向に出てくれる気配ではなかった。
念のために留守電に居れたが伝わるかどうか。
そんな中、駆け付けてくれたのは意外にも翼紗さんだった。
「マネージャ!海里は?」
「ここに――」
乾いた音が院内に響き渡る。
それは朱音の平手打ちが翼紗の顔に当たった音だった。
「良くもまぁ、ミーティングも出ずに緊急事態でようやく登場って、貴女、どこまで失礼な方なんですの!?」
「……すまない」
「まだ貴女はVeRyのリーダーなのですよ!?その事を忘れてもう他人気取りですか?」
「朱音さん、院内だから此処は――」
「そもそも、貴女が辞めるなんて言いださなければこんな事にはなってなかったんです!」
「……ああ、すまない」
そう言って、まるで此処から邪魔者を追い出すばかりの対応をする朱音に翼紗もその場から離れる。
今はこうした方が問題が大きくならずに済むが、溝は深まるばかりだ。
最終的にストレスによる体調不良と言う診断だが、海里は1日中目を覚ます事は無かった。
唯一安心したのは心電図モニターの波が安定してる事が、彼女が生きている証でもあった。
「アハハハハ!やっぱりアタイに間違いはなかったんだ!」
一室に響く声、蝋燭、謎の方陣、そして儀式などに使われている供物。
教典を片手に彼女は高らかに叫ぶ。
那由他は元々アイドルと言うよりもオカルトオタクで“幽霊”や“悪魔”と言った存在を信じて、そして信仰していた。
「見える、見えるよ!アタイは新しい世界を見たんだ!」
1人で叫ぶ、那由他の目線の先には“黒い影”が空中に漂っており、それが一斉に那由他に襲い掛かってくるも、それを那由他が認知できるはずもなく、気を失うのであった。
数日後、部屋でリストカットをしている那由他が見つかった。
何故そのような行為に走ったのかは不明だが、彼女は大量の血を流してしまい、直ぐに緊急搬送。
その後、一命を取り留めたが“悪魔”と言う単語を呟くのみで天井を見つめている目線がまるで何者かを見ているかのような――朱音と同じ様子だった。
その更に数日後事態は急変する、朱音も大怪我を負う事になってしまった。
自己の原因は階段からの踏み外しによる転倒……だが、実際はファンの1人が朱音を見た途端飛びつくように接近し、巻き込まれるような形で転倒したのが原因だ。
その拍子に2人は雪崩れる様に転倒をしてしまい、朱音は片足、両手首の骨折、もう一方のファンは頭部の頭蓋骨破損と脳震盪による重症。
もうVeRyは――壊滅状態だった。
これを受けたプロデューサーは菊池をマネージャから降ろさせ、別のマネージャへと転向させ菊池は当然左遷された。
「チーフ、すみません、私は……」
「気にするな、まだ2人残って――」
その合図と共に菊池の携帯から電話が鳴り響く、電話主は翼紗からであった。
「もしもし」
『マネージャ、すまない、今朝皆に挨拶しようと周っていたんだが……朱音の事は聞いているか?』
「朱音さんがどうかしたんですか?」
『……病室でどうやったのか、首を吊って亡くなっていた、私と看護師が気づいて直ぐに人工処置を行ったが……』
「……直ぐに病衣に行きます!」
『ああ、頼む』
そうして電話は切られ、病院に向かう準備をする。
「何かあったのか?」
「ええ、朱音さんが病室でくび――」
と言い終える前に、榊原チーフの真横に見知った顔が横切っていた。
それは那由他であった。
「那由他ちゃん!?」
「あ、おい!那由他?おい!菊池!!」
チーフの静止も聞かず群衆に紛れた那由他を必死に探すと、ある噴水の場所でざわめきがおきる。
嫌な予感がした菊池はそのまま人ごみをかき分けて進むと、那由他が居た。
周囲からはVeRyの那由他と言う事で知られている為、公然の場で堂々と現れたアイドルにみんな興奮している具合だったが、菊池は那由他の様子が一段とおかしいと気づく。
目の焦点はあっておらず、謎の黒い教典の様な本と、片手には――
「那由他ちゃん!」
「おい!包丁持ってるぞ!?」
「危ない!下がって!」
「距離をとれって、凶器持ってんだよ」
「アイドルが凶器持って何すんだよ……」
皆が不安になっている中、高らかに宣言する那由他。
「我!此処に“悪魔の降臨”の儀のため、我が肉体を捧げる!!」
意味の分からない台詞と共に、持っていたナイフーー自身の首を掻っ切った。
「那由他ちゃん!!?」
「おい早く救急車を!!」
駆け付けた榊原チーフの計らいで周囲の人が助けに入ってくれる。
「誰か!此処にお医者様はいらっしゃいませんか!!」
声をデカく叫ぶように言うも、誰も出てこない。
ハンカチは既に血で濡れて、手に血が付着してきている。
「く、ろ…い……か、げ」
「那由他ちゃん!?喋っちゃダメ!!」
「あく、ま……ば、んざ――――」
「那由他ちゃん!!」
救急車が来たのは10分程ではあったが、深々と切られた喉元と、流血した血によってほどなくして那由他は死亡した。
同刻、VeRyの新しいマネージャとなった人が報告。
――海里が病院内で心不全で死亡した事が発表された――
これを受け、会社は代々的に謝罪会見に。
何故この様な事態になったのか?
時の人となった夢の人材を死に至らしめるプレッシャーや、そのケアを怠ったマネージャーの対処が悪かったのではないかと。
残りの2名はその後、詳細は不明となっており、死亡した記事は出ていないが、ネットの憶測で死亡されたと処理されていた。
これに食いついたネット民や記者は死亡すら隠蔽する事務所として大体的な公開処刑が行われた。
丁度、その頃からか……菊池の周りでも不可解な事が起き始めていた。
謎の“黒い影”を見る様になったのだ。
榊原チーフに相談してもそのようなモノは見えないとの事、だが……那由他の死の間際「くろいかげ」恐らく、そう言っていたのだろう。
その日から、菊池も誰かに監視されている様な気配をずっと感じている。
そして徐々に体調を崩していき、終いには――外に一歩も出歩けることができなくなってしまった。
『ニュースです、都内に住む単身女性の遺体が部屋で発見されました、彼女は元VeRyの担当マネージャであり――』
「“生霊”は個人的には“悪霊”よりひでぇもんだ、あの場の全員助ける事もできたが、どうして上層部は間引いたんだろうな」
「必要な犠牲……って事で割り切ったんだろう、匿ってやれば少しは楽になったのによ」
「上層部的には“霊術院”の場所を特定されたくないって所だろう……どうせ“霊媒師”にならない人間は要らないって魂胆だろうよ」
「草薙、お前も苦労するな」
「目の前で救える命を見捨てろって言われてるんだ、“霊術院”じゃなくても警察として恥だ」
「けど2人は救えた、幸いにも適応能力も高い、約1名はまだ現実を受け入れたくない様子だけどな」
「……受け入れてもらわないと困る、せめてこれ以上は――犠牲はごめんだ」
草薙はゆっくり席を立ち、金銭を机に置いて出ていく。
置いて行かれた人物は翼紗と話していた眼鏡をかけた男だった。
「栄光ある国民アイドルVeRyのメンバーから犠牲を出さない為に、乾杯」
第十八怪 生霊に憑りつかれたアイドル
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