53.暗い穴の先に
走っていると、城の広大さが足を通じてひしひしと伝わってくる。
カルニアを追っていると、中庭にたどり着いた。
城の外壁に囲まれたその庭園には、彫刻が施された石造りの噴水があった。そこを起点に砂利の小道が放射状に伸び、その上をウィリアムは駆ける。
道の間には芝生が生え、花々が咲いている。オリビアの部屋に落ちていた赤い花びらも、ここにあるものと思われる。
「あったぞ、あの噴水の近くに――」
そう叫んだ瞬間、彼女は噴水の手前で足を止めた。
「どうしたんです? なに、か……?」
言いかけて、ウィリアムも口をつぐむ。
噴水の近くにある芝生の上に、蝋を入れたランタンと肩履きの革靴が転がっていたのだ。
「これは……」
「ああ、間違いないな。あの侍女はやっぱりここに来てたんだ! しかもずいぶんと慌てていたみたいだぞ」
ランタンは横倒しとなっており、革靴はまるで脱ぎ捨てたかのように裏返しだ。さっきの侍女のタイツが汚れていたのも、ここを歩いたからだろう。
「みたいですね……。で、これが水路の入り口ですか?」
噴水の周りには、囲むように石畳が敷かれていた。そこに大きな四角い穴が掘られている。
穴のそばには、さびた鉄格子の蓋が置かれてあった。大穴を閉じるための蓋だろう。
「ああ。多分こっから水路まで降りたんだろうな。あの侍女も、ユナティアーナも」
彼女は深刻そうに言った。
四角い開口部をのぞきこむと、真下に向かって錆びた鉄のはしごが伸びている。暗くて底が見えず、焦りがこみ上げてきた。
「本当に……本当にこんな狭い所にユナが?」
抑えきれず、震えた声が口からついて出る。
「それを行って確かめるんだろ! とにかく行けば分かる」
カルニアは落ちていたランタンを拾って手に持ち、垂れ下がるはしごを伝って降りていった。
「はい、分かってます……!」
自分の両頬をたたき、気持ちを切り替える。
暗い穴の下から冷気が這い上がってきた。このような場所にいたら、気分が悪くなってしまう。もしユナがいるのなら、一刻も早く連れ戻さねばならない。
ウィリアムは腰にかけた剣の柄を強く握りしめた。




