47.行方の手がかり
カルニアの背を追っていると、重厚な両開き扉が見えてきた。
すると、彼女はその前で立ち止まる。
「プレッツェル卿、あんたはそこで待ってろ!」
そう言いつけた後、彼女は扉の奥に入った。
息切れをしながら、ウィリアムは両膝に手をつく。
カルニアが入った荘厳な扉に目を向けた。複雑な装飾が施され、古びた色合いをしている。この奥がユナの寝室なのだろう。
しばらく待っていると、扉の奥からカルニアは出てきた。3冊の本を両腕で抱えている。
「こいつらが大事な手がかりになるはずだ。ベッドの上にあった」
カルニアはそれらを絨毯の上に置いた。3冊も積み上げると、足首よりもやや高い。かなり厚みがある。表紙には小さな傷があってざらついており、角は擦れて丸くなっていた。長く使われていたようだ。
「それって、ユナの手記?」
「ああ。ここに、あいつの体験したこととか思ってることが書き記されてるはずだ。ありのままにな」
そう言われて、ユナに教えてもらったことを思い出した。5年前の旅の途中に会った行商人が、書いていたものだ。
あのとき読んだものには、1日分の出来事が1枚の紙に記されていたが、これだけあれば1年分以上になるだろう。
「それって、ユナがよく書いてたっていう……」
「なんだ、お前も知ってたのか。そうそう、子供のときからこれがユナティアーナの数少ない趣味でな」
「今でも書いてるんですか?」
「みたいだぞ。昔に書いてたのよりずっと分厚い。特に最近は体のこともあって寝室にいることが多いからな。……これが今日の分だ。書いてる途中で終わってる」
カルニアはそれらの内の1冊を手に取り、めくりながら見せてくる。そこに書かれていたのを見て、ウィリアムは目を大きく開く。
「こ、これって、ソス王国の文字じゃ!?」
5年前までウィリアムが暮らしていた国の文字だ。ただ、文字がひどく崩れていて、書いてある内容は読み取れない。
「なるほど。やっぱりソスの文字なのか。ユナティアーナがよく他の国の言語も勉強してるのは、これのためだったんだな」
「違うと思いますけど……」
おそらくそれは外交に役立てるためだろう。そう言いかけたところで、カルニアが小さく口を開く。
「いや、絶対そうだ。多分……ユナティアーナはこれを他人に読まれたくないんだろう。主にあたしに」
「団長さんに? どうして?」
「ずっと昔に、あたしはあの子の手記を勝手に読んだことがあったんだ。あいつがあまりにも楽しそうに書いてるのを見て、どうしても気になってな」
「それって、あんまよくないんじゃ……」
手記は、自由に筆を走らせた私的な文章であることが多い。手記の類を書いたことのないウィリアムの想像に過ぎないが、独り言を誰かに聞かれているのに似た羞恥を感じるのではないだろうか。少なくともいい気はしないはずだ。
「ああ。顔を炎みたいに赤くしてた。『お師匠様なんか大っ嫌いです!』って怒鳴られた。それから数日の間は口も利いてくれなかったな」
小さくため息をついて、カルニアは両肩を下げた。
まさか、あの温厚なユナが他人にそこまで怒りを露わにしたとは。全く想像もつかない。
「……そんなに読まれたくないんですね」
「この間に見たときは、にやつきながら書いてた。いかがわしい内容が書いてあって、だから読まれたくないのかもしれんな」
「え? あのユナが? 何かの間違いでは?」
しかし、ユナがそのときに何を書いていたのかはウィリアムも気になった。
「怒られて以来は読んでないから、あたしにも分からん。だが、この手記をたどっていけば、ユナティアーナの居場所が分かるかもしれんぞ」
「かも、しれませんね」
手記には書いた人の思いが、赤裸々に表れているはずだ。その人が何を考えているのかを知るには、最適だろう。
けれども、勝手に読むのは、彼女の秘密を無理やりに暴くようで気が引ける。
「お前、元々はソス王国から来たんだったな? なら、早く解読してくれ。あたしは他に手がかりがないか探すよ」
カルニアはそう言い残し、再び寝室に入っていった。
積み上げられた3冊の手記を見つめる。今の時点では、これが、ユナの居場所を解き明かせる唯一の可能性だった。もし彼女が自らの意志で失踪したのであれば、よりいっそう読むべきだ。
引け目を感じるが、ためらってはいられない。
(ごめん、ユナ。ちょっと読ませてもらうよ……?)
心の中で本人に謝った後、ウィリアムは廊下の冷たい壁にもたれかかって、おそらく1冊目と思われる手記をめくり始めた。
適度に読み飛ばし、ユナの所在の糸口になり得ることが書かれていないか探していく。
大半のものは、綺麗な文字で書かれており、内容は把握できた。ユナと旅した5年前からのことが3冊に渡って紡がれていた――




