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02.初勝利



 ――彼女と出会う前のある日の夕暮れ。


 丘の上にそびえ立つ(とりで)の中庭にて、ウィリアムはひとりの騎士と向かい合っていた。

 互いに鎧兜を身に着け、剣を構えている。


「せいっ!」


 相手に剣を振り下ろした。

 激しいやり取りが続く。(やいば)が交わる度に、重みと振動が全身に伝わる。とめどなく汗が流れてくる。

 激闘の末、ウィリアムは剣を横にし、相手の胴当てに打ち込んだ。


「ぐうっ!?」


 うめき声をもらし、相手は地面に膝をつく。

 いつの間にか息が荒い。激しく心臓が鳴っていた。


「さすが……だ」


 かすれた声を出し、相手は兜を脱いだ。さわやかで若々しい容貌があらわになる。


「いい戦いでした! ザン先輩!」


 戦いが終わると、重苦しい静寂が解かれた。

 これほど白熱した決闘試合は初めてだ。鍛錬とはいえ、貴重な経験になった。

 ウィリアムも兜を脱ぎ、相手に手を差しだす。

 その手を取り、彼も立ち上がる。


「ああ、中々の一戦だった。ウィリーの剣は本当に力強い。まだ19歳とは思えないね」


 相手は(ひたい)ににじむ汗をぬぐった。


「ありがとうございます! 先輩の剣技も流れるみたいに速くて、もうすぐで隙を突かれるところでしたよ」


 彼は迅速な動きを強みとしていて、相手の隙を逃がさない鋭い眼力の持ち主である。ウィリアムもこの勝利をおさめるまでに、幾度となく敗北を重ねていた。


「ウィリーの勢いに押されて、つけ入る隙がなかった。君は本当に腕がいい。すぐに、師匠も一人前の騎士として認めてくれるだろう」


「ほんとですか!?」


 思わず、ウィリアムは大声をあげた。

 師匠は戦場での実戦経験も豊富な凄腕の騎士だ。ウィリアムも兄弟子のザンも、この砦にいる者は師匠に剣技を教えられてきた。皆から慕われている人で、親のいないウィリアムにとっては、実の父親同然だ。


「ああ、違いないさ……おや、師匠もさっきの戦いを観戦されていたようだね」


 ザンは騎士の宿舎の2階にある部屋を指さす。

 白い衣服を着た老人が、窓際からこちらを眺めていた。

 それを見て、ウィリアムの表情はぱっと明るくなる。


「師匠! 見てましたか!? オレ、やっと勝ちましたよ!」


 両手を上げて、ウィリアムは飛び跳ねた。

 しかし、彼はいつもの厳めしい面持ちを崩さない。


「早く……ごほっ! こい! ウィリアム!」


 しわがれた声で、師匠はウィリアムの名を叫んだ。彼は60歳を超えている。昔は屈強な騎士として数々の武勲を立てたが、今となっては体の限界に苦しめられていた。


「師匠! 今行きますから、ベッドに戻っていてください!」


 ザンに会釈して、ウィリアムは鎧も脱がないまま、彼の下へと急ぐ。

 つい先月まで、師匠は『命尽きるまでは剣と共にある!』などと言って、この年で弟子たちに稽古(けいこ)をつけようとした。弱さを見せない人なのだ。

 そのように芯の強い師匠を、ウィリアムは尊敬していて、大好きだった。

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