第6話:看病の開始
里で唯一、冬真と親しく話していた里長に頭を下げ、なんとか冬真の住処の場所を聞き出すことができた。
「あいつの邪魔をするなよ」と釘を刺されたが、私は構わない。
彼が住んでいるのは、里の集落から少し離れた沢沿いの、小さな小屋だった。 マタギは山に近く、単独で暮らすことが多いと聞く。
コンコン
扉をノックしたが、返事はない。
「あ、あの……! 椿です。先ほど助けていただいた者です。お怪我をされていると聞いて……」
沈黙。まるで山そのものが、私を拒絶しているようだ。
扉に手をかける。
「失礼します……!」
ギィ、と音を立てて開いた戸。
小屋の中の隅に、冬真がいた。
彼は狩装束を脱ぎ、上半身裸で寝床に横たわっていた。
「……何の真似だ」
(え、うそ……)
(肉体美がエグい)
鍛え上げられた胸板、腹筋。そこに刻まれた無数の傷跡は、彼がどれほど命懸けで山と向き合ってきたかを物語っていた。
そして、その右脇腹。 布で応急処置がされているが、血が滲み、痛々しいほど深く裂けた傷があった。
「黙って帰れ。よそ者の女に手を借りる趣味はない」
冬真は顔を顰め、強い口調で私を追い返そうとする。
「いいえ、帰りません!」
私は覚悟を決め、堂々と冬真の目の前に座り込んだ。
「私の命を救ったのは、その深手を負った体なんですよね? 私は恩を仇で返すような人間じゃありません」
「……」
「里の皆さんには言いません。私が責任をもって、この傷が塞がるまで、あなたの看病をさせていただきます!」
冬真は目を見開き、私をじっと見つめる。
その眼差しは、困惑と、ほんの少しの動揺を含んでいた。
(よっしゃ! フラグ立った!)
私は、冬真のそばに置いた鍋で、静かに火を焚き始めた。




