第1話:里の掟と、視線
荷解きを終え、里の集会所に挨拶に行くと、里長と思われる恰幅の良い老人が、私を品定めするような目で見た。
「ふむ。都会の嬢ちゃんか。マタギの里は、おめぇさんの遊び場じゃねぇぞ」
「承知しております。祖母の家を守り、里の生活に馴染めるよう努めます」
必死に頭を下げる私に、里長は深くため息をついた。
「この里では、里の掟が全てだ。特に、山の掟だけは絶対に破るな。最近は異常だ。クマの出没が頻繁になってきている」
「クマ……!」
里長の言葉に、会場にいた里の人々が皆、暗い顔になる。
里の男たちは、私を一瞥すると、すぐに厳しい表情で顔を逸らした。
歓迎されていないのは明らかだった。
(やっぱり、よそ者は厄介者扱いか)
(まぁ仕方ない。私も早く、ここでやるべきことを終わらせて、帰りたいんだし)
挨拶を終えて外に出た時だった。
里長の後ろで、ずっと黙って立っていた一人の男と、目が合った。
体躯が良い。背が高い。
鹿革の装束が、分厚い胸板と鍛え上げられた身体を強調している。そして何より、その目――。
まるで、遠くの獲物を正確に捉えるような、鋭く、研ぎ澄まされた瞳。
その目が一瞬、私に向けられた。
ゾクッ。
全身の毛が逆立つような、奇妙な感覚。
彼は何も言わず、すぐに顔を逸らしたが、私の心臓は嫌な音を立てていた。
(あれだ)
(さっきおばあちゃんが言ってた、『獲物を狙う目つき』って……)
名前は知らない。
だけど、その圧倒的な存在感は、私の中に強烈な印象を残した。
また変なの始まった。
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