第9話:明かされる里の事情と、冬真の決意
翌朝。
小屋を訪ねてきたのは、やはり秋人だった。
彼は私に、里で採れた新鮮な卵と薬になる茸が入った籠を差し出した。
「おはよう、ツバキちゃん。兄さんの看病、ご苦労さま」
「ありがとうございます、秋人さん。お気遣いなく」
小屋の外で小声で話す私たちを、冬真は寝床からじっと見つめている。
「兄さんがお前に心を開いたのかは知らねぇが……。一つだけ言っておく」
秋人は声を潜めた。
「『尺取りのゴン』は、里にとってただの災害ではない。あれを仕留めれば、兄さんは里の新しい頭領になる。だが、もし仕留め損なえば、里から追放される」
「追放……!?」
(まじか。ゲームでいうところの『失敗ルート』の罰則が、追放!?)
「里の掟は、山より厳しい。だから、兄さんは誰にも頼らない。弱みを見せれば、追放の口実になるからだ」
秋人は私に向かって、優しく微笑む。しかし、その目には強い寂しさが宿っていた。
「兄さんは、里のため、里の掟のために、孤独を選んでいる。ツバキちゃんが、兄さんの弱みにならないといいんだけどね」
「私は、弱みではなく、力になりたい」
私の答えに、秋人は何も言わなかった。
ただ、「また来るよ」と言い残し、彼は里へと戻っていった。
(そうか……。私が冬真さんに近づくことは、里の掟に反する危険な行為なんだ)
(でも、このまま放っておいたら、彼は一人で孤独に、あの巨熊と戦い続けることになる)
私は小屋に戻り、冬真の傍に座った。
「冬真さん」
「……何だ」
「私、知りました。あなたが負った傷のこと。そして、里の掟のこと」
冬真は、驚きで目を見開いた。
「私の命を救ってくれたのは、あなたの優しさです。だから、私はあなたのそばにいます」
「……愚か者め」
冬真は諦めたようにため息をついた。
その表情には、冷たさではなく、諦念と、微かな安堵が浮かんでいた。




