若い頃、婚約破棄を宣言された元婚約者に口説かれたマダム~今更口説いてももう遅い
「ドロテア、服は直したのかね?まだ?それだから僕に婚約破棄をされるんだよ!」
「ダンディール様、本当、義姉がとろくて申訳ありません」
「全く!早くしろ」
婚約破棄をされたと思ったら、ダンディール様は屋敷に住み着いている。
義妹と結婚をするらしい。
「ドロテア、お茶会を開くから、招待状を書きなさい」
「はい、お義母様」
「お義姉様、宿題やって」
「はい、メルシャ分かりました」
私はメイドのお仕着せを着てお父様のお仕事もやる。
農民の相談を受ける。
「税金、まけらないか?」
「まけられますよ。お父様、書類を見ませんから、サインをしてもらいます」
「それは有難い」
領地を回り、村長や商会長に面会する。
さすがに疲れたわ。
でも、後は野となれ山となれだ。
何故なら嫁入りでいなくなる。
「では、皆様、お世話になりました」
「あ、ドロテア・・・あ、そうだった。今日、ゴア商会の後妻で行くんだっけ」
「キャア、ダンディールくすぐったいよ」
「フフフ、こうしてやる」
カバンを一つと古いドレスを身につけて、ゴア商会に行く。商会長は奥様に先立たれて、齢54歳、再婚を機に隠居なさるとか。
☆ゴア商会本店
「クーペン伯爵家から参りました。ドロテアと申します」
「はい、ご新規のお客様ですね。まずは紅茶をどうぞ」
「いえ、今日、商会長に嫁入りに参りましたドロテアと申します」
「「「「エエエエエエーー」」」」
「し、失礼ですが、何歳でしょうか?」
「15歳です」
驚かれた。使用人に話が通っていないのかしら。それとも私の醜さに驚いたのかしら。
商会長と面会をした。
「ハアアアアアアアーーーーー何じゃこりゃ!」
心底驚かれた。
私は頭を下げた。
「失礼しました。私、醜いですよね。申訳ございません」
平ぼったい顔に、赤色の髪、ニキビまである。
「いんや、女は顔ついていればいいんじゃ、ワシは、マダムと暮らしたくて、仲介屋に頼んだのじゃ、ウッフン、アッフンじゃ!分かるか?」
「はい、何となく・・」
「はあああ、どうしたものかな。孫は婚約しているしよー!」
ということで、商会で働かせてもらうことになった。
「まあ、お茶くみからだな」
「はい」
少しずつ仕事を習って、
「帳簿読めるか?」
「・・・領地経営の帳簿とは違いますね」
「読めるか、読めないかで答えんか?」
「申訳ございません。読めません」
「はん、金にならない『申訳ございません』は言うな」
商会長から仕事をならい。
やがて、マダムがやってきた。未亡人のようだ。
「あら、イケオジね」
「おお、よろしく頼むぞ。死ぬまで一緒にいてくれ」
これで商会長は隠居をなさる。
あれ、相続とかもめないのかしら。
「そりゃ、愛妾だもの。ちゃんと契約になっているのさ」
「まあ、そうなのですね」
ということは、私は愛妾として売られたのか?
ヒドいな。
それから、お父様がやってきた。
「ドロテア隠れて」
「はい、ケビン主任」
「おい、金は送られてこないじゃないか?ドロテアの結納金だ」
「ですから、こちらが探していたのは40歳ぐらいのマダムです」
「女は若ければ良いんだろう?」
「ですから、例え、愛妾契約を結ぶとしても契約金は本人に渡すのがしきたりでして、ご息女との愛妾契約は破棄されました。手紙でお知らせしましたよ」
ケビン主任が匿ってくれた。イケメンさんだ。
それからも、義母、義妹、元婚約者がやってきたが、
「ちょっと、ドロテアいなくなってから、政務が滞っているのよ。書類を持って来たからやりなさい」
「パーティーで恥をかいたわ」
「そうだ。メルシャが可哀想だ」
「馬鹿なことを言わないで帰りなさい。水をまくぞ!」
「ここで、屋敷の仕事をやれって・・・馬鹿なのか?」
「とんでもない家族だな!」
その度に、ケビン主任や店の方達が匿ってくれる。
しかし、迷惑をかけて申し訳ない。
ある日、隠居した大旦那様が来られた。
「おう、ケビン、証人になってやるからドロテアと結婚せい」
「はい、大旦那様」
「あの、ちょっと、待って下さい。私、ブスです・・・ウグ」
ケビン主任に口を塞がれた。文字通りだ。
「好きだ。結婚をして下さい」
「プハー、はい・・・でも、どうして」
「貴女は働き者だからだ。見えない所でも働く。家政をしっかりやりそうだ」
それから、私はケビンと結婚し、独立して夫婦二人で小さな商店を切り盛りした。
何故、結婚したのか、分かったのはパーティーに行ってからだ。
「ほらドロテア、見なさい。美男美女だらけですか?」
「いいえ・・・ブスに美男子、不細工に美女・・いろいろな組み合わせがありますね」
「意外とパートナーは顔では選ばないものなのです。最も、上位貴族はわかりませんけどね」
それから、領地について良い噂を聞かない。
やれ、領地が競売にかかっただの。
王家の監査が入っただの。
といろいろだ。
財政危機だが税金は安い。
これは私のせいだ。
それから、子供が出来て、私は家に入る事になる。
息子は成人し、息子は旦那様から商売を学び。
娘は今年、王都の学園に入学だ。
今私は娘と学園用のドレスを馬車で買いに行くところだ。
「母子、おそろいのドレスみたいな。君もこの機にドレス買いなさい」
「母上とロッテのおそろいみたいな」
「あなた、私、ロッテの歳のドレス着られませんよ」
「お母様、ゴア商会ですからきっとありますよ。同じ色でも良いわ」
これを幸せというのだろうか。
馬車の中で街を眺めながら考える。
あら、ここ工事をするのかしら。
「さっさと運べ。おっさんよ!」
あら、あれは・・・ダンディール!
「馬車を止めて!」
「奥様!」
こういった場合は・・・
「あ、マダム危ないから来るなよ」
あれが親方ね。
「ご苦労様です。市民として工事してもらうのは有難いです。これを酒代の足しにしてくださいませ」
「え、銀貨!?お~い、マダムから頂いたぜ!」
こうすると態度を豹変する。
私は懇願した。
「あの優男、貴族の面影があります。もしかして、縁があるかもしれません。日当をはらうので、木陰で休ませてあげて下さいませ」
「マダム、もちろんでさ。あいつは元貴族の男娼で、歳を取って客がつかなくなったんでさ。おい、ダンディール、今日は木陰で休め。このマダムの心遣いだ!」
ダンディールはよろけながら来たわ。
そして、私の前で、頭を下げて貴族の礼をする。
「奥様、有難うございます。私、ご自宅までお送りいたしましょうか?」
・・・『ご自宅までお送りいたしましょうか?』これは口説き文句の常套句ね。
しばらく沈黙が続いて、ダンディールが頭をあげて、不思議そうに私を見たわ。
「・・・もしかして、ドロテア・・」
「そうよ」
「ドロテア、お前、そういう所が嫌いだった。働き者でキラキラしていた。あのな。お前が光るから、俺がカゲになったんだよ!」
「今更、言われても遅いわ」
「伯爵も、義母も、メルシャもお前が働くから仕事をしなくなったのだ。伯爵はアルコール中毒で死亡、義母は場末の酒場、メルシャは娼館に行ったのだぞ!」
「いえ・・私、働くのが好きなのです。お互い勝手で良いのではないでしょうか?」
「おい、おっさん。失礼だぞ!」
「おっさん!どこに行く!」
ダンディールは街の喧騒の中に消えたわ。
もっと早く言ってくれれば・・どうなっていたか分からない。結果は同じだわ。
今更、口説かれてももう遅いわ。
「お母様!あの男は?」
「昔の婚約者よ。口説かれたわ」
「まあ、大変」
「お父様に話しても良いのよ」
「お父様、怒りそう」
さて、今日は早めに旦那様の所に帰りますか。
最後までお読み頂き有難うございました。