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好きの手前と、さよならの向こう  作者: 茶ノ畑おーど
〇序章【始まりと予感】
9/76

1節~初めまして、よろしくお願いします。~ 9

「明坂、ここの設計案なんだけど……ここだけ、コンセプトとちょっとズレてないか?」


昼過ぎのデスク。

ヒロトがタブレットの画面を見せると、キリカは一瞬だけ眉を寄せた。


「そう……ですか? 私は一貫してると思ったのですが」


「うん、構成としては合ってる。

ただ、クライアントが重視してる簡潔さって視点で見ると、ここだけちょっと複雑すぎる印象になるかもって」


「……それは、先輩の主観ですよね?」


静かな、しかし明確な反論。

それ以上でも以下でもないが、周囲の空気がわずかに張り詰める。


まるで先輩に対する言葉遣いではない。

ともすれば、喧嘩を売っていると誤解されかねない言葉の圧。


ヒロトは軽く目を伏せた。

別に責めるつもりもなかった。


むしろ、彼女のセンスは信用している。だからこそ細かく指摘を入れてしまう。

だが、どうも噛み合わないことが多すぎる。


「……わかった。じゃあ一旦、全体と照らし合わせて再検討してみてくれ。内容自体は良いと思ってるから」


「了解です」


淡々とした返事。

そこには敵意もなければ……打ち解けようという気配もなかった。


「……中町くん。らしくなくない?」


キリカとのやりとりが終わった後。

麻衣が隣でこっそり言ってくる。


「え?」


「言い方とか、トーンとか。なんかいつものあしらい上手の中町くんじゃない感じ」


ヒロトは、ほんの一拍だけ間を空けてから言葉を返した。


「……かもな」


「なにそれ。原因、わかってないの? 後輩ちゃん相手にムキになっちゃって」


「分かってたら、こんなにモヤモヤしないよ」


返しながら、自分でも驚いていた。


いつもなら、部下が自分を苦手にしていても、気にしすぎないようにやれていた。

でも――今回は、妙に引っかかる。


「はぁ。なんなんだろうな……この感じ」


あの反発も、素直じゃない態度も、理屈ではちゃんと理解できている。


それでもなぜか、彼女との間にある距離だけは、うまく埋められない気がしていた。

そんなふうに悩む自分こそ、よほどらしくないと、ヒロトは思った。


麻衣は、そんな彼を横目で見て、少しだけ口元を緩めた。


「……いいと思うけどね。そういう中町くんも」


「それ、どういう意味だよ?」


「さあ?」と麻衣は肩をすくめる。


その日の夜。


ヒロトはスマートフォンを手に持ったまま、しばらく画面を見つめていた。


親指が、ある名前をタップしそうになる――

けれど、まだその先へは動かない。


何かを問いたくなる夜は、もうすぐそこに来ていた。



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