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好きの手前と、さよならの向こう  作者: 茶ノ畑おーど
〇序章【始まりと予感】
14/85

1節~初めまして、よろしくお願いします。~ 14

「……はあ」


撃沈した気配を隠すでもなく、ヒロトは椅子に背中を預けて、深くため息を吐いた。


そんな彼のもとへ、すかさずぴょこんと現れたのは、佐原ちひろだった。

笑いを堪えきれないという顔で、手元に抱えたファイルをぱたぱた仰ぎながら近づいてくる。


「ヒロトさ〜ん、撃沈ですねぇ」


「……見てたのか」


「そりゃ見ますよ、あんな分かりやすいチャレンジ」


とどめの一言を浴びせるちひろの後ろから、今度は藤田すみれが静かに近づいてくる。


「ちひろ、ダメだよ。笑っちゃ」


「あ、すみれ。だってさぁ、レアだよ? なかなかないよ? あそこまで見事な返り討ち」


「中町先輩、頑張ってたじゃない」


「……その割には、口元が緩いぞ」


淡々と指摘すると、すみれはめずらしく「ふふ」と口元に手を当てて笑った。


「まだ緊張してるみたいですよね、明坂ちゃん。素直になったら、絶対かわいいのに」


そう言って肩をすくめたのは、【山崎しおり】。

三人の女子グループの中では、しおりだけが一つ年上だが、

同級生のような距離感で、三人はいつも仲良くつるんでいる。


ちひろはムードメーカー、

すみれはしっかり者で冷静ポジション、

しおりはちょっとからかい気質だけど根は面倒見がいい。


三人とも、それぞれ違う方向に個性的ではあったが、『優しい』という点は共通していた。


職場の人間関係に不器用なキリカにも、ちゃんと関心を持って、見守ろうとしているのが伝わってくる。


「あっ、ほら、こっち気にしてる」


しおりの声に促されて視線を向けると、少し離れた席でこっちをちらちらと伺うキリカの姿があった。


その様子は――まるで何か言いたいのに、うまく言葉にできない子供のようだった。


ちひろが「おいでおいで」と手招きすると、キリカはビクリと小さく肩を震わせたあと、

ぷいっと顔をそらしてしまった。


「……あーん、ダメだぁ」


「なんか、野良猫を相手にしてるみたいですね」


すみれが真顔で呟くと、三人の中で小さな笑いが起きた。

ヒロトはそのやりとりを聞きながら、「野良猫とは、言い得て妙だな」と無駄に納得してしまう。


構ってほしくないわけじゃない。

でも、構われすぎると逃げたくなる。

そのくせ、放っておくと後ろからついてくる――完全に、今のキリカそのものだった。


「ヒロトさん、もし再チャレするなら、私たちで話題考えますからね……!」


「話題……?」


「そうです! 今時、犬派か猫派かなんて、話すのに困ってるってバレバレですよ!」


「うるせぇよ」


一切の手加減なくダメ出しを食らって、少しだけへこむ。

だが、それ以上に真剣な顔で言ってくるちひろを見て、ヒロトは思わず笑ってしまった。


「……頼もしいな、俺のサポート体制」


「ヒロトさんが不甲斐ないんですよっ」


「中町先輩じゃなくて、明坂ちゃんをサポートしてるんですけどね」


「ま、ひとまずは今日も観察でしょ」


そう言って小さく笑う女子たちの輪は、あたたかくて、どこか頼もしい。


この人たちに囲まれてるなら、

きっとキリカも、いつか素直になってみてもいいかなと思ってくれる日が来る――


ヒロトはそんなことを思いながら、再びキリカに視線を向けた。

彼女はいつもより一瞬遅く、気恥ずかしそうに顔をそむけた。


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