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第二十一話「Qビズム」

挿絵(By みてみん)

「アマミヤ博士は…船長に…殺された…?」


あまりの出来事に流石のイブラヒムも青ざめた顔をしていた。


「そそそれだけじゃない。この話がじじ事実なら…エ…エレナ・ローウェルも既に死んでいる…。だったら!あのエレナ・ローウェルは誰なんだ!」ヨハンも同じく血の気を失った顔色をしていた。


アマミヤ博士のニューロメモリを解析中のヨハン達だったが、その驚愕の内容に、ログをスクロールする手が止まってしまっていた。主導権は自分たちにこそある。そう思っていたのに…。


ログはまだ続いていた。ヨハンは感じていた。これだ。これが僕が感じていた悪い予感だ。この先を見てはいけない。見ればきっと現実になる。この先は…。


作業はけたたましいアラート音の為に中断されてしまった。


「またか!今度は何だ!」イブラヒムが焦燥感も顕に怒鳴った。側のスフィアホログラムにミランの顔が映し出された。


「皆さん。…ぐセントラル・デッキに戻ってください。船内全域でク…ーン素体が暴走しています。」相変わらず通信が安定していないのか、乱れた画面の中、慌てた様に指示を出すミラン。


「クローン?どういう事だ!」イブラヒムが聞く。


「恐ら…ですがブレーカーのリセットが原因の様で…。船内全域でクローンの再設定が行われた形跡があって、その際にプログ…ムが書き換えられています。全てのニューロ…モリに何らかの行動パターンが上書きされている様です。クローンが乗組員を襲って…るんです。早く戻ってください!我々はセン…ラル・デッキで籠城します!」


「ええい!何を言っとるんだ!」イブラヒムはスフィアホログラムを激しくスワイプしていたので、シャドウズに後ろから抱きつかれても気づいていなかった。


「イブラヒム!」ヨハンが鋭く叫んだが遅かった。主人に抱きついたクローンは彼の頭を掴むと強引に顔をこちらに向けさせた。


「何をす…!」イブラヒムは言葉を最後まで話せなかった。クローンはイブラヒムに激しい口づけをした。その場の全員が呆気に取られた。イブラヒムのくぐもった悲鳴しか聞こえない。


突然、口づけしたままクローンは猛烈な勢いで嘔吐した。胃の内容物を全てイブラヒムの喉に流し込む。もがき苦しむイブラヒムは何とかクローンを突き飛ばすと、その場にもんどりうって、今流し込まれた物を吐き出そうとしている。


残りのクローン達が今度はヨハンの方を向いた。その瞬間、5人の天使達が一斉に動いた。


同時に5人のクローンが吹き飛び壁に激突する。全員首の骨が折れていた。明らかに即死している。しかし、脊髄部に挿入されたニューロメモリからアラーム音が鳴ると、死んだはずのクローン達は再び立ち上がった。首をあり得ない角度に曲げたまま皆、ヨハンに迫ってくる。


「イブラヒム様!シャドウズを止めてください!」エカテリーナが怒鳴る。持ち主なら停止コードを使えるはず。天使達はヨハンを囲んでイブラヒムの動向を見守ったが、この老人は何もしなかった。四つん這いのまま、ここではないどこかを見ていた。


**************************************************


そこは、太陽が膨張し、地球が赤い泥球になった世界。


酸素も、水も、言葉も滅びた。


だがイブラヒムは生きていた。


クローンはとっくに使い果たしたはずなのに、神経と記憶を繋ぎ止めたまま、彼は生き続けていた。


誰もいない。音もしない。完全な孤独。


最初の百年、彼は狂い、正気に戻り、また狂った。


そんな事を何度繰り返しただろう。気がつくと、いつの間にか空も大地も概念もない、ただ無限に続く灰色の空間だけがあった。


次の千年、彼は叫び続けた。


声は出なかったが、喉の痛みだけが永遠に繰り返された。


自分が自分である、ということが苦痛だった。


次の百万年、彼は思考そのものをやめようとした。

だが、やめられなかった。


意識は燃えかすのように細くなりながらも、「まだ在る」ことだけが確かだった。


あるとき、遠くに何かの気配を感じた。

人影のような、音のような、言葉のような。

彼はそれを追いかけた。走って、這って、崩れて、それでも。だがそれは、彼自身の記憶が作り出した幻だった。


彼は気づいた。


この空間にある全ては、彼自身の脳が作り出している。


孤独を逃れるために、彼は自ら神を、家族を、部下を創り出しては殺した。


何度も。何億回も。


それでも空間は終わらなかった。


狂い、正気に戻り、狂い、正気に戻り、


いつしか5億年が経っていた。いや。年月とは何だ?


彼は確信した。時は関係ないと。繰り返しなんだと。終わらない罰を繰り返し受け続けているんだと。その瞬間、彼の身体を今まで感じた事のない類の恐怖が貫いた。


**************************************************


イブラヒムは絶叫した。そして自分の声で我に返った。自分が幻覚を見ていた事に気がついたのだが、絶叫は止まらなかった。


「イブラヒム様!シャドウズを止めてください!」エカテリーナがもう一度怒鳴る。だが絶叫を止めない。


「ダメだわこいつ。エカテリーナ。こうなったらとことんぶっ飛ばそう。」ミリアムが耳打ちする。


10秒後。シャドウズ達は四肢を散乱させた状態で、ヨハンの豪奢なリビングをその体液で汚して床に転がっていた。天使達は更に10秒かけて、また動き出さないか確認していたが、どうやら流石に今度こそは息の根を止めたらしい。


「ヨハン様。どうします?セントラル・デッキに向かいますか?」イリスが聞いた。


軽く頷いた後ヨハンはイブラヒムに手を貸した。他の天使達も肩を担ぐ。


イブラヒムは完全に常軌を逸していた。


「味がする。情報の味がする。情報を制する者は世界を制するんだ。」見開いた目はここではないどこかを見ていた。


「他人の目を通して世界を見れば、そこには想像を絶する世界が広がっている。見てみろ!これが真実だ!」言いながら自分の目を掻き出そうとした。


アンジェがイブラヒムのみぞおちに掌底を喰らわせた。「爺さんうるさい!」


苦悶の表情のまま、イブラヒムは気絶していた。


「いい行こう。」天使達に指示を出してヨハンは先頭になって部屋を出た。


玄関口でエレベーターを待っている間もアラート音は鳴り続けていた。


「さっきのあれ何なの?クローンはイブラヒム様に何をしたの?」サーシャが誰にともなく尋ねた。


「分からないけどとにかくクローンには近づかない方が良さそうね。」イリスが嫌悪感を隠そうともせず吐き捨てる。


直後、エレベーターが到着を知らせた。扉が開く。するとそのエレベーター内に、もうそれ以上乗り込む余地がないほどに、クローン素体の群れがすし詰め状態で乗っていた。皆、培養カプセルから出たばかりと見えて、裸の体には培養液がべったりとまとわりついていた。


まだ性別が決定される前の、マネキンの様な姿のクローン達が、扉が開くと同時に一斉にこちらを見た。


「マジか…。」アンジェがポツリと漏らした。


***************************************************


その数刻前。

「緊急事態なんです。リトルドッグが暴走しています。それを止める為、敢えてブラックアウトを起こさせるんです。そうしないと人々の命が危険なんです。」


「わ、私の権限ではそこまでの行為は許されていないはず!とても出来ません!そりゃ家族ともどもこの船に乗せてもらった事には感謝している!しかし私に負える責任にもある一定の…」


「いいからブレーカーを切れっ!」ゼノンが怒鳴る。画面に突如現れたノアズアーク船長の顔に慄いたヴァロは言葉にならない返事をしてからその場を離れた。


「全てのブレーカーを切れ!責任は船長がとるそうだ!」ヴァロは部下に命じた。戸惑いの表情のまま、スフィアホログラムをスワイプして全ての画面でシャットダウンにチェックを入れる部下達。


すると各デッキで鈍い地響きにも似た振動が起こり、稼働中のシステムが順番にダウンしていく。至る所で人々を襲っていたリトルドッグがバタバタと倒れていく。「緊急遮断プロトコル」もキャンセルされて、フェイズロックが解除。通路を遮断していた隔壁が全て開放される。


それは28階のクライオニクス・デッキでも同じだった。


冷凍睡眠ポッドや遺体保存用ポッド、そしてクローン素体用のポッドも扉が開放される。各方舟級宇宙船にはそれぞれ数万体のクローン素体が収容されていた。


上級国民の新しい肉体、兼食糧として保存されていたのだが、電源が落とされた事で扉が開いた瞬間、同じ様にクローン達の目も見開かれた。そしてクローン達は自らの意思を持って動き始めた。


脊髄部に挿さったニューロメモリが、初期化を示す赤いランプを点灯させている。クローン達はポッドから這いずり出すと、初めから打ち合わせていたかの様に、隊列を作って各方面行きのシャトルポッド搭乗口に分散して行った。


一番初めにこの異変に気付いたのはクライオニクス・デッキ統括管理局長、コーネリアス・ヴェイルだった。停電から2分後、異常な群衆行動を知らせるアラームに反応してコーネリアスはクローン保存エリアに向かった。そして無数のクローン素体がポッドから這い出している事に気づいた。


「セントラル・デッキ!こちらクライオニクス・デッキです!クローンが動いています!直ちに停止コードを送信してください!」ナノフォンで連絡をとったが、通信状況が良くないらしく応答が聞き取れない。


コーネリアスは最悪の選択を迫られていた。もしクローンの行動が船内に害を及ぼす場合、統括管理局長として「キルスイッチ」を使用しなければならない。これは文字通り「クローンを殺す」スイッチである。


これを使えば被害は防げるがその代わり、今後の食糧事情は逼迫したものになってしまう。被害総額は一体いくらになる事か。


クローンは何故動き出したのか。クローンは何をしようとしているのか。それが分からなければキルスイッチはそう簡単には使えない。

躊躇してしまった事がコーネリアスの運命を決めた。


目の前の異様な光景に気を取られ、自分がクローンに取り囲まれている事に気づかなかったのだ。


一体のクローンが後ろから彼を羽交締めにする。這い寄ってきた数体のクローンが彼の足に絡みつく。正面から無数のクローンが彼に迫ってくる。


ものすごい力で抑え込まれたコーネリアスはなす術もなく、クローン達に覆い被される。そして顔を鷲掴みにされて強引に口付けをされた。


次の瞬間、クローンがものすごい勢いで嘔吐した。胃の内容物がコーネリアスの喉を通り抜ける。それは単なる吐瀉物ではない。ツギコやエレナ、そしてトウコ・アマミヤ博士の情報を含んだ吐瀉物。この宇宙に存在する「揺らぎ」に接触する事ができる様になる吐瀉物だった。


だが、今の彼にそんな事が分かるはずもなく、窒息しそうになる苦しみから逃れる為、コーネリアスはがむしゃらに振り解いた。するとそれまでの力強さが嘘の様にクローン達は彼を解放し、また何処かへと湿った歩みを進めていった。


激しく咳き込むコーネリアス。呼吸が整い、ハッと見上げるとそこにクローン達の姿はなかった。


代わりに無数の老若男女が裸で立っていた。


それは彼が取り組んでいた「生体保存プロジェクト」で人体実験として使い捨てていった貧困層の人々だった。


神経同期開発実験の為、孤児院から買い取った幼児。


意識断片転送試験の為、報酬を提示して連れて来たホームレス。


恒常性反転耐久実験の為、「若返りモニター募集」に応募してきた多数の労働者達。


皆、まともな姿をしていなかった。顔中に縫い目の跡があり、体の一部が欠損、中には2人の人間が一つに接合されている者もいた。


非人道的な人体実験の犠牲者達。それらが一様に、濁った目で、無言で、コーネリアスを指差していた。


全員に見覚えがあった。全て自分が執刀したからだ。この異常な状況において、コーネリアスは理解した。自分のなすべき事を。彼らが教えてくれたのだ。コーネリアスはナノフォンのスイッチを押した。


「セントラル・デッキ。こちらクライオニクス・デッキ統括管理局長、コーネリアス・ヴェイルです。クローンは意思を持って行動しています。我々の管理が及ばない。自由意志です。彼らは正しい。私の過ちを指摘してくれた。それだけじゃない。私が進むべき道も教えてくれた。皆さんも受け入れてください。我々が罪人だという事を。私は今から自らの罪を贖います。私はそれを喜んで受け入れます。以上。」


言い終わるとコーネリアスは備品庫に向かった。そこには保守作業用の消耗品や研究、実験用の器具等が各種取り揃えている場所だった。


彼はそこから、緊急脳摘出キットを取り出した。意識転送で事故が起こった際に、脳を保護する為の手術道具である。徐ろに器具を並べ始めながら彼は独り言を呟いていた。


「そうだ。初めからこうすれば良かっんだ。」

彼の表情は安らかだった。まるで全ての苦しみから開放された様な、穏やかな表情だった。そうして手にした高周波メスを自分のこめかみに当てて、頭の周りを一周させた。


「自分でやれば良かったんだよ。何でそれに気づかなかったのかな。」言いながら彼は自分の頭頂骨を取り外した…。


**************************************************


開放されたクローン達はそれぞれ目的の場所があるかの様にして、バラバラの行動をとっていた。ある一群はシャトルポッドに乗り込み、ある一群はエレベーターに。また、ある一群は施設内部へと、湿った足音を響かせながら黙々と行進を続けていた。そして、方舟の乗組員を見ると全員で襲い掛かり、唇を合わせ、激しく嘔吐した。


あちこちで繰り広げられるこの狂気の光景は、船内を凄まじい勢いで伝播していった。あまりの数、あまりの速さ、そしてあまりの唐突さに誰もクローンの攻撃を防ぐ事ができなかった。誰一人として…。


機関士:ヤロスラフ(50代)

「墜落?この船が?俺は……すでに死んでいた……じゃあ、これは誰の夢だ……?」

エンジンルームの隅で、自分の手を削ぎ落としながら独り言を続けていた。

削ぎ落とした指の骨を床に並べては、「これは妻だ、これは息子……これは俺……」と囁き続けている。

彼の見た揺らぎの中では、自分がすでに事故で死んでおり、この船は死後の世界だった。


看護師:ティア(20代)

「赤ん坊が笑ってたの……私が捨てたあの子が……ほら、ほら、ここにいる!」

彼女は空の保育ポッドを抱えていた。中には何もないのに、そこに話しかけ、授乳するふりをし、誰かにその「赤ん坊」を近づけては「見て、私の子よ、見えるでしょう?見てよ!墜落する前に!」と怒鳴った。

揺らぎの中で彼女は、中絶しなかった世界を垣間見てしまった。


生物研究主任:ムンバイ(40代)

「壁が、呼吸してる……宇宙は、生きてる……だから、この体も喰わせないと……!」

彼は己の内臓を取り出し、壁の換気口に押し込み続けていた。

「宇宙よ、食べてくれ。次の世界に繋げてくれ。でなければこの船は墜落してしまう!」

その顔は、恐怖ではなく与えられた仕事をこなす者としての活力に満ちた表情をしていた。


操舵手:イェナ(30代)

「軌道が違う……私たちは、地球に戻った世界と、戻れなかった世界の中間にいるの……重力に引かれている!」

彼女はコクピットで、ありもしない操縦桿を握り続けていた。

両手を擦り剥け、出血し、骨が見えてもなお「進路変更!進路変更!」と叫び、誰にも聞こえない航行命令を繰り返す。


廃棄物処理係:カレン(10代)

「宇宙の中心に、わたしがいる。世界は、わたしが見てるから存在するの……」

ゴミ圧縮室で、自分の目をカメラに向け続けていた。

「見て。見て。見て。消えないように、ちゃんと見て!そうしないと墜落するから!」

彼女は観測者である自分が意識を止めると宇宙が崩れると思い込み、一瞬たりともまばたきをしない様にステープラーで瞼を固定した。


「——そこにいる。僕が殺した母さんが、僕を許してくれた……!」

「違う。違う世界。あの時、あいつを選んでいれば、私は、幸せに……」

「時間が……折りたたまれて……この船は“上”へ進んでる……いや、沈んでる……いや……」


ある者は自らの両眼を刳り抜き、ある者は壁を食いちぎりながら涙を流し、ノアズアークはどこもかしこも阿鼻叫喚の悍ましい光景が続いていた。


***************************************************


言葉もないままにミランはホログラムをスワイプし続けていた。


どの映像も、この世の地獄を映し出していた。そして最後に見た映像。VIP専用エレベーターの監視カメラに映っていた大量のクローン。


それがヨハン邸で止まり、扉が開くとともに一気に押し出されていった映像を確認してから、それ以外の状況報告がいつの間にか断末魔しか届いていない事に気づき、ホログラムを閉じた。


「船長。クローンは完全に制御不能です。恐らくヨハン様も…。」


他に展開していたホログラムも、どのデッキでも大量のクローンが黒山の人だかりとなって人々を襲うという似た様な映像を映していて、ミランはもう見るまでもないと言わんばかりに全てのホログラムを閉じたのだった。しかし。


「いや、待て!」ゼノンはミランを制してから自分で空間をスワイプしてVIP専用エレベーターの映像を再開させた。


「見ろ!」ゼノンはホログラムを指差した。先ほど大量のクローンが吐き出されたエレベーター内に1人だけ、居残っている人物がいた。


「エレナ!」全員が声を上げた。だだっ広い空間に1人、今までどこにいたのか、エレナ・ローウェルが立っていたのだ。彼女を乗せたエレベーターは上昇を始めていた。セントラル・デッキを目指している。


「どうなってるんだ一体…。」マヌエルが頭を抱えた。


「ここに向かっている様です。どうします船長。迎え入れますか?」ミランはゼノンだけでなく他の者の顔色も伺う。


「クローンはいない。扉を開けろ。」慎重に言葉を発するゼノン。


「私は反対よ!」ショウランが怒鳴った。


「悪い予感しかしない!絶対良くない事が起こる!あいつをここに入れちゃダメだって!」


「ワン博士。貴女が彼女の事を毛嫌いしているのは知っている。だがエレナは貴女の思っている様な…。」


「そういう事言ってんじゃないわよ!分かんないの!この異常な状況を!さっきのリトルドッグの暴走とは明らかに違う!私たちのプランにはなかった事が!私たちのテリトリーで起こってんのよ!どう考えてもエレナが関わってるでしょ!このタイミングで現れるなんて!絶対に入れちゃダメ!」


「だがエレナがここを目指している事も明らかだ!どうするんだ!扉の前にでも立たせておくのか!」遂に慇懃さを忘れて不機嫌に言い返すゼノン。


「直通エレベーターそのものをロックすれば良いのよ!もう一度緊急遮断プロトコルを実行すればフェイズロックが作動してクローンの暴動も封じる事ができるでしょうが!」


「私はエレナと話したいんだ!」


「この期に及んでまだ私情を持ち込むの!」


「お前では埒が明かん!一度だって賛成した事ないだろう!」


「あんたがボケた事しか言わないからよ!今まで誰が尻拭いしてきたと思ってんのよ!」


2人が言い争っているうちにエレベーターはノアズアーク最上階のセントラル・デッキに到着してしまった。


「せ…船長…。」ミランが遠慮がちに声をかける。


「何だ!」


「エレベーターが到着しました…。」


ハッと入り口を見るゼノンとショウラン。


「ロックは?」


「してません…。」


直通エレベーターの扉が開く。広い室内はがらんどうだった。全員が、セントラル・デッキにいる全ての乗組員が、エレベーターに注目していた。


「どうなってるんだ一体…。」マヌエルが同じ言葉を繰り返す。


全員の意識がエレベーターに集中していた為、突然、セントラル・デッキの全ての壁がスクリーンに切り替わった事で皆、飛び上がるほど驚き、一斉に振り返った。


スクリーン一杯に映し出されていたのはゼノンの顔だった。


怒りに震える彼の顔を真正面から捉えた映像。それはまるで誰かから見た目線の様な映像だった。ゼノンはその人物に対して至近距離で恫喝していた。いや、今まさに締め殺そうとしている映像だった。


「ききき貴様に何がわかる!言いたい放題言いやがって!何も手にしていないだと!おおお俺は能無しなんかじゃない!能無しのフリをしてるだけなんだ!そうやって本物の能無し共を束ねてるんだよ!分かるか!この高度に政治的な駆け引きが!お前にわかるのか!言ってみろ!え?どうだ!偉そうにほざきやがって!焦り?恐れ?違う!不満だ!俺が不満なんだよ!大問題だろ!この問題を解消するには能無し共を粛清するしかないんだよ!地球に置き去りにする奴らはもちろん、船に乗った奴らだって対象にしてるんだ!火星到着までに更に半数は減らすつもりだからな!そうやって真に選ばれた者だけが!新世界の住人となるのだ!それを!俺が!決めてるんだ!もっと敬意を払え!お前みたいな!身の安全を図る事しか能のない奴が!偉そうな口を聞ける分際か!だから捨てるんだ!お前みたいな奴が!エレナを同列に語るな!おおおお前みたいな奴が!お前とは!離婚だ!!!」


ゼノンの咆哮は、その映像とともにノアズアーク全てのデッキで、そして、混乱の極みにあるエクソダス・アームダ全船で響き渡っていた。全ての船で、全ての乗組員が、この激昂の様子を目撃していたのだ。


全乗組員の上に重苦しい空気がのしかかり、誰一人動けなかった。皆、青ざめ、凍りついていた。


「船長…。これは…。」ミランが愕然としてゼノンを見る。


「と…止めろ!映像を消せ!」ゼノンは周りのクルーに命じたが、それに答えたのはネットワーク隔離されているはずのリルだった。返答は意外なものだった。


「『揺らぎの収束』を確認しました。これよりエクピロシス計画を実行します。」

                 第二十二話に続く

挿絵(By みてみん)


*今回の引用元「GODZILLA ゴジラ」(2014年の映画) 「BUTTON A PART TIME JOB」(2001年の漫画) 「寄生獣」(1989年の漫画) 「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド ゾンビの誕生」(1968年の映画)

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