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第一章 罪編 第一話「エクピロシス計画」

挿絵(By みてみん)

2143年。地球は氷河期に突入していた。


極端な寒冷化により世界の平均気温はマイナス70℃まで下がり、人類の文明は壊滅状態にあった。


都市部は全て機能停止に陥り、赤道付近でも雪と氷に覆われ、かつての熱帯雨林は白銀の墓場と化していた。砂漠は永久凍土に姿を変え、海は凍りつき、波音さえも固まってしまった。


人々は地下シェルターや旧都市部のドーム施設で辛うじて生命の維持に努めており、化石燃料は既に枯渇していた為、地熱発電や、どうにか稼働している核融合炉などを利用して1日1日を凌いでいた。が、残り少ない資源の奪い合いで争いは絶えなかった。


畜産、水産、農業は軒並み廃業。食料は主に昆虫や培養肉で飢えを凌ぐ有様であった。


地上に何か残された物はないか探索に出る事もあったが、極寒の地を行くには十分な装備と防護服が必要で、しかも極低温の巨大な稲妻「スーパーボルト」に打たれる危険性が高く、仮にそれらをクリアしたとしても、果たして目的の物資が手に入るかは非常に見込みが薄く、人類の寿命低下と人口減少は恐ろしい勢いで進んでいた。


治安維持機構はとうの昔に破綻しており、各国政府もほぼ機能停止の状態で、軍事政権や企業連合が国の実権を握っていた。


これほど過酷な環境下の中でも、この様な一部の特権階級だけは今だに身の安全を保障された生活を続けており、それがまた人々の怒りを煽っていた。


「地球にはもう住めない」それが全ての人々の共通認識であった。


10年前、宇宙の熱的死が実際に観測された事が原因だった。宇宙のあらゆる活動が停止する。その現実に世界中がパニックに陥った時、1人の情報統合数学者がとある理論を発表した。


それまで机上の空論であったサイクリック宇宙モデルを実現可能なレベルにまで押し上げ、窮地の打開策として詳細な内容を公開したのである。


「エクピロシス理論」=「宇宙は終焉と再生を繰り返す事ができる」というのがトウコ・アマミヤ博士の見解であった。


確かに宇宙は熱的死を迎えつつあるが、膨張を続けたエネルギーがゼロになる瞬間、カシミール効果を応用して広がりきったエネルギーを引き戻す。


つまりエントロピーを減少に転じさせ、地球の周辺に独立した「閉じた宇宙」を作り出し、その中だけで宇宙の再生を人為的に始めさせるという、途方もない計画であった。


但しそのエネルギーの反転「ビッグバウンス」を起こす為には外側から莫大なエネルギーを加えなければならない。


現在の劣悪な地球環境ではこの計画の準備すら出来ない。そこで既に開発が進められている火星に移り住み、完璧に整った設備を用いて宇宙の再生を図る。


この「エクピロシス計画」と名付けられた壮大な人類を救う計画は、人々の希望の星となり、提唱者のアマミヤ博士はまるで救世主の様な扱いを受け「アマミヤフィーバー」なるものが世界を席巻していったが、と同時に新たな問題も生み出していた。


「選ばれた人しか参加できない」


計画に携わる人数は1000万人とされ、選ばれた人々には「アークパス」と呼ばれるIDコードが個人のナノタグに送信される事となった。これは偽造、改ざんが不可能な個人を特定する認証コードで、これがなければ方舟に乗る事はできない。


このアークパス選考に関しては専門性の高い知識を持つ有識者が優先される事になった。


科学技術者はもちろんの事、医療従事者や政治・経済指導者、文化・芸術分野の専門家、特定の遺伝的特性を持つ者等が選抜の対象となっていた。


この「遺伝的特性を持つ者」という枠組みが問題の種となったのだ。


「将来の人類繁栄の為に選別された優秀な遺伝子保持者」との謳い文句が曖昧で、やはり地球は見捨てられ、他の星での繁栄を考えているのではないか、又は専門的な知識がない者でもメンバーに選ばれる。


要するに賄賂やコネで座席が確保出来る「特権階級枠」ではないのかといった様々な憶測が飛び交い、アークパスを巡る人々の混乱と暴動を、更に加速させていた。


これを受けて各国の統治機関は秩序の安定を図って次の様な声明を発表した。


「地球に生きる全ての人々へ」


・「火星移住計画」は人類全体の生存をかけた壮大なプロジェクトです。

・一部では「地球再生の可能性」を主張する学者もいますが、それは現段階では非科学的な希望論にすぎません。

・政府はすでに火星環境適応技術を確立しており、問題なく移住可能です。

・「乗船者選抜」は公正に行われており、国際的な基準に基づいて選ばれています。

・地球に残る方々にも十分な支援を提供し、生活が維持できるよう努めます。

・本計画に疑問を持たず、政府の指示に従うようお願いいたします。

         国際宇宙移民機構(ISMO)


しかしながら、これで納得する者がいるはずもなく、「エクピロシス計画」はやがて「ISMO問題」と名前を変え、特に選抜から弾き出されるであろう低所得者層、難民、反政府団体等からの反発の声が大きくなっていった。


そうなるとISMOは今度は開き直るかの様にして非選抜者の弾圧を始めた。計画を台無しにする犯罪者として次々に逮捕、収監、そして凍死させるという暴挙に打って出た為、虐げられた人々が武装蜂起。


やがて世界中の宇宙船の発射基地の情報がリークされるに至って遂に選抜者と非選抜者の間で大規模な戦闘が勃発。


2144年現在、世界を二分する「第三次世界大戦」にまで発展してしまう。


そんな中、「方舟級」と呼ばれる巨大な宇宙船が打ち上げ予定日を迎えていた…


                  第二話に続く

*今回の引用元「デイ・アフター・トゥモロー」(2004年の映画)

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