プロローグ
2133年7月 日本の報道番組
「……次のニュースです。いわゆる『ISMO問題』に関してまもなく政府の公式見解が発表される予定になっています。現場から中継です。タカギさん。」
「はい。こちら首相官邸前です。元々記者会見室での発表を予定していましたが、急遽取りやめになっています。
えーこちらをご覧ください。先程30分前でしょうか。身を切る様な寒さの中、この様なビラが通りがかりの車からばら撒かれました。
会見場所での爆破を予告したビラです。
大量にばら撒かれており、車は現在逃走中。首相会見は中止され、後日、談話の形で発表……お待ちください!オザキ総理が移動する様です!
総理! 総理! ISMOのプロジェクトマネージャーに指名されたというのは本当ですか! 総理!……え?……銃声です!別館の方で銃声が!車が突っ込んできました! 激しい撃ち合いに! あ!ちょっ!バイクです! バイクが飛び込んで来ました! 危ない! 運転手が!今、燃えた日の丸の旗を掲げた女性が門の方へ駆け込んで行きキャーッ!!!」
「タカギさん? タカギさんどうしましたか!」
「爆発です! 自爆テロです!リュックを背負った若い女性がオザキ総理の方へ!多数のSPや機動隊員を巻き添えにして! ダメッ!これダメッ! 映さないで! やばいってダ」
「……はい。あ、はい。い、一部映像が乱れました事をおおお詫びいたします。えー……はい。一旦CMです。」
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2141年4月 アメリカのニュースサイト
「……つまりアマミヤ博士! 貴女が言い出した事でしょう!エクピロシスだかなんだか!異常気象が進んで地上は住めなくなるって!地球が破滅するって! 選ばれた人しか救われないって!それがご覧なさい!
自爆テロ! 暴動! ライフラインの寸断! 貴女のせいで秩序ある生活は破綻ですよ!地球が破滅? 法治国家の破滅じゃないですか!」
「地球が破滅ではありません。宇宙の終焉です。」
「一緒ですよ! 異常気象は150年前から言われてる事なんですよ!確かにSDGsは失敗しましたが、世界はちゃんとそこから学んでこれからもより良い環境作りをと、頑張って続けていってるんですよ!
それが貴女1人の妄言で我がアメリカは大混乱に陥っているんだ!その認識はあるんですかと聞いてるんですよ!」
「あります。私の発言が事実であると受け止められたという認識なら。世界中で同じ事が起こっている事も承知しています。」
「だから! 貴女の発言は妄想なんだ!世界の平均気温がマイナス70℃になるだなんて!何ですか! 海が凍るんですか!」
「凍ります。大地も固まります。大気も超低温になり雨ではなくスーパーボルトが降り注ぎます。呼吸をすれば即座に肺が凍るのでこれからのコミュニケーションは無線通信に頼らざるを得ない状況になります。
食料も全て人工物になります。それもいつまで保つ事か。凍死した我が子を貪り食う親の姿を、あなたは見たことがありますか?
私達の目前に迫っているのは宇宙の熱的死なのです。環境破壊は関係ありません。宇宙のエントロピーが今まさに最大になっているのです。
エネルギーが端点に到達し、反転しない限り宇宙は一切の静寂に包まれます。皆さんがこの窮地を脱するには火星に移住するしかない。このお話も何度もしているはずです。
『方舟』級の宇宙船も既に建造済みなんです。いえ。ここで発表させてください。……はい。かまいません。これはいつまでも隠し立てする事でもないんです。
全長1000m。幅300m。高さ250m。10万人が収容できるメガストラクチャー型の宇宙船です。
核融合プラズマエアブリージング推進で成層圏を突破、宇宙空間では重力波推進に切り替えて衛星軌道を周回。スイングバイで火星を目指す。
例えるならノアの方舟です。現代の方舟とも呼ぶべき宇宙船が世界41ヵ国で合計100隻。既に建造済みなのです。
おっしゃる通り、選ばれた人しか乗れません。
選抜者には後日、個人固有の認証コードとなるアークパスを各個人のナノタグに送信します。コピーや偽造は不可能です。これを受信しない限りいかなる方法でも船には乗れません。
しかし決して残された人々を見捨てる訳ではありません。火星移住が完了したあかつきには必ず、全ての地球人を迎えに戻るつもりです。
或いは火星での活動が計画通りに行けば、もしかしたらその頃には既に地球は回復しているかもしれません。いずれにしろ私は決して地球を、心清らかなる地球の人々を見捨てたりはしません。
それだけはここに誓います。」
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2142年8月 某動画配信サービス
「モーニンイブニングッドナイトー! ナイトーチャンネルです! 今日はちょっと緊急で生配信してます! えっと私ね。今、鹿児島県は枕崎市まで来てるんですよ。
このご時世、どーやってここまで来たのかってだけでも動画10本は作れそうなんだけどまぁそれはおいおい上げていきますね。
て事でまずは見てくださいよこの人の数! 何人? 1万2万じゃキカナイでしょ! 下手なフェスよりいますからね!
で何でこんなに人が集まってるかとゆーとハイこちらドンッ!
でぇけぇぇぇっ!!! これがかの悪名高き方舟! その名も「イザナミ」!
もう船名まで判ってるとゆー! まぁ話には聞いてたけど実際見たらマジでかいわ! 横倒しになったタワマンみたいな! 全面ソーラーパネルらしき物が貼り付けてあってすんげーピッカピカ!
何でも最初はスポーツアリーナだとか何だとかっつって作ってたらしいんだけど、どっかで情報が漏れちゃったんですね!偽装だって!
でもう地元は大騒ぎ!あっとゆー間に拡散しちゃって! 日本にも方舟があったー!つって!
でこの人集りですよ!
この! 極寒の! 枕崎にっ! すごいよね!
だけどね!ヒトメ見たいから集まってる訳じゃないんですよ!皆んな乗せてくれー!つって集まってるんですよ!そりゃそうだよ!誰だって死にたくないもん!
最近じゃシャワー浴びんのも命懸けですからね! だのに方舟ん中にゃアータ! 公園があったり川が流れてたりするとかゆーじゃないですか!農業プラント? 空気のリサイクルシステム? 知らないけど!
何それ!特権階級がどんだけ……あ、ちょっと待ってください……なんか小競り合いみたいのが始まってて……あ! ひどいっ! なんか銃みたいの持った警備員みたいのが女の人殴った!今の撮れてます?顔面! ひどいっ!
ちょっとここからでは遠くて詳細は判りませんが、明らかに出血してますよ彼女!あのフェンスの所! ちょっと人が多すぎて近づけないんすけど……ひどいわあんなの!
おい! ちょっと!そりゃあんまりだろ!おい! あんた! あんただよ!そこの!
なんでそこまですんだよ!え?あんたも乗せてもらえんのか?アークパスもらったのかよ!あんたの家族も!皆んな乗せてもらえるからそんな事すんのかよ!
お……え! ウソッ!撃った?今の!なんか銃みたいので?え? あれマジのヤツ? え!ちょっ! 撃ってる撃ってる! マジかよ! うわっ! 人が押し寄せてくる危ない危ないって!……
……いや……待って待って……あれ見て……あの雲……ほら! アレ! スーパーボルトじゃね? いや! そうだって!やばい!ちょっ! フクダっちカメラ捨てて! フク……ああっ! はっ、フクダっち!うわあああっ! ウソだろっ!そん」
第一話に続く
初めまして。トコヨアスタリスクと申します。
この物語はコロナ禍真っ只中の2020年に思いつきました。
世界中がパンデミックの嵐に揉みくちゃにされる様子を目の当たりにして、心底恐ろしい思いをしたものでしたが、そんな時に「もしも上級国民が地球を見捨てたら?」とゆー妄想がブホッと湧いてきて、それを5年間揉んで揉んで揉みまくった結果、なかなかのトンデモSFに仕上がったので、小説とゆー形にまとめてみました。
プロローグ&エピローグ含め全32話です。
最後までお読み頂ければ幸いでございます。
m(_ _)m
*今回の引用元「シュリ」(1999年の映画)