マリネちゃん、またね!
「痛い......」
「だ、大丈夫か?」
「うん......」
何が起こったのか分かりませんでした。気づいたら、私とパイポは、宮殿らしきところに倒れていました。私はちょっと、頭を打ったみたい。
「それにしても、ここはどこだ」
「私たち、ベッドで寝てた筈よね?まさか、寝てる間に連れ去られた!?」
「......可能性はかなり低いと思うが」
パイポが立ち上がって歩き出します。私も恐る恐る着いていきます。足音が響く......石造りの建物。宮殿というより、遺跡でしょうか。
「暗いな」
「うん」
奥に進むにつれて、どんどん暗くなっていきます。それに、なんか、変な音がしない?気のせいかな......
「ねえ、さっきらか何か......」
私が言いかけた瞬間。
「伏せろ!」
「え」
ドカーン!同時に前方から、何かが壊れるような音がしました。私は飛びかかって来たパイポに押さえられて、また頭を打ちました。
「もう、痛〜い!」
「早く立て!逃げるぞ!」
「え!」
私はパイポに引っ張られて走り出しました。すると、後ろからドッタドッタと、ものすごい足音が聞こえます。人間の足音じゃない!ヤバい!私は頭の痛いのも忘れて、必死で走ります。暗くて姿は見えませんが、グルルゥと、唸り声のようなものが近づいて来ます。ヤバいヤバいヤバい!
「もっと早く走れ!喰われるぞ!」
「はあ、はあ、は、走ってるよ!」
段々と明るくなってきて、さっきの場所が見えてきました。でも、ダメだ!追いつかれる!
「きゃあ!」
私は足を引っかけてすっ転んでしまいました。その上を、黒い何かが飛び越えて行きます。え?ナイト?
「うわあああああああああ!?」
はっ!前を見ると、パイポがその黒い何かに襲われていました。それは、あまりにも巨大な黒猫でした。黒猫は、その巨体からは想像もつかないような速さで、パイポの体を何度も殴りつけます。
「うっ、くっ!ぐあああああああああ!!」
「や、やめてえ!!」
私は助けに行こうとしましたが、足を挫いてしまったらしく、立ち上がれません。私、またこんなときに......
「あ......がっ......」
パイポの悲鳴が、どんどん小さくなって行きます。このままじゃ、死んじゃう!
「やめて!お願い!」
私は、なんとか這って前に進みます。黒猫は、パイポの体に齧り付きました。しかし、パイポは声を出しませんでした。
「ナイト!やめて!!」
私は咄嗟にそう叫びました。すると、黒猫はピクッと反応して、こちらに振り返りました。
「グルルルゥ......」
「......あなた、ナイトなの!?」
私が匍匐前進の姿勢のまま尋ねると、黒猫は、ノッソノッソとこちらに近づいて来て、私を見下ろしました。で、でかい......本当にナイトなの?
「ナイト!どうしてパイポを殺そうとしたの!?」
「アイツは、俺のことを殺そうとした」
「!?」
黒猫......ナイトは口を利きました。そんな、こんなことって......ナイトは私の前に座って、私を睨みつけました。
「アイツは、俺を殺したがっていた。だから、殺した」
「違う!パイポはあなたを殺したかったんじゃないの、殺すしかないと思っていたのよ!」
するとナイトは、さらに怖い顔で私を睨みつけました。
「お前も、俺を殺したいんだろう」
「そんな!そんなこと思ってるわけない!」
「お前、今、アイツを庇った。お前も俺を殺したいと思っているからだ」
「ち、違うよ!それは間違ってる!」
ナイトは険しい顔をして、なぜコイツには分からないんだ、という顔をしました。
「さあ、早く殺しなさいよ」
「どう言うことだ」
ナイトは目と口をクワッ!と開いて、私を威嚇します。怖い......でも、私は言い返します。
「パイポを殺した理由は、今私が思っていることと同じ理由なんでしょ?じゃあ、なんで早く殺さないのよ」
「グルルルゥ......」
ナイトは唸り声を上げました。しかし、襲ってくる様子がありません。ちょっと迷っているのかも。
「あなたは、私を殺したくないと思っているのね?例え、私があなたを殺したいと思っていても」
「ガウウウウウウウッ......」
なんか、痛いところを突かれたって鳴き声です。馬鹿な子。
「殺すって言われたり、殺そうと思われたりするのが、嫌だったんだよね」
「グウウウ......」
ナイトは、みるみる小さくなっていきます。
「大丈夫だよ。パイポも私も、ナイトのことが大好きだよ」
「ニャー」
ナイトは、ついに元の大きさに戻りました。私は駆け寄ってくるナイトを、ぎゅっと抱きしめました。温かい......そしたら、段々、意識が薄れて行きました。
「おい!起きろ、起きろ!」
「ん......」
目を覚ますと、私はベッドの上にいました。なんか、汗びっしょり。
「お前、すごい汗だぞ......熱でもあるのか?あっ!!」
私のおでこに手を当てようとしたパイポが、何かに気づいて驚いた声を出しました。
「え、何?」
「これ、失くしたと思ったら、こんなところにあったのか、悪夢発生装置」
「あ、アクムハッセイソウチ??」
すると、パイポは私の顔を見て言いました。
「これ、電源入ってたみたいだけど」
「え?」
だ、だから汗びっしょりだったの!?そう言えば、怖い夢を見た気がします。私はパイポを睨みました。でも、パイポは不思議そうな顔をして言いました。
「だとしたら、なんでお前、あんな幸せそうに寝てたんだ?」
「うーん?」
よく分かりませんが、とにかく先ずはシャワーを浴びないと......私はベッドから勢いよく立ち上がりました。ガーン!
「痛〜!?」
私はまた天井で頭をぶつけました。もう、この天井低すぎ!
「お前、昨日も頭ぶつけてたよな。いい加減慣れろよ」
「慣れないよ!」
私はフンとそっぽを向いて、シャワーを浴びに部屋を出ました。
「5時!?じゃあ4時間くらいしか寝てないじゃない!」
シャワーから出て時計を見て、私はびっくりしました。
「ホラ、行くぞ」
「行くぞって!こんな早く出てどうするのよ!」
私がそう言うと、パイポはため息を吐いて、呆れたように言いました。
「お前、あと7時間でニコニコ惑星が破壊されるの、分かってんのか?」
「あ」
ああ確か、私が惑星代表で、政治家たちの前で勝手に大演説をするってシナリオだっけ?って何そのシナリオ!!?
「ども、革命軍のレンタカーっす」
私がオロオロしていると、突然誰かが話しかけて来ました。太ったサングラスのお兄さん。確かに昨日見かけたけど、挨拶はしてなかったっけ?ってかレンタカーって何!名前!?
「レンタカー、早速アレの準備はできたか?」
「ハイ、できてるっすよ、パイパイの兄貴」
「だからパイパイの兄貴って呼ぶな!」
「え?だって、この間はパイポって呼ぶなって......」
「呼び捨てするなって意味だよ!」
パイポがレンタカーさんに怒鳴っています。その声を聞いて、ナイトが耳をピクピクさせました。ごめんね、まだ眠いよね。でも、アレの準備ってなんだろう?
「アリサの姉貴の分もあるっすよ。デヘヘ......可愛いっすね、パイパイ先輩の彼女っすか?」
「うるせえ!さっさとアレを渡せ!」
「ヘイヘイ、照れちゃって」
レンタカーさんは、小さな紙切れを私たちに一枚ずつ手渡しました。渡されたものを見ると、それは電車の切符でした。行き先は「内京」と書いてあります。いや、レンタカーじゃなくて電車かい!
「ニャー」
ナイトがこっちを見て、寂しそうに鳴きました。ごめんね、動物は電車に乗れないの......私が悲しそうにしていると、レンタカーさんは慌てて何かを取りに行きました。
「忘れてました!これが猫ちゃん切符っす。あと、ちゃんとこれに入れて運んで下さいね」
そう言って、レンタカーさんは、私に猫用切符とケージを渡してくれました。
「わあ!良かったね、ナイト!」
「ニャー!」
「ちっ、やるじゃねえかレンタカー。こいつ、こう見えて元鉄道職員なんだよ」
「エッへへ!」
そう言われてから見ると、こう見えてというか、もろ駅員さんです。とにかく、ナイトも一緒に行ける!でも、どこに行くんだろう?よく考えたら、目的だけぼんやりで、行き先は全く知りません。
「やっと来てくださったんですね、アリサ」
「?」
レンタカーさんの後ろから、背の低い女の子が顔を出しました。
「馬鹿、隠れてろって言ったろ」
この喋り口、もしかして......
「マリネちゃん!?」
そこには、ニコニコ惑星から強制送還された、マリネちゃんがいました。パイポの妹だとは聞いてたけど、まさか、革命軍の基地にいるとは知りませんでした。
「ごめんね。うちのお兄様が、ご迷惑をお掛けしてるみたいで」
「いいんだよ。こうしてタガイ星でマリネちゃんに会えるのも、一応パイポのお陰なんだから」
そう言うと、マリネちゃんは顔を赤くして、水色のワンピースをユラユラさせました。同い年だけと、背も小さいし、可愛くて妹みたいな子です。あ、実際にパイポの妹なんだっけ。
「本当は全部片付いてからにしようと思ってたんだが......」
「だって!ニコニコ惑星がなくなりましたら、アリサにも、ユキちゃんにも......」
マリネちゃんは、そう言って俯きました。涙を堪えてるみたいです。それを見たナイトが、マリネちゃんの方に走って行きます。そっか、もし上手くいかなかったら、私も星ごと消される......
「マリネちゃん、大丈夫!ダメで元々、当たって砕けろよ!」
私はマリネちゃんの手を握りました。マリネちゃんも顔を上げて、私の手を握ります。目には涙がいっぱいです。
「アリサは、いつも元気でいらっしゃっいますね......こんなときなのに、当たって砕けろなんて」
「ニコニコ惑星のみんなも、最期まで普段通り元気いっぱいだと思う。もし、私にできることがあるなら、そのニコニコをみんなに分けてあげること。だから、マリネちゃんも笑って!」
そしたら、マリネちゃんはニコッと笑ってくれました。
「アリサ、必ずニコニコ惑星のみんなを救って下さいまし。またユキちゃんと三人でチャーハンを食べましょう」
「うん!」
ナイトはマリネちゃんの足にスリスリしています。マリネちゃんは、しゃがんでナイトを撫で撫でしました。
「さ、もうそろそろ時間っすよ。電車に遅れちまうっす」
「そうだな。あ、ボスに挨拶しなくていいのか?」
「ボスは寝起き悪いっすからね......」
「そ、そうだったな」
パイポは身支度を始めました。ナイトはマリネちゃんと遊んでるから、ギリギリでいいかな。
「そう言えば、レンタカーさんは来ないんですか?」
「俺はマリネちゃんのお守りを任されてるっす。大丈夫、何かあったらすぐ駆けつけるっすよ、レンタカーで!」
「あ、そうですか......そう言えば、運転手さんは?」
「何言ってんだ。あれがボスだぞ」
「ええええええええ!?」
昨日、私たちを宇宙船まで迎えに来て、温泉まで連れて行って、この革命軍基地まで連れて来てくれた運転手さん、ボスだったの!?え!?
「なんだ?お前、気づいてなかったのか」
「気づかないよ!ただの運転手さんだと思ってた!」
「素性を隠すプロっすからね、無理ないっす」
そんな、全く気がつきませんでした。確かに革命軍のボス、周りに気付かれないようにするのは基本です。でも、わがまま言って山の上の温泉まで運転させたのに、あれがボスだったなんて......
「さあ、お喋りはここまでだ。早くいかないと、本当に間に合わないぜ」
パイポがパン!と手を叩いて言いました。よし、いよいよ出発だ。私は、ナイトをケージに入れて、背中に背負いました。そして、立ち上がりま......ガン!
「痛い!もう!」
私はまた頭をぶつけました。この天井、本当に低すぎです!
「お前、もっとカッコよく旅立てよ」
すかさずパイポがツッコミを入れます。それを見て、マリネちゃんとレンタカーさんが笑いました。他人事だと思って!これ結構痛いんだから!
「それじゃ、行ってきます!」
「アリサ、絶対に戻って来てくださいね!」
私たちは二人に見送られながら、革命軍基地を旅立ちました。
「あ!惜しい!」
またスイカができそうなところで、ブドウが来ました。なんでブドウばっかり来るの!
「お前、本当に呑気だよな」
「今集中してるから話しかけないで!」
「どうせまたダメだろ」
「うるさい......ああ、なんでりんごなの!?」
またゲームオーバーになりました。上がつっかえてるときにりんごが来たら、完全に詰みです。
「お前、少しは景色を眺めるとかしないのか?タガイは初めてなんだろ?」
「一回始めると中々やめられなくて......」
「じゃあ、そろそろやめとけ」
「はーい」
「あと、ちゃんと帽子かぶれ。アンテナ見えたら、ニコニコ星人ってバレるだろ」
「はいはい」
私はゲームをやめて外の景色に目をやりました。窓の外には、地平線が広がっていて、朝日が少し顔を出しています。確かに、これは綺麗だな。
「タガイ星って、もっと都会だと思ってたけど、割と田舎なところもあるんだね」
「この辺は特にな。右の方を見たら街が見えるけど、こっち側は地平線が見えるくらい何もない」
「なんで?」
特に興味はないけど、一応尋ねてみます。
「国境が近いんだよ。国境付近にはなるべく何も配置しないことになってるんだ」
「へー」
今は朝の6時です。ここの時間は、ニコニコ惑星とほぼ同じなので、時差ボケがなくて助かります。
「ふわあ......」
私は大きなあくびをしました。時差ボケがなくても、眠いのは眠いですが。
「ナイトはお利口さんだね......」
「ニャー」
私がケージを撫でると、ナイトはとても小さな細い声で返事をしました。グリーン車なので他にお客さんはいないし、鳴いても問題はないんだけど、ナイトは一切物音を立てません。なんなら、私の方がうるさいくらいです。
「ふわあ......」
私はまた大きなあくびをしました。
「眠かったら寝ててもいいぞ。内京まであと2時間はかかるからな」
「そんなにかかるの?じゃあちょっと寝るから、ナイトのケージ見てて」
私はそう言って、目を閉じました。流石に4時起きは眠いです。しかも、悪夢発生装置のせいで、あんまり眠れていません。ガタンゴトン......ガタンゴトン......電車の揺れる音を聞きながら、私はすぐに眠ってしまいました。




