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いざ、革命軍基地へ!

私たちが不時着した先は、銀河の外れのヘボン星というところだそうです。エンジさんが、私の顔を覗き込んでいます。

「具合はどうだい?」

「ええ、大丈夫です」

エンジさんは、花畑で倒れている私たちを見つけて、この小屋まで運んでくれたそうです。正確には、猫ちゃんがエンジさんを見つけて、無理矢理花畑へ連れて行ったみたいなのですが。

「ニャー」

「よしよし」

まだ意識はポワンとしていますが、猫ちゃんがすごく頑張ってくれたことは、なんとなく覚えています。ベッドで猫ちゃんを撫でていると、エンジさんが何かを持って来てくれました。

「ハーブティーだよ。体の傷に効く」

「すみません、ありがとうございます」

私は受け取ったハーブティーを一口飲みました。とってもいい香りがして、心が落ち着きます。もう一度お礼を言おうと思って、エンジさんを見上げると、とても暗い顔をしていました。

「すまないね、もっと早く助けに行けていたら、彼も助かったろうに」

「......」

あのとき、パイポも私と一緒に見つけられました。しかし、そのときには手遅れで、パイポはもう、息をしていなかったそうです。

「わっ、くすぐったいよ」

猫ちゃんが私の左腕をペロペロしました。私はハーブティーを置いて、猫ちゃんを抱っこしました。私は、花畑での猫ちゃんの声を思い出しました。あの、とても絶望的な、悲しい鳴き声を。それでも私たちのために、一所懸命に頑張ってくれたんだね。私は猫ちゃんをぎゅーっとして涙を堪えました。

「君たちが、どこへ向かっていたのかは分からないが、もうじき警察が来るから、送って貰いなさい」

「えっ!警察!?」

それを聞いて、私は心臓がバクバクなりました。どうしよう、こんな体じゃ逃げられないし......

「どうしたんだい?まさか、追われる身だったのかい」

エンジさんが急に真剣な口調になりました。私はそれに頷いていいのか迷って、目を逸らしました。すると、エンジさんは急いで何かを探し出し、すぐに私の方へ走って来て言いました。

「さあ、早くここを出よう」

「え?」

私が口をポカンとしていると、エンジさんは振り返って言いました。

「追われているんだろう?申し訳なかった。私の宇宙船を差し上げるから、それに乗って逃げなさい」

そして、私の手を引っ張って、小屋の外へ連れ出しました。猫ちゃんもパタパタ走って着いてきます。林を抜けて、たどり着いた先には......何もありませんでした。

「さあ、着いたよ」

「え?でも......」

正確には何もないわけではありませんが、お花がたくさん咲いているだけです。その周りは、たくさんの木で覆われていて、木漏れ日がお花畑をキラキラ映します。綺麗なところだな。でも、やっぱり宇宙船なんてありません。

「あー!宇宙船がない!?」

「えーっ!」

「ニャー!」

エンジさんが急に大声で叫びました。私たちもびっくりして叫んでしまいました。その声で、周りの木に隠れていた鳥たちが、ガサガサっと飛んでいってしまいました。ごめんね。

「すまない。確かにここに宇宙船を置いていた筈なんだ。しかし変だ。この星には私以外誰もいない筈なのに......」

「そ、そんな!じゃあ私たち、逃げられないってこと!?」

「本当に申し訳ない......」

私はその場に座り込んでしまいました。渡星禁止令の違反者は、当然ですが極刑に処されます。猫ちゃんも、同伴者として殺されてしまうでしょう。猫ちゃん......

「ニャンニャン!」

私が顔を上げると、猫ちゃんが少し離れたところで鳴いていました。私を呼んでいるのかな。私がヨロヨロと立ち上がって、近寄ってみると......

「!?」

「どうしたんだい?」

「い、いえ!猫ちゃん、うんちの時間だったみたいで!」

猫ちゃんは、うんちに砂をパシャパシャとかけます。

「......なんだい、そうかい。私はてっきり、宇宙船の痕跡を見つけたのかと」

「ははは!まさか!」

うんちを終えた猫ちゃんは、エンジさんに駆け寄り、ズボンの裾を噛んで引っ張りました。

「......そうだね、一先ず小屋に帰ろうか」

「......はい」

私たちは、歩いて来た道を引き返します。不安だけど、少しだけ足取り軽く。猫ちゃんも、心なしかキリッとした顔をしています。あ、この子はスッキリしたからか......


「え、逃げるってどこへ?」

小屋の入り口に着いて、私はやっぱり逃げることを伝えました。

「とりあえず、この星の中を逃げます」

「そんな、無茶だよ」

エンジさんは、扉を開けて私たちを中へ入れようとします。

「私といたら、あなたも殺されるかも知れません」

「なんだと?」

エンジさんは急に怖い顔になりました。私は続けます。

「私たちは犯罪者です。しかも、最も重い密航の罪で追われています。見つかったら確実に殺されます。あなたを巻き添えにしたくはありません」

エンジさんは、小屋に向けていた体をこっちに向けて言いました。

「つまり、本気でここから逃げようということかね」

「はい」

すると、エンジさんは服の内側から拳銃を取り出して、こちらに向けました。

「仕方ない。生捕りだと1億だったんだが、まあ、死体2つでも1億だ」

「......計算がおかしいんじゃないですか」

私は頑張って、なるべく冷静に言いました。

「なんだと?まさか、猫も計算に入れろというのか?」

「ニャー」

猫ちゃんが心配そうに鳴きます。大丈夫......大丈夫だから、きっと。エンジさんはジリジリと近づ来ながら言います。

「さっき警察から連絡があった。もうこの星に到着しているそうだ。今もお前たちを陰から狙っている筈だ」

「そんな嘘が通じると思いますか」

私は後退りしながら言い返します。もうすぐ......撃たれる!そして!

「今よ、猫ちゃん!走ってえ!」

「ニャー!」

私たちは振り返って、一目散に走ります。次の瞬間!

「死ねえええええええ!!」

パァン!......エンジさんの叫び声と共に、銃声が鳴り響きました。私たちは立ち止まって振り返ります。そこには、エンジさんがうつ伏せに倒れていました。

「大丈夫、殺したんじゃない。催眠銃ってやつだ」


「お前、どこで気づいたんだ?」

パイポは円盤を操縦しながら言いました。

「猫ちゃんが見つけてくれたの、パイポの血痕を」

猫ちゃんは私の膝の上で丸くなっています。汚れちゃったから、後でお風呂に入ろうね。それを横目で見ながら、パイポはニヤッとして言いました。

「だとしたらお前、スパイの才能あるぞ」

「スパイにはならないよ。でも、パイポこそどうやって......私はてっきり......」

「おいおい、死んだふりなんてスパイとしては常識だぞ。このカシミンを飲んだんだ。これで1時間ほど仮死状態になる。まあ、本当に死にかけてはいたけどな」

パイポは、ケースに入れたピンクの錠剤を、自慢げにカラカラっと鳴らしました。

「そうなんだ......」

パイポは円盤の操縦には慣れていないみたいで、たまに機体がグラッと揺れます。その度に、私は猫ちゃんを落とさないように、両手でぎゅっと押さえます。

「でも、円盤を盗んだのに、よくバレなかったね」

パイポはまたニヤッと笑いながら言います。

「それは、この声色チェンジャーを使って、あの爺さんに電話を掛けたんだ。安全の為、宇宙船は押収しました、とね」

パイポは、ポケットから小さな機械を取り出して、また見せびらかしました。そのせいで、円盤はまた左右に揺れます。もう、いいからちゃんと操縦してよ。

「だから、エンジさんは、慌てて宇宙船が本当になくなったか見に行ったのね」

「もっとも、それで俺の痕跡が見つかっちまうとは、俺も甘かったな」

「でも、猫ちゃんは、うんちでそれを隠してくれたんだよ」

「ニャー」

「そ、そうか......まあ、優秀な猫だな」

円盤は、ゆらゆら揺れながら、宇宙空間を飛び続けます。

「ところで、この円盤、ちゃんと目的地に向かってるの?」

「もちろんだ。こんなときのために、この超小型スパイレーダーが、俺たちの位置を......」

円盤が、また左右に大きく揺れます。危ない!猫ちゃんを落っことすところでした。

「もう!ドラえもんごっこはいいから、ちゃんと操縦して!」

「へいへい」

パイポは、操縦レバーを両手で握りました。それでよし。猫ちゃんもスヤスヤ眠り始めました。

「あ、ところで、どこかに温泉ないかな?」

「お前、明日母星がなくなるってときに、呑気だよな」

「母性?私そんなのないよ。って!明日!?」

私は時計を持っていないから、ニコニコ惑星を出発してどれくらい経ったのか知りませんでした。

「出発したのが49日の19時だ。それから寝たのが50日の6時、起きたのが14時だ。それからヘボン星に不時着したのが、多分15時くらいで、今が50日の19時だ。ニコニコ惑星は1日の12時に破壊予定だから、それまでには間に合う筈だ」

「革命軍の基地にはあとどのくらいで着くの?」

「大丈夫、タガイ星まであと1時間もかからない。睡眠時間を考えても、なんとかなる」

「よし、あと1時間でお風呂に入れる!」

私がそう言うと、パイポはため息を吐きました。

「お前、やっぱ呑気だな」

そう言うと、パイポはレバーをグイッと引っ張りました。スピードを上げるみたいです。私は、またグラグラ揺れるんじゃないかと、体に力を入れましたが、今度は全く揺れませんでした。


「わあー!久しぶりのお風呂だー!」

猫ちゃんとお風呂に入りたいってお願いしたら、革命軍の人が、山奥の秘湯に連れて行ってくれました。前のロケットでシャワーを浴びたきり、お風呂に入れてなかったから、これは恵みのお風呂、まさにオアシスです。

「ニャンニャン!」

猫ちゃんが入っても大丈夫です。だって、カピバラもいますから。山の中の天然温泉......タガイ星はちょうど夕焼けの時間で、見上げると、陰になった山の後ろに、真っ赤な空が広がっています。反対側を見ると、タガイ星の街並みが一望できます。夕焼けに照らされて、建物がキラキラ輝いて見えます。

「お前、よくカピバラや猫と一緒に入れるよな」

振り返ると、パイポが温泉のお湯をチョンチョン触っていました。え?

「きゃあ!」

バシャッ!咄嗟にお湯をかけてしまいました。

「お前!命の恩人に対して!」

「変態!あっち行け!」

あいつ、いつからあそこにいたんだ?よく考えたら、スパイって覗きのプロです。最低です。変態です。

「ニャー」

それに比べて、猫ちゃんはお利口です。お水を怖がらないで、ちゃんと体も綺麗になりました。あれ、でもこの子、オスかな?メスかな?そう言えば名前も決めていませんでした。何がいいかな......

「ニャニャ」

猫ちゃんは、カピバラたちと遊び始めました。水をかけたり、体を突いたり。猫ちゃんは、自分より大きな動物でも、恐れなく、とても勇敢です。

「そうだ、ナイトにしよう!」

「ニャー」

「勇敢な戦士ってことだよ」

「ニャー」

ナイト、猫ちゃんにぴったりの名前です。ナイトは、カピバラたちに飽きたのか、私の方へ泳いできました。

「お利口さんだね、ナイト」

「ニャ?」

ナイトは、突然いつもと違う名前で呼ばれたので、困惑しているみたいです。

「じゃあ、そろそろ上がろうか」

「ニャン」

私とナイトは、カピバラたちにバイバイして、温泉を出ました。

「全く、長風呂だな」

温泉から上がった瞬間、パイポが文句を言ってきました。

「だから!なんでまだいるのおおお!!」

「うわあああああっ!!」

ボチャーン!私はパイポを温泉にはたき落としました。


「うわー!夜になると全然違いますね!」

「ここは実際、夜の街と呼ばれています。それ故に、あまり治安の良いところではありませんが」

運転手さんが丁寧に街の説明をしてくれます。行きがけも少し通りかかったけど、さっきは明るかったから、こんなにネオンが光っていませんでした。本当に、さっきとはの街みたいす。

「へっくしょん!」

私が街の明かりに見惚れていると、パイポが大きなくしゃみをしました。

「大丈夫?」

「......お前が温泉に突き落としたりしたから、風邪ひいちまったんだろうが」

「着替えればよかったじゃない」

「一応、女の子の前で裸になれるわけないだろ」

「まあ、失礼!人の裸は散々見ておいて!」

「へっくしょん!」

「ニャン......」

パイポを心配しているのは、ナイトくらいなものです。パイポはバスタオルを体にグルグル巻きにして、ブルブル震えています。自業自得です。

「ナイトは優しいねー」

「ニャー」

私はナイトをなでなでしました。お風呂に入ったから、毛並みがすっかりふわふわになりました。

「ところで、そのナイトってのはなんだ?猫の名前か?」

「うん、さっき付けてあげたの」

「ニャー」

パイポは冷たい目でナイトを見ました。ナイトはそれを、首を傾げて見ています。

「グーリンダイとか、ポンポコピーの方がよかったんじゃないか?」

「うわ、ダッサ。そんなの嫌だよねー、ナイト」

「ニャー」

ナイトはどっちでもいいよといった具合に鳴きました。いや、ポンポコピーはダメだよ?

「うーん、ナイトか......ちゃんと覚えナイト」

車内が凍りつきました。パイポは顔を真っ赤にしています。じゃあ最初から言うなよ!変な空気のまま、車は赤信号で止まりました。

「あ、そう言えば、あなたたちが温泉に入っている間に、ニコニコ惑星からの密航者が捕まりましたよ」

運転手さんが、気を使ってパイポに話しかけました。

「あなたたちじゃなくて、温泉に入ってたのはアリサだけだ」

「あら、パイポも入ったじゃない。ところで、その密航者が捕まったってことは、私たちは関係なかったってことですね?」

運転手さんは、横断歩道で左右の安全を指差しで確認してから、ゆっくりと発進しました。

「報道の情報しか確認していませんので、正確には断定を致しかねますが、恐らく大丈夫でしょう」

「密航者って言い方はメディアの言い回しか?」

「左様でございます。私も、渡星人から密航者に表現が変わりましたので、少し違和感を覚えておりました」

「そうか。なんの意図があるか分からんが、きな臭いな」

「え?クンクン......」

「ニャー、フンフン......」

「......へっくしょん!!」

そんなこんなで、私たちは革命軍の基地へと向かいます。確かに喧嘩とかが見えましたが、この辺りから見ると、光が雲にまで反射してとても美しく見えます。さあ、時間があまりありません。早く基地に行って、寝ナイト!......うう、やっぱり寒いです。

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