表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

宇宙に行きます!

挿絵(By みてみん)

このニコニコ惑星は、もうすぐ破壊されてしまうそうです。少し、政治的な話になりますが、先日の宇宙会議で、ニコニコ惑星には生産性がないという結論が出ました。だから、会議の末、ニコニコ惑星は、星の住民ごと破壊されてしまうことになったのだそうです。悲しいことですが、政府の決定には逆らえません。

「アリサ、ハイナハイナ!」

「あ、ユキちゃん、ハイナハイナ」

席に着いたら、ユキちゃんが話しかけて来ました。ユキちゃんは、私の親友です。ニコニコ星人には、緊急渡星禁止令は関係ありません。だから、爆破が決まっても、こうしてちゃんと会うことができます。それは、とても素敵なことだと思います。

「あれ、マリネちゃんはいないね」

「仕方ないよ。渡星人の生徒は、みんな緊急渡星禁止令で来られなくなったから」

「そっか、マリネちゃんは、タガイ星からの渡星だもんね......」

ユキちゃんは、少し寂しそうな顔をしています。渡星人の生徒は、自分の星に強制送還されました。緊急渡星禁止令で、ニコニコ惑星への渡星が禁止されたからです。席も、三分の一くらいは空席です。でも、みんなニコニコ。それがニコニコ星人だからです。だから、学校も授業も、いつも通りあります。

「昼休みは外でお弁当食べよっか」

「そうだね。今日は天気いいもんね」

カーテンの揺れる窓から、冷たい朝の風が吹き抜けていきます。隙間から見える晴れた空は、美しい黄金色をしています。思わず見惚れてしまいます。


お昼休み、約束通り外でお弁当を食べた後、ユキちゃんは放送部のお仕事に行きました。私は、ひとりで風に吹かれています。気持ちいい。遠くの木の枝で、小鳥がチュンチュ鳴いているのが聞こえます。

「おい」

「きゃっ!?」

突然、誰かに声をかけられて、ビックリしました。振り返ると、そこには男の子が立っていました。見たことのない子です。制服を着ていないし、頭のアンテナがありません。緊急渡星禁止令が出ていて、ニコニコ星人以外はいない筈なのに。

「お前、ひとりで何をしている」

「け、景色を見ていたの」

男の子の口調は、とても冷たい。そして、鋭く私を睨んでいます。いや、睨んではいないかもしれないけど、ちょっと怖い目つきをしています。

「あなたこそ、ニコニコ星人じゃないみたいだけど、ここにいて大丈夫なの?」

私は尋ねました。男の子は黙っています。黙って考えているのか、ただ単に睨んでいるのか分かりません。こんなに人の気持ちが分からないのは、初めてのことです。

「景色を見て、何を考えていた」

男の子は、質問に答えませんでした。しかも逆に質問をされました。何をって、えーっと。

「空は綺麗で、風が気持ちよくて、小鳥が鳴いていて、今日も幸せだなって、思ってたの」

「もうすぐ殺されるのにか!?」

「きゃ!」

男の子は、血相を変えて言いました。私は急に大声を出されたので、ビックリして、座っていたところから落ちそうになりました。流石にそれを見て、男の子も悪いと思ったのか、今度は、息を整えてゆっくり話し始めました。

「お前たちは、もうすぐ星ごと破壊されてしまうんだぞ。そんなときに、なぜ幸せだと思っていられるんだ?」

「し、幸せだと思っちゃいけないの?」

咄嗟に、私も質問で返してしまいました。困らせちゃったかな。男の子は一瞬戸惑って、それから言いました。

「俺はエージェントだ。別の星から来た」

「え?」

どういうことだろう。エージェント?よく分かりません。緊急渡星禁止令で、ニコニコ惑星と他の星は行き来できない筈なのに。男の子は私の顔を見て、ハアッとため息をつき、それから続けました。

「つまり、スパイだよ。お前たちのな」

「どういうこと?私たちをスパイしてるの?」

「正確に言うと、今からお前を拐う」

「ええ!?」

スパイ!スパイに拐われる!?でも、なんで私なんて拐うんだろう。やっぱり、よく分かりません。

「詳しいことは宇宙船で話すから、とりあえず黙って拐われてくれ」

男の子は私の腕をガッと掴んで、無理やり立ち上がらせました。もしかして、このまま宇宙船に行くの?ど、どうしよう。

「あの......」

「なんだよ」

「このまま、宇宙船に乗るの?」

「そうだ。断る権利はない」

「いや、断るわけではないけど、その......お手洗い行ってからでもいい?」

「......早く言えよ」


私たちは、ニコスパ・ジャンボに来ました。通称ニコスパは、ニコニコ惑星で唯一の温浴施設です。すごく広くて、施設内にはたくさんの温泉があります。来るだけでワクワクする、遊園地みたいなところです。え、でも、なんでこんなところにいるの......

「まずは腹ごしらえだな」

「ちょっと待ってよ!宇宙船に行くんじゃなかったの?」

「お前がお手洗いにと言ったんだろ」

「いや、ここはお手洗いじゃなくて......確かにトイレも行けたけど」

「トイレってのはバスルームだ。バスルームってのは温浴施設だ」

「そ、そうなのかなぁ......」

彼の言うことは、よく分かりませんでしたが、とりあえず、宇宙船に直行じゃなくて安心しました。

「お、瓦そばがあるぞ!俺、瓦そば大好きなんだ。行くぞ......えっと、名前何?」

彼は、瓦そば屋に走りそうになりながら尋ねました。もう、顔に瓦そばと書いてあります。

「わたし、アリサ」

「そうか、じゃあ、アリサ。瓦そば食うぞ!ちなみに、俺の名前はパイポのシューリーガンだ。もちろんコードネームだがな」

「うん、よろしくね、パイポ」

私が笑顔で答えると、パイポは急に目つきの悪い顔に戻って言いました。

「......お前、拐われ中ってこと、忘れるなよ」

あ、そうだった。お店の中はがらんとしていました。薄暗い店内。ちょうどお昼時なのに、カウンターにも座敷にも、誰もいない。あれ、空いてるのかな?

「ハイナハイナ」

そう思ったら、奥から着物を着たお婆さんが出てきて、とっても丁寧にお辞儀をしました。

「お二人様ですか?ではこちらのお席へどうぞ」

お婆さんは、他にお客さんはいないからと、角の一番いい席に案内してくれました。

「誰もいないね」

「当たり前だ。瓦そばは地方の食べ物だからな。タイヤグミと一緒だよ。他の奴らは口にしただけで吐いちまう」

「そうなの?美味しいのに」

すると、お婆さんがメニューを持ってきて言いました。

「そうですね。ただ、渡星人の方には、瓦そば好きな方もたくさんいらっしゃったんですよ。でも......店は今日で、畳もうと思います。私ももう歳ですから」

お婆さんは笑顔で微笑んで、よたよたと厨房へ戻って行きました。メニューは手書きで、いかにも昔の良いお店って感じです。単品の他に定食などもあって、どれも美味しそう。

「俺は、豪快瓦そば定食にするぞ。お前は?」

「私はいいよ、お弁当食べたばっかりだから。お金も持ってないし」

「そうか。じゃあ、俺が頼むやつを一緒に食おう」

「うん」


「瓦がお熱くなっておりますので、お気をつけくださいませ」

「あちっ」

「瓦を見てそれをやる奴は馬鹿だ」

冷たい目で睨みつけられました。確かに、やるべきではなかったです。話題を変えた方が良さそう。

「パイポは、なんで私を拐うの?」

「うおー!美味そう!」

パイポは、もう瓦そばしか見えていないみたい。あつあつの瓦の上で、ジュウと音を鳴らしながら焼ける茶そば。その上に綺麗に並べられた、色とりどりの具材。確かに、これは話を聞く暇もなさそうです。お弁当食べたばかりなのに、なんだか、私もお腹が空いてきました。

「ほれ、お前の出汁」

私が見惚れていると、パイポが出汁の入ったお皿を渡してくれました。

「わあ!ありがとう!」

もはや、誘拐の話はどうでもよくなってきました。瓦そば、食べる!

「いただきまーす♪」

「お前を誘拐するのは、ニコニコ惑星を救うキッカケを作るためだ」

私が箸で麺を掴もうとしたとき、パイポは神妙な口調で話し始めました。え、今!?先に瓦そば食べたい。

「俺は革命軍のスパイとして、このニコニコ惑星にてニコニコ星人を......」

瓦そばが、私の箸の先で美味しそうに湯気を立てています。先に瓦そばを食べたい。

「ニコニコ星人は、この度の会議に参加しておらず、にも関わらず政府は強引に......」

「うん、瓦そばが食べたいです......あっ!」

しまった!相槌のつもりが、つい心の声が出てしまいました。恐る恐るパイポを見ると、もの凄い目で私を睨みつけています。

「お前、ひとがお前らのために闘ってるってのに!!」

グゥ〜。そのとき、情けない音が店中に響きました。パイポのお腹の音です。私が笑うと、パイポの表情が崩れて、みるみる顔が赤くなっていきます。

「......まあ、先に、食うか」

パイポは、恥ずかしそうに瓦そばを食べ始めました。私もようやく箸を動かせました。あつあつの麺を、具と一緒に出汁につけて頂きます。うん!ちょっと喋ってる間に、麺がパリッとなってて美味しい!私たちは、瓦そばをあっという間に平らげてしまいました。


お店を出て、私たちは宇宙船へ......行かず、温泉に入ることにしました。と言うのも、この時間は宇宙船の事故が多いので、警察の見張りも厳しく、今すぐに飛べないのだそうてす。それなら、折角だし温泉に行きましょと言ったら、渋々承諾してくれました。

「ふぅ〜気持ちいい〜」

お湯はちょっぴり熱い40℃。じわーっと温かいです。それにしても、なんだろう?この「内省の湯」って。やけに広々していて、のんびりくつろげます。いい気持ち。すると突然、水の中から、私と同じくらいの女の子がひょこっと出てきました。

「うわあ!びっくりした!」

女の子はじっとこっちを見つめています、って、わたし!?わたしが見てる!女の子は、私と同じ顔をしていました。というか、私そのものです。どうして、わたしが温泉の中から......?

「ハイナハイナ、わたし」

「ハ、ハイナハイナ......」

恐る恐る、挨拶をしました。でも、わたしなんだから、特に警戒しなくてもいいのかも。

「ねえ、あのパイポってやつ、信用できるかな」

「私は疑ってないよ。とても真剣そうに見えるし」

「でも、わたしを誘拐してるんだよ。普通、信用できる人がそんなことする?」

「でも、別に悪いことされたわけじゃないし」

「これからされるのかもよ」

「そんなの、まだ分からないよ」

私は言いました。でも、実際、本当に信用できるかなんて、分かりません。誘拐した理由だって、ニコニコ星人を救うキッカケだって言ってたけど、どうして私なのかも分からないし。

「やっぱり、不安なんだね」

わたしは私に、慰めるように言いました。そして、お湯の中で、私の手をぎゅっと握りました。

「大丈夫。彼が信じられなくても、私が私を信じればいいんだよ。いつだって、私は私の味方だよ」

そう言うと、わたしは湯気の中に消えて行きました。ふと気づくと、私は心の中まで温かくなっているのに気づきました。

「ふぅ、そろそろ出ようかな」

私は時計を見ました。湯気で霞んでよく見えないけど、待ち合わせまで少しあります。

「あと5分〜♪」

もう少し、温まって行くことにしました。長風呂は結構好きです。


「もっと速く走れ!」

「そんなあ、折角温泉に入ったのに汗だくになっちゃうよ」

「お前が長風呂し過ぎなんだよ!」

私たちは山道を必死で走っています。というのも、私、お風呂で寝ちゃったらしくて、集合より1時間も遅れてしまいました。それで、急がないと安全に出発できる時間に間に合わなくて、それで......

「あっ!」

ドサッ!

「おい、大丈夫か!」

「い、イタタ......」

痛い......転んじゃった。走るのに夢中で、足元の木に気づきませんでした。ああ、結構痛いな、走れるかな。

「うわ、すごい腫れてるじゃないか」

パイポが私の足を見て言いました。どうしよう、急がなくちゃいけないのに。パイポの顔を見たら、青ざめていました。私もそれを見て青ざめそうでした。どうしよう、宇宙船が無事に発進できなかったら......

「これで少しは楽だろう」

「うん、ありがとう」

パイポは、服に川の水を染み込ませて、足に巻いてくれました。見上げると、もう日が暮れかけています。

「あっ、ごめんね。じゃあ行こうか」

「馬鹿!」

私が立ちあがろうとすると、パイポが怒鳴り声を上げました。あまりに大きな声で、近くの木に隠れていた鳥が、バタバタと一斉に飛び立ちました。

「動くんじゃねえ!それで歩けるわけないだろ!」

「え?」

私はてっきり、転んだことに怒って、早く走れと言われるんだと思いました。でも、パイポは真逆のことを言いました。鳥の羽ばたきがやっと収まりました。西陽の陰で、パイポの顔は見えなかったけど、物凄く真剣な顔をしているのは、見なくても分かります。

「......ホラ、乗れ」

「......あ、うん」

パイポはゆっくりと、歩き出します。一歩一歩、落ち葉を踏み込む感触が、背中から伝わってきます。自分で歩いてないのに、歩いて前に進んでるって、変な感じ。でも、とても落ち着くというか、安心します。

「ちょっと、揺れるぞ」

「......うん」

パイポは、私を背負ったまま、器用に山の斜面を登ります。しっかり掴まらないと落ちちゃう。パイポの踏んだ地面から、土が下にバラバラと落ちる音が聞こえました。陽はどんどん暮れて、もう月明かりだけが頼りです。それでもパイポは、足取り軽く進んでいきます。

「大丈夫か?」

「うん、大丈夫だよ」

普通なら大丈夫じゃないかも知れません。今だって、怖くないわけではありません。でも、なぜだろう。怖いのに、怖くない。なんだかとっても、ワクワクするような、そんな気分です。

「お前、最初に言ってたよな」

「え、なに?」

山道を、徐々に速度を上げて歩きながら、パイポが言います。

「幸せだと思ってたって」

ああ、さっき、昼休みに校庭で話したときのことか。

「うん、言ったね」

「お前、今でもそう思うか?俺に拐われて、転んで、怪我して。それでも、そう思うか?」

パイポは、こんな暗い中も、淡々と障害物をかわして行きます。でも、話の仕方はとても慎重で、歩く速度と正反対にゆっくり、重いのを感じました。

「......うん、思うよ。もちろん、拐われたり、怪我をしたりするのは嫌なことだけど」

「宇宙船が見えてきたぞ」

パイポがそう言うのと同時に、私も合金に月明かりが反射しているのを捉えました。あれが宇宙船......三角形の赤い屋根、水色の細長い胴に丸い窓、青い裾広がりの羽。なんというか、ザ・ロケットです。パイポは、ポケットからリモコンのようなものを取り出し、宇宙船の扉を開けました。

「ここから先は、俺たちの基地に着くまで、少し危険な旅になると思う。帰るなら今のうちだぞ」

私は自分で歩けないから、このまま宇宙船に乗せられたら、本当に誘拐です。私は聞いてみました。

「帰りたいって言ったら、帰してくれるの?」

彼は一瞬考えて、そして、答えました。

「......俺はお前を拐ってんだぞ。帰すわけないだろ」

「じゃあ、聞かないでよ」

でも、私も帰りたいだなんて思っていません。パイポについて行くって、もう決めたから。宇宙船のドアが、ゆっくりと閉まります。おぶったまま、パイポは私の体をぎゅっと持ち直しました。

「......嫌なときは、嫌ってはっきり言えよ」

発進レバーに手を手をかけたまま、パイポは私にそう言いました。まさか、まだ迷ってるの!?私はパイポの手を押し除けて、後ろから無理やり手を伸ばしました。

「発進!」

「ちょっ、お前っ!?」

グウィーン!宇宙船は、私がレバーを倒した瞬間、一瞬にして飛び上がりました。宇宙の旅の始まりです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ