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時の修行  作者: OT
3/3

劣等感

 魔力測定の行われた次の日から、周囲のゼノに対する反応は180°一変した。

 僕も最初は親友が大人達に喜ばれる『勇者』という物を凄いものと確かに認識していたと思う。ただ、次第にそれは御伽話の中の話であってそこまで大したことのないものなのだろうと心のどこかで思っていた。

それでも、僕自身の『時間遅延』よりは遥かに優れた、そして素晴らしいものなのだろうと分かっていながら認められない自分とで醜い葛藤していたのだろう。

 なぜ、今そんなに客観的に見ることが出来るのかって?

そりゃあ語りだからな。数十年後の僕の…俺の。



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 僕はしばらくの間、最低限しか自宅から出なかった。

 誰にも会いたくない、なぜかそう思ったから。

 そんなことをしている15歳の一人暮らしなんて放っておけばいいのに、何故か気にかけてくれる優しい人が村民に多い。

 感謝の気持ちを伝えたいが、それも叶わないと思う。

 だって、自宅に引き籠る理由が、急にゼノをチヤホヤし始めたことに対する嫉妬なんだから。村民のみんなに悪気がないのは分かってるから言えないし、言いたくない。




〜1日目〜

 朝日とともに目覚める。これはある程度身に付いた習慣なので不可抗力とも言える。それから興味本意で魔力『時間遅延』を使ってみるが、何か認識できる変化はない。分かってはいたが、あまりにも使えない魔力に落胆しながら昼ご飯を食べる。この村で取れる農作物はとても良質なようで、舌が踊るように野菜類・果物類が進む。いつも2.3日おきに差し入れをくれる村長に感謝しながら、再度食べ進めていく。あぁ、美味しい。



〜2日目〜


 朝日とともに目覚める。たまに起きられない時にゼノが起こしに来てくれたりしていた。今はそのゼノは風の噂 (とは言っても外から聞こえてくる様子で予想だが) 魔力『勇者』を使いこなすべく鍛錬に明け暮れていて、引きこもりの僕に構っている暇は無いのだろう。朝食をお腹に入れる気は一切なく、それからまた未練がましく魔力『時間遅延』を使ってみるが、何か認識できる変化は相変わらずない。大器晩成型なのでは?と、中々に困難を極める可能性を無理矢理見出して魔力を使用して鍛えてみる。魔力の強さは鍛え方次第で上がりはするが、根本の性質に変化が起こることは稀らしい。なので大器晩成はレアなケースだと分かってはいたが、あまりにも使えない魔力というのを再確認して1人で失笑しながら昼ご飯を食べる。相変わらずの良質な農作物は舌が踊るように野菜類・果物類が進む。ただ、2日ほどしかたってないにも関わらず人と話をしていないことに寂しさを覚える。その気持ちを埋め尽くそうと再度食べ進めていく。うぷっ。食べ過ぎた…。



〜3日目〜


 最近、目覚めが悪い。たまに起きられない時にゼノが起こしに来てくれていたのが懐かしく感じるが、まだ3日目しか経っていない。そのゼノは魔力『勇者』を使いこなすべく鍛錬に明け暮れていて、引きこもりの僕に構っている暇は当然無いのだろう。朝食をお腹に入れるかどうかと考える必要すらないような時間に起床するので関係ない。我ながら気持ちが悪いほど未練がましく魔力『時間遅延』を使ってみるが、相変わらず何か認識できる変化は皆無である。魔力の強さは鍛え方次第で上がりはするが、発動しないのであれば関係ない。不可能なのだ。発動すらしない魔力は、鍛えようも無い。そもそも、発動したらどうなるのか見当もつかないため、そもそもが詰んでいる。良質な農作物は、ただただ美味しい。自分の魔力の無能さを埋め尽くそうと再度食べ進めていく。昨日の過ちを繰り返さないために、今日は分量を考えておく。最近、何もしていないからかお腹の減りも悪いからな。



〜1週間後〜


 不快感と共に目覚める。一日一食食べるかどうかという状態の自分に朝食などとっくに必要なくなっていた。いつまでも、進捗もへったくれもないような魔力『時間遅延』を使う習慣は抜けずにいる。おそらく、何もしていない自分が嫌で、何もしていない状態にならないようにいつまでも魔力を使い続けているのだろう。希望も展望もない自分でも、何かしていないと狂ってしまいそうで。自己保身からくる行動なのだろう。




〜1ヶ月後〜


 目を開けるのもつらい。おそらく食事は2週間は取っていないだろう、いつまでも空腹になる気配はないが餓死するわけでもなく食事を摂る必要がないので特に気にしてなどいない。このまま灰になってしまっても良いのでは?と思い始めている。最近、村長ですら関わりがないので外の様子が気になりはするが、何かできるわけでも無いし、さらには白い目で見られるかもしれないときたら関わる気もなくなると言うもの。それも相まって外の景色すら見ず、更には目も開けずに相変わらず魔力だけは使う。そうすると、動いてもいない・発動もしていないのにやたらと疲労感に襲われるのである。ひたすら眠ることしかすることがない自分には睡眠薬的な効果があって丁度いい。

 もうこのまま引きこもり続けてやろうかと思っていた。



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 ロスターが自分のことに苦悩していた頃に、ゼノもまた苦悩と直面していた。

元来、ゼノ自体気の強い方では決してなく寧ろ弱気な方だというのに魔力『勇者』を発現したため、周囲からの期待は熱烈で重荷になって、

「((みんなからの期待が…、重い………。))」

日々そう思いながら、村民の戦士たちから基礎的な指導を受けていた。

 最近、ロスターの様子を見に行こうとすると村民のみんなに止められる続ける。なんでも、僕が行くと逆効果らしい。今ロスターと定期的に会っているのは村長のみで、村民ですら会っていないらしい。周囲から注目を浴びて胃が痛くなるような僕より、強いロスターのことだし何か重大な理由があってのことなのかと思う。…そう思うと、ロスターはすごい。いつも後ろについて行ってたからわかる。注目されるのが好きで、勉強以外の何をしてもすごくて、僕とは違う。もっともっと強くなって、ロスターに追い付かなきゃ。




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〜某日〜


 どのくらいたっただろう。...ゼノは元気だろうか。.........まぁ関係ないか。何かあっても俺にどうにか出来るわけでもないし。勇者なんだし、どうにかなってるだろ。......寝るか。最近、気合入れて魔力を使わないと疲れられない。気合入れて、寝るか。




〜某日〜


 .........目覚めてしまった。またどうせ寝るだけなんだし目覚めても仕方ないのに。さて、また寝るか......。魔力...




..................ん?

 まて。ここ数日(正確には分かっていないが)、やけに静かすぎないか?

 村がどれだけ小さくて村民が少なくても、ここまで無音なのはおかしい。少し異質ですらあると感じた。ちょっと確認しないと、と思いベッドから起き上がろうと試みるが足に力が入らない、なんてことがあるかと思ったが不思議となかった。まぁその方が都合がいい。

 そのまま何日、何か月振りかの窓を開放して外をみた。


 そこには、自分の近所の見知った光景とは全く違った風景があった。





 


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