魔力測定
まだ行う前だというのに魔力測定の結果に期待や不安を抱きながら、ワクワクまたはドキドキしているロスターとゼノの二人に、綺麗な水晶のような物を用意しながらラミが話しかけた。
「...ねえ、ロスター?まさか、魔力の種族特性について知らないわけじゃないでしょうね?」
「なんだそれ?」
ゼノがぎょっとしたような顔をして、
「えぇ!知らないのにどんなのが良いとか言ってたの!?」
ゼノと村長以外の、ラミを含めた野次馬として集まっていた面々たちは一斉に『はぁ~...』と深いため息をついた。
「それなら、ゼノには復習になっちゃうけどもう一度説明するわね。ロスター!嫌な顔しない!あなたのために説明するんだからよく聞いておきなさい!」
「はぁーい...」
ラミが深く息を吸って、その後説明が始まった。
「そもそも魔力とは、ある一定以上の知性のある生き物たちに備わる力のこと。種族によって成長速度や寿命の関係で魔力の発現には差があるんだけど、【人間】だと10歳って決まってる。魔力の覚醒にはこの『魔石水晶』に触れるだけっていう簡単な条件のみ。この水晶は、自分のステータス項目のチェックもできるから、一見分かりにくい魔力でも分からないってことはないの。」
「え、魔力って使うと周囲が燃えたり、雨が降ったりするからすぐわかるんじゃないの?」
ロスターは疑問に思ったことをそのままラミに投げかけたが、
「本当に何も普段から聞いてないのね......。」
と、呆れられた。その横でゼノはプルプルと笑いを堪えている。クッソー、仕方ないじゃん、知らないことなんだから。
「うーん、なら、一回私のステータスを例にあげてみるね。」
と言い、魔力水晶にラミは触れた。
たちまちかざした手の部分の魔力水晶に光が灯っていき、「おおー」とゼノと反応していた。
するとそこには、
(名)ラミ
(年齢)35歳
(職業)聖職者
(魔力)早歩き(D) /水(E)
魔力水晶に文字が浮かび上がっていた。
「...うん。これがステータス。名前や年齢、職業も出てくるの。もっと高性能な魔力水晶だと、さらに詳しくステータスが表記されるわ。」
「え、やっぱり35歳、」
「..........」
「ごめんなさい。」
「よろしい。」
無言の圧にやられたロスターであった。ラミは「ここからが本題なんだけど、」と言い、
「魔力の項目に注目して。線で仕切られてる左側にあるのが、一般に魔力と定義されるものなの。そして、線で仕切られている右側にあるのは何かというと?」
と、ラミはゼノに目線を合わせた。
「ぞ、『属性魔力』」
「そう。正解。」
ゼノが正解して少し上機嫌になったようだ。
「まさかその属性魔力って、」
「あ、気付いた?やっぱ地頭は良いんだよねー。ゼノと教えたタイミングで一回で覚えてほしいところなのに、なんでしないのかねー?」
村民の総意だと言わんばかりに一斉に頷く一同。
「ロスターの考えてる通り、右側にあるのが所謂、属性魔力ってこと。」
ラミは「それから」と続けて、
「大原則として、魔力は一人一つ。ここはよく覚えとくの。魔力っていうのは、先天的に決まっていて、発現するまで分からないものなの。その魔力は、いくらその人が戦闘職になりたくても発現したのが非戦闘系の魔力だった場合でも一生変わることはないの。でもね、属性魔力だけは違うの。属性魔力は、先天的に決まるものとは違って、後天的に会得出来るものなの。」
「後天的?」
ロスターはあまり意味が分からずオウム返しをした。
ラミは続けて、
「そう。後天的、つまりは本人の努力次第で使えるようになるのが属性魔力なの。だからさっきの話に戻って説明するけど、周囲が燃えたり、雨が降ったりするっていうのは、属性魔力のことで、今から測定する魔力とはあまり関係がないの。」
と説明した。
「あとは、魔力項目のよくにDとかEとか出てるでしょ?」
と、ラミはロスターに問いかけてきた。おそらくゼノは知っているのだろう、特にラミが気にかけている様子はない。
「うん、ある。」
「これは、その魔力の強さ、まぁどのくらい使えるのかっていうのを教えてくれるものなの。上から順番に、SSS→SS→S→A→B→C→D→E→-、って感じ。さらにこの中にも、って、一旦はこれでいいか。」
と、集中力が切れかかって遠い目をしながらボーっとしているロスターを見て、ラミは説明を切り上げた。
それから咳払いをしたラミは「それじゃあ説明も終わったし、」と言い、
「早速、魔力測定していこうか。」
「「おおー!」」
と、ロスターとゼノは応えた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「さて、ロスターにゼノ。どっちからする?」
ラミの問いかけにロスターが我先にと手を上げようとしたが、それよりも先に素早く、
「は、はい!僕が先にします...!」
と、ゼノが大きい声を上げて自己主張したのである。
村民は皆、驚きを隠せない。
それもそのはず、ゼノは引っ込み思案で我儘はおろか、自己主張も満足にしている所を誰も見たことがないのである。ゼノはその性格が故に、ロスターに無茶を言われ連れ回されているのではないかと一時期心配されていたが、後にゼノは連れ回されても、何かを強制されていたわけでもなく、ただ物怖じせずに何でも行動に移すことができるロスターに対して憧れの眼差しで見ており、それに自らついて行っていただけなのである。
そのゼノが、ロスターを跳ね除け自己主張をしたのである。
「...ロスターの後で微妙な魔力だったら、嫌だから...。」
村民一同ズッコケである。
まさか初の自己主張が、更なる自分へのネガティブ思考だったとはだれが予想できようか。
「じゃ、じゃあ、この水晶に手を触れてみて。」
「はい...。」
緊張しているのだろう、若干の手の震えと共に触れた。
(名)ゼノ
(年齢)10歳
(職業)なし
(魔力)勇者(‐) /なし
ゼノは、自分のステータス画面をしばらく見つめていた。
「ゆ、〈勇者〉...?」
〈勇者〉。500年に一度の周期で新たに誕生すると言われている魔王の覚醒する時期になると、人間の中に発現すると言われている魔力。伝承で語り継がれ、存在自体も疑問視されていたレベルの魔力であり、人族の希望とされている反面、我こそは真の勇者だと自称する詐欺師も後を絶たないという。
「なんと!〈勇者〉だ!ゼノは〈勇者〉になったんだ~!」
一人の野次馬である村民が大声で驚いたのをきっかけに、みるみるうちに話題は伝播していく。
「ゼノに任せておけば、復活したのかも分からない魔王なんて怖くねぇ!」「その通り!」
など、次々にお祭りムードになっていく。
こうやって担ぎ上げられることに慣れておらず、引っ込み思案なゼノは言うまでもなくロスターの後ろに慌てて隠れた。
「すげーなゼノ!〈勇者〉か!俺も負けてられないな。〈賢者〉辺りでも引き出してくるよ!」
と、勇ましく意気込んだロスターにコクコクと頷いて魔石水晶に向かう様子を見ているゼノ。
「お、次はロスターの出番か!」や、「きたきた、やんちゃ坊主!」と、完全に魔力〈勇者〉が誕生したお祭り騒ぎの余波を食らいながら進むロスター。
「次はロスターね、ここに手を」
と、ラミさんの誘導に従って触れる。
(名)ロスター
(年齢)10歳
(職業)なし
(魔力)時間遅延(‐) /なし
「...時間、遅延...?」
誰も予想だにしなかった魔力だった。