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落ちた世界でメイドになりました。  作者: 夜凪


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9/9

5-1

「どう?何か解りそうかい?」

主に声をかけられ、どっぷりと本の世界にはまっていた私は我に返った。

いや、本の世界って言うか人様の残した日記なんだけどね。

 

読める方から手を出したんだけど、なかなかに波乱万丈で面白かったんだよね。

可愛らしい丸文字に反して、中身は火曜サスペンスと昼ドラを足して割って、そこにハーレークィンを混ぜた感じ、というか。


ただ、一つ確かなことは、この日記を書いた女性は、かなりこの世界を満喫していたらしいという事。

それから……。


「この日記が書かれたのはどれくらい前か分かりますか?」

「ん?確か200年ほど前のはずだよ。当時の王族に保護され、第三王子に嫁いだ後、辺境伯となり国境の維持と繁栄に貢献したといわれているね」


主の答えに首を傾げる。

紙の状態からかなり古そうだとは思ったけど、そんなに前なのかぁ……。


「どうかした?」

怪訝そうな私を不思議に思ったのか、主もコテリと首を傾げた。


成人男性のコテリ。ダレトクだって思うだろう?

しかし、イケメンは別枠。むしろ主が別枠!眼福です!ありがとう!!


っと、取り乱したわ。失礼。


「いえ。これ、女性の日記だったんですけれど、書かれている内容や言葉遣いから想像すると、どうも私と同じ時代から来ているみたいなんですよね」


なにしろ最初の方に「異世界転移!キタコレ!!乙女ゲーム?ファンタジー戦記?美醜逆転とかおいしすぎる!!」とか、つらつらと書き散らされてたからね。

『精霊の愛し子』についても「チートきたぁぁぁ!!」って喜んでるし。


まぁ、その後生活するうちに冷静になったみたいで、結婚する頃にはしっかり地に足つけた性格になってた模様。


ちなみに結婚相手は「顔はフツメンだけど生涯を共にするなら性格大事だよね。何より私自身をきちんと見て愛してくれる人は貴重。美醜逆転、おいしいと思ってたけどヤンデレ化怖いし……」とのこと。


死ぬほどハニトラかけられてたみたいだし、日記に書かれないところでもいろいろあったんだろう。


私はしょっぱな森の中で野垂れ死にかけて神を恨んだけど、第一異世界人が主だった事は本当に幸運だったんだと改めて感謝しとこう、うん。


まぁ、彼女も大変な中で最大限エンジョイはしていたみたい。メンタルつよつよで良かった。たまに、怨嗟の記述もあったけど(遠い目)。


「過去の愛し子が、さなえと同じ時代から来た?」

不思議そうな主の声にハッと我に返ったから、慌てて頷いておく。


「まぁ、よく似た別の世界って可能性もないわけじゃないですけど。素直に分かる情報だけ信じるなら、たぶん?」


「続きが気になる~」って嘆いていた、漫画やドラマからするに、同じ時代の子っぽいんだけど。

異世界転移なんてファンタジーに巻き込まれている以上、よく似た世界やパラレルワールドの可能性も否定できないんだよね。


「少なくとも、この愛し子さんに関しては、世界超える時についでに時空も越えちゃった感じなのかもしれないなぁ、って。まぁ、だから何だって話なんですけど」


肩をすくめる私に、主は予想外に難しい顔をして黙り込んだ。


「時空まで越えてしまう場合もあるのか……。ではもしかしたら……」

「主様?」


ぶつぶつと呟きながら何か考え込みだした主の様子に声をかけてみるけど、どうも聞こえていない様子。


何が引っ掛かったのか分かんないけど、どうやら集中モードに入っちゃったみたいだわ。

こうなると長いんだよね。

あきらめてお茶の準備でもしてみようかな。


壁際の時計に目をやると、思っていた以上に時間がたっててびっくりだよ。

ずいぶん集中してたんだなぁ、私。


壁際に備え付けられていたミニキッチンを覗くと、お湯を沸かす魔道具やお茶の道具も一揃い、きちんと置いてあった。


たぶん、ソファーと一緒に主が用意してくれたんだろうなぁ。

最近お気に入りのお菓子とサンドイッチなんかの軽食まで置いてあるし。


すっかり淹れるのに慣れた紅茶を用意して、テーブルの上にお菓子や軽食を用意すると、いまだに別世界にトリップ中(私が使うと微妙な気持ちになるな、この表現……)の主の肩を軽く叩いた。


え?主の体に気安く触れるのは不敬じゃないかって?

だって、熟考モードに入った主、声かけたくらいじゃ反応してくれないんだもん。


「戻ってきてください、主様。喉乾いたし、お茶にしましょう」

てわけで、肩を叩くと共に声をかけると、ようやく主が戻ってきたよ。

おかえりなさい。


「あ…あぁ。すまないね。いただこうかな」

素直にソファーに腰を下ろした主は、側に立ち尽くす私に気づくと、ポンポンと自分の隣を叩いた。


「さなえも座るといい。ソファーは一つしかないからね」


そうなんだよね。

ローテーブルも持ってきているんだから、セットそのまま運べばいいのに、なぜかソファーは一つだけという。


三人は座れる大きなものだから、別に隣に座っても余裕はありそうなんだけど、一応主の隣に座るメイドってどうなの?っと戸惑っちゃったんだよ。


「気にする必要ないと思うんだけどね」

当然、そんな私の考えている事なんてお見通しの主、ちょっと苦笑い。


「ここには他に座る場所はないし、私はさなえと一緒にお茶が飲みたい。あきらめて隣においで?」


柔らかな声で再度呼ばれてしまえば、拒否することもできない、ってことで。

気持ち距離を開けて、隣に腰を下ろすと、主が満足そうに微笑んだ。


うん、今日も笑顔が麗しい。

そろそろ慣れてきたけど、あんまり供給過多になると眩暈起こすので気をつけよう。


そっと目線をそらすと、菓子箱に手を伸ばす。

サムスンさん特製の焼き菓子、おいしいんだよね。


「ちょっと、他の国の愛し子の手記を閲覧させてもらえないか聞いてみよう。残念ながら、我が国に残る愛し子の手記はそれだけなんだ」

ひとしきりお菓子を堪能したころに、ふと主がつぶやいた。


「さなえの様子を見るに、目ぼしい情報はなかったんだろう?」

「そうですね。読めた方は、本当に何気ない日常の記録といった感じで、それっぽい事はなにもなかったです。それに……」


さすが、主。

何も言ってなかったのに慧眼です。

あっさりと頷いて、そもそも気になっていたことをついでに聞いてみた。


「そもそも、これを残された愛し子ってこの世界に残った(かた)ですよね?てことは、帰り方は分かってなかったんじゃ?」


「そうだね。ただ、伴侶を見つけて仲睦まじく暮らされたとの事だったから、もしかしたら帰る方法を見つけていても、残る選択をした可能性もあるかな?とも、思ったんだよ」


「あ、そうですね!その可能性もあるんだ!」

主の言葉にポンっと、手を叩く。


こっちに来てすぐに判明したならともかく、時間が経てば経つほど大切なものもできただろうし。

手記の中では結婚して子供もできてたし、そうなると今さら「帰れますよ~」って言われても悩んじゃうよね。


「てなると、なおさら日記の中には書かないかなぁ?私なら、書くとしても別枠で記録残しそう」

公的情報とプライベートは分けたいですよねと頷く私に、主がクスリと笑う。


「確か、隣国にも突然姿を消した愛し子がいたはずだから、そっちの方が何か残っていそうな気もするよね。ただ……」

主の眉が困ったようにヘニョリと下がった。


「うちの国もそうなんだけど愛し子の存在って国の最重要機密だったりするから、他国の者に簡単には開示できないんだ。だから、少し時間がかかると思う」

申し訳なさそうな主に、私は慌てて首を横に振った。


「大丈夫です。急がなくていいし、その事で何か不利益が起こるようなら、無理しないでください」


国の重要機密って。

そんなの見せてもらおうとするなんて、無理難題押し付けられるフラグじゃん!

やだぁ~~。


「とりあえず、こっちの読めない方が解読できるまで時間もかかると思うし。何なら、読めた方の愛し子さんの住んでた辺境?を訪ねるって手もあると思うので!本当に、本当に、無理しないでいいですからね!」


大事なことだから、二回言いますよ?

隣国は友好国だって習ったけど、外交って大変なんでしょう?

下手に弱みを作るのはだめだと思うの!


まだ見ぬフラグに慄いて震えていると、私の勢いにキョトンとしていた主が、突然噴き出した。


「早苗!何を考えたか分からないけど、慌てすぎだよ!」

珍しく声に出して笑う主に、今度は私が驚いてしまう。


「確かに、重要機密ではあるけど。判明できていない愛し子の手記を解読してもらえるのは、隣国にとっても益はあるから。話の持っていき方次第では、平和に見せてもらえる可能性の方が高いんだよ。もちろん、うちに不利にならないようにね」

「あ、はい」

満面の笑みでパチンとウィンクされて、思わず真顔で返事してしまった。


いやだって!

珍しい爆笑からの、ご機嫌笑顔でウィンクですよ?!

あまりの麗しさに魂飛ぶかと思ったわ!

自重して、主!

慣れてきたとは言っても、十分殺傷能力高いから!


って、心の声が動揺のあまり全部声に出ていたらしく。


ついにお腹を抱えて笑い出した主の横で、私は宇宙を背負ったのでした。

にゃぁ~~。




読んでくださり、ありがとうございました。

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