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落ちた世界でメイドになりました。  作者: 夜凪


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3-1 レンバード視点

大国の王と正妻の間に産まれた第2王子。

本来、人々から祝福され輝かしい未来を歩むはずだった幼子は、生まれついたその容貌ゆえ真逆の人生を歩むこととなった。


ギョロリと大きな瞳に、顔の中央でデンと主張する鼻。

まるで頬まで裂けているのではないかと錯覚する程、唇の厚い大きな口。

取り上げた産婆があまりの醜さに卒倒しかけたという逸話を持つその赤子は、だが、まごう事なく王家の色彩を持って産まれてきた。


そのおかげで王妃は不貞を疑われる事はなく、醜い赤子は、王家の一員として辛うじて受け入れられたのだ。

でなければ、真実はともあれ反王妃派の格好の攻撃材料とされ、幼子の命は刈り取られていただろう。


王家の命を持ってしてもその腕に抱こうとする乳母がなかなか見つからなかったため、王妃はその子を自ら乳を与え育てた。


一心に乳を吸う我が子の、将来の困難を思えば憐れみこそすれ、見つめるその瞳に一欠片の嫌悪も無い彼女の姿に、聖女の姿を重ねるものもいたそうだ。


王である父も、色彩以外は自分に似ても似つかぬ赤子に最初こそ戸惑いを見せたものの、王妃の分け隔てなく愛しむ姿にいつしかその子の存在をうけいれていた。


そして、子は親の姿を見て育つものであり、醜い弟を兄である第一王子は自然と受け入れ、大切な弟として可愛がるようになる。


こうして、周囲には二目(ふため)と見られぬ醜い王子と虐げられつつも、家族の愛に包まれて赤子はすくすくと成長したのである。


持ち前の魔力の多さと要領の良さ、何よりも本人の努力によって、容姿以外は完璧と言われるほどのスペックを手に入れた彼は、だがやはりその容姿ゆえに孤独だった。


家族と、幼い時から側にいてくれる僅かばかりの使用人。

それだけを心の支えに彼は、日々を過ごしてきた。

長じるにつれ諦めという感情に飲み込まれていったかすかな望み。


『真っ直ぐに自分を見つめてほしい。

受け入れてほしい』


言葉にされた事も無い、すでに本人すら忘れかけていた想いは、やがて報われる日がくるのである。







徹夜続きで疲れた目を押さえ、座っていた椅子の背に体を預けた。


保管の関係で持ち出し禁止の古文書を睨み続けて、どれくらい時間が経ったのか。

窓の無い部屋のためいまいちハッキリしないが、この体の疲労感からして結構な時が経過したのだろう。


ムダに魔力が多い身体は、多少食事や睡眠をおろそかにしてもビクともしない。

それを良いことに、私が一度この部屋に入ると中々出てこないのは周知の事実で、更にそれを止めに来るのは家族くらいのものだ。


同僚と呼べる人間も、直属の部下も居ない。

向けられる嫌悪と恐怖の視線が煩わしくて、最初から独りでいる事を選んだのは私自身だ。

それで良いと思っているし、普段は何とも感じない。


だが、窓の無いこの部屋でただ独り、伸しかかる疲労に手を止めた瞬間、ふと虚しさが襲うのだ。

他者と共に歩むことのできぬこの命に、何の意味があるのかと。


「駄目だな……。疲れると弱気がでて……」

家族がいる。幼少から支えてくれる使用人もいる。いろいろな都合ですぐに会う事はできないが、それでも友と呼んでくれる人も少ないとはいえいるのだ。

これ以上は贅沢だろう。


それでも、どうにもやりきれない気持ちが消えず、ボンヤリと宙を眺める事しばし。

ザワリと空気が揺らぐのを感じた。


肌が泡立つようなこの感覚は、この国の聖域である鎮守の森の結界に、何者かが入り込んだ事を示していた。

鎮守の森に住む精霊たちの警告だ。

彼らは気まぐれで自由であり、騒がしい人を嫌う 。


鎮守の森は、元々この王国を立ち上げた初代王が、精霊の力をかりて王国の礎を築いた始まりの場所として伝えられている。

代々の王の墓があり、貴重な魔石が埋蔵されているとの噂があるため、時々、入り込む人がいるのだ。


「モノ好きな……」

どうするべきかしばし迷う。


何しろ体は疲労困憊だ。

できる事なら気づかぬふりをして家に帰り久方ぶりの温かい食事と柔らかな寝床を堪能したい。


鎮守の森と歌っているが、精霊が好むだけあって高濃度の魔力が漂う森であり、必然そこに住むのは凶悪な魔物達だ。


放っておいても、入り込んだのが獣にしろ人間にしろ、森に棲む魔物達が、きっちりケリをつけてくれるはずだ。

わざわざ私が確認せずとも大した問題は無いだろう。


森の中にある古代遺跡に入り込まれたら厄介だが、その周辺には、私(みずか)ら迷いの陣を2重3重にかけているから、万に1つも破られる事は無いはずだ。


胸の中で幾つもの言い訳を積み重ねてみるが、何だかザワザワとした感覚は落ち着かない。

(さっさと確認して終わらせよう)

諦めのため息と共に、私は顔を覆う白い仮面をつけると、転移の魔方陣を展開させた。


淡い光がフワリと私を包み、瞬きの間に森の中に設置していたゲートへと移動する。

探知の魔法で周辺を探れば古代遺跡(ここ)より少し西に人の気配があった。


さしたる距離でもない上に、その気配が動く様子も無いので歩いて行く事にする。

ここ数日の運動不足に丁度いいだろう。


苔むした巨大樹の畝る木の根を踏み越えながら目的地へとサクサクと足を進めていく。

魔物避けが効いているからか他に生き物の気配の無い森は少し寂しかった。


そうして、大樹の根元にうずくまる小さな影を見つけた。

膝を抱え俯いているため、顔は見えない。

珍しい黒く長い髪が、サラリと流れてその身体を隠していた。


それは、小さな少女だった。


鎮守の森の精霊たちが、ふわりふわりとその周りを漂い遊んでいる姿が見えた。

人嫌いの精霊らしくなく、そこから伝わるのは純粋な好奇心と好意だった。


「何者だ?」

すぐ側に立っても微動だにしない少女を見下ろして声をかける。

しばらく待っても動かない様子に、生きているのか不安にかられた時、少女がノロノロとその顔を上げた。


まっすぐに見上げる瞳は、闇夜を写したかのような純粋な黒。

逸らされることのないまっすぐな視線に、胸のどこかがギュッと掴まれたような気がした。


「………君は」

「わぁ……仮面の人、とか……。やるならひとおもいによろしく」

何を言おうとしたのか考える間も無く口を開いた私の言葉を遮るように、ボソボソとつぶやくと、少女はパタリと横に倒れた。


「おい!大丈夫か?!」

思わず抱き起こせば、まるで真綿のように軽く華奢な感触に、思わず手を離しそうになる。

と、いうか一瞬離して慌てて再び抱きとめた。


少しでも力を込めれば壊れてしまいそうな華奢な身体。

今は閉じられている瞳にもう一度見てもらいたいと思う、この込み上げてくる気持ちはなんだろう。


「………とりあえず、戻るか」

モヤモヤするのは、きっと疲れているからだろう。

連日篭っていたことで、身体が疲れてるから、頭が働かないんだ。


ほんのりと伝わってくる温もりを落とさないように抱きしめ直すと、ゆっくりと立ち上がる。

少女の持ち物らしき物があったので、風ですくい上げ、そのまま亜空間の中に収納した。


そうして、ゲートを利用するために遺跡の方へ向かう時間も惜しく、その場で転移の魔法陣を展開し、自宅に戻る。

倍くらい魔力消費量がかかるが、私にとっては誤差範囲だ。


移動する瞬間、楽しそうにざわめき踊る精霊たちが視界の端をかすめた。





丸一日、こんこんと眠り続けた少女に話を聞き出してすぐ、その場に激震が走った。


拾ってきた少女は、異世界からの客人だった。

通りで、精霊たちが好意的だったわけだ。

過去に現れた異世界からの客人に対し、人嫌いの精霊たちが好意的なのは、過去の文献からもわかる客観的な事実だ。


この世界では精霊は万物に宿ると考えられており、精霊に愛される土地は豊かになると信じられている。


故に、滅多に現れないが、精霊が見えたり意思の疎通のできる人間は重用され、「精霊の愛子」ともてはやされる風習があった。


我が王家の血筋には「精霊の愛子」が現れる事が多く、一国を立ててしまえるほど精霊に愛された初代王の恩恵とも言われている。


化け物と陰口を立てられるほど醜い私が王家から追放されることなく認められているのも、王家の色彩を持っているからだけでなく、精霊の姿が見えることも大きい。


そのことが発覚したのは、当時幼かった私が精霊に導かれるままに、避暑地の森で、茂みに隠れて見えなくなっていた竪穴に落下していた兄を見つけ出したことにある。


わずかに目を離した瞬間に起こった事故で、ショックで気絶していた兄は、呼びかけに声をあげることもできなかった。


まるで神隠しにあったように、突然姿を消した王子に、現場は大騒ぎになった。

そんな中、涙目の母に抱かれていた私は、「あっち、にーに」と指さしたそうだ。


「きらきらふわふわ、おいでおいで」と一生懸命指さす幼子に、他に当てもなかった母はすがるように従い、そして茂みの奥にある兄が落ちた穴を見つけた。


不幸中の幸いで、竪穴の底には落ち葉が厚く積もっていてクッションがわりになっており、大した怪我もなかった兄に安堵した後、当然、何故私がその場所を知っていたのかとの問答になった。


幼子の片言をどうにか解読してみれば、「きらきらふわふわ」が精霊の事であり、しかも見えるだけでなく簡単な意思の疎通までできる事が知れたのだ。


現在、精霊の愛し子は何人か確認されているものの、意思相通ができる者は居なかったため、かなりの騒ぎとなったそうだ。


おかげで、王家の()()()()()は、胸を張ってそこにいる権利を得る事ができた。

それほどまでに、この世界で精霊の存在は大きい。


そんな中、精霊の好意を例外なく得ている異世界からの客人は、各国から「賓客」として丁寧に扱われるのが通常だ。

なにしろ、そこに居るだけで精霊を集め、幸運を呼んでくれるのだから。


ただし、問題が1つ。


異世界からの客人はどうやってこの世界にやってくるのか、未だ解明がされていない。

精霊が呼ぶとも神々の気まぐれとも言われており、当然元の世界へ戻す術など分からない。

完全なる一方通行なのだ。


一度にいろいろと告げても混乱させるだろうと、とりあえず精霊の愛し子であることは伏せて、ここが別の世界であり一方通行で帰れない事を告げれば、少女は俯き黙り込んでしまった。

じっと動かない少女にどうしたのかと首をかしげていれば、ポトリポトリとシーツの上に雫が落ちる。


少女は、声を出さずに泣いていたのだ。


女性というものは(かしま)しく、不都合がおこればすぐに大きな声でヒステリーを起こすものだと思っていた。


だから、きっとこの少女も泣き叫び暴れ出すんだろうと、こっそり身構えていたし、物を投げ出したら結界を張ろうと用意すらしていたのに、この行動は予想外だ。


どうしていいか分からず、後ろに控えていた執事とメイド長に目線で助けを求めたのは、しょうがないと思う。

人と触れ合う事の少ない私に、こんな場面をうまく切り抜ける術など分かるわけがない。


メイド長がジェスチャーで「抱きしめろ」としているが、まさか、私にやれと言っているのか?

なんで、隣で執事まで重々しく頷いているんだ?!


確かに、物語などでよく見かける行動だが、あんなのは兄上のような方がやるからこそ様になるのであって、私がやったらむしろ悲鳴が上がるだろう?!

あ、ショックで気絶したら泣き止むか。

って、コッチがダメージ受けて泣きたくなるじゃないか!!


必死で首を横に振るが、無情にも2人からは「やれ」の指示しか返ってこない。

この人達、私に使えてる使用人だよな?

なんでこんなに強気なんだ?


生まれた時から面倒を見てもらって、確かに普段から遠慮がなく、他家に比べたら距離が近いとは思うけど、あんまりにも不敬じゃないか?

本気で困ってるんだから、助けてくれてもいいのに。


「やれ」「ムリ」

そんな無言のやりとりの間も、シーツの上のシミは増えていく。

小さく体を震わせて俯く姿は、憐憫を誘った。


(仮面をつけているし、素顔を見せた事もないし……。異世界(よそ)から来たなら、私の評判も知らない……よな)


自分自身に言い聞かせながら、そろりと手を伸ばす。

抱きしめるのは無理だけど、これくらいなら……。


すぐ目の前にある小さな頭に手を乗せると、幼い頃に母や兄がしてくれた事を思い出しながら、そっと撫でた。

サラサラの髪が指の間をすり抜けていって気持ちいい。


出来るだけ優しく、少女の慰めに少しでもなればいいと願いながら手を動かす。

見知らぬ世界に突然放り出された心細さは想像もつかない。


「貴女の身元は私が保障しよう。不安や不自由があれば、些細な事でも遠慮なく頼ってほしい。こんな事では、貴女の失くしたものの代わりになどならないだろうが……」


精一杯の言葉を探す。

改めて、自分のコミュニケーション能力の低さを嘆きたくなった。

(兄上なら、もっと上手に少女を慰めることができたんだろうな……)


泣き疲れて再び眠り込んでしまった少女の体温が、私にほろ苦い思いを抱かせた。



お読みくださり、ありがとうございました。


不遇な主様の生い立ちと精霊の愛子の説明会でした。

家族には愛されてます。

そして、見た目至上主義まではいかなくとも、見た目は重要視されがちな世界観と思っていただけると……。

うまく書ききれてなくて申し訳ないです。



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