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落ちた世界でメイドになりました。  作者: 夜凪


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2-1

に〜げるんだよ〜!!

吸い込まれてしまいそうなサファイアとブルーの瞳に見つめられて、私は言葉をなくした。


ねだる様な甘い色を浮かべたサファイアブルーに包まれて、逃げることもできない。


囚われた腕の中で、私はノロノロとまるで自分のものとは思えないほど自由にならない手を動かし、唇が触れてしまいそうな程直ぐ近くにある白皙の美貌の頬に添えた。


サファイアブルーの瞳が嬉しげにほころぶ。


そして、私は…………。





「セクハラ反対!!!」

ゴッッ!!!!


上体を後ろに仰け反り、勢いをつけて額を打ちつけた。

鈍い音が響き、額にジンとした痛みが走る。


けれど、覚悟のある私と不意打ちを受けた主とでは衝撃の度合いが違ったはずだ。

くらりと体がよろけ腕の力が緩んだ所で、するりと滑り落ちた。


「謝りませんからね!乙女の唇を奪った罰です!反省してください!!」

そのまま、後ろを見ずにダッシュで逃げ出した。

メイド長に見つかれば「はしたない」と1時間の説教コース確定な行為だが、構ってはいられない。


貞操の危機(?)と、メイド長の説教及びマナー講座なら後者を取る!

ま、見つからなければ問題ないし。


背中に視線を感じながらも、振り返らずに角を曲がり、そのままの勢いで台所へと駆け込んだ。

よし!逃げ切った!


久しぶりの全力疾走にヘロヘロになりながらも、隅に置かれた質素な丸木の椅子へと座り込んだ。


「どうした、シャナ?エライ勢いだな。またレンバード様から逃げてきたのか?」

料理長が夕食用と思われる芋の皮をむきながらのんびりと笑った。


ちなみに料理長は白髪をオールバックに撫で付けた美丈夫で、名前をサムスンという(自己紹介の瞬間、某電気会社が脳裏に浮かんだのは秘密だ)。


御歳(おんとし)60歳。

しかし、日々の立ち仕事で鍛えられた体は矍鑠(かくしゃく)としており、いまだ衰えを知らず、見た目だけなら軽く10以上はサバを読めそうなナイスミドルだ。


そして、私を孫のように可愛がってくれており、台所に来るともれなく焼き菓子や飴などのオヤツがゲットできる、私の癒しスポットである。

いつもお世話になってます!


両手で顔を隠して俯いて、私はふるふると首を横に振った。

今、顔が尋常じゃなく熱いから、絶対赤い。多分過去最高に赤い自信がある。


自分に自信のない主は、試し行動として何かといえば素顔で私に接近してくることがある。

私の主張が本当なのか?無理をしているのではないか?どこまでなら許されるのか……。

たれ

逃げるわけにもいかず耐えきった私が、ゴリゴリと削られた何かを回復するためのお菓子(アイテム)をねだりに来た事、数知れず。


おそらく、私の奇行に1番慣れているサムスンさんだからこそ、どうもいつもと様子が違うことに気づいたのだろう。


シャリシャリと芋を剥く音が止まり、しばしの沈黙の後、ぼそりと呟かれた。

「なんだ、あのヘタレ坊ちゃん、ようやく手を出したんかい」


うおぉぉぉい!私の癒し要員!

なんて事を言ってくださっちゃってるんでございましょうか!?!?


あまりの衝撃に思わずガバリと顔をあげれば、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべたナイスミドルのお顔。

おう!見なきゃ良かった。


「だってバレバレだったろうに。そもそも、ちぃっとチッコイが初めてまともに自分のことを見てくれる若い嬢ちゃんだぞ?惚れんわけ無かろう」


言い方!

仮にも家の主なんだから言い方ってもんがあるよね!?

生まれた時から仕えてる古株勢はこれだから!少しは遠慮ってもんがないんですか!?


………そんな繊細な人たちなら、早々にここには居ないか。

あ、なんか悲しくなってきた。


主、良い人なのになぁ。

付き合ってみたらすぐに分かるくらい、優しくて思いやりに満ちてて、異世界から飛び込んできたような身元不審な人間ですらサラリと受け入れちゃうくらい懐も深いのに………。


なんだか、主の今まで置かれて居た現状を反芻してたら、なんだかグラグラ煮えたぎってた頭の中がスッと冷えてきた。

そうして、そこに浸透するサムスンさんの言葉。


「………初めてまともに自分を見てくれた若い娘………かぁ」

ポツリとつぶやくと視界の隅でなんでかサムスンさんが「ヤバい」って顔をしてた、けど、まぁ。


「そりゃぁ、ちょっと浮かれて暴走しますよね。それなら、モブキャラ一直線な見た目の私に血迷っちゃたのも納得です」

うんうん。

いやぁ、恋愛経験ないからテンパっちゃったよ。

けど、理由がわかれば納得納得。


「いゃ、あの、な?」

「大丈夫です!主様はあんなに素敵な方なんですから、きっともっと家柄とか見た目とか釣り合った方が絶対いらっしゃいます。多少一般的な好みから離れてたとしても、中身さえ見てもらえれば、丈夫ですよ。私!頑張りますね!!」


そうと決まれば、早速諸々リサーチしなければ!


「ちょっと、用事を思い出したんで失礼します。あ、このお菓子、貰ってきますね〜」

行き掛けの駄賃とばかりに近くの棚に置いてあったクッキーの袋を拝借すると、私は意気揚々とその場を後にした。


目標は家柄・容姿が良くて気立ても良いお嬢さん!

できれば、美醜の趣味が少しずれてる人が好ましいなぁ〜。


誰に聞くのが1番良いかなぁ〜とすっかり自分の世界へと入り込んでいた私は、背後から焦ったように呼び止めるサムスンさんの声なんてちっとも耳に入っていなかった。


「マズイなぁ。減給くらいですむかな?これは………」

ゆえに遠ざかる背中を見送りながらつぶやいたサムスンさんが、「ま、成るように成るか」と諦めて肩をすくめ、芋向きを再開していたなんてこと、知るはずもなかった。






「そんな方の心当たりがあれば、とうの昔に王妃様がどうにかされていると思うんですけどねぇ」

サムスンさんの所から颯爽とお暇して、たどり着いたのはメイド長のマリアさんの所だった。


マリアさんは、少し恰幅のいいご婦人でとっても笑顔がチャーミング。

でも、怒るとおそらくお屋敷内で1番怖い人なのだ。


色々采配を振るっているはずの執事のセディさんですら、たまに顔色伺ってるしね。

ちなみにご主様の元乳母で、調理長のサムスンさんの奥さんでもある。


つまりお年はそれなり………の、はずなのだが、そこら辺はタブーなので触れた事はない。

たとえ異世界でも、女性の年齢は触れてはいけない領域なのである。


え?随分手近な所を頼ったなって?

私、この世界に来て数ヶ月。

さらにいえば、ほとんどお屋敷から出ることもない、しがないメイドですよ?

行動範囲がせいぜい、お使いで市場に行くくらいの私に、貴族のお嬢様の情報なんてあるわけがありません。


そして、首を傾げて考えるマリアさんに、肩を落とす私。


そういえば、主はこの国第二王子だった。

つまり、両親はこの国の最高権力者。

その力を持ってしてもダメだった婚活問題を、ポッと出のメイドがどうにか出来るわけなかった。


「失礼な言い方ですが、我が国には「ゲテモノ食い」や「ブス専」などの言葉がありまして、一定数は需要があったのですが、こちらではそういう趣味は?」


いえ、私的には主は類を見ない美形なんだけど、悲しいかな、こちらの世界での美意識ではそうじゃない。


市場に行けば、人気のある高貴な方の絵姿なんかも売ってるからね。

「1番人気」とうたわれる絵姿なんかは堂々とでっかく飾られてるし。


初めて見た時は、呆然と見上げたから。

()()がこの世界の美形か、と……。

ああ、異世界に来たんだな〜と、ある意味初めて魔法を見た時より呆然としたから。


衝撃に動けない私を勘違いした店のおじさんが、そっと宣材用の絵姿を渡してくれた時は乾いた笑いしか出なかった。


おそらく、ポゥッと見惚れた乙女にみえたんだろう。

そして、お小遣いが足りなくて買えない可哀想な子供に見えたのだろう………。


要らないっての!

完全なる好意からの行動だと分かってたから、辛うじてお礼を言って帰ったけど。

渋々持ち帰ったそれを主に見つかり、一悶着あったのだけれども。


あぁ、話がそれた。


「………ん〜〜、もしかしたらいるかもしれないけど、公言している方は流石にいらっしゃらないわね。美意識がおかしなご令嬢、って馬鹿にされるだろうのは目に見えてますからねぇ」


「そう、ですねぇ」


女の集団は怖いです。

弱みを見せれば攻撃されるのは、どこに行っても同じ。

一般社会でそれだから、プライドなんぼのお貴族様じゃ、尚の事なんだろうな。


「それにしても、突然そんな事を聞くなんて、どうしたのですか?」

「………えぇ〜〜っと」

もっともな疑問を投げかけられて、私は口ごもった。


まさか主のご乱心をバラすわけにもいかない。

ウロウロと視線を彷徨わず私から、何を感じ取ったのか、ポンっとマリアさんに肩を叩かれた。


「まぁ、シャナ。そんな心配しなくても、レンバード様は最近明るくなられたし、大丈夫ですよ。そろそろ時間ですから、午後のお茶の用意をして持っていってね」

「え?いや、それは………」


さっきの今で若干気まずい気がするので、あまり会いたくない。

どうにかお断りをしようと考えを巡らす私の肩を掴む手に、なぜだかグッと力が込められた。


「お願いしたわよ?シャナ」

「イエス!マム!」

笑顔が怖い。なんか、怖い。

背後にゴゴゴ〜〜と黒いモヤモヤが見える。


私は思わずピシリと敬礼すると、くるりと踵を返し戦線離脱(その場を後に)した。

「シャナ!走らないのよ?」

そうして敵前逃亡(逃げよう)とした私は、背後から飛んで来た声に反射的に足を緩めた。


クワバラクワバラ。




お読みくださり、ありがとうございました。

ブックマークついてて嬉しかったので、連日投稿です。


免疫ない子に急激に距離縮めようとしたら、びっくりして逃げられました。

なんかフシャーって背中丸めて威嚇しながら逃げていくちびニャンコの幻影が……。

1人残されて「やらかした」と呆然とする主も見えますねwww

主も人との距離感にあまり慣れてないので、多めに見てあげてください。

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