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本日2話目です
さて、無事に食事と着替えを済ませた主人の後をしずしずと歩いて着いて行く。
本日はお城の方にご出勤、らしい。
なんでか主は城に行く時に私を伴おうとするんである。
なんでも私の存在が周囲との緩衝材になってるみたいでらくちんだそうだ。
私はプチプチですか?古新聞紙ですか?!
って思ってても、言えない。
人の冷たい視線って慣れる事は無いし、当然傷つく。
仮面の下で主が悲しそうに微笑んでいるのなんて、少し慣れれば一目瞭然で、お家に帰った時の力の抜けたヘニャンとした笑顔を見てしまったら…….ねぇ。
プチプチだろうと古新聞だろうとなんでもなってやりましょうとも。それで、少しでも優しいこの方が楽になるというなら。
と、言っても、お城が四面楚歌ってわけでも無いんだよね。
何しに行くかって、仕事の進捗状況の報告兼ねたお食事会に行くんだよ。
私が見たところ、報告よりも食事の方がメインで。
家族水入らずの、ね。
なんと我が主様、王家の一員だった。
正確には現王と正室の間に生まれた第2王子というご大層な身分。
白金の髪とサファイヤブルーの瞳は王家にしか現れない色彩だそう。
兄弟みんな同じ色だったよ。
主も同じ色彩が現れたおかげで、王族だというのは否定されずに済んだ。
代わりに何かの呪いじゃ無いかと疑われたそうだけど。
で、なんでか1人だけ残念な顔で産まれてしまったけど、家族にはちゃんと愛されてた。
良かった。
どれくらい愛されてるかというと、放っておいたらなかなか実家(お城)に戻ってこない主をいろんな理由付けて呼び出すくらい。
で、プライベートルームでお食事会。
そして、なんでかそんな空間まで引きずり込まれる私。
居心地の悪さ、半端ない。
この部屋には、主に意地悪言う人も入ってこないんだから、別部屋に待機でいいんじゃ無いかなぁ?
って主張してみたんだけど、なんでか主だけじゃ無くて他の方々にまで却下された。
ナンデダ。
この国の最高権力集団に逆らえるはずも無く、しかし、流石に同じテーブルにつくのはダメだろうとそれだけはどうにか拒否して壁際待機。
お茶注いだり、食事運びの手伝いしてお茶を濁してるんだけど………。
みんなの目線が生温かい。
どうも私が働いてると、子供が大人ぶってメイドごっこしてるように見えるらしく……。
というか、やっぱり愛玩動物扱いだね、これ。
うん、知ってた。
小動物、可愛いよね〜。
チワワとかミニチュアダックスとか、ちょこちょこ動いているの見てるだけで癒されるよね。
私も大好きだったさ、ペットショップ行くの。
まさか、自分がそっちの立場になる日が来るとは思ってもみなかったけどね!
とほほ……。
「シャナ。この子、ちゃんと食事は取ってる?古文書の解読始めるとすぐ疎かになるから」
心配そうな王妃様の言葉に、普段の様子をお答えすれば嬉しそう。
母親の心配はどんな世界でも共通だね。
うちの母も突然消えた娘の心配………してるかな?してるよね?
……ダメだ、「ま、あの子だしどっかで元気にやってるでしょ」ってのほほんとお茶飲んでる光景しか思い浮かばない。
ナゼだ。
内心、のんきな母親(想像)にうちひしがれていたら主に手招きされた。
アレ?心配そうな顔されてる。なんで?
いや、流石に18にもなって頭撫でられるのちょっと恥ずかしいですが。
皆さんも微笑ましい顔で見てないで止めてください。
って、言いたい。でも言えない。
だって下手にこの手を拒否したら落ち込みそうなんだもん、主。
拒否されることに過剰反応してしまうのはしょうがない事だと、垣間見た周囲の主に対する反応でなんとなく分かるんだけどさ。
でもさ、ちょっと考えて欲しい。
年頃の娘が、超絶美形に親し気に頭なでなでって……ハズカシネル。
分かってる。他意はない。小さな子供にしてる感覚なんだと思う。
重ねて言えば、主に自分が美形だという自覚はない。そりゃそうだ。こっちの世界では、私の感覚のほうが異端なんだから。
だけどさ。
かなり早い段階でカミングアウトしたんだよ?
自分の年齢も、自分の世界では主の顔のほうが好まれるんだって事も。
どっちも信じてもらうのに結構苦労した。特に後半。
何が悲しくて本人めがけてあなたの顔はとても美しくて好みであり、目が合うと恥ずかしさと緊張で固まるし赤くなるんだと力説しなきゃならんのか。
最後には切れて、早くなってる鼓動まで確認させて……。
立派な黒歴史ですが何か?
……ここまで苦労してるんだから「恥ずかしいのでやめろ」って言ってもよくない?
むしろ、言っても許されるんじゃない?
「子供扱いしないでください」って……。
いや、止めとこう。なんか分かんないけど本能が警告を発してる。
自分が可愛ければやめとけと囁く声がする。
うん、これ以上の面倒ごとは御免だ。私は平和に暮らしたい。
というわけで、口をつぐんだ私は主が満足するまで頭を撫でられ続ける事となった。
摩擦で禿げそうなんでソロソロやめてください。
さて、お城にて。
なぜだか見知らぬ男性に壁際に追い詰められております。
ちなみに目線は胸辺り。みんなでっかいよねえ・・・。
身長差がありすぎて壁ドンされてないのが救いだけど(された場合、もれなく腕の下からすり抜けられちゃうんだよ。実証済み)、至近距離に立たれるだけで充分威圧感ある。
建前とはいえ一応食事の後に報告会が始まって、今のうちに昼食とるように言われて場を辞したのがついさっき。
案内しようとしてくれるメイドさんに場所は分かってるからと断って、使用人用の食堂へ向かっている所だったんだけど。
ちっ、やっぱり一人歩きは危険だったか。
「おい、聞いているのか」
現実逃避していたら、反応ないのに焦れたらしい男性に肩をつかまれた。ちょっ、お触り禁止でよろしく。あんたら体でかいぶん力強いんだから。その気なくても痛いんだよ。
改めて相手を観察してみると、金の髪にコバルトブルーの瞳。
少し色は濃ゆいけど、どこか王様に似た面差しに、いかにもお金かかってそうな服装。
主の腹違いの兄弟のどれかか親戚って所かな?
主、人畜無害で大人しくしてるってのに、血筋だけはいいから絡まれるんだよね……。
まあ、嫌み言われたり勝手に下に見てさげずもうとしたりするくらいだけど。
こう言っちゃなんだけど、顔が残念なだけで他のスペックは高いからね、主。
文武両道で政治にも明るい。近隣の言語どころか古語にまで精通してる。
挙句の果てに身の回りのことから料理まで完璧だった。
メイドいらないじゃん。
あまりの出木杉ぶりにあきれたら「顔の醜さはどうしようもないから、他で少しでもカバーできないかと頑張ってみたんだよ」と少し寂しそうにつぶやかれた。
思わず抱き寄せて、いつもされるみたいに頭をなでなでした私は悪くない。
だって、小さな子供に見えたんだよ。
盛大に照れて赤くなって挙動不審だったけど、それでも離さなかったら大人しく体を預けて撫でられてた。
主は、もう少し報われるべきだと心から思う。
……っと、またトリップしてた。
目の前の男性が気づけばさらにヒートアップしてるし、掴まれている肩が本気で痛い。
やだなあ・・・・痣になってそう。
「申し訳ありませんが使える主人は一人だけと心に決めておりますので」
頭を少しうつむけて膝を折り礼をとる。
最初の頃はお辞儀する癖が抜けなくてよく変な顔をされてたっけ。
あ、要約すると目の前の彼の主張は「あんな醜い主の元にいるのは苦痛だろう。俺様が雇ってやるから、ありがたく思え」との事でした。
残念でした。間に合ってます。
そもそも引き目鉤鼻のお公家様な顔に魅力なんて微塵も感じません!とね。
どんだけ自信あるのかは分からんが顔近づけんな!
大体、すれ違いざま唐突に人の主を醜いのなんだのって、何様のつもりなんだろ。
心の中の罵詈雑言は、すまし顔の中にしまいしまい……。
使用人の粗相は、主の恥になっちゃうからねえ。耐えますとも。
本当は腹に一発ぶち込んで、ご自慢の顔を踏みつけてやりたいけど。
だけど、止まらない暴言に堪忍袋の緒が切れそうになった時。
ふわりと風が吹いたと思ったら、いつの間にか主の腕の中に囲われていた。
瞬間移動とかかなり高度な魔術を無詠唱で発動って、何やってんだこの人。本当にどこまでチートなの?
「私のメイドにちょっかいをかけるのは止めてもらってもいいかな」
ふわりと抱き上げられ子供のように片腕の上に乗せられた。
いつもならそんな事されたら速攻文句言うんだけど……。
近くなった仮面越しの目が眇められていて、主の機嫌がひどく悪い事が分かる。
そもそも声が、聞いたことないくらいに冷え冷えとしてるんだよ。
こっちに向けられてる訳でもないのに怖いってどうゆうこと?
側にいるだけでこれだけ怖いんだから、それを向けられた相手は言わずもなが。
お兄さん、顔色悪いよ?
少し離れた場所にいるのにここからでも体の震えがわかるってどれだけ?
「シャナがおびえてるぞ。そこら辺にしておけ」
少しあきれた様な声にふっと冷たく冷えた空気が消える。
途端に震えていた男性が糸が切れた操り人形のように座り込んだ。
「王宮で殺気を振りまくな。近衛が何事かと飛んでくるぞ」
からかうようにそう言ってのんびり歩いてきたのは第一王子様。
さっきまで一緒に食事の席にいた主の兄だった。
「驚かして悪かったねシャナ。あの子は私が責任もって仕置きしておくから許してくれないかな?」
やんわりとほほ笑まれて、毒気が抜かれる。
ロイヤルスマイル、こうかはばつぐんだ。
「大丈夫です。こちらこそお手数をおかけしまして」
主が現れたタイミングを考えれば、話の途中で瞬間移動してきたに違いない。
それを追いかけてきてくれたんだろう。
「主様、降ろして下さい」
ポンポンと肩を叩いて主張するも、そのまま歩きだされてしまった。
久々に本気で機嫌悪そうだなあ。
この感じは体調悪いの隠してて倒れた時以来?
でも、今回はこっちも絡まれた被害者だし、そんなに怒られないよね?
悪いとしたら……。
「なんで一人で行動したの?」
「あ、やっぱりそこくるよね……」
見透かしたようなタイミングで問いかけられ、思わず心の声が漏れた。ヤバい。
「……悪い事と自覚があったんだね?そうだよね。危ないから単独行動は慎むようにって再三教えたもんねえ?」
うわ。
仮面越しなのに、主が黒い笑顔を浮かべてるのが分かる。
分かりたくないのに、分かってしまう。
「……あの……主様?」
いやな予感しかしなくて恐る恐る呼びかけるとぴたりと歩みが止まり、するりと仮面が外された。
そうして晒された、それはそれは美しい笑顔に息を飲む。
「大体ね、シャナ?その呼び方もいい加減改めてくれないかな?名前を呼ぶように頼んだよね?屋敷の者も誰一人「主」なんて呼び方してないだろう?」
しっかりとサファイアブルーの瞳に見据えられて視線が逸らせない。
蛇ににらまれたカエルってきっとこんな気持ちに違いない。
逃げたいのに、目を離したとたんに何かされそうで怖くて動けないんだよ。
「……だって………それは……」
ピクリとも動けないままそれでも口ごもると、主様はため息を一つこぼした。
「兄上、申し訳ありませんがこのまま家に戻ります。報告はまた後日」
「……父上には伝えておこう。ほどほどにな?」
「状況次第ですね。大丈夫です。下手を打つ気はありませんから」
「……あ~~~、がんばれ?」
一部意味不明な短いやり取りの後、ふわりと景色が揺らぎ、次の瞬間には見慣れた部屋の中だった。
最後の言葉はこっち見ていた気がするけど……気のせいだよね?
それにしても、主様ったら王宮から屋敷に直接跳んだんだ。
警備の関係上、王宮内ならともかく王宮外に跳ぶときは「転移の間」まで行かなければならないはずなんだけど。じゃないと、王宮の結界に阻まれて酷い目に合うからしないようにって最初の頃に教えてもらってた。
「シャナは怪我するからしちゃだめだよ?私だから出来るんだから」
疑問が顔に出ていたのか主が肩をすくめて教えてくれた。
「現在の王宮の結界は半分は私が張ったものだから、私の魔力をはじかないんだよ」
……さらりと言ったけど、それってつまり主が敵にまわったら王宮の守りは無くなるってこと?
こわっ!
この国の貴族はそこらへん把握してこの人に嫌み言ったり見下したりしてる……わけないよね、さすがに。
そこまで馬鹿じゃないと思いたい。
「話がそれたな。まずは……なんで、一人で移動したの?」
まずって何……。他にもなんかあるの?
思わず固まった私の顔をサファイアブルーの瞳が覗き込む。
近い。近いから!!
今だ腕に抱きあげられた体勢じゃ逃げることも出来ないけど、せめてもの抵抗で体をのけぞらすようにして至近距離の顔から逃げる。
結果、のけぞりすぎてバランスを崩し腕から転げ落ちそうになった。
慌ててもう片方の手が背中を支えてくれて助かったけど。
「……シャナ?」
一段低くなった声に震えが走る。
「だって、近いから!!その顔に覗き込まれたら私が弱いの知ってるくせに!」
恐怖のあまり敬語もすっ飛ばして叫べば、主の目が丸くなった。
次いで、ニンマリと笑みが浮かぶ。
拒否の言葉のようだけど、主が傷つく事は無い。
そりゃそうだ。今の私の顔は真っ赤に染まっているのだから。
近づくなと拒否しているけれど、拒絶しているわけではないのは一目瞭然。
「困った子だね、シャナ。言いつけが守れないようなら、いっそ私から離れられないように魔術で縛ってしまおうか?」
「いや!本気でやめて!」
不穏な言葉に本気で悲鳴を上げる。
直視するのもまぶしい美形と二十四時間離れられないってそれってなんて拷問?
大体、トイレや風呂はどうするつもり?!
「今だって一定以上の痛みや感情の揺らぎがあれば伝わるようになってるってのに、これ以上のプライバシーの侵害反対!」
私は自由と孤独を愛する現代っ子なんだ。四六時中誰かと一緒なんて息が詰まる。
「じゃあ、約束守れるね?」
「守る!守ります!!今後単独行動は致しません!」
一二も無く頷けば満足そうな笑顔が返ってきた。
機嫌が直ってよかったです。
ので、もうそろそろ本当に降ろして。心臓が持ちません。
現在の私の状況。
主の片腕に子供抱きで抱えられた挙句、もう一方の手も背中に回っていて……とにかく、近い。
おかしい。最初より悪化してる。なんで?!って、私が暴れたせいでした。そうでした。
これ、主と使用人の距離感として明らかにおかしいでしょ?!
私の心の声などどこ吹く風。
心の声なんて聞こえないんだから当然だろうと思ってはいけない。
この方、恐ろしいほど察しが良いんである。
よって隠す気のない私の考えなんてダダ漏れなはずで、あえてスルーしているに違いないんである。
主はこの機会に普段の不満を徹底解消する気になったらしい。
笑顔の尋問タイム続行。
「で、どうしてシャナは私を名前で呼ばないんだい?」
「……………」
へんじがない。屍ですよ~。
……だめか。ダメらしい。
主の笑顔が怖い。
これってパワハラにならないかなあ?まあ、訴える場所なんてないけど。そもそもこの世界にそんな概念があるかも謎だし。
現実逃避しているのは、あっさりとバレていたらしい。
「シャ~ナ?」
ひいっ、耳元で囁かれた。
息がかかって、背中を何かが走り抜ける。
「えっと、あの、ですねえ。私の世界では異性をファーストネームで呼ぶのはいろいろとまずいと言いますか……なんと言いますか……えっと~~~」
視線をうろうろとさまよわせ何とか主の瞳から逃れようと試みる。
今、あの瞳に捕まったらやばい。
逃げられなくなる気が、するから。
「本当に、照れ屋でかわいいね、シャナは」
クスリと笑みを含んだ囁き声。
そのしゃべり方もやめてほしい。
なんだかムズムズするというか……落ち着かない。
ふっと背中に回されていた手が離れ寂しさを感じる暇もなく、長く繊細な指が私のあごを捕まえた。
顔が固定され、逃げられない。
綺麗な澄んだ青が私の視線をとらえた。
吸い込まれてしまいそうな気がして、怖くなる。
それなのに、あまりに綺麗で自分から視線を逸らすなんて考えもつかない。
「さなえ」
小さくひそめられた、ほとんど聞こえないのではないかというほど小さな声が「私」を呼んだ。
この世界の人たちには、どうしても発音できなかったはずの名前。
主だっておんなじで、何度繰り返してもうまくいかなくて、私のほうが先に諦めてしまった。
この先、もう誰にも呼んでもらえないはずだった、のに。
驚きに目を見張る私を得意そうな光を浮かべたサファイアブルーの瞳が見つめていた。
「さなえ」
まるで大切な宝物のように繰り返される私の名前。
心臓がぎゅっと引き絞られるように痛んだ。
ああ、私は、悪い魔法をかけられてしまったに違いない。
この、誰よりも優しくて努力家で寂しがり屋の、醜くて美しい青い瞳の王子様に。
どんどんと近づく青に飲まれてその色以外何も見えなくなった時、唇にふわりと優しい熱を感じた。
温もりはすぐに離れ、だけど薄紙一枚の距離から離れようとはしなかった。
だから、その場で囁かれた言葉はまっすぐに私の中へと滑り込んでくる。
「ねえ、よんで。さなえ」
胸の痛みを耐えるように私は瞳を閉じた。それなのにサファイアブルーから逃れられない。
ああ、本当に呪いだ。
でも、しょうがない。
本当は、とっくの昔にとらえられていたのだから。
逃げていたんじゃなくて、逃がされていたんだといつからか気づいていた。
だから、彼がもう逃がす気がないのなら、私には抗うすべなど残されてはいないのだ。
私は主の名前を呼ぶために、震える唇をゆっくりと開いた。
お読みくださり、ありがとうございました。




